赤い弓兵に成り代わり、ファンタジー世界で第二の人生を   作:松虫

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唸れシャイターン!敵陣と驚きの事実!

~アーチャー視点~

 

そう、時間はお昼辺りまで遡る。

ラフィール達が出ていった後、私は潜入捜査の為に借りていた服を陰干ししたり、アイロン(かなり重い)をかけたりしていた訳だ。

その後、昼食を頂いて、部屋でまったりとお茶しながら、べナードさんから借りた本を読んでいた。

そのまま黙々とページを捲っていると、何だか気持ち良くなってきて、ついうとうとと居眠りしてしまった。

そこからだ、妙な夢を見たのは。

断片的に、何者かに襲われるラフィール達の夢を見たのだ。

地面に踏みつけられるラピッド、ナイフで遊ばれるように傷付けられるスノウ、そして腹部を押さえて蹲るラフィール。

ガバッと飛び起きて、夢か・・・と一安心したはいいが、どうも胸の辺りがざわついてならない。

居ても立ってもいられなくなって、あのハサン先生スタイルでラフィール達を探しまくったわけだ。

とある場所で違和感を感じ、ちょっと()()()()()()見てみると、薄らと壁のようなモノが見えてきた。

明らかに怪しいと踏んだ私は、干将・莫耶でその壁のようなモノを一切りすると壁に傷が入り、中に侵入出来るようになった。

いっその事、破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)でも使ってやろうかと思ったが、もし中でドンパチやっていて、人目に付いたら困る。

一応、この干将・莫耶も宝具・・・ってやつだから、こんな変な壁も切ることが出来たのかな?

ま、そんなことはどうでもいい。無事に侵入成功したんだ、結果よければ全て良しってね。

そして、現実で見た夢通りの光景に・・・・・・ひさしぶりにぶっちキレている。

短刀を数本投影し、腕力に任せてぶん投げ、ラピッドとスノウをいたぶってた奴等を牽制する。

 

「三人とも、動けるか?」

 

そう問えば、三人はよろよろと起き上がり、私の所までなんとかやって来た。

 

「申し訳・・・ありま、せん、アーチャー様。ワタクシが・・・付いていながら、何という失態を・・・・・・」

「マスター、ごめん、なさい・・・・・・」

 

そう言って詫びるラピッドとスノウの頭を軽く撫で、悔しげに黙りこくっているラフィールに指示を出した。

 

「ラフィール君、治癒を頼む。私はあれを叩きのめしてこよう」

 

ラフィールが治癒魔法の詠唱に入ったのを確認し、私は目の前の二人を睨み付けた。

 

「テメェ・・・結界を越えテきたのカぁ?何者ダ?」

 

スキンヘッドの方が、やたらと真顔で探るような視線を向ける。

 

「どうでもいいだろう、そんなことは」

 

私はそう言い捨てて、短刀を構えた。

名前なんか、名乗る手間すら惜しい。ただ一言、お前等に言いたいことは。

 

「うちの子達に、これ以上手出しさせん!!!」

 

戦闘開始だ・・・・・・二人纏めて、泣いて後悔させてやる!

私は深く呼吸をし、体内を流れる魔力とやらに、意識を集中させた。

 

投影開始(トレース・オン)

 

思い描くは、この身体が所有する無数の剣。

かの英雄王と対峙した際に記憶した、数多の財宝という名の武器達。

その中から、短刀のみを選出していく。

何でかって?そりゃ、ハサン先生といえば短刀だろ?

 

――――工程完了。全投影、待機(ロールアウト。バレットクリア)

 

バチバチと光が稲妻のように瞬き、爆ぜ、何振りもの剣を形作っていく。

その切っ先は、全て奴等の方に。

呆然とその様子を見ている間抜け面を、私は指し示した。

そして、腹の中のムカつきを吐き出すかの如く、叫ぶ。

 

―――停止解凍、全投影連続層写!!(フリーズアウト、ソードバレルフルオープン)

 

剣の弾丸が、銀色の尾を引いて突っ込んでくる。

奴等は目を剥き、悲鳴を上げて躱そうとするが、そんなの私が許す筈がない。

 

「逃がすか!うちの子達を痛め付けた代償、しっかり払ってもらうぞ!」

 

ほーれ、まっがーれ↓ いや、そうじゃなくて!!!

うっかり某超能力者の有名な台詞を口走りそうになり、違う違うと思い直す。

目で追尾して、角度や勢いを調整して追いかけ回してやる。

掠ったり斬られたりを繰り返し、そろそろ頃合かといったところで、いよいよこの二人組の捕獲に入ろう。

 

「魂なぞ飴細工よ・・・苦悶を零せ!」

 

ゆらり、と赤黒い光が八方より腕に絡みつく。

それが凝縮し、私は自分の腕が、内側から膨れ上がるような感覚を覚えた。

ぐっと拳を握り、勢い良く振り上げた瞬間、不気味な光は形を成して、焼けた鉄のように輝く赤い腕が現れた。

不自然に長いそれは、まさに化物のもの。

 

妄想心音!!!(ザバーニヤ)

 

その腕が、ぐんと伸びたかと思うと、二人組の胸元を軽く叩いた。

開いた掌に、どくどくと脈打つ握り拳くらいの大きさのそれは・・・・・・心臓だ。

正しくは、心臓の形をしたエーテル塊とやららしい。

ぶっちゃけ、難しいことはさっぱりわからないのだが、このエーテル塊を握り潰すと、本物の心臓も潰れてしまうようだ。

あれか、日本の藁人形の呪いみたいなもんか。

 

「へっ・・・・・・ナ、何だ・・・!?テメェ、何をシた!?」

 

目を白黒させながら、女の方が叫んだ。

 

「なに、簡単な事だ。これはお前達の心臓だよ・・・・・・正しくは、お前達の心臓を模したエーテル塊、だがな」

 

手の中で脈打つそれを、見やすいように掲げてやる。

うへー、本物じゃないってわかってても、気持ち悪いぞこれ。

 

「はァ?これが、ワタシ達の心臓だってェ?」

 

女はゲラゲラと笑い出す。

うん、やっぱりそういう反応になるよねぇ、わかるわかる。

 

「ハッタリにしたッて、モう少しマシなもんガあるッてもんダろォ?ソんなもんが心臓なンて・・・・・・ギャアッ!?」

 

ぎゅむっ、と女の方の心臓を握ってやると、潰れた蛙のような悲鳴をあげる。

おお、ちゃんと繋がってるんだ、スゲェなシャイターンの腕。

 

「ふむ、それでは少し実験と行こうか。これからお前達のどちらか片方の心臓に、少しずつ力を込めていこう。潰れて死ねば信じるだろうよ」

「ちょ、ちょッと待ってクれ!」

 

脅すように言えば、男の方が慌てて私を止める。

 

「何だね?ああ、そうか。君も体験してみたいのか。これはこれは気が付かなくてすまないな」

 

男の方の心臓も、ぐっと握ってやると、やっぱり蛙のような声をあげる。

 

「どうかね。いまいち刺激不足だったかな?なら、もう一度」

「「頼ムから止めテくれェ!!!」」

 

顔面真っ青の半泣きな二人組を見て、ようやく私は少しばかり溜飲が下がったような気がした。

どんな感じなんだろうな、心臓を掴まれる感覚って。

くわばらくわばら・・・・・・ハサン先生の宝具は怖いなぁ、ホントに。

 

「ラピッド、こいつらを縛り上げろ。ぎっちぎちで頼むぞ」

「承知いたしました」

 

すっかり回復したラピッドは、魔法で植物の蔓を呼び出し、がっちり関節をキメた状態でぐるぐる巻にする。

ちょうどいい感じに、辺りに騒がしさが戻ってきつつあった。

あの変な壁が、消えかかってきているのだろうか。

騒ぎになる前に、私は片手に心臓(偽)を二つ持ったまま、この場を撤退したのであった。

行先?そんなの、一つに決まってるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、ここに来たってわけか」

 

ドカッと椅子に座ったウルスさんは、やれやれと私を見上げた。

 

「お手間をお掛けしますが・・・」

 

向かった場所は、ルーンベルグ冒険者ギルドだ。

ちょっと私の見た目がアレなので、急遽別の部屋を用意してもらったのだ。

いやー、ギルドって部屋結構あるんだね。

 

「まぁ、話は大体わかった。それでだな・・・お前の手にある、その悪趣味なもんは何だよ」

 

ウルスさんは、嫌そうな目で私の掌で蠢く心臓二つを見ている。

そんな顔するなよ、私だって好き好んで持ってないよこんな気持ち悪いもの。

 

「この阿呆二人の心臓ですかね・・・ああ、ちなみにこれ潰されると、本物の心臓も潰れてしまうみたいです。これからこの二人に、ちょっと色々白状してもらおうかと」

 

私は、背後でびくびくしている二人・・・・・・あー、ハロとアロだったか?を視線をやり、クックックと悪い笑い声を出してみせた。

 

「あの・・・師匠。こいつらをどうするつもりなんですか?」

 

つんつん、と黒衣の端っこを引っ張られ、振り向けばラフィールが怖々と私を見ていた。

大丈夫だってラフィール、ちょーっと協力をお願いするだけさ。

 

「た、頼むよォ・・・・・・命だけは・・・!」

 

アロは蒼白な顔色のまま、引き攣った声で許しを乞う。

 

「それはお前達の吐く情報次第だ。客人が来るまで、せいぜい話の整理でもしておくがいい」

 

冷たい声色で返し、私は内心で遅いなぁ、とボヤいた。

現在、この部屋にいるのは私とラフィール、スノウにウルスさんの四人と、ラピッドの一匹。

私達は、もう一人の人物の到着を、今か今かと待ちわびている真っ最中なのだ。

 

「遅いですね、あの卵鳥。やはりワタクシが参った方が良かったのでは?」

 

すっかり喉が回復したラピッドが、私の肩に留まったまま、イライラと尻尾をぺしぺし打ち付ける。

卵鳩(エッグピジョン)のライチちゃんが、今呼びに行っている相手とは・・・・・・。

 

「すまん、遅くなった!ちょっと屋敷のモンを撒いてくるのが大変でな!」

 

バタバタと慌ただしく登場したのは、そう、謎のおっさんことロッサさんだ。

プラチナプロンドの髪が、汗で額に張り付いている。

 

「うおおっ、お前誰だ!?」

「私ですよ、私」

 

私の格好を見て、驚きの声をあげるロッサさんに、苦笑しながら少しだけ仮面をずらす。

現れた目元に、何だお前か、とロッサさんは胸を撫で下ろしたようだ。

私は再び、ロッサさんにも急に呼び立てた理由を説明すると、彼はまじまじと奴隷狩りの二人を眺めた。

 

「ふぅむ。こいつらがなぁ・・・・・・よし、お前等よく聞けよ。これからする質問の返答次第で、お前等の人生変わってくるからな」

 

ずるずると椅子を引きずってくると、ロッサさんはそこに腰掛けた。

隣に私が控え、いざ尋問!

 

「それでは、率直に。お前等の雇い主は誰だ?」

 

いきなりのどストレートな質問に、二人の目が泳いだ。

 

「・・・・・・やれ」

「御意」

 

顎をしゃくって合図するロッサさんに、私は返事をして心臓を握ろうとする。

 

「うわああっ!止メろ、言ウからァ!」

「ゴルゴスだよォ!セルド・ゴルゴスって奴だ!」

 

縛られた体勢のまま、ぐにぐにと芋虫のように動く二人組は、あっさりとその名をゲロする。

 

「あンのハゲ豚・・・・・・やーっぱりあくどい事やってやがったか。幾ら積まれた?」

「にっ、二百万!」

 

報酬を聞き、ロッサさんはほう、と感嘆したように息を吐いた。

 

「二百万か。奴隷狩りに積むには大金だな。セルド・ゴルゴスの上は誰か、知ってるか?」

 

段々と、ロッサさんのいつもは温かみのある目が、鋭くなっていく。声も同じように、氷のような冷たさだ。

二人組も冷汗をダラダラ流しながら、お互いに顔を見合わせて言いあぐねているようだった。

 

「その沈黙、肯定と見なすぞ。───答えろ、何者だ?」

 

ぞくっと背筋が寒くなった。

思わずロッサさんの方を見れば、爛々と光る双眸が二人を見下ろしている。

その身体から溢れるのは・・・何だこれ、これが覇気ってヤツ?

おいおいどこの海賊王だよ、なんて軽口を叩こうにも、ロッサさんが纏う雰囲気は重々しく、迫力があった。

 

「アウレリス・・・・・・アウレリス・ヴァン・サウザン、だ・・・」

 

その空気に気圧され、女の方・・・ハロがようやく口を開いた。

 

「そうか。よく言ってくれた・・・・・・おい、多分俺と同じ考えだと思うが、こいつらまだ使()()だろ?」

 

親玉の名前を聞き、にやーっと笑いながらロッサさんは私の方に視線を向けた。

それに頷きを返し、二人に向き直った。

さーて、そんじゃもう一働きしてもらいますか。

アウレリス捕獲作戦を話終えると、スノウは神妙な面持ちで言った。

 

「スノウ、重要な役。頑張る!」

 

頑張ってちょーだいよ、スノウちゃん。君の演技力に全てかかってるんだからね。

あ、そうそう重要な役者がもう二人。

 

「と、いうわけで・・・・・・やれるな?」

 

心臓をチラつかせながら問えば、こくこくと必死で頷く二人組。

しくじればわかってるよな、とがっつり脅して、よし完了。

 

「ロッサさんは、こちらを被って下さい」

「えぇ・・・・・!?お前、今何処からそれ出したんだよ」

 

マントの下で投影した、とある宝具をロッサさんに渡すと、彼は戸惑いながらもそれを受け取ってくれた。

 

「ところでよ、俺は一体どうすればいいんだ?」

 

ウルスさんが、自分を指差しながら私に尋ねてくるが・・・・・・えーっと、どうしよっか?

思いつかなくてラピッドをチラ見すれば。

 

「ウルス様は、ロッサ様が連れてこられた方々を率いて、タイミングを見て突入してくださればよろしいかと」

「俺が切り込み隊長か?いいねぇ、久々に滾ってきたぞ!」

 

オラわくわくすっぞ!とでも言い出しそうな感じに、ウルスさんの目が輝く。

 

「それでは各々方、手筈通りにお願いします」

「「「応!!!」」」

 

いざ、反撃開始と洒落こみますか。

首ィ洗って待ってやがれ、アウレリス・・・・・・絶対お縄にしてやるからな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ラフィール視点~

 

皆が動き出したのは、もう日も暮れそうな時間帯だった。

薄闇の中、ロバに引かせた小さな荷車で移動するのは、奴隷狩りのハロとアロ。

彼等もしっかりと商人風の衣装を纏い、顔付きも戦っていた時とは別人の、至極まともそうな様子だ。

スノウさんは、荷車の中で布を被り、荷物のふりをしている。

そんな様子を、僕達は少し離れた所から何気ないふうを装って追跡中だった。

 

「ふむ・・・やはりあの場所へ行くか」

 

隣を歩く師匠の呟きを、僕は拾い上げる。

ちなみに、師匠の姿はあの不気味な死神スタイルではなく、いつもの赤い外套姿だ。

流石にあの格好のまま、道をうろうろできないからね。

 

「ゴルゴーンの地下室、ですか?」

 

そう聞けば、師匠は眉を寄せて、厳しい顔になる。

よっぽど嫌だったんだろうな、あの部屋・・・・・・僕だって、

話しか聞いていないけれど、ぶっちゃけ現物を見たくはないもの。

 

「おい、アーチャー。ゴルゴーンに入店するのはよしとして、どうやって地下まで行くんだよ。絶対簡単に行けるわけないぞ?」

 

ウルスさんが師匠の腕を小突いて言うが、すかさず答えが返される。

 

「心配には及びませんよ。既に手回しはしてあります」

 

多分、シェラさんに連絡を入れておいたんだろうな。

ラピッド、いなかったし。

やがて、娼館ゴルゴーンに到着すると荷車は裏側に回っていく。それを見送っていると。

 

「ハァーイ、いらっしゃいませ♡」

 

ガチャッと店の入口が開き、濃紺の髪に深緑色の瞳の、凄く綺麗な女の人が出てきた。

 

「また来てくれて嬉しいですわ、ウルス様。さ、お連れ様も一緒にどうぞ中へ。お部屋の準備は出来てますから」

 

甘ったるい声で、女の人はウルスさんに擦り寄る。

その瞬間、師匠と視線が混ざり合い、互いに頷き合うのを見た。

なるほど、この人がサキュバスのシェラさん・・・かな。

確かに一目見ただけで、胸のあたりがざわざわするような感じがする。

シェラさんに案内されて、部屋まで案内されると、廊下の

角のあたりで急に止まった。

 

「えらく大所帯じゃない。いよいよってわけ?」

 

振り向いた彼女の瞳が、妖しく光っている。

口元に艶やかな微笑みを浮かべて、師匠の腕をとった。

 

「ああ。引き込み役、礼を言おう。ついでで申し訳ないんだが、ここら一体の避難準備をお願いしたい。もし、客や店の女性達に被害が及んでもいけないしな」

 

妖艶なシェラさんに一切動じることもなく、淡々と師匠は要件を告げる。

 

「・・・あのね、何も起こらない前提で皆ここにいるのに、なんて言えばいいのよ。火事だーとでも叫べばいいの?」

 

呆れたように言い、シェラさんはじろりと師匠を睨めつける。

確かに、言われてみればそうだ。ここでシェラさん一人が騒いでも、意味がない。

だが、師匠はにんまりと笑って言う。

 

「なに、恐らくそれに近い事が起こるだろうよ。ああいう輩は、追い詰められれば大体悪足掻きするものだ」

 

それは、僕も同意見だ。

きっとアウレリスは、必死で抵抗するだろう。

 

「どうせセルドの奴も今はいねぇんだろ?だったら部屋の割り振りくらいなら、あんただけでも仕切れるんじゃねぇのか」

 

ウルスさんの言葉に、はいはいわかったわよ!とシェラさんは答えて、ツンと横を向いた。

 

「・・・・・・見張りは予め魅了(チャーム)してあるわ。地下室への入り方はわかるわよね?」

 

声を潜めて言うシェラさんは、師匠をじっと見つめる。

それに一つ頷きを返して、師匠は、僕達は、件の部屋へと進んだのだった。

どこかぼんやりしたような顔付きの、見張りの男の横をすり抜け、地下室がある部屋に入り込む。

入口付近の燭台を回すと、本棚がスーッと開いた。

 

「こんなに重そうな本棚なのに、音がしないんですね」

 

凄いからくりだなぁと思って呟くと、ウルスさんが押し殺した声で笑う。

 

「なわけねぇだろ。ラピ公の奴が何かしたんだろうよ。こりゃ、消音(ミュート)の魔法だな」

「何にせよ、有難いことだな」

 

迷いのない足取りで、師匠は現れた階段を下っていく。

暗い廊下に、自動点火式魔法のかかった蝋燭が、次々に灯る。

そして、下に行くに従って、声が聞こえてきた。

どうやら、あの奴隷狩りの二人と・・・・・・あとは多分、ゴルゴーンのオーナーのセルド・ゴルゴスとアウレリスだろうか。

壁に張り付くようにして身を隠し、僕達は少しだけ開いたドアから聞こえる声に耳を澄ませた。

 

「お前達よくやった!アウレリス様、こちらお望みの白狼の一族です!」

 

これはきっとセルドだろう。けたたましい声には、隠しきれない喜びが滲み出ていた。

 

「申シ訳ありまセん、アウレリス様。捕らえル際、かナり抵抗サれまシたので・・・・・・少しバかり傷をツけてしマいましタ」

「デすが、そレ以外は良好な状態でアります」

 

ハロとアロ、二人の硬い声が聞こえた後、アウレリスのくつくつと笑う声がした。

 

「く、くくくく・・・・・・やっと!やっと捕らえたか!この日を待ちわびたぞ!」

 

隙間からそっと覗くと、床に転がされたスノウさんと、奴隷狩りの二人、奥の方にハゲ豚ことセルド、そして金髪碧眼の若い男の姿が見えた。

あれがアウレリスか・・・・・・整った顔だけど、今の表情は歪んだ笑みを浮かべて、お世辞にも綺麗だとは言い難い。

 

「セルド、さっさと隷属の首輪を持ってこい。早速味わうとしよう」

 

ドタドタとセルドが壁際に引っ込むのを見やると、アウレリウスは奴隷狩りの二人に視線を戻した。

 

「お前達、思ったよりも早かったな。もう少しかかると思っていたが・・・・・・ふん、それなりに使えるということか」

 

最後は独り言のように呟いて、ハロの目の前に小さな皮袋を放り投げた。

 

「とっておけ。屋敷からくすねてきたものだ・・・・・・まぁ数は少ないがな、お前達のような者には大金だろう」

 

ハロが皮袋を拾い上げて口を開くと、中から数個の宝石が転がり出てきた。

 

「・・・ありガたク、イただキます」

 

それをしまい込むと、スノウさんが身動ぎをして、バネのように跳ね起きた。

 

「アウレリス!アウレリスッ!!アウレリスゥッ!!!」

 

憤怒の怒声も凄まじく、牙を剥いてスノウさんは後ろ手に縛られた体制のまま、アウレリスに飛び掛かろうとする。

が、アロに抑え込まれ、獰猛な唸り声を上げる。

その様子を嬉々とした顔で眺め、アウレリスは嘲笑(わら)った。

 

「ははは!活きのいい犬だ!これならかなり嬲れそうだな。さて、白狼の一族とやら・・・お前は何処まで正気を保ってられるかな」

 

ドスドスと戻ってきたセルドの手には、黒い革の首輪。

シンプルな見た目だけど、あれが隷属の首輪なんだろう。

その首輪が、スノウさんの白い首に付けられそうになった瞬間、ブチッと手の縄を引きちぎった彼女は飛び退いて距離をとり、セルドとアウレリスに向かって、黒い小さな玉を投げつけた。

その玉は床で弾け、黒い煙が舞い上がる。

いつぞや、僕が依頼完了の際に貰ってきた煙幕だ。

 

「行くぞ、ラフィール。ウルスさんは、後程突入をお願いします」

 

ドアを開け、颯爽と突入していく師匠の後に僕達は続いた。

黒い煙がもくもくと立ち込める中、どこからともなく一陣の風が吹き、煙を払っていく。

きっと、ラピッドが風を起こしてくれたんだろう。

 

「ゲホッゲホッ・・・・・・このメス犬!何を・・・・・・」

 

視界が晴れ、怒鳴ろうとしたアウレリスは、いきなり現れた僕達に目玉をひん剥いている。

 

「な・・・何だ!?何者だ貴様等は!?何故ここに、というかどうやってここに!?」

 

あー、驚いてる驚いてる。

まぁ仕方ないよね、誰も入れないように隠してた筈の部屋に、いきなり見知らぬ人が突然現れたらびっくりするか。

 

「隠し部屋にしては、随分とわかりやすい場所に扉があったな。今度からは、もう少し考えて作るといい」

 

師匠は質問には答えず、小馬鹿にしたように言った。

それに対し、額に青筋をたてながらヒステリックに喚くアウレリス。

 

「やかましいッ!!!質問に答えろ!」

「おっと、これは失礼(つかまつ)った。私はアーチャー、しがない駆け出し冒険者さ。そして、アウレリス・ヴァン・サウザン・・・君が血眼で探し回っていたそこの彼女のマスターでもある」

 

それに、大袈裟に師匠は驚いてみせ、仰々しくお辞儀をして名を名乗る。

駆け出し冒険者と聞いて、僅かに焦りを含んだ表情をしていたアウレリスは、みるみるうちに嘲けるように口を歪めた。

 

「駆け出し冒険者、だと?ならば大した実力もないだろう。何が望みだ?金か、名誉か、女か?」

「残念ながら、どれにもさして興味はない。私の目的は一つだけだ、アウレリス」

 

師匠は、隣で目付き鋭くアウレリスを睨み付けているスノウさんの肩に手を置いた。

 

「この子と、ここに捕われている違法奴隷の彼女達・・・・・・全て、解放してもらおう」

 

その言葉を聞き、アウレリスはしばらくぽかんとした顔になったが、次の瞬間ゲラゲラと大音声で笑いだした。

うーん、悪いヤツって本当によく笑うよなぁ。

 

「クハハハハハッ!何を言い出すのかと思えば!笑わせるな、貴様のような者に一体何が出来ると言うんだ。ここから飛び出して、この俺が違法奴隷を買い漁っていると吹聴するか?」

 

アウレリスは自信に満ち溢れた顔で、朗々と続ける。

自分で自爆しようとしてるのに、何一つ気付けないまま。

 

「やれるものならやってみろ。このアウレリス・ヴァン・サウザンを脅かせるものならな。貴様のような平民が、貴族である俺に敵うものか!」

 

はい、いい感じで特大の名乗り頂けましたー。

思わずやれやれと溜め息をつき、僕は師匠を見上げる。

師匠はフッと笑うと、誰も居るはずのない後ろを見やり、楽しげに言った。

 

「・・・・・・だそうですが。如何なさいますか?」

 

ゆらり、と何も無い空間が陽炎のように揺らいで、ぱさりと何かを脱ぐ音がした。

そこから現れたのは、凍り付いたような無表情のロッサさんだった。

手には、丈の長い緑色のマントを持っている。

ええっと、確か「顔のない王(ノーフェイスメイキング)」って師匠は言ってたかな。

毎回思うんだけど、師匠は一体全体何処からこんな物を出してくるんだろう。

 

「救いようがないな。おい、アウレリス・ヴァン・サウザンよ。てめぇの蛮行を聞いた日にゃ、シグルドが泣くぞ」

 

あまりの酷さに頭痛がするぞ、と言い、ロッサさんは額を手で覆う。

またまた突然現れた人物に驚いているアウレリスは、誰だ貴様と叫んでいた。

それにロッサさんはおっといけねぇ、と呟いて、着ていたシャツの内側に、襟首から手を差し込んだ。

 

霧の湖(ミスト・レイク)の首飾り、外すの忘れてたぜ。ほらよ、これで俺が誰かわかるだろクソ餓鬼が」

 

するりと抜き取られた手には、眩く輝く銀のペンダント。

中心に深い青を湛えた宝石が埋め込まれ、不思議な光を放っていた。

アウレリスはマジマジとした顔でロッサさんを見詰め、次の瞬間、高速の勢いで青褪める。

なんだなんだ、どうしたどうした?

僕も釣られてロッサさんの顔をよく見て、よく見て、よーく見て・・・・・・・・・アッ!?!?

 

「どうしたのかね、皆。化物でも見たような顔をして」

 

能天気な師匠のきょとん顔を、遥か彼方に置き去りにして、僕達は吹き出る冷や汗を全身に感じながら、死にかけの魚のように口を開閉させる。

 

「こ・・・・・・ここ、国、王・・・様・・・・・・!?」

「・・・はぁ?」

 

誰かが絞り出した掠れ声。

そして師匠の誰が?とでも言いたそうな声。

 

「バルロッサ・カトラリオス・ルーンベルグ!通称「冒険者王」!こ、こちらにおわす御方は・・・・・・このルーンベルグの国王様です!」

 

僕は師匠の腕を引っ張り、今まで「ロッサ」と名乗っていた、愉快なおっさんの本名を必死に告げるのだった。




2月です。如月です。
・・・・・・どうも、皆様お疲れ様です松虫です。
とりあえず一言いいでしょうか。いいですね。

イベント!連続でありすぎやねえええぇぇん!!!

・・・・・・ふぅ。プリヤといい、バレンタインといい、再臨素材が沢山GET出来るので執筆が進まねぇ:( ;´꒳`;)
混沌の爪なんか、タニキ再臨させるのに喉から手が出る程欲しかったんだっつーの!
あ、タニキは無事最終再臨まで行きましたありがとござマース。当然エミヤさんも最終再臨完了です。

あー、んで今回ですが・・・・・・ロッサさんの正体、読めてましたかね(゚ω゚;A)
主人公が本腰入れて暴れるまで、あとちょっとです。
長らくイベントに入れこんでいたので、久しぶりの更新になってしまいましたが・・・つ、次こそラスボス戦にする・・・筈です。
それからお気に入り登録、あと1件で200件突入ですなんということでしょう。
喜びを噛み締めております・・・・・・200件ありがとう短編どうしましょ。
弟子を癒したいシリーズで耳かきの話いっちゃいますか?マニアックすぎるかすいません。
また追々考えていきます、それではまた次回!
皆様にガチャ運がありますように!
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