赤い弓兵に成り代わり、ファンタジー世界で第二の人生を 作:松虫
早くもお気に入りが2桁で戦慄。
皆様、ありがとうございます。
足元を這う太い木々の根、柔らかな緑の苔、清々しい新緑の香り。
「マイナスイオン・・・・・・」
「むむ、何か仰られましたか、弓兵殿?」
「いや何でもない」
ラピッドにお願いして、とりあえず人のいる場所に案内してもらっている道中、色々とこの世界の事を聞いていた。
ざっと簡単に説明してもらったところ、この世界は四つの大国に分かれているという。
一つ、火の国『ルーンベルグ』
主に人間の王が治める国。最近では様々な種族が入り混じってきて、専ら「人種のサラダボウル」のようになってきているらしい。
二つ、水の国『フィリッツァ』
主に人魚の一族が治める国。伝統を重んじる国で、あまり他国との交流がなく、悪く言えば保守的。
三つ、風の国『スタンフィールド』
主に獣人が治める国。緑多く、気候も穏やかではあるが、獣人達は誇り高く好戦的で、軍事国家のようでもある。
四つ、土の国『マギア・アギナ』
主にドワーフが治める国。険しい岩道が多いが、創造に長けたドワーフの国らしく、建造物や工芸品などが素晴らしい国のようだ。
やっぱり私の想像通り、剣と魔法のファンタジー世界のようだ。
ちなみに、今いる場所は、火の国『ルーンベルグ』の首都より西の森。近くに『カタール』という小さいながらものどかな村があるらしい。
「随分ととんでもない世界に来てしまったようだ。まるでゲームやラノベのようだな」
私は辺りを飛ぶ見たことのない虫や生き物を観察しながら、そう言った。
「そういえば、弓兵殿。ワタクシ貴方様を何とお呼びすればいいのでしょう。いつまでも弓兵殿、とは・・・・・・」
ラピッドが飛びながら振り返り、小首を傾げた。可愛い。
「そうだな・・・・・・」
私はうーん、と考え込んだ。エミヤは・・・・・・うん、多分違う。この身体は彼をモデルにしたものだが、彼自身ではない。かといって、生前の名前を使うにも無理がある。
「アーチャーと呼んでくれ。今は、この名が一番しっくりくるのでね」
クラス名だが、何者でもない私には丁度いいだろう。あれだ、もし誰かに何か言われたら、記憶喪失で自分の中に残った言葉がこれだけだった、とでも言えばいい。
「畏まりました。それではアーチャー様、そろそろ戦闘の準備をなされた方が宜しいかと」
「・・・・・・戦闘?」
不穏な言葉に、思わず顔を顰めたその時、何処からか悲鳴が響き渡った。
声の雰囲気からして、子供・・・・・・少年だろうか。
「アーチャー様、こちらです!」
ラピッドはそういうや否や、凄い速さで飛び始める。
「なっ!?待て待て待て!?」
いきなり置いてけぼりか、と私は慌ててラピッドを追いかける。
そして、自分のあまりの足の速さに絶句した。
まず、普通の人間では絶対に出せないスピードだ。車と余裕で並走出来るんじゃないか、これ。
「サーヴァントが実際にいたら、こんな感じなのだろうな・・・!」
冷や汗をかき、私は規格外の身体の性能を噛み締めた。
森の中を疾走すること数分、ラピッドが声を張り上げる。
「アーチャー様、こちらより飛びます!武器の準備を!」
え、飛ぶ!?飛ぶって!?私羽根とかないんだが!?
頭は混乱する中、身体は真逆で。
「トレース・オン」
掌に硬質な感触、投影魔術で出したのは、あの黒い洋弓だ。
そのまま道の脇から私とラピッドは、下へとダイブする。
「ッーーー!?」
生まれて初めてのフリーフォールに、みっともなく絶叫しなかった私を誰か褒めてもいいと思う。
「アーチャー様、あれを!」
隣で叫ぶラピッドの指し示す方向を見て、私は息を呑んだ。
馬鹿でかい猿の化物が、一人の少年を引き裂こうと、丸太のような腕を振り下ろそうとしている。
「やらせるものか・・・・・・!」
落下中という条件の悪い中、私は身体のバランスをとり、弓に矢を投影し番えた。そして引き絞り、手を離す!
ドンッ!と空気を震わせ、矢は真っ直ぐに猿の化物の腕を目掛けて飛んでいった。
~???視点~
どうして、ああ、どうして。僕はここで死ぬのか。
オーガエープ(人喰い猿鬼)の太く、鋭い爪の生えた腕が、僕を横薙ぎに引き裂こうとするのを、見上げるしかなかった。
母の手伝いで、薬草をとりにいつもの道を歩いていただけだった。
目当ての薬草を見つけて、さぁ帰ろうとした時、突然オーガエープが襲いかかってきたのだ。
この辺りには、そんな魔物は今まで見つかっていなかったのに。
必死で逃げた。今日この時ほど、僕は自分がヒーラーを選んだことを後悔した日はない。
運の悪いことに、木の根に躓き無様に転ぶ。
その時足をくじいたのか、僕は走れなくなってしまった。そして、冒頭に至る訳だ。
恐怖で身体が軋む。オーガエープの腕が振り下ろされ、僕は無駄と知りつつも両手で頭を覆い、目をぎゅっと閉じた。
聞こえたのは、ボッ、という炎が点ったような音と、オーガエープの絶叫だ。
死ぬ筈だった僕は、その声に驚いて目を開けた。
見れば、オーガエープの腕は半分ほど吹き飛ばされ、真っ赤な血を溢れさせている。
突然すぎる事態に、目を白黒させていると。
ズダン!と目の前に、赤い服をきた男の人が降り立った。
背は高く、ガッチリした背中が頼もしい。そして、その手には黒く巨大な弓。
もしかして、この人が・・・・・・?
呆然と見ていると、視線に気づいたのか、振り向いた鋼色の目と視線があった。
褐色の肌、白い髪・・・・・・顔はとても整っている。
「君!大丈夫かね!?」
その人は僕に駆け寄り、僕を抱き起こした。
「えっと・・・・・・その、足をくじきました」
膝裏と脇腹辺りに手を入れられ、軽々と横抱きに持ち上げられる。
そして近くの木に僕を降ろそうとしたが、背後からオーガエープが怒りに燃えた目つきで、突進してきた。
「あ、危ない!」
しかし男の人は焦った様子もなく、落ち着いた口調で言った。
「ラピッド、頼む」
ひゅん、と煌めく青い何かが、僕達とオーガテープの間に割って入ったかと思うと。
「承りました!
キィキィ声が応え、オーガエープの足元目掛け青い光が走る。
足を霜で凍らされ、勢い余ったオーガエープはつんのめって転がった。
「トレース・オン、干将・莫耶」
男の人の呟きが聞こえたと思ったら、いつの間にか弓は消え、その手には白と黒の双剣が握られていた。
身を返し、オーガエープ向かって疾走する。
一閃、二閃、白と黒の刃が、巨体に叩き込まれ、血が吹き上がった。
そして、二本の剣がオーガエープの首に深々と突き刺さったかと思えば。
「
剣は派手に爆発、頭を吹っ飛ばされたオーガエープは、ドウッとその場に倒れ伏した。
血飛沫と肉片がバラバラと舞い散る中、悠然と立つその姿は、恐ろしくも美しかった。
「お見事です、アーチャー様!さすが、ワタクシのお仕えする主!」
パタパタと羽音をたて、小さな青いドラゴンが誇らしげに言うのを、男の人は苦笑して見ていた。
「少しやり過ぎたと思っていたんだが」
「何をおっしゃいます、あれ程で丁度いいのですよ。あの猿鬼、アーチャー様を喰らおうとしていたのですから!」
ほのぼのと会話を続けながら、男の人と青いドラゴンはこちらに近寄ってくる。
そして、へたりこんでいる僕の前で片膝を付き、優しげな眼差しと声で言った。
「もう大丈夫だ。よく頑張ったな」
その一言を合図に、僕の意識はぷちんと途切れたのだった。
~アーチャー視点~
安心したのか、少年は目の前でキューっと気絶してしまった。
「おやおや、足の痛みもありましょうに。余程あの猿鬼が恐ろしかったのですねぇ」
ラピッドはくるくる、と笑うように鳴き、少年の周りを飛び回る。
「いや・・・・・・あれは恐ろしいだろう。私も以前の身体であれば、何もできずに死んでいた」
本当に、身体が戦い慣れていたお陰でよかった。あれだけの動き、絶対に普通じゃできない。
「移動しよう。少年の介抱をするにも、ここは余り綺麗な場所ではないからね」
「それはワタクシも同感でございます」
血塗れスプラッター劇場と化したこの場所だと、目覚めはきっと悪い。私ならもう一回気絶できるぞ多分。
という訳で場所を変更、柔らかな苔に覆われた木の下に私は腰を下ろして、伸ばした片足の膝に少年の頭を乗せる。
「ラピッド、申し訳ないが、この布に水を含ませてきてくれないか」
「承りました!しばしお待ちを!」
またまた投影した布を二つラピッドに渡すと、それを小さな手で受け取り、ロケットのような勢いで飛んで行った。
それを見送り、私はやれやれと深く息を吐いた。
生き物の「死」を、あんなに間近に感じたのは初めてだ。肉と骨を断つ感触は、これから忘れ去られることはないだろう。あれがもし、人だったら。
考えるだけで寒気がした。いや、化物だから殺せたのかという訳ではない。
しかし、これからこの世界を生きていくからには、何れ人を手にかける時が来るかもしれない。
「・・・・・・私は、殺せるのだろうか」
「何をでございますか?」
「うお!?」
耳元でいきなりラピッドの声がして、私は思わず肩を跳ね上げる。
「び、びっくりした・・・・・・早かったな、ラピッド」
「むふふ、フェアリードラゴンの飛翔速度をナメてもらっては困ります。はい、アーチャー様!お水を含ませた布と、オレンゾの実でございます。甘酸っぱくて美味しゅうございますよ」
しっとり冷たい布で包まれた丸い実を渡して、ラピッドはキラキラとエメラルドの瞳を輝かせて私を見る。
あー・・・・・・これ、動画とかで見たことある。いい事したわんことかが、褒めて欲しいときにする目つきだ。
布を折り畳んで、少年の額とくじいた患部に乗せた後、私はよしよしとラピッドの頭を撫でてやった。
「ありがとう、ラピッド」
「お安い御用でございます!」
はたはた振られる尻尾の可愛さに、私は溢れる笑みを抑えられない。
そのままのんびりしていると、微かな呻き声が聞こえて、私は膝上の少年を覗き込んだ。
透き通った紫色の瞳がぼんやりと宙をさ迷い、私をゆっくりと認識したその途端。
「う、うひゃああああ!?」
悲鳴をあげて飛び退かれた。結構ショックである。
「あー・・・・・・大丈夫だ。私は君に危害は加えない」
とりあえず両手を軽く挙げて、悪意や敵意が無いことをアピールしてみる。
「落ち着かれよ、人間!命を救ってもらった主様に対して、そのような態度は何事か!」
ラピッドが憤慨したように少年の周りを飛び交うのを宥めて、私は少年から落ちた布を拾い上げる。
「驚かせてしまったのなら、すまない。くじいた足は大丈夫かね」
安心させるように笑いかけてみせると、足の痛みを思い出したのか、小さく痛っ、と呟く声が聞こえた。
「私が怖いのはわかる。だが、せめて君を家に送り届けるまでは、やらせてくれないか」
一言一言、ゆっくりと少年に噛んで含めるように言ってやれば、少しばかり少年は身体の力を抜いてくれた。
「あの・・・・・・ごめんなさい。僕、びっくりしてしまって、その、ほんとにごめんなさい!」
「あんなものを見せられれば、誰しも驚くものだ。君が悪いわけではない、謝る必要はないと思うがね」
涙目でぺこぺこ頭を下げる少年。かなり怖がらせてしまったようだ。
これ以上怯えられないように、私はなるべく優しい声を出すように努めた。
「君、名前は?」
私は、ラピッドが持ってきたオレンゾの実の皮を剥いて半分に割り、片方を少年に差し出す。
ふむ、これはまんまミカンだな。香りも味も、よく似ている。違う点といえば、あの薄皮がないところだろうか。
恐る恐る私からオレンゾを受け取りながら、少年は小さく名乗る。
「ラフィールです。ラフィール・バレット、といいます」
兎のようにビクビクしている少年は、妙にカッコいい名前の持ち主だった。
ちょっと笑いそうになるのを無理矢理押し込め、私も自己紹介する。
「私のことは、アーチャーと呼んでくれ」
アーチャー、と聞き、少年の顔が不思議そうな表情をつくる。そりゃそうだろう、「弓兵」なんてリアルで名乗る名前ではないのだから。
少年、もといラフィールは、私の前で深々と頭を下げた。
「助けて頂いて、本当にありがとうございました。どうお礼をすれば良いのか・・・・・・」
「・・・そうだな、礼をしてくれると言うのであれば、この辺りの村に案内してくれないだろうか。」
うんうんと悩み出すラフィールに私が提案を出すと、彼は表情を輝かせた。
「えっと、でしたら僕の家へ来てください!先程のお礼も兼ねて、大したことは出来ませんがおもてなしさせていただきます」
どうだろうか、の意味を込めてラピッドの方を見れば、にこりと笑って頷かれる。
「それでは、案内頼めるかね」
「はい、お任せ下さい!」