赤い弓兵に成り代わり、ファンタジー世界で第二の人生を 作:松虫
私がカタール村で過ごし始めてから、数週間。
あてがわれた部屋は小さいながらも清潔で、そこそこ快適だった。
泊まらせてもらっているのに、何もしないでグータラするなんてことは出来ないし、何より暇なので、最初はラフィールのご両親の畑仕事や家事なんかを手伝って過ごしていた。
まぁ世界違えば勝手も違うので、色々と教えてもらえて非常に有難かった。
元より私は、炊事洗濯等は生前から普通にやってたので、覚えるのは一瞬だったが。
今では村の人達にも、様々な仕事の手伝いをお願いされていたりする。
雨漏りの修理だとか、迷い家畜探し、屋根の葺き替え、子守りetc・・・・・・誰だ、今ブラウニーとか言ったやつは。
「アーチャー様、本当に大丈夫ですか?それ、かなり重いですよ?」
今私が手伝おうとしているのは、一抱えほどある木箱に入れられた芋を、倉庫に運ぶ仕事だ。
どこの世界でも、芋類は保存食なんだな。
「・・・無理なら手伝いを頼みます」
ラフィール君のお父さん、ラルドさんの心配そうな視線を受けながら、私はガシッと木箱を抱えて・・・・・・。
「よっ、こらせっと」
ひょいっと持ち上がった。うん、結構軽いじゃんかー、と思うが、多分これはサーヴァントの腕力だからだ。
「いけそうです。倉庫まで持っていきますね」
スタスタとぶれぬ足取りで芋を運ぶ私を、嘘だろコイツ的な顔でみるラルドさん。
そりゃそうだろう、これは大人の男二人がかりで漸く持てるくらいらしい。
これを何度も続けてやってると、ちょっとした人だかりが出来ていた。
「すげぇ・・・・・・相変わらずあの人の腕ってどうなってんだ?」
「記憶喪失って言ってたよな。絶対S級冒険者だったと思うぜ」
「はぁ・・・体力ある上にいい男ときた。あたしがあと20歳若けりゃねぇ」
「いつでも挨拶してくれるのよ。素敵なお声よね」
何やらひそひそと言われているが、とりあえずスルーしておこう。
私は最後の木箱を運び終え、よし、と手をパンパン払った。
「アーチャ兄ちゃん!」
「アーチャー様!」
背後から可愛い声と共にぼすん、と腰に軽い衝撃が走る。
「おや、レディ・ミーナ。どうしたのかね?」
腰にくっついているミーナちゃんとラピッドに、私は笑いながらそちらを覗き込む。
「アーチャ兄ちゃん、お手伝い終わった?」
「ミーナお嬢様、先程の箱で最後でございますよ!きっとこれから、ミーナお嬢様と遊んでくれる筈でございます!」
ラピッドはあれからずっと、村の子供達の遊び相手を務めてくれているので、大人達からは感謝されているようだ。
勿論、報酬としてフェアリードラゴンの好物のフルーツを貰っているらしい。
「ラルドさん、行ってあげても?」
私が他に手伝いはないか、とラルドさんを見れば、彼はにこやかに笑って頷いてくれた。
「よし、ならば行こうか。今日は何をして遊べばいいのかな」
振り向いてミーナちゃんを抱き上げれば、歓声をあげて私の首にくっついてくる。
「モテモテでございますね、アーチャー様」
笑いを噛み殺した声で耳打ちするラピッドに、私は肩を竦めてみせるだけだ。
ミーナちゃんの案内に従って歩いていけば、ピンク色の花が沢山咲いている花畑が見えてきた。
そこには三人の女の子達が待ち構えていて、私は思わず苦笑する。
「ミーナちゃん、おかえり!」
「アーチャさま、連れてきてくれたの?すごーい!」
「あ、ずるーい!私も抱っこして欲しいなぁ・・・」
ミーナちゃんを降ろすと、彼女達がたちまち私の周りに群がって口々に喋り出す。
「ほら、皆静かに。ミーナちゃん、ここに私を連れてきてくれたということは、あれを作って欲しいのかな」
軽く手を叩いて、姦しい彼女達に静かにしてもらうと、私はミーナちゃんに確認をとる。
いつぞや、男の子達にいじめられたと大泣きして帰ってきたミーナちゃんに、花の腕輪を作ってあげた事があったのだ。
ころっと機嫌が直ったミーナちゃんは、その腕輪を物凄く喜んでくれて、色んな人に自慢げに見せていた。あそこまで喜んでもらえると、作った甲斐があるというものだ。
「よし、じゃあ少し奮発して花冠を作ろうか。皆、花を集めてきてくれるかね?」
私は花冠ときいて、顔をキラキラと輝かせる彼女達に手伝いをお願いした。
たちまち目の前に摘まれた花がこんもりと積み上げられる。
二本の花を両手に持って、クロスさせて、片方をくるりと巻き付けて、持ち替える。
それを繰り返して、丸く形を整えながらまずは一つ。
自慢じゃないが、私はこれを花冠を作るのはかなり早いほうだ。
小さい頃にずっと一人で、これを手慰みに作っていた記憶がある。
じきに三つの花冠を作り上げてしまうと、私は彼女達の頭にそれぞれ被せてあげた。
「ふむ、我ながらうまく出来たな」
「はぁー、器用なものでございますねぇ・・・・・」
ラピッドが目を丸くして、ピンク色の花冠を眺める。
「凄い凄い!アーチャ兄ちゃん、魔法使いみたい!」
「どうやったら、こんなに早くお花を編めるの?」
「私もやってみたい!教えて教えてー!」
キャーキャーと騒ぐ彼女達にまとわりつかれ、私は元気だなぁと感心しつつ、花冠の作り方を教えてあげるのであった。
さて、小さな子供の手では中々難しいのか、作業は難航。千切れたり解れたり歪んだりを繰り返しながら、ようやくやっと形になった花冠を、彼女達は嬉しそうに両手に握りしめ、帰り道を歩いていた。
途中、薬草採取に行っていたラフィールと会い、一緒に家に向かっている。
「ミーナだけじゃなくて、他の子達まで面倒見てもらってすみません」
「構わんよ、いい時間を過ごさせてもらっている」
時折、すれ違う村人達に軽く会釈を返しながら、私は緩やかに沈もうとしている太陽を眺めていた。このまま穏やかな時間を過ごせるかと思えば。
「何をなさるのです!?」
珍しく怒りを顕にしたラピッドの叫び声と、ミーナちゃんの泣き声が耳を打つ。
「ミーナ!!」
顔色を変えて飛び出すラフィールに続けば、ミーナちゃん達の前に立ち塞がる三人の少年達。何ともまぁ、生意気そうなガキ共である。
ラフィールに抱き着いて泣くミーナちゃんの足元を見れば、無残に千切れバラバラになった花冠が落ちていた。
「ウィズ、お前いきなりなんて事するんだ!」
前にミーナちゃんを抱き、後ろに女の子達を庇い、ラフィールは三人の少年達のリーダー格、ウィズという少年を怒鳴りつけた。
「うるせぇよ、臆病者のラフィール!今日も女達に混ざっておままごとか?ヒーラーってのは随分女々しいんだな」
ヘラヘラと笑いながら、ウィズはラフィールを馬鹿にする。
「僕が臆病者なのは自分でもわかってる。お前に今更言われなくてもね。今僕が聞きたいのは、どうしてミーナにこんな事をしたのかって事だ」
挑発に乗らず、ラフィールは冷静に言い返す。ふむ、中々口喧嘩ではやりにくそうなタイプだな。
「そんな下手くそなモン持ってフラフラしてるから、邪魔だったんだよ!」
「ダセェもん持って歩くんじゃねぇよ、目障りなんだよ!」
何処のチンピラだ、全く。この歳でこんなこと言ってたら、将来が心配だぞ。
「・・・・・・ミーナ、帰ろう。」
はぁ、と深い溜息をついて、ラフィールはぐすぐすと鼻を鳴らしているミーナちゃんに話しかけた。
「花冠は、また明日作り直しに行こう。僕とアーチャー様とでね。美味しいもの持ってさ、三人で行こうよ、ね?」
よしよし、とミーナちゃんの頭を撫でながら、ラフィールは宥めるように言う。
「私達も行っていい?」
「今度はもっと凄いの作ろうよ!」
他の女の子達も、代わる代わるミーナちゃんを慰める。
「・・・・・・うん」
ミーナちゃんはやっと顔をあげた。涙でぐしゃぐしゃの顔だったが、どうやら納得してくれたみたいだ。
「おい!無視してんじゃ」
「うるさいんだよ、お前。馬鹿はもう喋るな」
喚こうとするウィズを遮り、ラフィールが吐き捨てるように言った。
「ウィズ、僕が臆病者なら、お前は言葉も通じない大馬鹿野郎だな。生憎、僕の知り合いに馬鹿はいないんだ。気が済んだなら、僕達を引き止めるな。時間の無駄だ」
少年達を追い抜き、さっさと帰り出すラフィールに、私とラピッドも従う。
さて、ここで彼等が退いてくれるといいんだが。
「アーチャー様、お気をつけください」
声を潜めて言うラピッドに、私は頷いてみせる。そして、次の瞬間、私は外套の下で干将・莫耶をトレースし、サッと横に振るった。
ギンッ、と鈍い音がして、そこそこな大きさの石ころが弾かれる。
「君達。まだ何か用かね?」
くるりと振り向き、私は努めて平坦な声で彼等に問いかけた。
「な、何だよお前!こ、子供の喧嘩に大人が口出しすんなよ!」
いきなり刃物を出され、腰が引き気味になりつつも、ウィズはギャーギャーと叫ぶ。
「今のところ、私はラフィール君達の保護者だ。彼等に危害を加えようとする君達を、黙って見ているわけにはいかない」
口喧嘩だけなら、私だって出てこないさ。でも、石を投げつけるのはダメだ。当たりどころが悪ければ、取り返しのつかないことになる。
「うるさいうるさい!!何だよお前、余所者のくせに偉そうな顔しやがって!!俺は村長の息子なんだぞ!俺に逆らうなよ!」
口角泡を飛ばして喚くウィズに、私は冷めた視線を向ける。
いるよなー、こういう奴って。親がお偉いさんだと、釣られて自分も偉いんだって勘違いしちゃうおバカさん。
「いい加減にしなさい、人間のガキ共。ワタクシ、こう見えて結構気が短い方なのですよ?アーチャー様の手前、こうして我慢しておりますが・・・・・・これ以上好き勝手するのであれば、ワタクシにも考えがありますよ」
エメラルドの眼を爛々と光らせ、ラピッドの喉から獰猛な唸り声が聞こえてきた。口からは青い炎が喋る度に溢れている。
「ご覧の通り、私の相棒も御立腹だ。相棒をこれ以上怒らせないでくれないか」
肩の上のラピッドを撫でて宥めながら、私は少年達にお願いしてみる。
半ギレ状態のラピッドを前にして、少年達は顔を青ざめさせ、覚えてろ、とかなんとか捨て台詞を吐きながら走り去って行った。
「やれやれ、困った子達だな」
「全く、どのような躾をされればあの様な傲慢な子供になるのでしょう!ワタクシ、思わず火を吹きそうになりました!」
鼻息も荒くラピッドは憤慨している。
ラフィールと同い年だが、彼は魔法師の才能があるみたいで、ヒーラーを臆病者が選ぶ職業だと笑っていたような?
いずれにしても、性格的にかなり難ありな子であることは確かだ。
「アーチャー様、ラピッド様、ごめんなさい。お手間をお掛けしました」
まだ釣り上がった目のまま、ラフィールは私に頭を下げる。かなり怒ってるな・・・・・・まぁ当然か。
「謝らなくていい。ラフィール君、君も少し落ち着くんだ」
「ラフィール様が頭を下げる必要は、爪の欠片ほどもありませぬよ!あの人間のガキ共・・・・・・今度突っかかってきたら、お尻をワタクシの炎で炙ってやりましょう!」
ラピッド、君も落ち着こうか。多分それ炙るどころか燃やすレベルだから。生死に関わると思うから。
怒り狂う一人と一匹を何とか引き摺って、私はようやく家に帰れたのだった。
~ウィズ視点~
ああ、イライラする。俺は舌打ちをして、足元にある小さな魔物の死骸を蹴り飛ばした。
俺の炎の魔法で黒焦げになったそれは、バラバラになって辺りに散らばる。
ラフィールの奴、最近あの変な男と仲良くなって、ますます生意気になってやがる。
オーガエープを倒して、見たこともない小さいトカゲを連れた、変な男だ。
皆、あのトカゲをドラゴンだという。そんなわけが無い。あんな小さなドラゴンなんて、いるはずが無い。
ドラゴンはもっと大きくて、立派な生き物だと本にも書いてあった。
きっと、あの変な男が、トカゲの魔物に細工してるんだ。
オーガエープだって、あの男が倒したっていう証拠がない。
何度かこの村に来た冒険者が言ってた。ギルドでの討伐依頼では、魔物を倒した証拠に爪や牙なんかを持っていくんだと。
あの男は、そんな者は何一つ持ってなかった。
きっとラフィールの奴は、騙されてるんだ。
そうだ。オーガエープを仕留めて、ちゃんとした証拠を持ち帰れば、あの男の面子も丸潰れになるはずだ。
あんな大猿、皆が必要以上に怖がるだけで大したことない。
「・・・・・・俺は、村で一番魔法の才能があるんだ」
やってやる。俺だって出来る。あの男とラフィールに、恥をかかせてやる。
俺は早速、準備に取り掛かった。
どうも、松虫です。
前の話を最新話として投稿しちまったい。ストック作りながら投稿してると、何処まで出したか忘れちゃうんだよね・・・
はい、お待たせしましたホントの最新話です。
・・・うん、短いなコレ!話のなー、バランスをなー、考えるのがなー、難しいのよなー。
次回はいよいよあの宝具が発動します。