赤い弓兵に成り代わり、ファンタジー世界で第二の人生を   作:松虫

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宝具・無限の剣製

ザブザブ、と私は木綿のような生地のシャツを濯ぐ。

今日はラフィールのお母さん、ミリアさんと小川へ洗濯に来ていた。

 

「・・・・・・よし、こんなものか」

 

洗剤代わりになるのは、バブルスという草を磨り潰して、乾燥させたタブレット状のものだ。

これは指で砕いて水に溶き、良くかき混ぜるともこもこと泡立つ。その泡には、油を溶かす効果があるのだとか。すげぇ便利じゃん、これ。

シャツをよく絞って桶に放り込むと、ふう、と一息。

今日はいい天気、絶好の洗濯日和だ。

 

「ミリアさん、終わりました」

「まぁ、もう終わらせて下さったの?助かるわ、ありがとう」

 

少し離れた所で、細々としたものを洗っていたミリアさんは、目を丸くした後嬉しそうに笑った。

 

「いえ、これくらい易いものです。これは、こちらに干せばいいですか?」

 

桶を抱え、私はロープで吊るされた物干し竿の前へと移動する。

 

「そうよ、お願いしてもいいかしら」

 

私は頷くと、テキパキと桶の中の服を干し始める。

ぱんぱんとはたいて、皺を伸ばして、金属を曲げただけのクリップで止める。

あっという間に、沢山の服が穏やかな風を受けてひらひら揺れた。

 

「やっぱり、何事も男手があると早いわね」

「うちの主人もアーチャー様を見習って欲しいわ、全く」

「アーチャー様、ちょっと休憩しましょ!お茶がお好きなんでしょ?よさそうなの持ってきましたから」

 

数人の奥様方に囲まれて、あれよあれよという間に敷物の上に座らされた。

 

「さ、どうぞどうぞ。これはカミールっていう花を乾燥させたお茶なの」

 

クリーム色のポットから、同色のカップにお茶が注がれる。

水色は薄い黄色、林檎に似た香りのこのお茶は、まんまカモミールティーだ。

 

「いい香りですね。それに、癖がなくて飲みやすい」

 

うん、今まで飲んだことのあるカモミールティーの中でも、屈指の香りの濃さだ。これは美味しい。

 

「わかってくださる!?これ、私の薬草畑の中でも今期最高の出来なの!」

「手塩にかけてこられたのでしょうね。とても美味しいですよ」

 

カップを置いて微笑めば、キャーッと悲鳴があがった。モテる男は辛いな。

そこからやれ焼き菓子だの果物だの、ちょっとしたお茶会のような状態になる。

奥様方の話に相槌を打ちながら、私はこれ、長くなりそうだなぁと内心苦笑するのであった。

休憩という名の井戸端会議から解放されたのは、時間にして多分一時間半後。

 

「もう、母さんったら、いつまでも話し込んで!」

「だって、アーチャー様がちゃんと話を聞いてくださるんだものー」

 

あまりにも私が帰ってこないので、心配したラフィールにより強制的に井戸端会議は解散になった。

 

「今日はターニャさんとミラベルさんが来る日だよ。川でおしゃべりしてる暇ないでしょ」

 

聞きなれない名前に、私ははて?と首を傾げる。ターニャさんとミラベルさん・・・・・・親戚か何かかな。

そんな私の表情を見て、ラフィールは簡単に説明してくれる。

 

「二ヶ月に一度、王都から行商人が村に来てくれるんです。そこで、僕達は色々買い物するんですよ。食料や日用品は勿論、本なんかも扱ってて、村で採れた薬草や野菜も買い取ってくれるんです」

 

成程、移動スーパーのようなものだな。確かにこの辺りは何も無いから、買い物に行く時はどうしてるのかと思っていたのだ。

 

「二人共女性の方ですけど、冒険者ギルドにも登録なさってて、腕っ節もなかなかのものなんです。村の子供達は二人が来るのを心待ちにしてて、冒険の話を語ってもらうんですよ」

 

心なしか、ラフィールもうきうきしてるように見える。やっぱり男の子はそういうの、好きなんだよなぁ。ジャ〇プとかサ〇デーとか私も読んだなぁ・・・・・・懐かしい。

 

「ほう、どうりで皆の落ち着きがないわけだ」

 

村の空気も浮き足立っているようだ。王都からの品物は、流行なんかも運んでくれるからだろうか?

特に女の人達のテンションが高めだった。

やがて、待ちに待った行商人の二人が、予想よりも大きな荷馬車に乗ってやってきた。

 

「はーい、今月もやってきましたカタール村~!」

 

元気よく御者台の上から挨拶するのは、セミロングの金髪とアクアブルーの瞳が印象的な美女だ。

 

「もう、はしゃぎすぎて落ちないでよ!」

 

隣で彼女に注意するのは、紺色のふんわりボブに翡翠色の瞳のこれまた美女・・・いや美少女、というべきだろうか。金髪美女に比べれば、まだどことなく幼い雰囲気を漂わせている。

 

「おお、お待ちしておりましたよ、ターニャ様にミラベル様。」

「村長さん、お久し振りでーす」

「皆さん、お変わりないようで」

 

村長さんと互いに頭を下げ合い、挨拶もそこそこに済ませると、彼女達は早速荷馬車の幌を捲り上げ、品物の準備を始めた。

その間に、次々と村人が集まってくる。

 

「ターニャさん、ミラベルさん!」

 

ラフィールの呼びかけに、二人は顔を上げると、にっこりと笑いかけた。

 

「ラフィー君だぁ~!!久しぶりだねぇ」

「こんにちは。ヒーラーの勉強は進んでる?また良さそうな本、持ってきたよ」

 

ふむ、彼女達をラフィールが心待ちにしていたのは、こういうことか。

紺色美少女と話しているのを、私は微笑ましく眺めていた。すると、金髪美女と視線が合う。

その食い入るような視線に面食らいながらも、私は軽く会釈してみせた。その途端。

 

「ちょーいい男!こんな人居たっけ~?」

 

ダダダダッと近付かれたかと思うと、左腕にむにゅっとした柔らかい感触。

驚いてそちらを見れば、金髪美女に腕を抱きしめられている。

普通の男であれば、ここは赤面して慌てるか、ニヤニヤと鼻の下を伸ばすかだが、私は生前の女である記憶があるため、あまり感じるものがない。せいぜい、あ、柔らかいなーくらいである。

 

「レディ、初対面の男に向かって、些か無防備ではないかね」

 

金髪美女の大胆さに、私は苦笑を浮かべる。積極的なのはいいが、それも過ぎればはしたないと思うんだが。

 

「ターニャッ!またあんたは何してんの!?」

 

紺色美少女が駆け寄ってきて、ベリッと金髪美女を引き剥がす。

 

「ミラベル聞いた聞いた?私の事レディだってぇ~、そんな呼ばれ方されたことない~」

 

金髪美女もとい、ターニャさんは二へ二へ笑って御機嫌そうだ。

 

「初めまして、ターニャさんにミラベルさんだね。私のことはアーチャーと呼んでくれ。数週間ほど前から、ラフィール君の所で世話になっている」

「あ、これはご丁寧に。ミラベル・ロックハートといいます。こっちはターニャ・アルバフ、私のパートナーです。さっきはターニャが失礼しました」

 

簡単に自己紹介をすると、ミラベルさんはターニャさんの頭を鷲掴みにし、勢いよく頭を下げさせた。

 

「ほら、さっさと店の準備する!油を売ってる暇なんてないよ、お客さん一杯来てるんだから!」

「はーい。アーチャーさーん、お店ゆっくりみてってねぇ」

 

ミラベルさんに引き摺られながら、ターニャさんはひらひらと手を振っていた。

 

「あー・・・結構変わった人だな」

「ターニャさんの通常ですよ、あれ」

 

初めて出会った冒険者の強烈な個性に、私はちょっと引き気味である。そんな私を見つつ、ラフィールはことも無さげに言った。慣れてるんだろう。

 

「そんなことより、品物を見ましょうよ。アーチャー様も何か買うんですか?」

 

店主二人の開店の声を聞き、ラフィールは私の手を引っ張って陳列棚へと向かう。

なになに、冒険者入門に、ジョブ一覧図鑑、薬草大全・・・・・・あ、これラフィールの部屋で見たやつだ。

こっちの半透明の石みたいなのは何だろう?中に色んな色の光みたいなものが入ってるけど。

 

「アーチャーさぁん、魔石に興味ある~?」

 

魔石?魔石なのかこれ。ほほー、面白そうだ。魔石といえば・・・FFシリーズとかのイメージがあるなぁ。

 

「こっちが炎、これが光。この二つは結構売れ筋だよ。魔石は魔道具のエネルギー源にもなるし、魔力切れの時はこれで補給できるからねぇ、持っておいて損は無いよ~」

 

ターニャさんが二つの魔石を掌に乗せ、差し出してくる。受け取ってまじまじと観察。

手触りはその辺の小石と変わらないが、触れた瞬間、何やら脈打つような感覚を感じた。もしかして、これが魔力というものだろうか。

 

「いいかもしれないが、私には金がない。これは返しておこう」

 

そう、今の私は悲しいことに無一文なのだ。この世界に転生して、持っていたものは何一つない。

まぁ、生前の世界に持ってきたかったものなんてないんだが。

 

「お金じゃなくてもいいよ~?うちは物々交換でもやってるから。何か持ってない~?」

 

ターニャさんの言葉に、私はうーんと考え込む。持ってるもの、持ってるもの・・・・・・あ、あったかも。

 

「確か、ここに・・・・・・あった」

 

ごそごそとあちこちを漁り、私は小さな巾着を取り出した。中にはラピッドの鱗が二枚入っている。

 

「フェアリードラゴンの鱗だ。魔石はいらないが・・・少なくても構わないから、これを換金してほしい」

 

メタリックブルーの鱗を見た瞬間、ターニャさんの目付きが変わった。

 

「フェアリードラゴン・・・ですって?」

 

今までのほわほわした喋り方から一転、まるで別人のようだ。

 

「貴方、何者?ドラゴンの鱗なんて、普通じゃ手に入れられない代物よ。どんなルートを使ったの?」

 

ずずいっと近付かれ、尋問じみた口調で問い質される。

しまった、と私は舌打ちしたい気持ちだった。ついうっかり、軽はずみなことをしてしまった・・・・・・ドラゴンの鱗は、目玉が飛び出るくらい貴重品だということを失念していた。

 

「ミラベル、これ、本物かどうか調べてくれる?」

「わかった、任せて」

 

いつの間にか側に来ていたミラベルさんは、巾着を受け取って鱗を掌に乗せ、握りが群青色の杖・・・じゃないな。あれは多分ワンドと呼ばれるものだろうか。とにかくそれを鱗にかざした。

すると、ワンドの先が白く光り、すぐに消えた。

 

「ターニャ、これ、ちゃんと本物よ」

「ドラゴンの鱗や爪、牙なんかは、きちんとしたルートで取引するように決められてるの。貴方・・・密売人とかじゃないでしょうね?」

 

ミラベルさんの言葉を聞き、ますます厳しい顔でターニャさんは私を問い詰める。まったくもって勘違いだ。

私が弁解を口にしようとしたその時、空を切る音とともに、血相を変えたラピッドが目の前に舞い降りてきた。

 

「アーチャー様、大変でございます!!何時ぞやの悪ガキ共が!!オーガエープの集団に襲われております!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ラフィール視点~

 

ラピッドの報告をきき、一気にアーチャー様の表情が変わった。

 

「ラピッド、場所はわかるか!?」

「はい!」

 

そのまま二人だけで走り出そうとするのを、僕は慌てて止めた。

 

「待ってください!僕も連れてってください!」

 

アーチャー様は眉を寄せ、僕に険しい声で言う。

 

「馬鹿を言うな、危険すぎる」

 

そう来るだろうと思ったが、これにはちゃんと理由があるのだ。

 

「僕はヒーラーです。アーチャー様だけで行って、あの三人が怪我をしていたらどうするんですか?もし、一刻も早い手当が必要な場合は?アーチャー様とラピッドだけで、手が回るんですか?」

 

ヒーラーは基本、確固たる攻撃手段を持たない役職だ。

回復と補助、そして防御の魔法がメインになる。

全く攻撃魔法がないのかと言われれば違うらしいが、見習いの僕ではまだまだ遠い領域の話だ。

僕が今のところ使える回復魔法は、『初級回復(ヒール)』と『中級回復(ミドル・ヒール)』くらいだが、もしあの三馬鹿が大怪我をしていても、何とか間をもたすくらいは出来るだろう。

 

「・・・・・・わかった、君の言うことも一理ある」

 

しばらく難しい顔で考えていたアーチャー様は、僕に足早に近付くと、僕をひょいっと抱え上げた。

慌てる僕に、アーチャー様はぴしゃりと言った。

 

「私の足は少しばかり速くてね。動かないでいてくれると助かるんだが」

 

いくら何でも恥ずかし過ぎるが、色々とぶっ飛んだアーチャー様のことだから、きっと速いと言ったら凄く()()んだろう。

 

「わかりました・・・お願いします」

 

アーチャー様は僕を軽く抱き直すと、さっきから呆然としてるターニャさんとミラベルさんの方を振り向き、追求は許さないと言わんがばかりの声で言った。

 

「すまないが緊急事態だ。話はまた後でかまわないね」

「ち、ちょっと待って!魔物に襲われてる人がいるの!?だったら私達も・・・・・・!」

 

ミラベルさんが手伝いを申し出るが、アーチャー様はさっさと背中を向けてしまう。

 

「後から追跡できるならしてくれ。君達を待ってる時間はない」

 

そんな言葉を残して、アーチャー様は軽く身を屈める。

 

「ラフィール君、しっかり掴まっているように。いいね?」

「はい、アーチャー様」

 

僕はアーチャー様の胸元に出来るだけくっついた。ついでに、赤い外套も握り締める。

 

「ラピッド、案内を」

「承りました!」

 

およそ常人には考えられないスピードで、アーチャー様は走り出したのだった。

 

 

 

 

耳元でごうごうと風が鳴る。先陣をきるラピッドを追って、アーチャー様は森の中を駆け抜ける。

ラピッドの説明曰く、いつもの様に、子供達と遊んでいたところ、ハンターのタンバルの息子、ハンバルがボロボロの服装で駆け寄ってきたそうだ。

驚いたラピッドが何があったのか聞けば、件の三馬鹿が何をトチ狂ったか、オーガエープをやっつけに向かったとのこと。

ハンバルのハンターとしての能力、『追跡者(トラッカー)』を使えば、何処に獣が集まるかわかる。あの三馬鹿は、それを利用したのか。

 

「ワタクシが読み取ったハンバル様の記憶だと、たしかこの辺り・・・・・・アーチャー様!あそこです!!」

 

ラピッドの指し示す方向に、必死の形相で炎撃(ファイア・ショット)をオーガエープに撃ち込み、残りの二人を逃がそうとしているウィズの姿が見えた。

 

「オーガエープが五頭、いや十頭以上!?」

 

白い毛皮に丸太より太い腕、血走った金の眼はギラギラと輝き、口からはサーベルのような二本の牙。

襲われた時の恐怖心が、再び沸き上がってきて、僕はアーチャー様の外套を握り締める力を強めた。

 

「ラフィール君、ここで待っていてくれ」

 

アーチャー様は僕を大きな木の側に降ろし、外套の下からあの白と黒の双剣を取り出した。

 

「ラピッド、ラフィール君の事を頼む」

「承りました。アーチャー様は大丈夫でございますか?」

 

ラピッドは僕の肩に留まると、気遣うようにアーチャー様を見上げて言った。

いや、気遣ってるのは言葉だけで、その表情は余裕そうだ。

 

「勿論だとも。さっさと片付けて、夕飯の支度が始まる前に帰らなければな!」

 

双剣を手に、アーチャー様はオーガエープの集団に突っ込んでいった。

 

 

 

 

 

 

~アーチャー視点~

 

ラフィールをラピッドに任せ、私は単騎で大猿達に駆け寄っていく。

 

「こっちだ、猿共!!!」

 

オーガエープの注意を引きつけるように叫び、頭上から迫る太い腕を、気合いの声と共に切り落とす。

仲間の苦悶する絶叫と血飛沫に、三人の少年達を遊ぶように追い詰めていたオーガエープの集団は、標的を私に切り替えたようだ。

 

「さて・・・これは本気で行かなければ、死ぬな」

 

私は深く息を吐いた。殺さなければ、殺される。一度死んでしまったのに、二度もあの感覚を味わうのは御免だ。

 

「行くぞ・・・・・・悪いが手加減は出来そうにない」

 

身体の奥から、熱いものが沸き上がる。干将・莫耶の刀身が倍に伸びてる事なんて気付きもせず、私はオーガエープに刃を突き立てた。

肉と骨を断つ感覚、鼻につく血の匂い。オーガエープの攻撃を躱して斬撃を叩き込み、私はラフィールの方に目を向ける。

ラピッドの援護を受けつつ、彼は三人の少年の確保に移っているようだ。

 

壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)

 

双剣を爆破させ、二体同時に仕留める。

しかし、どうもオーガエープ達の様子がおかしい。

不意に視界の隅に入った大きな影に気付き、私は横に飛び退く。

轟音をたててそこに投げつけられたのは、巨大な木だった。

やっぱり、こいつら私と距離をとっている。接近戦は不利と思ったのだろう。

だが、私は『アーチャー』だ。白兵戦がメインではない。

干将・莫耶を消し、私は黒い洋弓を投影する。

それでは、本領発揮と行かせてもらおう。

矢を投影し、素早く狙いを定めて撃つ、撃つ、撃つ!

額、眼窩、咥内、胸、首。この五箇所の内のどれかを正確に、無慈悲に、残酷に貫いていく。

たちまち数体のオーガエープの死体が転がった。

よし、このまま数を減らしていこう。

そう思った矢先、オーガエープ達が急に攻撃の手を止め、一箇所に固まり出す。

 

「・・・・・・何だ?」

 

私はその方向をじっと見つめる。

やがて、ズシン、ズシンと地響きが聞こえてきた。

何か来る。オーガエープより、遥かにデカい何かが近付いてくる。

 

「貴方、避けて!」

風撃波(ウィンドショット・インパクト)!」

 

姿の見えない大物がいる方向から、バキバキと木々を薙ぎ倒し、地面を抉って何やら衝撃波のようなものが飛んでくる。

覚えのある声が聞こえ、私はその指示通りに飛び退くと、後ろから巨大な風の塊が衝撃波とぶつかり、爆音をたてて相殺された。

 

「・・・・・・追い付いたか」

 

着地した場所に、ターニャさんとミラベルさんが立っている。

 

「何よ、これ。何でこんなにオーガエープがいるの?」

 

ミラベルさんは辺りに転がるオーガエープの死体に、困惑したように言った。

 

「さあな。とにかく、礼は言っておこう」

 

私は、得体の知れない奴が潜む方向から視線を逸らさない。

やがて、そいつが姿を現した。

背後で、ターニャさんとミラベルさんが息を呑む気配がする。

身の丈は三メートルを優に越し、鈍い赤色のゴツゴツした肌に、黄色い眼。おざなりに纏った獣の皮、片手にはこれまた馬鹿でかい棍棒を持っている。

 

「キ、キングオーガ・・・・・・!?」

「嘘でしょ、何でこんな所にこんなのがいるの!?」

 

詳細はわからないが、二人の反応を見るに、なかなかのレッドカードものらしい。

キングオーガは棍棒を振り上げ、耳が痛くなるような咆哮を上げた。

 

「来るぞ!」

 

振り下ろされた棍棒から、先程の衝撃波が私達目掛けて襲いかかってくる。

飛び上がって躱しつつ、私は空中で矢を放ったが、キングオーガに棍棒で叩き落とされてしまった。

 

「キングオーガは普通のオーガと違って、パワーとスピードが桁違いなの!迂闊に近寄ると危ないわ!」

 

ターニャさんの解説を聞き流しながら、私は溜息を吐いた。

普通のオーガがどういうものか知らないが、こいつは正攻法で攻めるには少し骨が折れそうだ。

よし、せっかくだし、ここはアレを使おうか。

 

「君達、少しだけあのキングオーガとやらの注意を引けるかね?」

 

私は背後の二人、ターニャさんとミラベルさんに問いかける。

 

「え?」

「早く答えてくれ。出来るのか?出来ないのか?」

 

アレを使うには、少しばかり時間がかかる。

その間、あのデカブツの気を逸らさないといけない。

 

「出来ることは出来るけど・・・・・・何か手があるの?」

「なければ、こんなことは聞くまいよ。ただし、これから此処で見たことは、誰にも口外しないで欲しい」

 

絶対、アレはこの世界にとって規格外の代物だろう。ペラペラと言いふらされては私が困る。

 

「・・・・・・わかった。『誓約』する」

「私も、『誓約』を」

 

ターニャさんとミラベルさんは、顔を見合わせて頷きあった。

 

「では、合図を・・・そうだな、笛の音が聞こえたら、私の後ろまで戻ってきてくれ」

「「わかった」」

 

二人はそう言い、キングオーガに向かって行った。

 

「ラピッド!ラフィール達を連れて、私の後ろに!」

 

キングオーガにちょこちょこと小さな攻撃を当てる二人を見守りつつ、私はラピッドを呼ぶ。

ラピッドは少年達を守り、私の背後まで進んでくる。よし、順調順調。

 

「アーチャー様、大丈夫ですか!?」

「心配はいらない。それよりラフィール君、一つ頼まれてくれ」

 

私はこっそり投影したホイッスルをラフィールに渡した。

 

「それは笛だ。私が合図したら、それを思いっきり吹いてくれ」

 

何で?と言いたげなラフィールを無視して、私は手を前に出し、一呼吸。そして。

 

I am the bone of my sword. (体は剣で出来ている)

 

 

 

 

 

 

~ラフィール視点~

 

静かな声で、アーチャー様は唱える。

深々と降り積もる雪のように、玲瓏たる湖のように。

 

Steel is my body,and fire is my blood. (血潮は鉄で心は硝子)

 

Ihave created over a thousand blades.(幾度の戦場を越えて不敗)

 

Unknown to Death.(ただの一度も敗走はなく)

 

Nor known to Life.(ただの一度も理解されない)

 

Have withstood pain to create many weapons.(彼の者は常に独り 剣の丘で勝利に酔う)

 

Yet,those hands will never hold anything.(故に 生涯に意味はなく)

 

ピシ、バシ、と周囲に電流のようなものが走り、徐々に大きさを増していく。

不思議な詠唱を唱えながら、アーチャー様が僕に視線を向け、こくりと頷く。

ぼんやりと詠唱に聴き入っていた僕は、急いで笛を咥えると、思いっきり息を吹き入れた。

ピイイイィィ、と甲高い音がして、予想以上の音の高さに驚いて笛を落とす。

巨大なオーガにちょっかいを出していたターニャさんとミラベルさんは、その音にくるりと踵を返し、僕達の方まで全速力で走ってきた。

息を切らせ、二人がアーチャー様の背後に滑り込んだその瞬間、アーチャー様が最後の一節を唱え終わった。

 

So as I pray ,(その体はきっと剣で出来ていた)

 

バキバキと地面にヒビが入り、割れ目から炎が吹き出る。

 

Unlimited blade works!(無限の剣製)

 

光が溢れ、辺り一帯を覆い尽くした。

 

 

 

ハッと閉じていた目を開けた僕は、様変わりしている風景に言葉を無くす。

朱に染まる空に、巨大な歯車がゆっくりと回転している。

荒れ果てた荒野は、無数の剣が地面に突き立てられ、さながら剣の墓場の様だ。

アーチャー様が片手を真上に振り上げると、突き立てられていた剣がひとりでに動き出し、空に浮き上がる。幾つも、幾つも、幾つも。

その切っ先はオーガ達に向けられ、何百、何千もの剣は主人の命令を待つ。

 

「・・・・・・すまないな」

 

ぽつりとアーチャー様は呟き、腕を振り下ろした。

凄まじい音をたて、剣の雨は堕ちていく。聴くに耐えない獣の断末魔、潰れ細切れにされる肉塊。

ものの数秒で、勝負はついてしまった。

地に倒れ付した巨体は、もうピクリとも動かない。

再び光が視界を覆い、次に目を開けた時は、あの淋しげな世界は消え失せていた。




前置き長かったけど!やっと宝具シーン書けたよー!
個人的には一番好きなんだよ、無限の剣製・・・・・・
FGOでもエミヤさんめちゃ欲しかったんだよねぇ、宝具シーンかっこよくてさー、無課金だけど頑張った!
さて、次回は思い悩む主人公、最初の仲間獲得なるか?の回です。
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