赤い弓兵に成り代わり、ファンタジー世界で第二の人生を   作:松虫

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一段落後。弓兵、口説き落とされる

終わった。終わったんだ。

僕は、半ば止めてしまっていた息を大きく吐き出した。

 

「・・・・・・・・・君達、大丈夫かね?」

 

アーチャー様は振り向いて、どこかぎこちない様子で僕達に声をかけた。

 

「はい・・・大丈夫です。アーチャー様こそ、怪我はありませんか?」

 

僕は一番に返事を返す。そうしなくちゃいけない気がしたからだ。

他の皆は、未だ沈黙状態・・・というか、呆けているようだ。

 

「おや、ラフィール様は思ったより豪胆な方ですねぇ。これは意外なこと!」

 

ラピッドはそう言いながら、アーチャー様の肩にとまる。悪かったな、意外で。

 

「なっ・・・・・・何だよ!?何なんだよ、お前!?さ、さっきのアレは・・・・・・お前、一体全体何なんだよ!?本当に人間なのか!?」

 

腰が抜けたのか、無様に座り込んでギャーギャー喚くウィズの顔面に、僕は振り向きざま渾身の力を込めて拳を叩き込む。

 

「ラフィール君!?」

 

アーチャー様の驚く声を背後に、僕は淡々と言った。

 

「ウィズ、そんなことよりも先に、僕達に言うべきことがあるだろ。礼も謝罪もなしで、お前ホントに何言ってるんだ?馬鹿か?馬鹿なのか?一回死んだ方が良かったか?」

 

仰向けにひっくり返ったウィズの襟首を掴み、僕は続けた。

 

「どうせ自惚れ屋のお前のことだから、自分でもオーガエープを倒せると思ったんだろ。結果はどうだったんだ、言ってみろよほら。いろんな人に迷惑かけて、開口一番アーチャー様を化物扱いか!?ふざけるなよ!!!」

 

カッと頭に血が上る。もう一発、と振り上げるた拳は、パシッと誰かに止められた。

 

「ラフィール君、もういい。もう十分だから」

 

とんとんと肩を叩いて、アーチャー様は僕を宥める。

僕は手荒くウィズを離すと、アーチャー様の外套の端をぎゅっと握った。

 

「・・・・・・魔法には、様々な種類があるの」

 

唐突に、ミラベルさんが何かを言い出した。

視線はウィズに向けられている。

 

「大なり小なり、その数は計り知れない。まだ私達の知らない魔法が、何処かで産まれてるかもしれないの。本を沢山読んだくらいじゃ、把握なんて出来ないものよ。全てを知ったつもりでいるのなら、考えを改めなさい」

 

厳しい眼差しに、ウィズは何も言えず俯いた。

 

「・・・・・・とにかく!皆命に関わる怪我もないし、無事だったんだから、よしとしましょ~」

 

ターニャさんがいつものような気の抜けた口調に戻り、気を取り直すかのように手を叩いた。

そしてミラベルさんと共に、いつの間にか気絶していたウィズの腰巾着二人を抱えあげる。

 

「先に行ってても?」

「・・・・・・ああ」

 

ターニャさんとミラベルさんは、アーチャー様と目配せして、先に村へと戻っていく。

 

「立てよ、ウィズ。まさか動けないとか言わないよな」

「・・・うるせぇよ、立てるに決まってんだろ」

 

憎まれ口も覇気がない。俯いたまま、ウィズは立ち上がった。

 

「・・・・・・・・・悪かったよ」

 

小さな声で吐き出された言葉に、僕は耳を疑う。傍若無人を人型にしたかのような、あのウィズが謝っただって・・・・・・!?

 

「アーチャー・・・さんも、すみませんでした。後、俺達を助けてくれて、ありがとうございます」

 

信じられないものを見るような僕に気付いたのか、ウィズは苦虫を噛み潰したような顔でそっぽをむいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

~アーチャー視点~

 

あーーー・・・・・・良かった。嫌われたり、恐がられたりしてなかった。

私はラフィールとウィズの二人を抱えて、村へと戻っていた。

最初は歩けていたんだが、緊張が切れたのか次第にうとうとし始めて、何度か転びそうになっていたんだよな・・・・・・。

ゲームや漫画でしか見たことがなかった宝具は想像以上にド派手で、こんなもん目の前で見せられた日にゃ、夜に魘されるレベルだ。

改めて『宝具』の凄さを再認識する。

しかし、ラフィールのキレっぷりにはびっくりした・・・・・・普段口喧嘩しかしない子だと思ってたからなー、まさかいきなり顔面にパンチ入れるとは。

まぁ、それも私の為に怒ってくれたのかな。もしそうなら、ちょっと嬉しい。

途中でターニャさんとミラベルさんに合流して、帰り道を急ぐ。

 

「いや~、にしても貴方、本当に凄い人だねぇ。最後のアレ・・・・・・鮮烈すぎて一生忘れられないよ」

 

ターニャさんのアクアブルーの瞳が、キラキラと輝いて私を見つめてくる。

 

「詳細を聞こうとはしないでくれよ。何せ私は記憶喪失でね、君を納得させる説明が出来るとは思えないんだ」

 

釘を指すように言えば、ターニャさんはそうだったの?と目を丸くした後、ふにゃりと笑う。あれ、言ってなかったっけこの話。

 

 

「何も聞かないし、誰にも言わないよ~。何の為の『誓約』だと思ってるの~?」

 

いや、だからその『誓約』とやらがいまいち理解してないんだが私。

私が微妙な顔をしたのがわかったのだろう、ミラベルさんが説明してくれる。

 

「記憶喪失って本当なのね。『誓約』っていうのは、魔力を伴う強力な誓いの言葉なの。誓約した言葉に反した行動をとると、何かしら酷い目にあうことになる・・・・・・最悪、死ぬ事だってね」

 

なにそれ怖い。つまり約束破ると必ずしっぺ返しが来るってことか?

 

「つまり~、さっきのアレを誓約破って言い振らせば~、私達とんでもない目にあうんだよね。だから安心してねぇ」

「・・・・・・わかった。ありがとう」

 

それなら心配はあまりしなくてよさそうだ。

二人にお礼を言って、私は黙々と歩いた。

 

「アーチャー様、戻ってきましたよ!」

 

さて、そろそろ夕暮れに差しかかる時間になり、先頭を飛んでいたラピッドが指し示す先に、村の皆が総出で待っているのが見える。

 

「ラフィール!!!」

「ウィズ!!!」

「マルクス!!!」

「アーヴィン!!!」

 

それぞれ我が子の名前を叫び、彼等の両親が駆け寄ってくる。

というか、ウィズの腰巾着二人の名前初めて聞 いたし。

泣きながら抱き締められる彼等を見て、私はホッと胸を撫で下ろしたのであった。

 

それからがちょっとした騒ぎになった。

キングオーガの出没とオーガエープの集団がいた事を話すと、後日王都からの調査隊の派遣依頼を出すことになったのだ。

私はあの騒ぎのど真ん中にいたのだが、調査隊に話を聞かれるとなると『色々と』ややこしい事になるので、調査隊が来る前にカタール村を発つことにしたのだ。

一応、名目上記憶喪失を何とかするためという設定も付け加えておく。

調査隊が来た後のことは、村長さんが上手く誤魔化してくれるそうだ。

まぁ、そろそろ王都なんかにも行ってみたいと思ってたので、ちょうどいいんだが。

ラフィールの家で夕飯の支度を手伝いながら、

いつ頃出発しようかな、なんて考えていると、くいくいと外套の背中辺りを引っ張られ、振り向くとラフィールが真剣な顔で立っている。

 

「どうかしたかね。夕飯はもう少しかかるが・・・」

「・・・・・・夕飯を食べた後、お話があります。父さん、母さんも聞いて欲しいんです」

 

いつになく真面目な様子のラフィールに、私とミリアさんは顔を見合わせた。

 

「わかったわ、ラフィール。アーチャー様、これ急いで作っちゃいましょ」

 

ミリアさんはそう言い、私も頷いて鍋を火にかけたのだった。

 

鶏肉とハーブの煮込みを食べ終え、食器を洗ってしまうと、ラフィールが食後のお茶を入れてくれた。ううん、美味い・・・・・・渋みの少ない緑茶みたいな味がする。

カップを持ってほのぼのしている私に対して、ラフィールとその両親二人は神妙な表情だ。

 

「アーチャー様、いつ頃村を出発する予定ですか?」

「え?あ、いや・・・・・・まだ未定だが、ターニャさんとミラベルさんの店で支度を整えてからと思っている」

 

ほけーっとしてた所にいきなり話を振られ、私はちょっと慌てながら答える。

 

「そうですか・・・・。父さん、母さん。僕、アーチャー様と一緒に行きたいと思います」

 

・・・・・・え?ちょっと待って。どゆこと?一緒に行く?何処に?ラフィールの爆弾発言に、私は目が点になる。

 

「アーチャー様、正直に言いますが、僕は貴方の強さに惚れ込みました。貴方の旅に、僕も一緒に連れてって欲しいんです。貴方の助けになりたいんです。僕はまだ見習いで、大したことも出来ないけれど、どうかご同行させてもらえませんか」

 

ラフィールの紫の眼は真剣で、私はどう答えたものかと返答に窮する。困りきった私を見て、ラルドさんが口を開いた。

 

「ラフィール。それは冒険者になる、という認識でとってもいいのかい?」

「恐らく、そうなると思う。」

 

静かに問いかけるラルドさんに、ラフィールはきっぱり言った。

 

「アーチャー様も、色んな所に行くなら冒険者登録しておいた方がいいものね。ラフィール、本気なのね?冒険者になるって事がどれだけ大変な事か・・・ちゃんとわかってるのね?」

 

ミリアさんは一言一言、しっかり確認するようにラフィールに問いかける。

 

「父さんと母さんも、昔は冒険者だったんでしょ?そういう事は、ちゃんとわかってるつもりだよ。それでも僕は、アーチャー様と一緒に行きたいんだ」

 

わお、熱烈な告白だ。見るからにラフィールは、テコでも動きそうにない。

 

「確かに、私にとってヒーラーである君の力は頼もしいものだ。だが・・・・・・あてのない旅になるぞ。命の危険も多く潜むだろう。それでもいいのかね?」

 

ラフィールの答えはわかってるが、私は聞かざるを得ない。一緒に来てくれるのは、本当にありがたい。ヒーラーが一番最初に仲間になってくれるなんて、RPGじゃ安心できるじゃないか。

だがこれはRPGではない。RPGそのままの世界ではあるが、これはれっきとした現実なのだ。刃物に触れれば、傷を負い痛みを感じる。

HPなんてものはなく、当たりどころが悪ければ容易く命を落とす。

私がつらつらとそんなことを考えていると。

 

「勿論、覚悟は出来てます。アーチャー様、今すぐ答えを出して欲しいとは言いません。どうか考えてみてくれませんか」

 

ラフィールはそう言うと、椅子から立ち上がった。

 

「・・・・・・さて、と。それじゃ、僕はもう部屋に戻るね。父さん母さん、アーチャー様、おやすみなさい」

 

言いたい事を言いたいだけ吐き出し、ラフィールはさっさと自室に戻ってしまった。

残された私達は、その素早さにしばしポカンとした後、やれやれと苦笑する。

 

「・・・久々に見たよ、ラフィールのあんな真面目な顔」

「そうね。あの子もそういう歳なのかしら」

 

ラルドさんとミリアさんは、すっかり冷えてしまったお茶を一口飲んで、何処か嬉しそうに顔を見合わせる。

 

「反対しないんですか?」

 

二人の反応がわからなくて、私は困惑する。

 

「反対しようにも、ラフィールが自分で決めたことだろう?僕達がどうこう言えることじゃないよ・・・・・・懐かしいなぁ。僕もこうして、冒険者になることを両親に告げた日のことを思い出すよ」

 

ラルドさんは目を細めて、しみじみ語り出す。私は黙って聞く体制に入った。

 

「ラフィールも言ってたように、僕とミリアも冒険者だったんだよ。ミリアは前衛、斧術士でね。僕は後衛で、あの子と同じヒーラーだったんだ。意外だろう、皆そう言うよ。確かに冒険者は危険な職業だよ・・・僕も何度、目を背けたくなるような怪我を治癒したことか。でもね、ラフィールが自分で考えて、自分で決めたことを、僕達は否定したくない。初めてなんだよ、あの子が自分からしたいことを言い出したのは。だから、アーチャー様・・・・・・息子を、ラフィールを連れて行ってあげてくれないかな。僕達からもお願いするよ」

 

二人から頭を下げられ、私は面食らってしまう。こういうことをされると、どうすればいいかわからなくなる。

 

「顔を上げてください!私は、その・・・・・・」

 

私が困りきってると、くすくすと笑う声がする。

見れば、ミリアさんが口元を手で隠しながら、楽しげに笑っていた。

 

「こら、ミリア」

「ふふふふ、ごめんなさいねアーチャー様。貴方みたいに強い方が、おろおろしてるのが面白くて」

 

狼狽えてしまったのを、咳払い一つで誤魔化して、私は言った。

 

「とにかく、よく考えてみます。失礼します」

 

一度部屋に戻って、ラピッドにも話を聞いてもらおう。

私はそう考えながら、二人に一礼して席を立ったのであった。

 

部屋に戻ると、ラピッドがベッドの上でころころと転がっていた。何してるんだお前。可愛いけど。

 

「おお、お帰りなさいませアーチャー様!何やら随分と真剣なお話をなさっておりましたね。何の話かお伺いしても?」

 

転がるのを止め、ラピッドがヘソ天状態のままラフな服に着替えている私を見上げる。

 

「ラフィールに旅へ連れて行って欲しいと頼まれた。ご両親も、反対はしてない」

 

手を伸ばして、ベッドのド真ん中を占領しているラピッドを枕元へ寄せ、そのまま身体を横たえた。

 

「それはそれは。アーチャー様はどう答えたのですか」

「その場で即答は出来なかったから、少し考える時間が欲しいと言った」

「何故です?ラフィール様はワタクシが見たところ、中々のヒーラーとしての才能がありますが。お仲間に加えるのであれば、今がその時かと」

 

寝返りを打って体を起こし、ラピッドは私の顔を上から覗き込んだ。近いぞおい。

 

「・・・・・・もし、ラフィールに何かあったとき、ご両親に何と言えばいい?ラピッド、私は幼い頃に、事故で両親を亡くしている。亡くす側の辛さは、誰よりも知っているつもりだ。勿論、そうならない為にも力は尽くす。だが、この世に絶対などというものは存在しない。私はそれが恐ろしい。だから、安易に連れて行くなんて事を言うわけにはいかないんだ」

 

目を閉じた瞬間、あの時のことがフラッシュバックされる。

目の前に迫るトラック、背中を突き飛ばされる感覚、顔を上げた時には二人の姿はもうなく。

すぐ近くに、身体が・・・・・・赤い・・・血に、塗れ・・・・た・・・・・・・・・

 

「ッ・・・・・・!!!」

 

ガバッと跳ね起きて、痛いほど鼓動が激しくなった胸元を掴んだ。ギリギリと爪を喰い込ませ、その痛みに無理矢理チカチカする視界を元に戻す。

ヤバかった・・・・・・良かった、吐くまで行かなかった。

 

「ど、どうなされたのです!?大丈夫でございますか、アーチャー様!」

 

慌ててラピッドが胸元を掴む手にくっついてくる。そして、落ち着かせるように擦り寄り、喰いこんだ指を少しずつ外していく。

 

「どうやら嫌なことを思い出させてしまったみたいですね。申し訳ありません、ワタクシの落ち度でございます」

 

申し訳なさそうな表情で、ラピッドは私を見上げる。

そんな顔をするな、と言いたいのに、喉が引き攣ったようになって声が出ない。

 

「でも、アーチャー様。共に行くという覚悟を決めたのは、ラフィール様自身でございます。ご両親様も当然、何かあった時のことを考えていることは確かでございましょう。それを踏まえて尚、ラフィール様の気持ちを優先させておられるのです」

「・・・・・・それは、よくわかっている。多分、これは私の気持ちの問題なんだ」

 

そうだ。私はまた失うのが怖い。こんなままでいてはいけないと常々思っているのだが、どうにも両親を亡くした記憶は強烈過ぎて、中々私を解放してはくれないのだ。

大きく息を吐き出し、私は再びベッドに横になった。ああ、何かいっきに疲れた。

 

「アーチャー様、今日はもう眠ってくださいませ。旅の支度を整えるまで、まだ少し時間はありましょう」

 

ラピッドの冷たく小さな手が、私の頬をゆっくり撫でる。

しばらくすると、落ち着いてきたのか私の瞼が下がってきた。

 

「・・・・・・人は人を必要とする生き物なのですよ。失うことの恐怖は最もですが、それに呑み込まれてはいけません。どうか、手を伸ばしてみて下さいませんか」

 

ふわふわする意識の中、ひっそりとラピッドが呟いたのを、私は知らなかった。

 

次の日。

疲れきっていたのにも関わらず、早朝スッと目が開いた。

疲労感はほぼなく、便利な身体だなぁと感心する。

隣でぷぴーぷぴーと奇妙な寝息をたてているラピッドをひと撫でして、私はそっとベッドから立ち上がった。

黒いシャツ(ミリアさんから貰った)を着て、足音を潜めて家の外に出る。

辺りはまだ薄暗く、ひんやりとした空気が清々しい。

近くの井戸まで行くと、顔を洗って口を濯ぐ。

部屋で投影してきた手拭いで顔を拭いて、ゆっくりと朝日が昇っていくのをじっと眺めていると。

 

「・・・・・・アーチャー様?」

 

かけられた声に、ハッとして振り向けば、朝露に濡れて輝く白い花を、山盛り籠に詰め込んだラフィールが立っていた。

 

「おはようございます。随分早いですね」

「ああ・・・おはよう。薬草採取かね?」

 

ラフィールは頷いて、私の隣に歩み寄ってきた。

 

「ソル・二ブラという花です。朝一番に摘んだものは、香りが良くて香水の材料等に使われます。結構いい値で売れるんですよ、これ」

 

差し出された籠からは、甘く濃厚な香りがした。

 

「・・・・・・ラフィール、私は一つ、思い出した事がある」

 

私はラフィールの紫の瞳を見つめ、そう切り出した。

 

「そ、それって、アーチャー様の記憶の事ですよね!?」

「他に何があるんだね」

 

驚いて籠を落としそうになるラフィールに、ちょっと笑いながら言えば、それもそうですね、とバツが悪そうな顔をする。

 

「断片的な記憶だが・・・・・・私は、両親を目の前で亡くしている。ずっと幼い時に、ね」

 

え?と言ったきり、言葉をなくすラフィールを置いて、私は続けた。

 

「事故だった。幼い私を庇って、両親は二人共轢かれてしまった。私は親戚の家に引き取られたが、厄介なお荷物の烙印を押されてしまったみたいでね。そこからは徹底的に無関心を貫かれたよ。そこから、余り細かいことは思い出せないが・・・・・・私が、君を連れて行くことに躊躇しているのは、また失うことを恐れているからだ」

 

少し脚色したり省いたりしたが、私はラフィールに過去の事を少しだけ話した。

 

「人間、生きていく以上、誰かと関わらずにいることは出来ない。私もそう思ってはいるんだが・・・・・・どうも、あの時の凄まじい喪失感を思い出すと、二の足を踏んでしまってね。情けない事だ」

 

口元が歪み、自嘲の笑みが浮かぶのを感じる。

ラフィールを見れば、俯いてその表情は伺えなかった。

少しの間、沈黙が続き。

 

「・・・・・・そんな事があったんですね。話してくれて、ありがとうございます」

 

幾分低い声で、ラフィールは言った。

 

「アーチャー様の気持ちは良くわかりました。じゃあ、僕は・・・・・・」

 

私はてっきり、一緒に行くのは諦めますとか言うのかと思ってた。

ところがどっこい、ラフィールは勢いよく顔を上げて言い放った。

 

「勝手に!ついて行きますから!」

「・・・・・・え」

 

キッと見上げる目は挑むようにきつく、ラフィールは私にずかずかと詰め寄ってくる。

 

「つまるところ、アーチャー様は僕が一緒に行ったら死ぬんじゃないかと思ってる訳ですよね?冗談じゃない、勝手に殺さないでください。というかますます心配ですよ!そんな話聞かされて、はいそうですか諦めますなんて言うと思いました?思いませんよね?」

 

ガシッと両腕を掴まれ、怒涛のがぶり寄りに目を白黒させていると。

 

「僕はヒーラーです!多少の怪我なんてあっという間に治してみせます!もっと勉強して、直に腕利きのヒーラーになってみせましょう!回復魔法だけじゃ不安だというのなら、防御魔法も使いこなせるようになります!いずれ『鉄壁』の肩書きをもらえるように!」

 

ラフィールは、私の腕を握り締めながら叫ぶ。

一体どうしてそこまで私にこだわるのか、さっぱりわからなくて困惑するばかりだ。

 

「僕はね、アーチャー様。昨日も言ったと思いますけど、貴方の強さに感動したんです。惚れ込んだんです。わかりますか?僕は今まで、冒険者なんて命知らずな連中だと思ってました。絶対になりたくない職業だと思ってました。でも、貴方を見て、心が踊ったんです。こんなにも凄い人がいるのかと。僕はそんな貴方の助けになりたい。そして貴方と一緒に、もっと沢山のものが見たいと思った。理由は他にいりますか?もっと難しい理由が?」

 

何かもう、どうしよう。これ凄い口説かれてるよな私。

熱くなる頬をどうにか隠したくて、強く見つめてくるラフィールの透き通った紫の瞳から顔を逸らした。

 

「・・・・・・・・・わかった。そこまで言われて、いいえと答えられる気骨の持ち主ではないよ、私は」

 

溜息を一つ吐いて、私はラフィールに向き合った。

そして、そのまま片手を差し出す。

 

「これから世話になる。ラフィール君、よろしく頼むよ」

「はいっ!よろしくお願いします、師匠!」

「師匠!?」

 

ラフィールの口から飛び出たとんでもない言葉に、私が目を丸くしている間、彼は勝ち誇ったような笑顔を浮かべ、私の手をぶんぶんと振るのであった。

 




タイトル通りの回でございましたー
どうも、皆様。ここ数日の雨は凄まじいものでしたね・・・・・・一日も早い復旧を祈っております。
我が友人の中にも九州に住まう方がいるのですが、大通りが水浸しで避難出来ずに家にいたみたいです。
自然の力はほんとに恐ろしいものです、日頃の防災意識が大切ですね・・・・・・
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