赤い弓兵に成り代わり、ファンタジー世界で第二の人生を   作:松虫

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さよならカタール、目的地は王都

ラフィールに口説き落とされ、見事に惨敗したことをラピッドに話せば、小さな相棒は何が面白かったのか腹を抱えて笑い転げた。解せぬ。

それにげんなりしつつ、出立の準備を整え出す。

ああ、お金なら心配ない。臨時収入でそれなりの額のお金が手に入ったからね。

 

「オーガエープの爪に、牙、毛皮でしょ~、キングオーガの骨も使えるし~、これもアーチャーさんのお陰だねぇ」

「こっちも結構分けてもらって助かるよ。キングオーガの骨なんか、ギルドで良い値で売れるのよ」

 

そう、あの時倒しまくったオーガエープとキングオーガの素材を、ターニャさんとミラベルさんに換金してもらったのだ。

ちなみに、解体したのはハンターのタンバルさんだったりする。

一人では手が回らないので、ターニャさん、ミラベルさん、私と手伝ったのだが・・・・・・うん、中々エグかった。

え?事故の時のフラッシュバックはないのかって?

あれは疲れてたり、落ち込んでたりするとなることが多いんだ。普段は平気なので、あまり気にしてない。

血を見る度にあんな状態になってたら、生活していけないだろう。

 

「とりあえず、着替えと・・・・携帯食と、財布もいるな。あと魔石も何個か買っておいてもいいか。そうだ、ラピッドのおやつ用にドライフルーツも作って・・・・・・」

 

はっきり言おう。私は困っていた。遠足や旅行ならいざ知らず、旅人装備なんてわかるわけないだろ!?

何がいるんだよ、キャンプなんてしたことないんだぞインドア派ナメんな!

 

「弱った。必要なものが全くわからん」

「おやおや、何やら難しいお顔をしておりますな」

「荷造り・・・進んでないですね」

 

あーでもない、こーでもないと考え込んでいると、部屋の扉が開きラピッドとラフィールが姿を見せた。

 

「・・・・・・少し手を焼いているだけだ」

「少しには見えませんよ、アーチャー様」

 

笑いを堪えるかのようなラピッドの声に、私はむむ、と眉間に皺がよるのを感じた。

 

「仕方ないですね。僕手伝います」

 

うう、面目ない。ラフィールの申し出に、私は情けない顔でお礼をいうのであった。

一人と一匹がかりで荷造りを手伝ってもらい、何とか私の荷物が出来上がり、さぁ鞄に詰めようとしたその時。

 

「アーチャー様、ラフィール、ラピッドちゃん!その荷物ちょーっと待った!」

 

ばばーんと扉を開き、何故か勇ましく登場したのはミリアさん。

 

「びっくりした・・・・・・どうしたの、母さん」

「うふふー。ラフィール、いい物あげるわね」

「いい物・・・・・・?」

「で、ございますか?」

 

私達が不思議そうに見守る中、ミリアさんは背後からぱんぱかぱーん、という効果音と共に取り出したるは・・・・・・。

 

「背負い鞄?」

 

と、いうよりもリュックサック、いやナップサックに近い形だな。

 

「実はね、これマジックバッグなの」

「は・・・・・・?」

 

隣でラフィールがぽかんとした顔をしてるが、私は全くピンとこない。

 

「おやおや、それは珍しいですね。それほどの大きさの物は、中々見つかりませんよ」

 

ラピッドはミリアさんの掲げ持つマジックバッグとやらの周りを、興味深そうに飛び回っている。

 

「そ、そんな凄いの持ってたの・・・・・・?」

「そうよ。むかーしにラルドと冒険者やってた時に、ちょっとね。これあげるから、使いなさいね」

 

にっこり笑って、ミリアさんはラフィールにマジックバッグとやらを渡して、荷造り頑張ってね、との言葉を残して部屋から出ていった。

 

「アーチャー様、マジックバッグというのはですね。言葉の通り、魔法の鞄なのでございます」

「大きさによって入る個数に限度はありますが、カバンにさえ入れば、どんな重いものでも手に持ったときに重さを感じない仕掛けなんです」

「あと、当然ですが普通の鞄に比べ、圧倒的な収容力があります。これほど大きなものだと、かなり沢山入るでしょうね」

 

ラピッドとラフィール、二人の説明に、私はふむふむとマジックバッグを手に取って、開けたり閉めたりを繰り返す。見たところ、至ってシンプルなナップサックである。

では早速、荷物を入れてみよう。

 

「凄いな・・・・・・全部入れたのに、こんなに軽い」

 

片手で持ってみるが、重さはほとんど感じなかった。

 

「それこそ、マジックバッグの特徴でございますよ。収容力は高く重量は一定!他の特徴として、食べ物等の鮮度も落ちない優れ物、長旅には是非とも欲しい一品でございますね」

 

ラピッド、何かテレホンショップみたいになってるぞ。

 

そんなこんなで、出発当日。カタール村の人達に挨拶を済ませたわけだが。

 

「ラフィー兄ちゃん、アーチャ兄ちゃん、ラピちゃん・・・・・・行っちゃやだあああぁぁ!」

 

ラフィールと私の服を握り締め、この世の終わりとばかりに泣き叫ぶミーナちゃんに、壮絶な足止めを喰らっている。

 

「ミーナ、また帰ってくるから、ね?もう二度と会えないわけじゃないんだよ」

「ミーナお嬢様、あまり泣いてはいけませんよ。可愛いお顔が台無しになってしまいます」

「ミーナちゃん、私達は必ずここに戻ると誓おう。どうか信じて待っていてくれないだろうか」

 

三人で慰めまくって、やっとミーナちゃんは手を離してくれた。だが、涙が次から次へと丸い頬を伝って流れていく。何だか凄い悪いことをしている気分だ。

 

「・・・・・・皆、ちゃんと帰ってくる?」

 

ひっく、ひっくとしゃくり上げる声が痛々しい。

私達はミーナちゃんの不安そうな目を見つめ、しっかり頷いてみせる。

 

「・・・・・・わかった。ミーナ、いい子で待ってる。待ってるから、絶対に帰ってきてね」

 

ミーナちゃんは目を擦って涙を拭うと、ミリアさんの傍まで行き、彼女の手を握った。

 

「どう?もうお別れは大丈夫そう?」

「ああ。すまない、待たせてしまった」

 

苦笑混じりの声に、私は振り向いて荷物を荷馬車に乗せる。

そこには、ターニャさんとミラベルさんが荷馬車の前に座っていた。

 

「王都までの同行、感謝する」

「いいよいいよ~、私達も色々売り捌きたいしねぇ」

 

ターニャさんはホクホク顔で「戦利品」を眺めている。

何だかんだ、荷馬車付きで連れて行って貰えるのはありがたいことだ。

 

「それじゃ・・・父さん、母さん、ミーナ。行ってきます」

「ラフィール、気をつけてな」

「アーチャー様、息子をよろしくお願いします」

「ラフィー兄ちゃん、頑張ってね!」

 

ラフィールも、最後の挨拶を済ませたようだ。ミリアさんの言葉に、私は深々と一礼した。

 

「お世話になりました」

「皆様、本当にありがとうございました!」

 

ラピッドも私の横で羽ばたきながら、器用に頭を下げる。

さぁ、次の場所へ向かおうか。

 

 

 

 

 

結論、私は荷馬車の乗り心地の悪さを忘れていた。

タイヤって凄い。ゴムって凄い。コンクリートって凄い。

 

「・・・・・・腰と尻が・・・痛い・・・」

 

ガタガタゴトゴトと揺れる荷馬車、その荷台の上で身体はぴょこぴょこ跳ねる。

私は誰にも聞き取れない程小さな声で、唸るように言った。

これアレだ、限界きたら馬車と走ろう。そうしよう。

 

「二人共大丈夫~?」

「「大丈夫じゃない」」

 

ラフィールと仲良く揃った声に、ミラベルさんが同情するように言った。

 

「慣れてないとキツいものね・・・・・・私も最初は苦労したよ」

「そういえば、王都までどれほどかかるのですか?確かスターファン、といいましたっけ」

 

ラピッドはミラベルさんの肩に留まっているようだ。

白く細い指で撫でられ、エメラルドの瞳が気持ちよさそうに細まる。こいつめ、こっちの気も知らないで。

 

「ええ、スターファンであってる。そうね・・・このペースだと、何事もなければ一週間ちょっとで到着するわ」

 

一週間・・・・・・一週間もかかるのか・・・・・・そうだよな、自動車も電車も飛行機もないんだよな、この世界。

もういっそ騎英の手綱(ベルレフォーン)で飛ぶか?

いやいや、あれって確かペガサス召喚してたよな。ペガサスは、怪物メドゥーサが英雄ペルセウスと戦った時、切り落とされた首の血だまりから産まれたそうな。つまるところ、血を媒介にペガサスを喚ぶのか?

・・・・・・どれだけの血がいるんだそれ。斬首レベルの量なら死ぬぞ私。

 

「絶対止めとこう・・・・・・」

「え、何をですか」

「いや何でも」

 

ガッタンガッタン揺れる視界の中、いきなり妙な事を呟いた私を、ラフィールが心配そうに覗き込むのであった。

 

さてさて、腰痛に悩み、堪りかねて馬車と併走し、たまたま襲ってきた追い剥ぎ連中をストレス発散とばかりにぶちのめしetc、etc・・・・・・

そんなこんなで一週間。

え?端折りすぎ?もういいじゃないか、何事もなく一週間たったんだ。途中お姫様を助けることもなければ、伝説の装備を見つけることもなかったよ。

ほぼほぼ移動だ、移動に費やした七日間だった。

 

「はーい、ルーンベルグ王都、スターファンとうちゃーく!」

 

ターニャさんの気の抜けた声を聞き、私はやっと荷馬車地獄の終わりが来たことに喜びを噛み締める。

 

「ここは、王都スターファンの西門だよ~。今から入国するんだけど、ギルド証のない二人は、入国料がいるのねぇ。今回は~、お世話になったお礼として私達が払っちゃうよぉ~」

 

止める間もなく、ターニャさんは財布を取り出して、入国管理をしているのであろう兵士にお金を支払ってしまう。

 

「ターニャさん、そこまでしてもらわなくとも・・・・・・」

「いいのいいの~、こっちはアーちゃんのお陰で儲けられそうだしねぇ。これくらいさせてよ。お返ししたいならぁ・・・・・・コレで、ね?」

 

アーちゃんって誰だ、アーちゃんって。いつの間にそんな呼び方になってんだ。

呼び方にひっそりつっこんでいると、外套の襟首辺りを掴まれ、ぐいっと引っ張られる。

上体が傾いたと思えば、頬に柔らかな感触が。

おおーっ、という周囲のどよめきに、私はターニャさんにキスされたのを知った。

 

「・・・・・・親愛の証として、受け取っておこう」

「も~、つれないなぁ」

 

まったく、この人はいろんな意味で奔放な人だな。

苦笑して言えば、ターニャさんはつまらなさそうに唇を尖らせた。

 

「ターニャ!あんたまたそんなことして!」

「いいじゃんミラベル~、親愛の証なんだしぃ。あ、ミラベルもする?」

「せんわ!」

 

ミラベルさんに頭をひっぱたかれ、痛そうにそこをさするターニャさんはさておき。

 

「それではここでお別れだな」

 

入国手続きを済ませ、門を潜ったところで二人とはさよならだ。

 

「色々お世話になりました。素材、高値で売れるといいですね」

 

ラフィールはぺこりと頭を下げて、にこやかに笑う。

 

「ラフィール君、これから大変だと思うけど、無理しない程度に頑張ってね。アーチャーさん、さっきはこの色ボケがすみません」

「色ボケって酷いぃ~!」

「うるさいこの色ボケ」

 

もう一発頭を叩かれたターニャさんは、痛い痛いと騒いでいる。

うん、ごめん援護出来ないわ。

 

「それじゃ、また何処かで会いましょう。元気でね」

「じゃあねぇ~」

 

二人に手を振って、私達はその場を後にする。やれやれ、個性的な人達だったなぁ。

 

「それでは、これからどういたしましょう。先にギルド登録へまいりますか?」

「うん、そうしましょうか。ええっと、冒険者ギルドは何処にあるんだろ・・・・・・」

 

ラピッドとラフィールがそんな話をしているのを背中越しに聞きながら、私は周囲を見回した。あ、あそこにマップっぽいの発見。

私はそこまで行くと、どれどれとマップを覗き込んだ。

そして、とある箇所を見た瞬間、私は思わずカッ、と目を見開いた。

 

「エリュテイア大浴場・・・・・・だと・・・!?」

 

大浴場・・・・・・浴場・・・つまり、お風呂!

日本人の心!命の洗濯!清潔は健康の第一歩!

 

「・・・・・・そうだ、お風呂行こう」

 

一週間。一週間も荷馬車に揺られる生活をしていたんだ。その間、濡らした布で身体を拭うくらいしか出来なかった。

カタール村に居たときでも、大きな桶にぬるま湯を入れて浴びる程度。

どれだけ大きな湯船に肩まで浸かりたかったか!

目的地は決まった。最優先事項はお風呂に入ること。

いざ行かん、エリュテイア大浴場へ!!!

 

 

 

 

 

 

~ラフィール視点~

 

ルーンベルグ王都スターファンに到着して、ターニャさんとミラベルさんと別れ、僕とラピッドは冒険者ギルドへの登録について話していた。

 

「冒険者ギルドか・・・・・・何だかドキドキします、僕」

「何事も初めてというものは緊張するものですよ。そういえば、アーチャー様は何処に行かれたのでしょうか」

 

言われてみれば、確かに師匠の姿が見当たらない。

どうしたんだろうか、とあちこちへ視線を巡らせると、マップの前に立つ赤い背中を見つけた。

ああ、あんな所にいたのかと思えば、勢いよく身を翻し、足早にこっちに向かって歩いてくる。

その目付きはとても鋭く、僕はびくっと肩を跳ねさせてしまう。

 

「おやおや、どうしたのですかアーチャー様。お顔が大変険しくなっておりますよ」

 

すかさずラピッドが間に割って入り、師匠の肩にひらりと留まる。

 

「む・・・・・・すまない、少しがっつき過ぎたようだ。二人共、これから冒険者ギルドへ行こうとしていたと思うのだが、少し待ってくれないか」

 

ラピッドに頬を突っつかれた師匠は、表情を緩めて僕達に言った。

 

「それは全然構いませんが・・・・・・師匠、どこか行きたいところがあるんですか?」

「ああ。エリュテイア大浴場に先に行きたいんだ。というか、その師匠という呼び名は続けるのかね・・・・・・」

 

げんなりした顔で、師匠は溜め息をついた。

だが僕はこの呼び方を変えるつもりはない。

だって本当に僕は、この人に、アーチャー様に憧れているのだ。だから、師匠以外の呼び名なんて思いつかなかった。

 

「続けますとも。早く慣れてくださいね、アーチャー師匠」

「・・・・・・普通に呼んでくれていいんだが」

「イヤです」

 

再び溜め息を吐く師匠を見て、僕は声を出して笑った。

 

「ところでエリュテイア大浴場、でしたっけ。どうしてそこに先に行きたいんです?」

 

僕がそう問いかけた瞬間、師匠は目を見開いて即答した。

 

「風呂に入りたいからだ」

 

・・・・・・いや、そうだと思いますけど。別にギルド登録済んでから行ってもいいんじゃないかと思うんですね、僕は。

 

「ラフィール君、一週間だぞ。私はもう堪えられん。風呂に入ってさっぱりしたいんだ」

 

どうやら師匠は綺麗好きらしい。眉を下げて、悲しげな顔で懇々と言われては、ダメだなんて言えない。

 

「わかりました。じゃあ、先にお風呂に入りに行きましょう。実は僕もちょっと興味あったんですよね」

 

お話は済みましたか、なんて言ってるラピッドをツンっとつついて、僕達はエリュテイア大浴場へと向かったのだった。

 




暑いですね。物凄く暑いですね。
どうも皆様、松虫です。三連休いかがお過ごしでございましょうか。
我が家は海沿いにあるんですが、近くの海の人口密度が大変なことになっております。熱中症にはお気をつけくださいね。
さて、ようやく王都スターファンに到着したアーチャー一行。ギルド登録は後回しで一風呂浴びに行ったわけですが・・・・・・次回は誰得?俺得だよお風呂回!
もしかしたら更新が遅れるかもです・・・・・・
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