赤い弓兵に成り代わり、ファンタジー世界で第二の人生を   作:松虫

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ほっこり一息、大浴場で出会ったのは

いつもの厳しめな顔立ちが、今はちょっと緩んでいて、師匠の歩む足取りも軽やかだ。

嬉しげな雰囲気を纏って、鼻歌でも歌いだしそうな様子に、僕はこっそりと笑った。

機嫌の良さそうな師匠は、普段の大人びた感じとは打って変わって何処となく子供っぽい。そんなにお風呂が好きなのかな?

 

「ラフィール君、こっちだ。ここを右らしい」

「はいはい、ちょっと待ってくださいって」

 

行き先を示す声も、はしゃいでいるのか弾んでいる。

 

「珍しくウキウキしておられますね。お風呂がお好きなのですか、アーチャー様」

 

師匠の肩に留まったままのラピッドがそう聞けば、師匠は自分では気付いていなかったのか、恥ずかしそうな、気まずそうな表情になった。

 

「・・・・・・そんなに顔に出てたかね?」

「「そりゃもうしっかりと」」

 

僕とラピッドの綺麗に揃った声に、師匠はうっ、と言葉を詰まらせた。

 

「仕方ないだろう、風呂の魅力は絶大なんだ!一週間、布で身体を拭くだけの生活だったんだぞ!?清潔にしているつもりだが、私には無理だ!考えてもみたまえ、丁度いい温度のお湯に、肩まで浸かる時の満足感を!この世の至福だぞ!」

 

やけくそのように熱弁する師匠。よくそれで旅するとか言えたなぁ、この人。思わず遠い目になるのを感じる。

 

「わかったわかった、わかりましたよ。わかりましたから、ほら到着しましたよ」

 

師匠の手を引っ張って、目の前に現れた建物に注意を促す。

 

「おお・・・・・・ここがエリュテイア大浴場か!」

 

目を輝かせ、師匠が見上げた建物は、一見神殿のような造りをしていた。白い石の柱はどっしりと太く、豪奢な彫刻の彫られた屋根を支えている。

 

「これはまた大きな建物でございますねぇ。大浴場とは思えぬ造りで」

 

ラピッドは目を丸くして、柱や壁を覆う見事なレリーフを眺めていた。

 

「入浴料は銅貨10枚ですか。かなり安いですね」

 

料金表を見れば、冒険者はランクに応じて値段が変わってくるらしい。

高ランクになると入浴料は高くなるが、様々なサービスが付属されるのか。

銅貨10枚は最低ランクで、お風呂に入るだけがこの値段なんだな。

 

「ワタクシの分も入浴料は必要なのでしょうか?」

「とにかく入ろう。ラピッドの分は、中で聞いてみればいい」

 

師匠はそう言い、スタスタと中に入っていく。その後を追って、僕とラピッドもエリュテイア大浴場へと足を踏み入れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

もうもうと立ち込める湯気。かぽーん、という桶の音。

サラサラと流れるお湯の音を聞きながら、僕は深い息を吐いた。

 

「はぁ・・・・・・気持ちいい」

「極楽でございます~・・・・・・」

 

白いスベスベした石の大きな湯船に浸かり、思わずまったりと零れた呟きに、肩に乗ったラピッドが蕩けた声で答えた。

 

「ラピッドの分はいらなくて、ちょっと得した気分だね」

「ワタクシ・・・お風呂なるものは初めて入りましたが・・・これは癖になりますね・・・」

 

いつものしっかりした受け答えも、とろとろと

覚束無い。

それにくすくすと笑っていると。

 

「ああ、ここにいたのか。どうだね、湯加減は」

 

髪と身体を洗い終えた師匠が、後ろから声をかけてきた。

 

「最高です。お風呂って、こんなに気持ちいいんですね」

 

隣に並んで座った師匠は、何故か得意そうな顔をしている。

 

「そうだろう。しかし、内部も素晴らしいな。床は色ガラスのタイル張り、浴槽は白い石造りか」

 

心地良さげにうっとりと目を細める師匠を、僕はそっと眺めた。

なめし革のような褐色の肌に、水滴が光を反射して光っている。悠々と伸ばされた長い手足、逞しく盛り上がった筋肉・・・特に胸と腕。

何度か抱き上げられたことがあるが、柔らかく張りがあって、ぶっちゃけ心地よかった。

あんな巨大な弓を軽々と引くのだから、さぞ硬い筋肉で覆われているのかと思っていたのだが。

 

「ん、どうしたかね?のぼせてしまったか?」

 

視線に気がついたのか、師匠が首を傾げて僕をのぞき込んでくる。

 

「い、いえ。師匠って、髪を下ろすと存外童顔なんですね」

「ラフィール君、君は案外人が気にしている所をしっかり突いてくれるな?」

 

誤魔化すように話題を振れば、地雷だったのか大きな手で頭を鷲掴みにされる。グッと力を込められれば、地味に痛い。

 

「い、いだだだだだ!痛いです!ごめんなさいすみません失言でしたぁ!!」

「全く・・・以後気をつけたまえよ。私ならともかく、そんな事を女性相手に軽々しく言ってしまえば大変な事になるぞ」

 

手を離された頭を押さえて、僕は何度も頷く。

童顔って、そんなにデメリットになるのかな。老けて見られるより、若く見られた方が僕はいいと思うのだけれど。

そんな事を思っていると、急に入口あたりの方が騒がしくなった。

 

「ああー、ようやくさっぱり出来るぜ!さすがに二週間行水だけじゃなぁ!」

「そうですねぇ兄貴!早速浸かりましょうや!」

「何あれ汚い」

 

僕はその方向を見て、うっかりと素直な感想口走ってしまう。

見えたのは三人の男達で、ひと目でわかるくらい汚れている。

多分、いや確実に冒険者・・・しかもあんまり素行が宜しくなさそうだ。

 

「・・・・・・何やら湯船の方に向かって来ておりますね」

「まさかあの人達、身体も洗わずにここに浸かる気!?」

 

僕とラピッドは、顔を見合わせた。お互い、嫌悪感で引き攣った表情だ。

どうしよう、と思ったその時、師匠が動いた。

 

「待ちたまえ。湯船に浸かる前に、身体を洗え。それが最低限のマナーだ」

 

湯船の中から男達の前に立ち塞がり、厳しい声で言った。

いきなり目の前に現れた師匠に、男達は面食らった顔をしたが、すぐ様馬鹿にしたような笑いを浮かべる。

 

「何だテメェ。オレに説教しようってか?オレを誰だと思ってんだ、冒険者ランクDだぞ。それなりの金払ってんだよ。テメェ、見ねぇ顔だが・・・若造、何ランクだよ」

 

成程、師匠が童顔を嫌がった理由がわかった。

こういう時にナメられるからか。

 

「そんなものはどうでもいい。高ランクだろうが低ランクだろうが、守らなくてはいけないマナーは同じだ。はっきり言うが、君達は非常に不衛生だ。わかりやすく言うと、汚くて臭い。ゴミ溜めの如き臭いと汚れだ。そんな身体で湯に浸かるとか正気を疑うんだが」

 

呆れ顔で師匠は男達を見回す。風呂場のあちこちから、そーだそーだ!とか、その兄ちゃんの言う通りだ!とか、帰れこの豚野郎!とか、何か色々援護射撃が飛んでくる。

 

「うるせぇな!外野はすっこんでろ!!!テメェもガタガタ言ってんじゃねぇよ、そこをどきやがへブッ!?」

 

突如、師匠に殴りかかろうとしていた男が吹っ飛んだ。

否、何者かに殴り飛ばされたのだ。

 

「さっきから喧しいぞコラ!風呂は静かにはいるモンだこのド阿呆!」

 

白い湯気の向こうから、筋骨隆々たる巨体が現れる。何だこの筋肉ダルマは。

背丈は多分、師匠より高い。師匠を豹だとするなら、この人は熊だ。

黒い髪はうなじ辺りで一括りにされており、同色の瞳は不機嫌さをありありと滲ませている。

胸から腹にかけて大きな ()()()()()傷があり、顔や身体の厳つさを一層引き立てていた。

 

「お前等さっきから聞いてりゃ、随分とふざけたことほざいてやがるじゃねぇか。ここの風呂はなぁ、俺のお気に入りなんだよ。それをなんだ、んなクソ汚ねぇナリで来やがって。おい、まずはその兄ちゃんの言う通り、汚れを落としてから入ってきな。それが出来ねぇってんなら・・・・・・わかってんだろうな、あ?」

 

熊男の真っ黒な双眼に射抜かれ、男達はウッとたじろぐ。

殴られた男に至っては、気絶したのかひっくり返ったまま大人しい。

 

「どうする?我を通して私達と一戦交えるか、マナーを守って入浴するか、どちらがいいかね?」

 

ザバリと湯船から上がり、師匠は熊男の横に並ぶ。バキ、ボキ、と指を鳴らし、ニンマリと笑みを浮かべながら。

湯船は床より一段低い所にあったから、男達は師匠を見下ろす感じだったが・・・・・・今では師匠が男達を見下ろす番だ。

背の高さと体格の良さに気づいたのか、男達は気絶した仲間を連れてすごすごと風呂場から出て行ってしまった。

 

「出て行ったか・・・・・・まぁいいだろう」

「正直、あんな連中と同じ湯になど浸かりたくはなかったからな」

 

師匠と熊男はふんっと鼻を鳴らして、男達が出て行った方を一瞥し、その後ガシッと握手を交わす。

 

「ご助力、感謝します」

「なぁに、いいってことよ。兄ちゃん、さっきの阿呆共を止めてくれてありがとな。俺はウルス・ラムシュタインってんだ。兄ちゃんは?」

「私の事は、アーチャーと呼んでください」

 

師匠は熊男もとい、ウルスさんに一礼する。ウルスさんはにっかりと笑うと、師匠の背中をパンッと叩いた。

 

「ほぉ、弓兵と名乗るか。その目に自信があると見える。アーチャーとやら、お前さん冒険者か?」

「正確には、冒険者になる予定です。まだギルド登録はしてないもので」

 

叩かれた衝撃に、普通の人ならよろめくか転ぶ筈だ。

しかし師匠はびくともせず、涼しい顔だ。

ギルド登録をまだしていないことを伝えれば、ウルスさんはますます破顔して言った。

 

「そいつはいい!何なら俺が直々にしてやるよ。何せ、俺はここの冒険者ギルドのギルドマスターだからなぁ!」

「・・・それは、運がいい。なら、もう一度浸かりなおしてからお願いします」

「お、いいなぁ。さっきので身体が冷えちまったぜ」

 

何か意気投合してるんだけどこの人達。

というか・・・僕、そろそろのぼせそう・・・・・・あがらなきゃ・・・・・・

 

 

 

 

 

 

~ラピッド視点~

 

おや、ワタクシでよろしいのですか?

今までアーチャー様とラフィール様で務めておられたようですが・・・・・・では、僭越ながらワタクシ、ラピッドめが語らせて頂きたいと思います。

何せ、ラフィール様は湯あたりを起こしてしまいましたからね。

現在、アーチャー様はラフィール様の頭をお膝に乗せて、ウルス様が借りてこられた扇子で扇いでおられます。

 

「のぼせる前に、あがって待ってればよかったんだが・・・・」

 

あがるにあがれない空気だったのでございましょう。

ウルス様はラフィール様より遥かに大きくて、お顔の方も強面でいらっしゃるから。

 

「よう、冷たい水貰ってきてやったぜ」

「すみません、ありがとうございます」

 

ウルス様がコップを持ってこられました。

アーチャー様はラフィール様を抱き起こし、そっと口元に持っていきます。

 

「ほら、ラフィール君。飲めるかね」

「はい・・・・・・大丈夫です」

 

まだ少しくらくらしてらっしゃるようですが、お水を飲むだけの力はあるようで安心しました。

え?ワタクシでございますか?ワタクシはあの程度で湯あたりはしませんので、心配には及びません。

 

「坊主、悪いなぁ。俺がコイツと話し込んじまったから、のぼせちまったんだよな」

 

熊のような巨体を縮めて、ウルス様は申し訳なさそうな顔をしておられます。

 

「いえ・・・僕の方こそ、すみませんでした。師匠の言う通り、のぼせる前にあがるべきでした」

 

お水を飲み終えたコップをウルス様に渡して、ラフィール様はぺこりと頭を下げられました。

 

「もう大丈夫です。動けますから・・・・・・」

 

ああ、そう言った側からよろけておりますよ。

 

「無理はしないでくれ。そうだ、私が運ぼうか」

 

アーチャー様、ラフィール様も男の子なのです。

抱き上げられて運ばれるというのは、恥ずかしいと思うのですが。

そんな心を知ってか知らずか、アーチャー様は抵抗するラフィール様を猫の子を抱くように、その腕で抱えてしまいます。

 

「ほら、暴れるな。君を落としたくはない」

 

・・・・・・無意識とは恐ろしいものです。アーチャー様、それは是非とも女性に言ってあげてくださいね。

妙に色気のある声で囁くように言われ、ラフィール様はビシッと固まってしまわれました。

ふむ、何やらこれはこれで需要があるのでしょうか?

後ろの方で黄色い悲鳴が聞こえるような・・・・・・そこは気にしないでおきましょう。

さて、これからウルス様の案内の元、我々は冒険者ギルドに向かうようです。

今回はここまでということで、皆々様、次回またお会い致しましょう。

 

 

 




な、何とかギリギリセーフ!
本日中に投稿出来たぜヒャッフー!!!
あ、どうも皆様。松虫でっす。
風呂だけの話でした。進んでないですねー、ほんとに。
いやぁ・・・・・・ちょっと口唇炎で非常に苦しんでおりましてね?
あとにゃんこの具合が悪くって・・・ただの風邪みたいでしたけど。
とりあえず次回はいよいよ冒険者ギルド登録です!
皆様体調にお気を付けてくださいねー
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