アブソリュート・デュオ 異例と異能   作:ケツアゴ

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武装錬金キャラ出ます


第一話

「ぐぬっ! 私はこんな所で死んで良い人間ではないっ!」

 

 深夜の沿岸部、船に乗せるのか大量のコンテナが並んだ倉庫街を恰幅の良い中年男性が鈍重な足取りで必死に進んでいた。腹や顎に不必要についた脂肪はドタドタと足を動かす度に揺れ動く。ドーン機関所属の彼は黎明の星紋(ルキフル)の情報を某国に売り渡すべくこの場所に来ていた。だが、取引の最中、邪魔が入る。

 

 

「さて、大人しくして貰おうか。そうすれば幾人かは生きていられるぞ?」

 

 倉庫前でデータと金を交換する寸前、流星のように飛来した男が振るう十文字槍がデータが入ったディスクを破壊、トランクが破壊されて金が周囲に舞う中、文字通りに割れたコンクリートを踏みつけながら大柄の男は挑発するように提案する。当然、これが答えだとばかりに銃弾が飛来して男の頭を撃ち抜いた。

 

「ホウ。まあ予想はしていたが……」

 

「化け物が……」

 

 銃弾は確かに貫通し、脳漿と血が確かに飛び散った。だが、男は平然と立って話し、銃を構えた男達に動揺が走る中、某国からやって来た者達のリーダーらしい男が叱咤する。

 

「慌てるなっ! 一定以上のレベルに至った者の焔牙(ブレイズ)には特殊な力が宿ると資料に有ったはずだ! アレを使って完全に吹き飛ばせ!」

 

 襲撃者から距離を開けながら彼が叫ぶと部下の一人が筒状の荷物を取り出す。誘導ロケット弾、対人使用には過激すぎる武器だが、用心深い彼は上を説得して持ってきていた。そして逃げる様子のない男に逃げられないロケット弾が発射され、爆音と閃光が響いて炎が周囲を照らす。

 

「肉片でも残れば研究に使えるのだが……」

 

 この様子では無理かと言おうとした彼は完全に固まる。ジジジという音と共に爆炎の中心で放電のような現象が起き、槍を構えた男が無傷で立っていた。周囲に一気に広まる恐慌。只の化け物なら武器次第で殺せると己を鼓舞しただろうが、死なない化け物など殺しようがない。

 

「うわぁああああああっ!?」

 

「待て、逃げるなっ!」

 

 一人が逃げるとダムが決壊したかのように一気に崩壊する。数人が固まって同じ方向に逃げ、眼前に立ちふさがった男が十文字槍を振り抜いた。

 

「ぬんっ!」

 

 横に薙払った槍に水平に飛ばされた男達は体を真横にくの字に曲げてコンテナに激突、破壊されたコンテナの内部で赤い肉塊に姿を変えた。

 

「さて、次は……」

 

 蛇に睨まれた蛙とは今の彼らを指すのだろう。逃げなければ死ぬと理解しても体が動かない。只、男から視線を外さずに立ち尽くすしか出来なかった。直ぐに逃げ出したドーン機関の裏切り者の男を除いて……。

 

 

 

「クソッ!」

 

 夜闇にようやく慣れた視界を頼りに、聞こえてくる物音を避けながら逃げ切った彼の前にあったのはコンテナによる行き止まり。思わず悪態をついて引き返そうとした彼の前に王土が現れた。

 

「どうも。粛正部隊です」

 

 浮かべる表情も声も学園とは変わらない。だが、今の彼からは普段の暖かみは感じない、声を聞いても何もない。只、連絡事項を告げるかのように淡々と言い切った。

 

 

「ま、待ってくれっ! 何でもするから見逃して……」

 

「裏切り者を捕縛、または抹殺するのが仕事なので無理です。今回は捕縛命令は受けていませんし、その必要も有りませんから」

 

 嘲りも嗜虐心も彼の声からは感じられない。いや、何一つ感じない返答をした彼は笛を吹く。笛の音は聞こえず、変わりにコンテナの上から黒い影が三つ、裏切り者に飛びかかった。

 

 

 

 

 

「おうおう、相変わらずだな。容赦の欠片もねぇ。まあ、裏切り者には不条理が当然だ。作戦立案やら調査やら良くやったな、テメェ」

 

「では、寮を抜け出して来たのでもう帰りますね。お疲れさまでした、火渡隊長」

 

 獣に食い荒らされた様な死体を眺めながら、赤みが掛かった髪の人相が悪い男が吐き捨てるように告げる。素肌の上にジャケットを着て前面を全開にした彼に王土は丁寧に頭を下げると踵を返した。

 

 

 

「聞いたぜ。女と相部屋になったんだってな。どんな奴だ?」

 

「善人でいるには都合の良い人ですよ。天然や異能も居ますし、学園という環境下で関わるには善人が一番ですからね。迷惑は掛けてないですし、倫理的な問題はないでしょう」

 

 最後まで感情を感じさせない笑顔のまま王土は去っていった。

 

 

 

 

 

 孤独も無力も他者と己の関係性が有ってこそ、他の存在を知らなければどちらも知ることはない。そして、そのどちらも集団の中でこそ鮮明に感じるものだ。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 一周四キロはある学園の敷地を十周するマラソンは毎日の恒例だ。フルマラソンに匹敵する距離にアップダウンの激しい地形、身体能力が超強化されていても容易ではない。特にみやびの様に体力で他人より劣っていた者には。

 

 勉強も運動も苦手で、超えし者としての才能があると判明した時、今までの劣等感が消え失せるほど嬉しかった。だが、待っていたのは残酷な現実。結局、同じ適合者の中で元のまま。全力で追いかけても遠ざかっていく集団の背中に彼女の心は折れ始め……。

 

「大丈夫。足を前に出していれば確実に前に進めます。個人差はあっても、明日の貴女は昨日の貴女よりも先に進んでいるのですよ」

 

 折れる寸前、掛けられた言葉と向けられた笑みに助けられる。俯き掛けていた顔を上げた時、王土は先に進みながら他の生徒を励ましていた。

 

 

「大丈夫、後少しです!」

 

「昨日よりも些か余裕が見られますよ!」

 

「ほら、前を向いて!」

 

 折れそうになった瞬間に、彼の声と言葉、そして正面から見る笑顔に活力が湧き、気力が戻っていく。ゴールに到達した時、多くの生徒が自分に歓声を上げるのであった。

 

 

 尚、何故正面から見れるかというと、特待生は特別ね、と月見からバック走で走るように言い渡され、平然とそれをこなして居るからだ。みやびがゴールした時、王土は十五周、楽土は二十周したにも関わらず息一つ乱していなかった。

 

 

 

「レモンの蜂蜜漬けとミネラル豊富な麦茶ですが要りますか?」

 

「ヤー。有り難く頂きます」

 

 終了後、王土は何処から出したのかタッパーと冷えた麦茶の入った水筒から中身を注いだ紙コップをクラスメートに渡していく。当然、息を切らして座り込んでいるみやびにも差し出された。

 

「穂高さんも宜しければ」

 

「うん。有り難う。……天上君は凄いね。応援してくれたお陰で頑張れる気がする」

 

 頑張れたのは貴方のお陰だと告げる彼女に王土は手を差しだし、みやびは照れながらも手を借りて起き上がった。

 

 

 

「確かに人が影響する場合もあるでしょう。ですが、変わるのも頑張るのも最後は自分です。頑張れたのは貴女が強くなっているからですよ」

 

「そ、そうかな……」

 

 今までなら劣等感や男への苦手意識で素直に言葉を受け入れられなかっただろう。だが、今の彼女は王土の言葉なら信じる事が出来た。彼となら自分を変えられると思っていた。横から威圧感を感じ、思わず視線を向ければ楽土が立っていたのはその時だ。鋭い眼光を一瞬だけみやびに向け、王土に向かって口を開く。

 

 

「あまり着いて来れぬ者に手を出すな。お前の修練と、引き返すことの邪魔になる」

 

 怒りさえ感じる声を弟に向け、用は済んだと去っていくが、みやびはその背中から目が離せず、王土は気まずそうに立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 

 

 

「あの、あまり姉さんを悪く思わないで下さい。あの人、きつい言い方しか出来ませんが悪意はないんです」

 

 二人の部屋、初日にギリギリまで別室で過ごすと王土が提案したが心を許したためか一緒で大丈夫とみやびが主張して共同生活を過ごしている部屋で、お茶を出しながら王土は頭を下げた。

 

「私達が既に機関の所属とは知っていますね? 幼い頃から訓練を受けて、私は諜報部、姉さんは護衛部門に所属していまして。……あっ! 姉さんは凄いんです。卒業後直ぐに最重要クラスの要人の警護を担当する特別選抜隊、通称特選隊で働くことが決まっていまして。……それ故にこの世界が危険だと認識しているので一般人は遠ざけるべきだと主張していまして」

 

「あ、あの、大丈夫です。……でも、で、出来れば代わりにお願いを聞いて貰えませんか?」

 

「……お願い?」

 

 この時、みやびはこの学園に入学をすることを決めた時、そして入学試験で戦うのを決意したとき以上の勇気を出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わ、私と正式な絆双刃(デュオ)になって下さいっ! 天上君となら、私は自分を変えられると思うんですっ!」

 

 本来、男が苦手の彼女がこの様なことを言い出すのはあり得ないが、今までの短い期間で抱いた信頼、そして一欠片の悪意も感じなかった事が踏み出す事へと繋がった。そして週末、最終的な申請の締め切り日が経過し、三年間共に歩む者同士が席を変えて隣り合う。彼ら彼女らの第一歩は此処から始まった。




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