アブソリュート・デュオ 異例と異能   作:ケツアゴ

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原作作品が止まっているからかSSじたいがすくないがお気に入りは増えつつある

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第四話

 東の空から朝日が昇り、大地を光が包んでいく。高層マンションの最上階からコーヒー片手に彼は雲一つ無い空を眺めていた。全裸で。

 

「うーん! 快晴快晴。俺が羽撃く(はばたく)に相応しい空だ」

 

 彼が唯一身に付けているのは蝶の仮面、パピヨンをパピヨンたらしめる物だ。彼はこれを如何なる時も外さない。彼にとってこれは華麗なる変身の象徴、醜い芋虫から誰もが目を奪われる蝶になった証。だからこそ、彼は捨て去った元の名前で呼ばれるのを嫌う。

 

「さてと、今日はどれを着るとしようか」

 

 衣装ダンスに綺麗に並んでいるのは股間に蝶のワンポイントがある変態じみた全身タイツ。蝶の色以外は一切見分けが着かないし、多くの者が着きたくもないと思うだろう。だが、他者の意見など求める彼ではない。自分にとってエレガントで今すぐ舞踏会に出席できると思えれば十分なのだ。

 

 全裸で十分ほどその場で悩み、気に入った一着を手に取る。余程気分が良いのかクネクネと気色悪い動きをしながら隣の部屋に進むと既に朝食の支度がされていた。

 

「さて、注文通りの和食だが……ノン! 夢で中華街に行ったから、今朝の俺は中華な、き・ぶ・ん」

 

 わざわざ作らせた食事に手を着けず、近くのファミレスまで向かおうと玄関に進む。靴を履いて出かけようとした時、パピヨンの視線が写真立てへと向かう。名を捨てる前に家族で撮った唯一の一枚だ。母は居ない。彼の左右に立つ双子の弟妹が生まれた時に死んだ。彼の顔はマジックで塗りつぶされている。芋虫だった自分は居ないという意思の表れだ。

 

 少しだけ、昔を思い出した。

 

 

 

 

 

 

「何故だ! どうして彼奴をあんな部隊に! 兄さんなら他に入れるように出来た筈……」

 

「確かに俺の例の研究を差し出せば他の部隊に入れるな。……だが、ノン! アレは俺だけの物だ。それに彼奴がどういう奴か考えれば何れ他の暗部に回される。俺が一緒なだけマシだろう?」

 

「……もう貴様を兄とは思わん! 私の家族は弟だけだ!」

 

「ああ、結構。今の俺はパピヨン、蝶人パピヨンだ!」

 

 

 

 暫く黙り込んでいたパピヨンは鏡に映った自分の顔を眺め、何時もの笑顔に無理矢理表情を整える。

 

 

「さて、今日も蝶・サイコーに楽しい仕事に行くとしよう。その前に腹拵えをしてからだがな」

 

 尚、非常に変態チックな格好だが、店の人は慣れたのか非常に達観した表情で接客をするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「これは明らかに仕事終わりの一杯だから却下。タバコも経費には入りませんし、使えなくなった服は支給されたユニフォームを着ていないのが悪いから下着以外は却下。この日の焼き肉は……他の部門の方が居たので接待費で落としましょう」

 

「何と言うか……大変ですね」

 

 GW、学生も社会人もサービス業等を除いて休みを満喫する時期だが、王土は理事長の執務室を借りて領収書の整理を行っていた。仕事の関係や隊長のごり押しで粛正部隊は他の部門よりも経費の申告日がズレているのだが、締め切りギリギリになって王土の所に送られてきたらしい。

 

「この程度、肉片残らず吹き飛ばされた挙げ句に全裸で復活する事に比べれば大した事ありませんよ、理事長。それにしても……ふむ」

 

雷神の一撃(ミョルニール)!!』

 

 九十九理事長の方針で裏切り者に扮した月見が優秀な生徒に強襲を掛けたのだが、レベルⅢの彼女をⅠである透流とユリエの二人が返り討ちにしていた。怪我のために未だ意識不明のままだが大金星だ。

 

「アレは資料によると日本の武術の奥義の筈ですが、何故別の名で?」

 

「おや、感想はそれだけですか?」

 

「武術とは極論を言えば効率的な暴力の手段。練度次第ですが、黎明の星紋(ルキフル)でそれが強化されたならスペックで劣っている者でも勝機を得る可能性はありますよ。随分と油断していますし、月見先生」

 

 有能な生徒を逆境で成長させるという任務で襲い掛かった為か情報をペラペラ喋っているのだが、途中から本気で殺しに行って最後は格下に返り討ちにあった月見の姿を見ながら淡々と告げる王土。横に置いていたクッキーに手を伸ばすが別の手が先に数枚掠めとった。

 

「へいへい、悪ぅござんした。でもおかげで死ななかったんだから結果オーライだろ?」

 

 クッキーを口に運びながら月見は何時ものふざけた態度から一転してガラの悪い態度を取っている。実際、こっちが本性だ。

 

「前から思っていましたが、あの究極的に頭の悪そうな口調は油断を誘う為の物ですか? それにしては痛々しい上にあからさまで不思議でして」

 

「おい、此奴殴って良いか? ってか、テメェに言われたくねぇよ。何だよ、普段のアレはよ。1/Fの揺らぎつったか? ワザワザそんなモンが発生するようにしてる上に如何にも善人って態度取りやがって」

 

「必要だからですよ。貴女のアレとは違います」

 

 額に筋を浮かべながら拳を振り上げる月見に対し、王土はしれっと答える。この二人、と言うか月見にとって王土は随分と相性が悪い相手のようで、一方的に鬱憤が溜まっていた。

 

「授業の時は覚えてやがれ、クソ餓鬼。……んで、ワザワザアタシや此奴を呼びだしたのは映像を見せる為だけじゃ無いよな?」

 

「ええ、その通りです。先ずは転校生が来る事、そして『咬竜戦』ですが、天上姉弟が居ますので、ある方の提案で予定を変更する事になりました」

 

「……姉さんが不在の時に知らせるという事は彼が関わっているのですね? あの二人、仲が悪いですから」

 

 差し出された転校生の資料に目を通しながら王土は納得する。姉が知ればそれだけで不機嫌になるのが目に浮かぶようだった。

 

 

 

 

 

「……そう言えば新刃戦の時に天上が使ったブラボー正拳とは一体何なのだろうな。超劣化版と言っていたが……」

 

 お昼過ぎ、食堂でティータイムの最中にガールズトークに花を咲かせていた巴やみやび。話は同級生の話題に移り、不意にそんな疑問が口にされた。

 

「王土君が言うにはエージェントの中でもトップクラスの実力者を持つキャプテンブラボーが編み出した十三のブラボー(アーツ)だって。本名は名字しか知らないけど、子供の頃に鍛えて貰ったって言ってたよ」

 

「ちょっと待て、本名を知らないのか!?」

 

「その方がカッコイイから、って言われたって。理解できないって王土君は言ってたな。それでこの前……」

 

 楽しそうに話をするみやびを見ながら巴はあることに気付く。先程から話題の三割は王土に関する事なのだ。ブラボー正拳についての話題も新刃戦で彼がどうやって支えてくれた云々から発生した話題だ。

 

「み、みやびにとって彼はどんな存在なんだ?」

 

「えっと、側に居たら安心できて、優しく支えてくれる頼れる人……かな?」

 

 途中から照れてしまったのか耳まで真っ赤にし、コップで口元を隠す友人の姿に巴はある事を確信する。自分とは無縁だった為に耐性のない話ではあった為に彼女まで顔を真っ赤にしていたが……。

 

「え、えっとだな……彼の事が好きなのか?」

 

「ふぇっ!? がふっ! げほげほっ!」

 

 不意打ちの質問にアイスティーが変な所に入ったらしく咽せるみやびに巴は自分の考えが正解だったと確信する。なんだか自分の事のように恥ずかしくなって来た。

 

「ま、まあ、良い奴ではあると思うぞ? 実際、クラスで奴を信頼している者は多いしな。この前も数人に勉強を教えていたし、走り方のレクチャーもしていた」

 

「うん、そうだよね。……彼女、居るのかな? あっ!? 別に付き合いたいって訳じゃなくって、只興味が湧いたというか……」

 

「分かった分かった、落ち着け。確かに本人には聞き辛いな。……なら、彼女に聞けば良いのではないか?」

 

 不意に口にしてしまった言葉を誤魔化すように手をバタバタ動かすみやびに対し、慌てる姿を見て逆に落ち着いた巴は提案する。本人には聞けなくても、近しい人物が居るではないか、と。その人物が誰か、直ぐに思い当たった。

 

 

 

 

 

 

「……例のお嬢様が?」

 

 ドーン機関が所有する訓練施設にて動きやすいようにとジャージ姿になっている楽土は差し出された資料を目にしながら不機嫌そうに眉を顰める。猛禽類のような目つきが更に悪くなる中、隣に立つ男はフッと溜め息を吐いた。

 

「学園でもそんな感じでは、折角の学生生活をエンジョイ出来んぞ?」

 

「その様な必要がありますか、防人隊長? 何やら妙な組織も動いているようですし、動き辛いのは面倒なのですが」

 

 敵は全て殺すとでも言いたそうに目つきを更に鋭くした楽土の頭にそっと手が置かれた。

 

「あのなぁ。お前の任務からして学生に溶け込んだ方が都合が良いんだ。分かるな、天上三席?」

 

「……はい」

 

「ブラボーだ! ついでに言うと俺はキャプテンブラボーと呼ばれた方が嬉しい!」

 

「知っています、防人隊長」

 

 三席、三番目の地位という責任ある立場で呼ばれ不承不承ながら返事をする楽土。防人は豪快に笑いながら彼女の頭を撫でていた。

 

 

 

 

 

 

 

「おい、愚弟。私に何か隠しているな? 今すぐ吐け」

 

「ええ、隠していますが吐きません」

 

 GW明け、食堂でみやびと並んで朝食を摂っていた王土は背後から威圧感を感じ、振り向くとトレイを持った楽土が見下ろしていた。ゴゴゴゴッと言う効果音でも聞こえて来そうな姉に対して王土は笑顔を崩さない。何かを隠していると分かったにと同じように、これ以上は無駄だと長いつき合いで理解している楽土は舌打ちの後、隣の席に座った。

 

「邪魔するぞ」

 

「う、うん」

 

 邪魔するなら帰って、等コテコテの返しなど出来るはずもなく、みやびは了承するしかない。暫く無言で重苦しい空気の中の食事が続いたが、不意に楽土が口を開いた。

 

「……新刃戦、見事な成長だった。適正があるだけの落伍者かと思ったが、肉体的には兎も角、向上心には感心させられたぞ」

 

「え? ど、どうも……」

 

 誉められたと理解するのに数秒要したが、劣等感をずっと感じていた彼女にとっては嬉しいことだった。少し怖かったのは秘密である。

 

「……姉さんが他人を誉めた? 特訓中に頭を打ったのなら医者に診て貰った方がががががっ!?」

 

 心底怪訝そうな顔をした弟の顔に姉の指が食い込んでいく。容赦のないアイアンクローに王土が悲鳴を上げる中、楽土は構わずに食事を進めるのであった。

 

 

 

 

 

 

「あんた達が天上姉弟と九重透流ね? 少し興味があるから、ちょっと付き合いなさい」

 

 食事後、HRがあるからと途中で合流した透流とユリエと共に向かう途中のことだった。見慣れない女生徒に話し掛けられ透流が戸惑う中、王土と楽土は彼女に関する情報を思い起こす。

 

 

 リーリス・ブリストル。英国にある姉妹校の生徒であり、実家はドーン機関に出資している財閥の一つ。そして(ライフル)焔刃(ブレイズ)を持つ特別(エクセプション)である。

 

 

 

「今からHRですので。では、失礼します」

 

「話があるなら後にしろ」

 

 取り付く島もないといった感じで先に進む天上姉弟。名指しされた中で残された透流だけは戸惑ったままだ。

 

「……ふーん、仕方ないわね。お姉さんは兎も角、弟は異例って事で許すとして、二度も言わないから着いてきなさい」

 

 結局強引に連れて行かれた先でティータイムに付き合わされたのだが、場面は変わって教室。少々どころではなくざわついていた。

 

 

 

 

 

「変態だ!」

 

「変態よね?」

 

「何で変態が?」

 

「蝶々の妖精さんだぁ」

 

「変態が居るぞ!?」

 

 

 月見の補佐役として三國と交代した男にクラス中は騒然となり、王土は背中に向けられる姉の怒気を感じていた。

 

 

 

 

 

「今日からお前達を指導するパピヨンだ。さあ! 愛を込めて! パピ! ヨン!!」

 

 パピヨンマスクの変態が黒板の前でポーズを取っていた。これを隠していたのかと言いたそうな視線を王土が感じる中、パピヨンの視線が透流の席に向けられる。

 

 

 

 

 

「遅刻者が居るが……俺には関係無いか。さて、早速だがお知らせだ。二年生との交流試合『咬竜戦』は諸々の事情で中止になった。具体的に言うと天上姉弟が強いから。だから俺が新しい行事を開こうじゃないか。名付けて『蝶・上決戦(ちょうじょうけっせん)』。詳細は楽しみにしておいてくれ」




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