アブソリュート・デュオ 異例と異能   作:ケツアゴ

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何とか毎回感想が来るけど、もっと来るように頑張ろう


第五話

「また失敗か。心臓を中心にネクローシスを起こしてしまった。最後まで残った三人の内の一人だから期待していたんだがな……」

 

「取り合えずあっちの方に回すんですか? 質の良い素材が足りないって言っていましたし」

 

 ベッドの上で一人の少年が手足を投げ出し瞬き一つせずにいる。瞳孔は開き切り、口を開け、苦悶の表情で微動だにしない彼は真っ直ぐな性根の持ち主だった。痛いのも苦しいのも嫌いだが、誰かが悲しむのならば我慢する、心の底から断言でき、耐え切る事が出来る、そんな彼はどうしようもない程に死んでいて、研究者の一人は経過観察の資料を眺め、ある程度予想がついていたかのような声で彼に見切りをつける。

 

「主任、それで残った二人への実験はどうしますか?」

 

「どうするも何も、行うしかないだろう? まさか休むとでも言うのか? 我々の悲願であるアレが完成間近なのだぞ?」

 

 今回被験者が死んだ事で及び腰になっている部下に対し、彼は平然と実験の続行を命じる。その姿を幼い双子がジッと見ていた。

 

「また、死んだね……」

 

「だね」

 

 姉は隣に座る弟の手を握り、弟は特に興味がなさそうにしている。死ぬのは生物として当然で、自分たちが死ぬ訳でもないと、そう言えば姉が殴るから言葉を飲み込む。言わずとも伝わったのか軽く小突かれたのだが。

 

「私達も死ぬのかな?」

 

「さあ? 僕達は順調らしいから成功すると思うよ?」

 

「『Ⅴ計画』だっけ? お父さん、私達をどうしてそれに……?」

 

「適性が有ったからじゃない? 僕達である事にそれ以外の理由なんてないと思うよ? 実際他にも沢山居たし」

 

 この日の事を楽土は覚えている。共に遊び、共に育った者達の最後の一人が死んだからだ。

 

 この日の事を王土も覚えている。彼自身に特に向ける感情はないが、忘れない程度の記憶力を持ち合わせているからだ。

 

 

 この数年後、二人は実験から解放される。数多くの犠牲者を出した計画のたった二人の成功例として生き残った。

 

 

 

 

「みやびさん、明日ご予定有りますか? 良ければ一緒に行きたい所が有るのですが」

 

 休日を明日に控えた日の夕食時、何時もの様にやや控えめな食事を摂っていたみやびの手が止まる。隣に座っている巴は恋愛事に耐性がないので自分の事の様に真っ赤になっており、みやび当人は更に真っ赤だ。

 

 男子高校生が女子高校生に休日の予定を訊ね、一緒に出掛けたいと告げる。誰がどう聞いてもデートのお誘いで、みやびは直ぐに声が出なかった。

 

「……ほぇ? えっ、えぇえええええっ!?」

 

「あー、急な話でしたね。では、次の機会に……」

 

「い、行くっ! 行きたいですっ! ……あっ」

 

 残念そうに諦めた様子の王土の姿に反射的に大声が出たみやびは直ぐに今いる場所がどこで時間帯が何時かを思い出す。今居るのは夕食時の食堂で、当然のように生徒でごった返している。視線が集まるのは当然だった。

 

「……あの、それってデートのお誘いって事で良いんだよね?」

 

「え?」

 

「え?」

 

 何か勘違いをしていた。この場の全員がそれを悟った瞬間であった。

 

 

 

 

 

「昨日は何と言うか誤解させてしまって申し訳ないです。お詫びに夕食をご馳走しますよ」

 

「あ、あの、それって……」

 

 翌日、朝食を摂る間もなく乗り込んだヘリの中、用意されたパゲットサンドと牛乳を中心とした朝食を摂りつつ王土とみやびは談笑をしていた。ディナーのお誘いにデートではと昨日の様に真っ赤になって俯くみやびだが嬉しいとも感じている。もしかしたら女性としての好意を向けられているのかもと脳裏に浮かび、照れくささから顔を左右に振った時、運転席から声が聞こえてきた。

 

 

「二人共、ストロベリートークはそこまでだ。ちゃんと気を引き締めておけよ?」

 

 ヘリを運転するパピヨンは二人をからかう様な口調でそう告げる。二人が向かっているのはドーン機関所有の訓練施設。新人エージェントの基礎訓練や怪我などでブランクがあるベテランのリハビリに使われており、エージェントとして既に働いている王土は兎も角、新人未満のみやびが本来利用できる場所ではない。

 

 

「パピヨンさんが責任者で助かりました。トレーナーの方は私の知り合いですし、この機会に自主練のメニューを専門家に作って貰いましょう」

 

 強くなると決意したみやびだが、元々は運動音痴の一般人。スポーツ学に詳しい訳でもなく、王土も専門的な知識は基礎に止まっている。故にこの日は専門家の力を借りようとしていた。

 

 

 

 

「あの人、服装のセンスは悪いけど知能も戦闘力も高いのですよ」

 

「う、うん。あの服装はビックリだよね」

 

 話を通し、更にはヘリに乗せて貰うなどお世話になっているのだから変態ぽいとは口が裂けてもいえないみやび。すぐ其処に居るのもあって言葉を選ぶ。

 

 

 

 

 

 

「姉さんもあの服のセンスは最悪だって言っていますよ。……仮面だけならお洒落だとは二人共認めていますけど」

 

「……ごめん、幻聴かな? あの仮面がお洒落って言った?」

 

「ええ、言いました。だって凄く格好いいじゃないですか、アレ」

 

 どんな相手であっても絶対に分かり合えない事はあるのだと、そう学んだ少女は少し大人になり、ヘリは訓練施設に到着した。

 

 

「あら、貴女は入学試験の……」

 

 大海原に存在する巨大な人工島に建設された六角形の建築物の中央がヘリポートになっており、一人の女性が三人を出迎えるが、初対面の筈なのにみやびを知っているような口振りで、彼女も既視感を感じていた。だが、思い出せない。本人ではなく、よく似た人物を知っている、そんな感覚だ。

 

「お久しぶりです、千歳さん。あっ、紹介しますね。彼女は私の絆双刃(デュオ)の穂高みやびさんです。みやびさん、この方がトレーナーの楯山千歳(たてやま ちとせ)さんです。もう会っているようですね」

 

「あっ! で、でも、もっと若くて……」

 

 この時、漸く思い出す。資格の儀でみやびと入学資格を巡って戦い、途中で逃げ出した少女、その彼女にそっくりだった。だが、思い出せないのも無理はない。目の前の千歳は二十代後半の知的な女性であり、少し気弱に見えた少女とは違うからだ。

 

 

焔牙(ブレイズ)位階(レベル)をⅣ以上になると特殊な力を使えるようになるって授業じゃまだ習ってないかしら? 詳細はコミックス十巻のオマケページ……じゃなくって省かせてもらうけど、その能力を使って人数が奇数になるように調整してたってわけ。ある程度見れば勝敗の予想もつくのよ。能力と言えばパピヨン、貴方の……」

 

「おい、メタ発言は其処までにしろ。俺は研究が残っているから忙しいんだ。先に行かせて貰うぞ」

 

 どうやら話に付き合う気はないらしくパピヨンは三人を置いて先に進んでいく。素っ気ない態度に千歳は肩を竦めるとみやびの肩に軽く触れた。

 

「じゃあ、早速貴女の今の能力を計らせて貰うわね。先ずは水泳から行きましょう」

 

「は、はい!」

 

「では、私は……」

 

 久々に来たから軽く汗を流そうと言おうとした時、王土の襟首が乱暴に掴まれる。その掴んだ相手の凶悪な顔に思わずみやびは怯える。それ程までに凶悪な顔であった。

 

「あん? 初対面の相手に対して挨拶じゃねぇか、テメェ」

 

「火渡さん、その辺で……」

 

「あっ? テメェ、俺に意見しようってのか? おら、ちょいと模擬戦闘付き合え。使えそうな新人が居ねぇか見に来たんだがカスばっかりで苛ついてんだ。どいつもこいつも使えねぇ。ありゃその内死ぬが、不条理な世界だ、仕方ねぇ」

 

 王土を片手で持ち上げると火渡は文句を言う暇もなく言いたいことを言い切って連れて行く。まるで突発的な災害の様な男の登場に面食らっていたみやび。千歳は遠ざかっていく火渡の背中に視線を向けながら呆れた様子で頭を押さえている。

 

 

「……彼は荒事専門の部隊の隊長だし、火渡って名前だけ覚えていれば構わないわ。じゃあ、行く前に聞いておきたいのだけど、順調に時間をかけて強くなるノーマルコースか、挫折の危険もあるけど短期間で一気に強くなるハードコース、どちらが良いかしら?」

 

 試されている、千歳の瞳を見たみやびはそう思った。適当な、もしくは取り繕った理由で選べばどの様な判断を下されるか、何となく理解させられたみやびの脳裏を過ぎったのは王土が言ってくれた自分を信じるという言葉と、新刃戦で巴を圧倒した時の力。

 

 絆双刃(デュオ)として邪魔にならないように……いや、胸を張って隣に立ちたいと、そう思った。

 

 

 

 

「ハードコースをお願いします。私は今、強くなれるだけ強くなりたいんです」

 

「……あの子の隣に居るのは大変よ? 姉弟揃って上にいる人間の結構な人数に嫌われてるもの。でも、決めたのなら私が貴女を強くしてあげる。貴女が最後まで信念を貫けたなら本物に成れるようにね」

 

 想いを見透かされたと理解し、真っ赤になるみやび。千歳はそんな彼女を見て楽しそうに笑っていた。

 

 

(若いって良いわね)

 

 後でこの感想の内容が自分がもう若くないと言っているのと同じだと気付き、落ち込むのは余談である……。

 

 

 

 

 

 

 

 激流を思わせる水流のプールを必死で泳いでいる男や、数百キロのバーベルを使ってバーベルスクワットをしている女など、最低でも学園を卒業する力は有る目覚めし者(イクシード)といった所だが、その光景を見る火渡の視線は厳しい。評価に値しないと言いたそうだ。

 

 

「……おい、テメェが利用しているあの女は使えるのか?」

 

「卒業は可能じゃないですか? 競技経験も格闘経験も特にない一般人ですから問題は多いですが、妥協している他の生徒達よりはマシかと。火渡隊長の聞きたい事なら否ですね。自信を持ちたくて入学したそうですし、汚れ仕事向きじゃないですよ。……それで、()()は使っても?」

 

「却下に決まってんだろ、ボケ。……テメェの元お仲間が数体居なくなった。所詮は失敗作だが留意しておけ」

 

火渡の言葉に対して王土は僅かに眉を動かすが、殆ど動揺していなかった。

 




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