βテスターと新規プレイヤーとの確執に気を払うキリトであったが。
2022年12月2日
「……へぇ、キリト、お前って結構ナンパなんd」
「違うぞ、ダンジョンで倒れてたのを助けてだな」
「………………」
一層迷宮区を昨日と同じように探索していたら、灰色フードの女の子とエンカウント。そのまま失神した彼女を寝袋を利用して迷宮区外の安地まで移送。色々戦術の事や攻略会議、……あとクリームパンの件で話はしたが、それだけでナンパ扱いされるとは。だが、実際対人対話スキル激低ゲー廃の俺がこの二日にわたって、しかも女の子と会話しているこの現実がナンパ扱いされる要因だよな、と脳内ハードウェアの片隅で考える。
実際隣のフードの少女からの刺さるような視線が痛い。
「と、とにかく。一層ボス攻略会議は、そこの広場で開かれるから。あと、五分も無いから急ごう」
***
このデスゲームが開始されたのは先月の事だった。
全プレイヤー約二万人が一層はじまりの街中央広場に集められ、このゲームの生みの親、茅場晶彦を名乗る虚ろなアバターからSAO正式サービスの実態が告げられた。
SAOからの自発的ログアウトは不可能。
脱出するにはアインクラッド全百層のボスを倒しグランドクリアすること。
プレイヤーのHPが0になった瞬間、現実世界でプレイヤーが装着するVRマシンナーヴギアから発せられる高出力マイクロウェーブが装着者の脳を焼く。つまり────現実世界のプレイヤー自身が死亡する事を突きつけた。
『……以上で《ソードアート・オンライン》正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君の────健闘を祈る』
そこからの恐慌は悲惨の一言で済むものではなかった。
泣き叫び、怒号が飛び、互いに罵り合い、中には発狂して狂ったように剣を振り回す者もいた。
自身の身に起きた不幸に絶望して、または仮想世界から脱出できる一縷の望みを抱いて浮遊城から身を投げた者もいた。
現実世界への生還を諦め、日々を無為に過ごそうと決めた者もいた。
帰還するため、フィールドに出たものの、知識の無さから、または跋扈する怪物への恐怖で蹂躙され命を散らす者もいた。
一ヶ月にわたる一層攻略の過程で二千人近く、全プレイヤーの十パーセントが死亡するという犠牲を払いながらも、一層ボス攻略一歩手前までたどり着いた。
***
「オレの名前はディアベル。職業は気持ち的にナイトやってます!」
トールバーナ中央の古代ギリシア風円形舞台。そこが会議場として選ばれた。舞台に上がり、四十人近いプレイヤーの視線を受けるそのブルーの髪が特徴の男は遠目でも目立つ二枚目である。
「一ヶ月。ここまで一ヶ月もかかったけど……それでもオレたちは示さなきゃならない。ボスを倒し、第二層に到達して、このデスゲームそのものもいつかクリアできるんだってことを、はじまりの街で待ってるみんなに伝えなきゃならない。それが今この場所にいるオレたちトッププレイヤーの義務なんだ! そうだろ、みんな!」
ディアベルと名乗った男が演説し、それに多くのプレイヤーたちが賞賛の拍手や喝采が飛ぶ。そんな光景を見ながら私はどこか冷めた感じでそれを俯瞰していた。
今こうやって行動している連中はともかく、自ら停滞を選んだ連中がこの先前線に出てくるとは考えにくい。無論ハイペースで攻略が進めばその空気も変わるだろうが、現状今現在の自身の命と脱出を天秤にかけるプレイヤーは多くはならないだろう。
―――じゃあ、どうして私は友達の誘いを受けてはじまりの街を飛び出したんだっけ、と十一月六日の出来事を思い出そうとして。
「ちょお待ってんか、ナイトはん」
そこに割り込む低い声。視線を振ると、中列の辺りから立ち上がる人影が見えた。黄色いモーニングスターを連想させる特徴的な髪型に鱗のような鎧を着込んだプレイヤーは一メートルと三十センチはある舞台に一息で飛び移りディアベルと向き合う。
「なんにせよ 意見してくれるのは大賛成さ。でもその前に名前ぐらい聞かせてほしいな」
「フンっ、ワイはキバオウっちゅうモンや。こん会議が始まる前に詫び入れなアカン連中が居るはずや」
「詫び? だれにだい?」
「決まっとるやろ!」
キバオウは憤怒の表情で観客席に座るプレイヤー全員に向けて叫んだ。
「こんクソゲームが始まってスグ、ビギナーたちを見捨ててジブンの保身に走ったβテスター共のことや!」
***
キバオウと名乗ったプレイヤーの弾劾は容赦なく俺に突き刺さった。レクチャーしてくれ、と頼んできてその日のうちに別れる事になった初心者プレイヤー、クラインの事が脳裏をよぎる。
確かに自分を含むβテスト経験者は二ヶ月前に経験した”ソードアート・オンライン・クローズド・βテスト”のおかげで新参者に対して圧倒的な知識とプレイヤースキルというアドバンテージを得た。それを最大限活用し、スタートダッシュを成功させたおかげで現在攻略集団の中でもトップクラスの戦闘力、すなわち生存能力を有している。
そしてそれは、スタートダッシュができないクラインたち新規プレイヤーの犠牲の上に成り立っている。
「────テスター共には今まで貯めてきたカネとアイテムと情報、ゼンブ吐き出してもらわな、ワイは背中を預けられへんし、預かれん!」
キバオウの傍若無人ともいえる要求に、確かに一定の理解はできる。だが、βテスターだからといって、安全にここまでこれた訳ではない、と反発する自分もいた。
全プレイヤー中、十パーセントにあたる死亡者二千人の内、βテスト経験者と思われるプレイヤーの数は約九百人。βテスト最終日の接続数が二千人中千八百人であった故に元テスターの推定死亡率は五十パーセントという高い比率である。
犠牲無くテスターが強くなれたわけでは無いと、声を大にして反論したい。が、事実彼ら非テスターのリソースを奪ったのは自分たちである。ボス戦を前に、プレイヤー間での対立をここで浮き彫りにしてしまうわけにもいかず、黙るという選択肢しかないと。
「くだらない。そんなことしなきゃ一緒に戦えないって?」
声の主は赤いジャケットの、レイのものだった。
***
「…………今言うた奴は、―――オマエさんか?」
キバオウ含め、プレイヤーの視線が集まる。
階段を降り、ステージの上に上がる。キバオウは爆発寸前、ディアベルは張り詰めた表情でこちらを見る。
「キミ、名前は?」
「レイ」
「…………そんなこと、って言うたな?そんなことですまへんねん!」
堰を切ったがごとくキバオウの口から怒りに満ちた言葉が繰り出される。
「ええか、死んだ二千人のプレイヤーはただの二千人とちゃうねん。他のタイトルでトップ走ってたベテランばっかや。テスターの連中ががめずに情報やらアイテムやら分けとったら今頃もっと上の階層に進めとったんや!」
「だからさ、その理論自体が甘いんだよ」
なんやと! と、掴み掛かろうとしたキバオウの手を、重心の移動を利用して簡単にいなす。地面に突っ伏す形になったキバオウに私は告げる。
「これはゲームであっても、遊びではない、って黒幕が言っていただろ。そんなお情け友情ごっこで生き残れると思うか?」
「な、なんやて……?」
「そのテスターって呼ばれる連中も生き残るために自分にできる事をしたんだろ。死ぬものかと努力しただけなのに、死んだ連中への侘びをしろだの、アイテムを寄越せ、って、大概ふざけているよ」
「…………ふざけとる、って? アンタは死んだ連中に何も思わんのか!?」
「単に運が無かったか、でしゃばって勝手に死んだんだろ?」
「二人ともいい加減にしろ!」
テメェなめてんのか!、と再度殴りかかってくるキバオウをとめようとディアベルが間に入ろうとしたところに。
第三者の介入がなされた。
「そこまでだ、キバオウさんもレイも一旦落ち着こうか」
バリトンの落ち着いたボイスとチョコレート色の肌を持つスキンヘッドの巨漢だった。私とキバオウの間に壁の如く立ち、ヒートアップしていた舌戦を遮る。
「俺の名前はエギルだ。キバオウさん、つまりあんたが言いたい事は元ベータテスターが面倒を見なかったから、多くのビギナーが死んだ。その事に対して謝罪と賠償を要求する、ってことか?」
「そうや!それやのにコイツは死んだ連中に侘びどころか!」
「落ち着けって。確かにアンタの言い分も理解できるさ。だが、アイテムはともかくテスター達から情報なら手に入れることはできたんじゃないか?」
なんやて、と舌鋒を一旦止めるキバオウ。エギルはそのまま続ける。
曰く、自分が次の村、街に着いた時には攻略本が道具屋で無料委託販売されていた事。
曰く、ビギナーが到着する前に委託販売できるのは情報を持つβテスターのみである事。
そして、ベテランたちが死んだ原因として他タイトルと同じものさしで判断した故に撤退するタイミングを見誤った事。
乱闘一歩手前だった場の空気が、彼の論理的で冷静な意見に全員クールダウンしたらしい。
ディアベルが引き継ぎ、夕陽に照らされ紫へと変えつつある髪を揺らし口を開いた。
「キバオウさん、あんたの言い分もよくわかる。それとレイ。君の合理的な意見も一定の理解はできるさ。でも、今必要なのはボスを死亡者ゼロで攻略することだ。βテスターが命懸けで集めてくれた情報があるからこそ、そしてみんなの協力があったからこそオレたちはここまで来れたと思う。今ここで彼らを排除して攻略失敗したらそれこそ本末転倒だ。そうだろ、みんな!」
一応の着地点が見出され、私もキバオウもひとまずお互い引く事になった。
中断していた会議が再開され、私は元いた席に戻った。
「(なんであんな無茶したんだ!)」
キリトだった。青ざめた顔はおそらく本気で私のことを心配していたのだろう。
「(エギルとディアベルが間に入らなかったらリンチされていてもおかしくなかったんだぞ!)」
「…………ごめん。でも我慢できなくてね」
「我慢って、……アンタはテスターとか関係ないだろ……。なのになんで?」
「別にテスターを守るためとかじゃない。ただ、死んだヤツに謝ったところで生き返るわけでもない。自分が生き残るのに精一杯なのに他人に譲渡しろっていう無責任な言葉に腹が立ったの」
友人の受け売りだけどね、と苦笑する。キリトは一拍置いてから聞いてきた。
────友人はどうしたんだ?
「…………死んだよ。最初の日にね」
***
その後の会議、攻略準備は順調に進んだ。
ボス部屋をディアベル隊が発見し、また攻略本第一層ボス攻略編が発行され、現時点の攻略集団のレベルなら死者ゼロで攻略可能と判断されレイドが組まれることとなった。
そこまでは良い。良かったのだが。
A、B、C隊 高火力アタッカー部隊
D、E隊 重装甲タンク部隊
F、G隊 支援ポールウェポン部隊
H隊 混成遊撃隊
編成も問題は無いだろう。溢れた俺がボスの取り巻き潰しの遊撃隊に回されたが、目立ちたくない俺としては願ったり叶ったりだ。
……問題はそのメンバーだ。
H隊 隊長キリト、アスナ、レイ、キバオウ。
「いや、駄目だろコレ」
なんでや!!なんでワイがおミソパーティーに入れられとるんや!!
どうも、野澤瀬名です。筆が進んでくれたおかげで第2話無事に投稿できました。
また、1話読んでいただいた読者の皆様にこの場で感謝の言葉を。本当にありがとうございます。
原作に沿ってと言ったな、あれは嘘だ。と言わんばかりの変更点の数々。特にキバオウの所属部隊変更は皆さんびっくりしていると思います。
(ストーリーの都合上)攻略組の中でも問題児になっちゃったレイとキバオウさん。一応彼らの確執やテスター出身のキリトやディアベルの動向も書いていくので楽しみにしていてください。(尚レイとキバオウがくっつくルートはございません)
次回投稿もまた未定です。調子がよければこのペースを維持したいけどやっぱり趣味でやってる事ですので自分の本業優先で続けていこうと思います。
では今回はこの辺りで読者の皆様に感謝しつつ、筆を置かせていただきます。
アスナが空気だったけど次からちゃんと出すから!