零の刃 Sword Arts Online   作:野澤瀬名

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第一層ボス攻略戦、開始


Act.04 死闘

 第一層ボス攻略戦。

 この初のフロアボス攻略には大きな意味が二つある。

 一つは一ヶ月にわたり停滞していた前線を第二層へと押し上げる事。

 そしてもう一つが、未だはじまりの街で躊躇している半数以上のプレイヤーたちに対してSAO攻略が無謀なものでは無いと証明する事である。

 これからの戦いでは今まで以上に激しい戦闘が予想される。

 だが、オレは宣言する。このボス攻略レイド四十三名全員で、次の第二層主街区の地を踏む事を。

 ────みんな、勝とうぜ!

 

 ────2022年12月4日 第一層トールバーナにて

 

 

 

 ***

 

 

 

「────スイッチッ!!」

 

 巨大な骨斧を大型ヒーターシールドで抑え、その隙に長剣装備のA隊数名による攻撃を敢行する。A隊に対する追撃にはシールドと重装鎧を着込んだD隊がカバーに入り、攻撃を終えたメンバーは再度間隙が出来るのを待つ。

 攻略指揮官ディアベルの立てた作戦は、シンプルながらも隙のない堅実なものであった。

 一層ボスモンスター"イルファング・ザ・コボルドロード"とその取り巻きたる"ルインコボルド・センチネル"を相手に既に三十分。取り巻き四体の処理はアタッカー部隊のC隊とおミソのH隊による分断が成功し、本隊がイルファングとの戦闘に専念できる状況を作り出した。

 既にボスのHPゲージは四本のうち三本目に突入。五分に四体ずつ出現するセンチネルは二隊のみで処理できている。いや、実際にはキリト率いるH隊のみで四体を相手にできているため十分ほど前からC隊を本隊に合流させた。

 

「おい、トゲ頭! 次の雑魚出るまで一分だ!」

「うるっさい、わーっとるわ! スイッチ!」

 

 キバオウが弾き飛ばしたポールアームをくぐり、曲刀二連撃スキル"クロッシング・エッジ"でコボルドの両腰―――胴部分で唯一露出している弱点、を斬りはらう。ひるむセンチネルに追撃で素早く刀を首筋へと奔らせる。血の変わりに赤いライトエフェクトをこぼして倒れ伏す―――途中で爆散。無数のポリゴン片へと転じさせた。

 

「次!」

「ワイに指示すな!」

 

 

 

 ***

 

 

 

「あの二人は・・・・・・・・・」

「ああだけど、大丈夫そうだ。俺たちも次行くぞ!」

 

 俺の視界端にオプションで設定しておいた五分タイマーが、『00:00:00』を示し『05:00:00』に戻ると同時に四体同時にセンチネルが最湧出する。アニールブレードの耐久値を確認すると、内二体のセンチネルに吶喊する。

 勿論、二体を一度に相手取る事は流石にできない。故に一直線上にセンチネルがくるように誘導し、擬似的ではあるが一対一の状況を作り出す。振り下ろされるポールアームを"ソニック・リープ"で相殺する。

 

「スイッチ!」

 

 アスナと前衛を交代し、彼女の"リニアー"がセンチネルの喉元を突き、後ろのセンチネル諸共吹っ飛ばした。

 覚えたソードスキルは突き技の"リニアー"一つ。だが、システムアシストに頼っただけの剣技ではない。自ら意識的にブーストした動きだ。故に速く、正確、そして鋭い。センスは俺と同等かそれ以上か。

 

 

 

「次!右の奴をヤる!」

 

 

 

 だが、それ以上に驚かせるのはレイの戦闘スキルの高さである。速さや正確性だけでない。敵の攻撃リズムや位置取り、そしてキバオウの攻撃タイミング等戦場における要因を把握したかの如き動きを見せる。

 実際数合打ち合っただけでセンチネルの攻撃パターンは掴んだらしく既に自らパリィして攻撃し、キバオウに追撃させるなどと、正直撃破ペースは俺とアスナを上回るかもしれない。

 

 センチネル二体をアスナとレイがそれぞれ相手にしている内に本隊の様子も確認する。

 ディアベルの的確な指示の元、戦闘は予定通りに進んでいるらしく既に三本目のHPゲージを喪失。四本目へと到達しようとしていた。

 

「キリトくん! スイッチいくよ!」

 

 アスナが、レイピアの強振で体勢を崩した隙に、容赦なくソードスキル"ホリゾンタル"で斬り裂く。

 

 ―――いける。このまま押し切れる!

 

 

 だが、胸の中に残る言いようのない恐怖は消えなかった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 前線で歓声が上がる。どうやらボスのHPゲージが四本目に入ったらしい。イルファングはここからモーションを変更し、骨斧とラウンドシールドによる高威力の横薙ぎ攻撃からタルワールによる高速の縦斬り主体のモーションへと変化する。

 所謂初見殺しだが、事前に示し合わせておいた通りディアベルは散開して取り囲むように指示する。

 

「よっしゃ、あと一息や! おい、小僧共、最後まで気張って……」

 

 

 

 俺とキバオウの傍を紅い疾風が駆け抜けた。ソレがレイのモノであると理解した時既に十数メートルの距離が開いていた。

 

「レイ!? どうして!」

「────な、おい、小娘!どこいくねん!?」

 

 

 

 ────この程度か。

 

 センチネルと呼ばれる怪物と数合打ち合った私の感想だった。振り上げられた長物は威力こそあれど速度、精度、使用タイミングと全てにおいて及第点以下だ。

 少し隙を見せるだけで襲いかかってきてくれる為、正直欠伸が出るほど退屈である。

 振り下ろされた斧を最低限の動きで躱し、右手の刀で怪物の肘の辺り────鎧同士の結束点で、弱点の一つである、を遠心力を利用して斬りつける。

 カツン、という音と共に右腕を断ち斬り、返す刀でガラ空きの背中に一撃見舞う。ヨロヨロと前かがみになった所を一昨日学んだソードスキル、"リーパー"でとどめを刺す。コレで十二体目。

 怪物の出現も一時止まったようで一旦小休止をとる。

 刀の耐久(この世界ではアイテムは耐久値ゼロになるといきなり木っ端微塵に壊れてしまう為、こまめに見ていなくてはならない)を確認し、ついでに親玉と戦う本隊の様子を。

 

 

 

 ────違う。あれは。

 

 

 

 感じた瞬間走り出していた。後ろからキリトとトゲ頭の制止する声が飛んでくるが、無視して疾走する。

 

 事前の会議ではβテスト経験者の情報から湾刀、タルワールを使うと周知されていた。攻撃パターンは主に縦方向の斬撃で、故に包囲陣を敷き全方向からの同時攻撃という手段をディアベルは取った。

 だが、あの得物は違う。鋳造ではなく、鉄を打って鍛えた鋼の輝き。

 緩く反りを描き、人を斬る事に特化した造形。

 そして、特徴的な拵は東洋の有名な斬撃武器のものである。

 

「────駄目だ!全員後ろに跳べッ!」

 

 後方からキリトの警告が耳に入ると同時に。

 私の目の前を赤い旋風が薙いだ。

 

 

 

 この時、イルファングが振り回した得物は大太刀────または野太刀ともいう室町から安土桃山時代に野戦で使われた大型の刀剣である。史実ではその頑強さとリーチを生かして頭部を打ち据えて気絶を狙ったり、騎馬の足を狙って行動不能または落馬を狙う武器だったが、このSAOでは純粋な、そして強力なカタナスキルに属する斬撃武器として実装していた。

 使用したソードスキルはカタナスキル、全方位範囲技"旋車(つむじぐるま)"。水平方向360°に対する範囲攻撃であり、ただそれ故に防御体勢をとる、距離を置く等の立ち回りで対処されやすい隙が大きい攻撃である。

 不幸だったのが、事前情報を信じ切ってアタッカーA隊、ディフェンスD隊がイルファングをぐるりと包囲しており、一度に十二人にこの攻撃がヒットした事。

 攻略が順調に進んでいた為、メンバーの殆どが何かしら慢心していた事。

 そして最も不幸だったのが、攻撃に巻き込まれた中にA隊リーダー兼レイド指揮官であるディアベルが居た事であった。

 

 イルファングの周囲に十二人のプレイヤーが転がる。無防備な体勢でクリティカルヒットした為に全員スタン状態が付与されている。

 予想外の事態に、本隊の誰もが対応する事が出来ず、────イルファングの技後硬直が終了した。

 

 怪物の唸りと共に、手に持った野太刀が凶悪な光を発しソードスキルが放たれる。カタナスキル、単発技"浮舟(うきふね)"。無慈悲な一撃はイルファング正面に倒れていたプレイヤー、────レイド指揮官であるディアベルに直撃した。

 

 この浮舟は出が速く、硬直が少ない為、スキルコンボの開始技である。

 空中で錐を揉むディアベルに向けて、追撃の三連撃技、"緋扇"の初撃が────。

 

 

 

 「────シッ、アッ!」

 

 敏捷値にステータスを多く振っていたお陰か、最後の数メートルを跳躍し、カタナの前に割り込む形で放った"リーパー"が間に合った。そのまま押し返そうと

 

(────!? 重い!)

 

 どうにか相殺する事は叶ったが。金属バットを地面に叩きつけた時のような鈍痛が右肘に走る。

 敏捷値にステータスを振った分、筋力ステータスはキリトやディアベルと比べると若干劣る。故に彼らならどうにか相殺しきれたのだが、イルファングの一撃目の勢いを殺した程度で、続く二撃目が迫る。

 空中で体勢を崩し、ソードスキルの技後硬直を科せられた私に対して、地に足つけて技を出したイルファングとでは彼我の優位は明らかだ。

 攻撃を防がれた怒りか、凄まじい唸り声と共に振り下ろすカタナを私は見つめることしかできない。

 

 「「────────セアッ!!」」

 

 薄緑と赤の閃光が迎え撃った。再度の相殺、且つ2人分の突進技を受けたイルファングは後方へと倒れ込む。

 

 「お前ら……!」

 「説教は後だ、レイ! イルファングの技は見切れるか?」

 「……防ぐだけなら。攻撃には転じられないけど」

 「十分だ。俺とレイで技を潰す! アスナは隙を見てリニアーを!」

 「分かった!」

 

 イルファングの転倒状態が終了し、巨体を起こした。私たちがそれに吶喊し、キリトが未だ混乱にあるレイド全員へと指示を出す。

 

 「ダメ貰った連中は後方待機! 継戦可能な奴はそいつらの援護に! ボスを囲まなければ範囲技は来ない!」

 

 極度の混乱状態にも拘らず、全体に指示が通ったのは奇跡だった。A隊が、────吹っ飛んでダウンしたディアベルは二人のレイドメンバーに両肩を担がれながら壁際まで退避した、後退を始め、残るレイドメンバーが護衛する。イルファングが吠え、その巨躯が突進してくる。

 

 「行かせるか!」

 

 迫るイルファングの刃をキリトと私とで全力で迎撃し、アスナがレイピアで懐にリニアーの一撃を加える。

 ようやく一ドット程削れたHPゲージ。長い攻略戦の最後の戦いが始まった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 足が竦んでしまった。

 本隊のメンバーが、そして攻略指揮官たるディアベルが吹き飛ばされる光景を見て、次はワイの番や、と死を想起してしまった。

 同じ隊の三人が、イルファングの面前へと走り出ても、キリトの声を大にした指示に健在なレイドメンバーが従い動くのを見ても尚、キバオウは戦意を取り戻せずにいた。

 

 「────、うグッ!?」

 

 衝撃を負い、床を転がるキバオウ。下腹部に違和感がある。見れば血のように真っ赤なライトエフェクトが、横一文字に刻まれている。

 

 「や、やめろ……!」

 

 傷を負わせた張本人、センチネルが得物を掲げて迫る。見れば、時間経過でリポップした分も含め、今やセンチネルの数は六体にも増えていた。内四体は前線部隊にターゲティングしたらしいが、残り二体が一人本隊から離れていたキバオウに襲いかかった。

 一体一であればキバオウも相対できたが、二体同時となると、また一度戦意の萎えた今では防戦すらままならない。

 

 「クソっ! クソっ! クソッタレが!」

 

 震える足をひっぱたき、何とか剣を構えるも、振るわれる長物をどうにか弾く、または避けるしかできず、徐々に壁際まで追い詰められる。

 

(ま、まだ、死にたくないっ! ワイは帰るんや、生きてもう一度……)

 

 ────もう一度、何をする?

 

 元々、強面の容貌から現実での親友と呼べる友人も居らず、日中は土木関係の仕事をこなし、趣味はゲームとネットサーフィンというロクデナシの自分が、現実世界に戻ったところで。

 哀しむ親ももう天国に旅立ち、独り身の自分が帰ったところで。

 SAO事件に巻き込まれた不幸な二万人の一人として全国ネットに載るだけである。

 

 ワイは────どうせ、一人や。

 

 

 

 「────ウォラアアアア!!」

 

 横薙ぎのソードスキルが振るわれ、人影が宙を舞う。

 

 

 

 ただし、────その数は二つである。

 

 「立てるか、キバオウさん!」

 「アンタ……」

 

 差し出された手の持ち主は、スキンヘッドの巨漢、エギルと名乗った色黒の両手斧使いだった。

 

 「アイツらだけじゃ前衛が崩れちまう! 一緒にカバーに入るぞ!」

 「……なんで」

 

 ボスの元へ走ろうとする彼に、思わず問いかけてしまう。今にも自分より若い命が散るかもしれないその時に、余りにも場違いな質問。

 だが、エギルは向き直るとハッキリと、目を見て告げた。

 

 「決まってるだろ、仲間だからだ!」

 

 

 

 行こうぜ、と再び差し出された手を。

 

 

 

 ***

 

 

 

 センチネル戦までモンスターとの戦闘を軽視していたが、イルファングとの攻防でその認識はすぐさま捨てることになった。

 速い。そして重い。技のモーション自体は数合打ち合い、それで覚えたものの、凄まじい速さに半テンポ遅れての迎撃を余儀なくされる。加えて一撃はセンチネルのそれと桁違いに重い。

 キリトの的確な迎撃指示のお陰で相殺していくも、攻撃役はレイピア装備のアスナのみ。大木をヤスリで削りとっていくような遅々としたHPゲージの減りに精神的にも追い詰められていく。

 そして、何度目かの攻防。上段からと予測したキリトと私を嘲笑うが如く、半円描いた斬撃は下方向から襲いかかった。

 同じモーションから上下ランダムに発動するカタナスキル単発技、"幻月(げんげつ)"。

 

 「あ、────グッ!」

 「キリトくん! レイっ!」

 

 直撃を受け五メートル程吹き飛んだ。自分のHPゲージが削れ、四割のイエローゾーンに入る。

 

 「……よせ、アスナ────!」

 

 イルファングから守ろうとアスナがレイピアを構え間に入るも、華奢な細剣では野太刀の重攻撃を相殺出来ない。

 

 「────ガルゥァアア!」

 「「────オラァああ!!」」

 

 イルファングの咆哮にも負けない野太い気合いと共にトゲ頭とスキンヘッドが後ろから飛び込んできた。武器種の全く異なる剣と斧でタイミングぴったりでソードスキルを放つ。

 流石のイルファングも両手斧という重量級武器プラス片手剣ソードスキルの二重攻撃には参ったようで、大きく後退した。

 

 「キバオウ、エギル……!」

 「後ろの連中で、壁役出来そうな奴ら連れてきたぜ! それ以外の連中には取り巻きの足止めを頼んでおいた!」

 「一発モロたんやろ、大人しく後ろでPOT飲んどけ!」

 

 見ればエギルとキバオウだけでなく、盾持ちや両手武器使い合わせて五人ほどが集結している。

 

 「……よし、タイミングは俺が指示する。アスナとキバオウで、アタックを! エギルたちはガードに徹してくれ!」

 「おうよ!」

 「けっ、任せとけや!」

 「了解、キリトくん!」

 

 

 

 イルファング・ザ・コボルドロード戦、残りHPゲージ五十パーセント。




どうも、野澤瀬名です。
昨日に引き続いての投稿でございます。明日も投稿したいけど仕事があるので次話は月曜になるかな……。

ついに始まった一層ボス、イルファング戦ですが、RPGのボスで序盤なのに初見殺しなランダム技持ってるのはどうなのさ茅場?
まあ、モンハンとかでもノーモーション攻撃したりするヤツがいたりするしP2Gの村クエ☆1のアレとかに比べればまだマシか、という事でそのまま採用。ディアベルの前に躍り出た際も、レイはAGI寄りのステータスという事でイルファングの攻撃を受けきれず、キリト並のSTRでようやく相殺できるという形にしました。
あと、キバオウがエギルに助けられるシーンを書きましたが、決して√フラグ建設ではございませんので。

次回で第一層攻略編は終了。その後はキリトとアスナたちの出番は少し減って、レイ主体の物語に移ろうと思います。かなりダークなお話になっていきますが、最後はハッピーエンド至上主義ですので。ええ、不幸なまま主人公たち終わらせはしませんよ。

それでは今回も読者の皆様に感謝しつつ、この辺りで筆を置かせていただきます。



ハッピーエンドも好きだが、過程で苦しむ様を見るのも好きです(愉悦)
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