変わらぬ空で、貴方に愛を   作:毒蛇

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「第三十五話 命を弾丸に、ルーレットよ廻れ」

「……?」

 

 何も起きなかった。

 先ほど、自らの肉体を包むように紫黒色の花が咲き誇るように光を放ったが、

 

「何も、起きてない……?」

 

 何か強大な力に覚醒したとか、戦艦が顕現したとか、巨大な腕が生えたりとか。

 そういった満開による明確な変化といったものが発生したようには思えない。

 先ほどと何一つ変わりないように思える。

 

「いや、いや、待ってくれ……。そんなことって……」

 

 慌てて左肩を見る。

 先ほどまで爛々と存在を示すように光っていた昏い花のゲージは、輝きを無くしていた。

 溜め込んだはずのエネルギーは、使用されたのは間違いない。

 だが自らの両手を見ると、相変わらず赤い手袋と、手首には拘束用のバンドが施されている。

 

「―――――」

 

 何も起きていない。

 その事に愕然とした。

 

「―――――」

 

 俺が呆然自失に身体を硬直させ座り込んでいると、

 いつの間にか事態が一変していた。

 

「……ふう」

 

 どうやら彼女は自力で何とかしたらしい。

 先ほどまで水面に顔を出そうと足掻く金魚の如き痴態を晒していたにも関わらず、

 彼女は決して諦めることをせず、その決意に神樹は応えたらしい。

 

 正しくゲージが消費されたのか、樹海から光が風へと集まっていく。

 やがて風を覆うように、彼女を象徴する花を模した光が現れる。

 その光が収まるころに現れ出でたのは、神道の神官のような装いへと変貌を遂げた風だった。

 

「―――――」

 

 流石に勇者の聴力でも遠すぎて彼女が何を言っているかは聞こえなかったが、

 「これが満開の力か……」的な事を言っているのは、なんとなく分かった。

 

 そんな風目掛けて、傍観者気取りを止めた融合体は雷撃の如き火炎玉を放つ。

 中空に浮く風はソレを軽々しく躱しのけ、あまつさえ体当たりを敢行して見せた。

 

 だが流石にそれで倒れるほど柔ではないらしく、融合体は火炎玉十数発を連続で浴びせる。

 その最中も脇の穴部分から噴射口を覗かせ、火炎放射を放ち樹海を焼き続ける。

 

「―――――ぁ」

 

 圧倒的だった。

 満開の力は、目に見えて少女の力を上昇させていた。

 空中を浮く力だけでなく、所持していた大剣の性能の上昇など、

 融合体を相手にして、満開をした少女は先ほどよりも明らかなパワーアップをしている。

 

「…………」

 

 だと言うのに。

 自らは一体何をしているのだろうか。

 これでは何もできない。あの戦いに割り込んでいける兵装も速度も無い。

 

「―――――」

 

 再び樹海から光が集まる。

 蒼い光の中から、浮遊能力を持った移動台座がその存在感を示すのは東郷の満開だ。

 

 東郷はその中心で腕を組み、白を基調とした色合いの羽衣をまとった和服へと変化している。

 浮遊型移動台座には花型の可動砲台が展開されており、全方位への攻撃を可能としているようだ。

 

 浮遊台座の下から、先ほどの合体に加わらなかった魚座が姿を現す。

 しかし、砲台に収縮されたエネルギー弾により容易く蹂躙され、その姿を御霊へと変化させた。

 本来は封印の儀がいるが、続けて放たれる圧倒的な火力で御霊を破壊した。

 

 

 

 

 

 

『……見ているだけかい?』

 

 その様子を見ていた俺に初代が話しかけてきた。

 左手で僅かに輝きを放つ蒼色の指輪。

 ソレを触媒とすることで、声として現実に干渉する彼女。

 

「……」

 

 無言で応じる俺を、情けないと言わんばかりに大きなため息を初代はついた。

 ため息をつきたいのはこの俺の方だと言わんばかりにため息をつき返し、目を向ける。

 

 ふと目の端で緑の光が花開いた。おそらく樹だろう。

 端末上で、双子座が神樹に近づいていると茨木童子が端末を開いて示してくれる。

 樹ならきっと逃がすことなく、エグいワイヤー攻撃で処理するだろう。

 

「完全に、俺の出番ないじゃん……」

 

『不貞腐れるのは結構だが……、彼女達では決定打に欠ける』

 

「……」

 

 激しくなる爆音と爆風に髪がなびく。

 砂や黒煙の入り混じったソレは、バリアが防ぐに値しないとして顔に直に当たった。

 

 思わず舌打ちと共に軋む身体を動かし、融合体の方を見据える。

 現在、風と東郷が融合体相手に同等の戦いを行えているが、それでも少し押されている。

 火炎弾、火炎放射、時折ドリルの様な物を射出し、その度に東郷の可動砲台が相殺し、隙を見て風が斬りつける。いずれ樹や夏凜、友奈も加わるだろう。

 

 被害は徐々に拡大している。

 止めなければいけないのは分かっている。

 

 分かっているのだ。

 

「――――けど、だけど……!!」

 

『満開は、間違いなく行われた』

 

 近くに火炎弾が落ち、直撃するのを茨木童子がバリアを展開することで防ぐ。

 だが、今はソレに構っている場合ではなかった。

 躊躇し、戸惑い、軋む身体に則り、徐々に止まる思考の中で。

 

「なんて……?」

 

『満開のシステムは、間違いなくゲージを消化し起動した』

 

「え、いや、そんな訳がないだろ……だって現に」

 

 俺の姿は、何も変わってはいない。

 赤い手袋、紅と金のラインが奔る昏いコートは焼け焦げた痕が直っているがソレだけだ。

 

 風のような神々しい形状の変化がされている訳ではない。

 東郷のような戦艦を思わせる浮遊型移動台座が展開されている訳でもない。

 つまりは、失敗したと思うのが普通だ。

 

 このシステムは欠陥品。

 溜まったはずのエネルギーは無駄に消費されたはずだ。

 そういう考えに至る俺の思考を、

 

『そんな訳ないだろう……?』

 

 と当たり前のように初代は一蹴した。

 

「……え」

 

『いいか、半身。曲がりなりにも、この満開システムは溜まったゲージと神樹から力を貰って起動するシステムの様だ。だがキミのは起動していない。ソレに対してキミはこう考えている。大赦内部の敵対派閥が何かを仕込んだ所為で、何らかの異常事態がシステム内にて発生。結果エネルギーが無駄に流出してしまったんじゃないか……と』

 

「違うのか……?」

 

『違う。仮に何かの仕込みが起動するにせよ、その所為で人類が終わるのは本望のはずが……いや、そういう連中の生き残りか……。まぁ何にせよだ、神が干渉する力は人間がシステムを弄った程度でどうにかなるはずがないんだよ。これが大前提だ』

 

 つまり、初代はこう言っている。

 満開システムは滞りなく、その機能を十全に果たしていると。

 では消費されたゲージ分と、神が与えたという力はどこへ行ったのだろうか。

 

『満開によって生じたエネルギーに関してはこちらで弄らせて貰った。だから外装などは変わらなかったのさ。そもそもキミが扱うシステムは彼女達が使うのとは根本が異なるからね。正規手段では絶対に満開はできない』

 

「おい、そこら辺詳しくって言うか、早く言えよ」

 

『このシステムを見るのは初めてだったこともあるからね、ボクも多少分かった程度さ。それらは時間が無いからまた今度。……うん、中々に頑固だったけども随分と時間が掛かったね』

 

「……? 何の――――」

 

 話だ、と続く言葉はいらなかった。

 苛立つ自分を黙らせるかの如く、その情報が思考に割り込んできた。

 それで脳が理解した。

 

 この身は既に満開を行っている。

 そのエネルギーを再変換して、初代が何をしていたかを。

 

『いい加減、こちらもイライラしていたんだよ。ボクのシステムに大赦如きが関与するなんてね』

 

「お前でも、苛立つ時があるんだな」

 

『ボクを一体なんだと思っているんだい……?』

 

「おおよそ勇者とは思えないから、悪魔とか魔女かな」

 

『なら、キミは魔王だね。おおよそ勇者がしていい笑みじゃなく、性根も性格も勇者とは程遠いからね。生まれ変わってやり直した方がいいよ』

 

 身体は軋むが、震えはもうない。

 膝を叩いて立ち上がる。

 既に脳裏には、アレを屠るまでの工程が描かれて始めている。

 

『とはいえ、次がどうなるかが不明だがね』

 

「その時はその時さ。まずは……」

 

 目の前の融合体の完全なる撃破だ。

 満開した勇者3人を相手に怯むことなく戦う融合体によって、

 周囲の樹海は既に原型を為していないが、俺が気にすることではない。

 

 

 命令を告げる。

 

 

「全兵装―――――――」

 

 ガチリ、と身体から音が発せられる。

 左手を中空にかざすと、蒼き指輪が、おびただしい量の昏い光を放つ。

 その光は、懐かしく、郷愁の思いを過らせる、ある世界のエネルギーが混ざったモノだ。

 

「――――緊急―――――」

 

 これより告げられるは、敵を倒す宣誓である。

 本来の力を解放する。

 初代『加賀』勇者が、自らの死後も尚、研究と開発、強化と300年心血注いだ力。

 かつて滅んだ兵器を元にし、強力に改良された勇者システムは、他の物とは異なる。

 

「―――――――――解除」

 

 本来は解除にもっと何かの手順がいるはずだった、兵装を抑える拘束具。

 ソレをエネルギーをもってゴリ押す。解除に伴い拘束器具が弾け飛ぶ。

 僅かに身体が軽くなると同時に、口角に不敵な笑みが渦を描く。

 

 簡単な話だった。満開のエネルギーは、全て拘束の排除にのみ向けられていたのだ。

 

 同時に残ったエネルギーは、僅かにだが火力と浮遊能力に振られている。

 見た目は変わらないという他の連中と比べて何たる地味さか。

 だが、周りと比べてチャラつかない事に好感を抱く。無駄のない、確実な変化だ。

 敵を見て口を開く。

 

「ショータイムだ」

 

 

 

---

 

 

 

 空を飛ぶというのは、中々に気持ちが……悪かった。

 特に落下に向かう中の、胃の中がフワッとする感覚が最悪だ。

 

「――――――っ」

 

 無論吐いている場合でもなく、戦線に再復帰すると同時に、

 風、東郷、樹などに割り振られていた攻撃がこちらにも回ってくる。

 彼女達もこちらに気が付いて何やら叫んでいるが、こちらはそれどころではない。

 

「――――――」

 

 意識的に呼吸を止める。

 敵を目前にし、意識が、視界が加速する。

 この兵器に誘導装置は搭載されてはいない。

 使用する熟練した兵士たちは、約150m先から移動を繰り返し近距離から攻撃を行ったという。

 

 だが、勇者服と飛翔が可能な今ならば、150mよりも近くから砲弾の射出が出来る。

 着地と同時に、己の右肩に載せた頼もしいソレを一瞬見る。

 

 元になったソレは、『携帯式対戦車擲弾発射器』と呼ばれている。つまり『RPG』だ。

 厳密に言えば『ロケットモーターで加速する擲弾(グレネード)を射出する無反動砲』という分類のややこしい兵器である。

 クルップ式無反動砲、口径40mm、全長900mm、重量7Kg。

 300年ほど指輪の世界で強化され続けたソレはもはや別物であり、バーテックスにも通用する。

 

「――――――っ」

 

 弾は一発のみ。しかし数秒あれば自動で装填されるという楽な仕様だ。

 肩に乗せ、後方確認。

 敵の火炎玉を回避する。

 

 引き金を引くと、凄まじい反動が肩を襲う。

 慌てて持ち直すが、照準器が目に当たるのが早かった。

 開口した砲尾から、後方に向けてバックブラストが起きる。

 

 同時に下手くそな主人の意を汲み、砲弾が発射される。

 クルップ式によって発せられる砲弾は、発射と同時に加速する。

 弾頭の周囲後方の大型の安定翼は砲身から射出された直後に風圧で開いて弾頭の直進を助け、

 さらに後方の小型安定翼は弾頭に飛翔を安定させるためのゆったりした回転を与える。

 

「……わお」

 

 忘れていた呼吸を再開する。

 尚且つ至近距離から発射したソレは、余すことなく獲物を蹂躙する。

 具体的には、回転する砲弾は融合体のおよそ2割を抉り取った。

 

「ナイスッ、亮之佑!」

 

「前、前っ!」

 

 援護に対し、風から感謝の言葉をいただくが、眼前に注意をするように示す。

 風が俺の言葉を聞き、融合体の方を見ると、既に穴は1割ほど塞がっており、

 

「なに、あのヤバそうなゲンキっぽい玉……」

 

 融合体は、同時に全ての火炎を一つにまとめ上げていた。

 ソレは太陽とも言わんばかりの熱量と質量を誇り、満開した身ですら防げるか危うい。

 何発か更に砲弾を当てるが、融合体は意に介さず破壊を込めた一撃を作り出す。

 

 樹海に当たったら、間違いなく大災害になるのは避けられないだろう。

 だから風は大剣を巨大化させ、己の仲間を信じ抜く。

 自らはあの太陽を防ぐため、勇者達に向かい腹から叫ぶ。

 

「勇者部、封印の儀開始――――!! アタシがコレを抑える内に、早く――――!!」

 

 そう言って一人少女は、身の丈を超える大剣を持って太陽と正面衝突をした。

 男前な風の意志を汲み取り、勇者部は集う。

 友奈、樹、東郷、夏凜、亮之佑。

 

「……っ」

 

 彼らを護る精霊たちによって、順当に封印の儀が開始される。

 金色と白銀のベールに融合体が包まれる中、

 風が防ぐ太陽は一層大きさを増して、大爆発を起こした。

 

「―――お姉ちゃん!!」

 

「そいつを――――」

 

 樹が悲鳴の様な叫び声を上げる中、

 これまでの比にならない熱風と網膜を焼き切るような爆炎が襲う中で、

 

「そいつを、倒せぇぇぇぇぇっ―――――!!」

 

 それを上回る少女の魂の叫びは、彼らの動揺を抑えた。

 倒れた戦士の仇を取るべく、残った者により封印の儀が進む。

 そして、

 

 

 

---

 

 

 

 御霊は、宇宙規模の大きさだった。

 そもそも下の先端が遥か上空に上昇しており、全体が見えない。

 最後の最後で出現した規格外のソレに、夏凜も樹も絶望の表情を浮かべ、悪態をつく。

 しかし、

 

「大丈夫! 御霊なんだから、やる事は変わらないよ。どんなに敵が大きくたって諦めない!」

 

「友奈……」

 

「それが……勇者ってものだよね」

 

 こちらを見る友奈は、勇者を語るに相応しい凛々しい表情をしていた。

 そんな彼女に勇気づけられるように、

 樹も夏凜も、生気を取り戻した目をして頷く。

 

 状況は絶望的ではあるが、希望は常に共にあるモノだ。

 俺は東郷に呼びかける。

 

「東郷! 俺を乗せて空に連れてって!」

 

「東郷さん。私も!」

 

「行こう2人とも。今の私なら友奈ちゃんも亮くんも運べると思う」

 

「うん。2人は封印をお願い」

 

 友奈の言葉に任された事を了承する夏凜と樹。

 彼女らに頷き返し、俺は東郷が乗っている浮遊型移動台座へと飛び乗る。

 

「ヘイタクシー。ちょっと宇宙まで」

 

「……東郷さん」

 

「任せて」

 

 そう微笑む東郷の微笑は、戦闘で荒れた心を少しだけ癒した。

 呼吸を整え、可能な限り穏やかに微笑み返すと、東郷は左手を差し出してきた。

 ちらりと深緑の瞳を見つめ返し、柔らかな手を握り返した。

 そうして東郷が操る浮遊移動台座は俺と友奈を乗せ、空目掛けて飛翔する。

 

「東郷さん、こっちの射程距離に入ったらアレを何とかできる用意があるから……」

 

「―――分かった」

 

 言葉少なに頷く東郷に頼もしさを感じる。

 上空からは巨大な御霊による抵抗か、ブロックのような物がこちらに向けて降り注ぐ。

 その様子に友奈が驚愕の声を上げる。

 

「御霊が攻撃!?」

 

「迎撃するわ。地上には落とさない」

 

 いつもより心なし低い声の東郷の指示により、全主砲が火を噴く。

 重力に従い加速する大量のブロックと、重力に逆らう浮遊台座。

 ちらりと台座を操る東郷を見ると、俺の視線に気がついたのか、こちらを見て微笑んだ。

 

「大丈夫、見てて」

 

「……」

 

 何も言わずに、彼女の手を握り返す。

 それが彼女に対する信頼の証だった。

 だが、

 

「―――――!!」

 

 御霊の下、先端部分が見えてきた時だった。

 既に場所は宇宙空間。

 どこまでも広がりそうな暗い空間の中で、悠々と浮かび上がる御霊は、

 突如、下半分を分離してこちらに向けて撃ってきた。

 

 逆四角錐状のソレは、その下半分を切り離すことで一つの武器に変えたのだ。

 右回転する御霊から切り離されたドリルは、明確にこちらに向けて射出される。

 回避は許されないだろう。

 迎撃はできるが、再装填に相当時間が掛かるソレが、この後使用する予定の切り札になる。

 

「―――――っ」

 

「東郷さん!」

 

 加えて、先ほどの降り注ぐブロックを全て撃墜することに成功した東郷も限界かふらつく。

 浮遊台座の上昇も停止し、中空に留まるだけとなった。

 

「友奈ちゃん、亮くん。ごめん……。ちょっと疲れちゃったみたい」

 

「いや、十分だよ」

 

「ありがとう、東郷さん。見ててね、やっつけてくるから」

 

 友奈と東郷が視線を交わす中、少々気まずげに俺は目を逸らし、上空から迫り来るドリルを見た。

 ソレを睨み付けつつ、撃破手段を再度模索していると、

 

「亮くん」

 

 呼ばれた方を見ると、深緑の瞳に覗き込まれた。その奥に映るものが気になり、見返す。

 友奈のことと、後のことをお願いすると無言で頼まれる。

 それに対して、多くの言葉は不要だ。

 

「任せろ」

 

 彼女の瞳を覗き返し、繋いでいた右手を離す。

 東郷に背を向け、今度は友奈を見る。

 

「友奈」

 

「分かった」

 

 何が分かったのだろうか。打てば響く返事は好きだが即答過ぎて不安になる。

 そんな俺の不安が伝わったのか、変身後も変わらない赤い瞳が笑いかけてくる。

 

「アレを私が抑えている内に、亮ちゃんが攻撃が届く所まで飛んで御霊を撃破する……だよね」

 

「お前って最高……」

 

「ありがと」

 

 友奈と二人並び立ち、迫る巨大なドリルを見据える。

 一瞬だけ、友奈と手を繋ぎお互いの瞳を見るが、すぐに離れる。

 

 「満開」、と隣の少女は呟き、迫り来る脅威に向かい飛び立つ。

 神の如き力を顕現し、ピンクの花が宇宙に咲き誇る。

 友奈の背中に現れる全勇者の共通部分のリングから、巨大なアームが左右に発現する。

 その背中を見る。

 

「皆を守って、私は――――――――」

 

 回転を増すドリルと、破壊を一点に集中する巨大アームが互いに糸で引き合うように、

 急激にその間の距離を縮める。

 そして、

 

「――――――勇者になあぁぁぁぁぁるっ……!!」

 

 決意に満ちた声と共に距離がゼロとなる。

 先端から金の粉が周囲に撒き散らされるように、火花が散る。

 

 衝突は一瞬であり、結果もまた一瞬だった。

 ヒビが入り、動きが止まったのはドリルの方だった。

 

 その戦いを見届ける前に飛び立つ。

 昏のコートを翼の様に羽ばたかせ、友奈を、敵のドリルを通り越し、上昇する。

 

 巨大なソレを通り越し上昇すると、御霊の本体が見えた。

 同時にアチラも俺を捕捉したのか、最後の抵抗とばかりにブロック状の爆弾を撃つ。

 

 だが、もはや避ける必要はない。

 こちらの射程圏内に入ったのだ。自らがこれから行う工程は、既に最終工程へと至った。

 

「出でよ」

 

 

===

 

 

 その兵器が脳裏に浮かんだ時は、目を疑った。

 その存在は、どうやって初代が作り出したのか、本当に使用していたのかが気になる。

 いわゆる、抑止力としての象徴でもあった兵器だ。

 ソレは人類が開発した最も強力な兵器の一つであり、一発で都市を壊滅させる事が可能である。

 

 かつて、この世界がバーテックスによる襲撃に遭う前は、大国同士が睨み合っていたという。

 それはいつしか世界大戦へと発展した。

 そして世界に僅かであれど平和が築かれる前、

 その破壊力によって、長年続いた大戦を終わらせた兵器の一つだ。

 

 その兵器が使用された空には、灰が降る。

 巻き上がった灰によって日光が遮られ、地表の気温が低下し、植物が枯れ、人間が生存できない環境になった。生き延びる為の手段などなく、逃れる術は無に等しい。

 

 人を、町を、環境を、それら全てを無に変える破壊兵器の極地。

 その兵器の恐怖や殺傷の残酷性は世界に轟き、多くの人の関心を呼んだ。

 しかし、それでも。

 バーテックスにより人類の大半が根絶やしにされるまで、その兵器こそが平和を維持していた。

 

 とはいえ、これが神世紀で、地上にて姿を現す時。

 それは即ち……、

 世界が終焉に向かう時だけだろう。

 

 

===

 

 

 つまり、本来は破壊力が無駄に高くて使えない。

 勇者の力でバーテックスにも対応が効く今、地上で使えば敵も味方も消し飛ぶだろう。

 宇宙空間であり、バリアがあって初めてマトモな運用ができる。

 そうでなければ、ただの自爆技でしかないこの兵器の出番はもう無いだろう。

 

 見た目は小型のロケットのようなソレが、敵のブロックを掻い潜り、御霊に直撃。

 自らの肉体が落下する中、確実な破壊の為に目の前で爆発が起きる。

 本来の兵器よりもかなり威力を抑えた兵器は、それでも容易に御霊を消し飛ばした。

 

 

 

 

 

 強烈な光が瞬き、御霊が消滅する中。目蓋を下ろし重力に従い落ちる中で俺は思った。

 こんな兵器を使う奴が『勇者』である訳が無いと。

 どちらかと言うと『魔王』とか、敵側の方じゃないの……? そう思った。

 

「おかえり」

 

 ふと落ちる身体が、柔らかな感触を感じた。

 鈴の音に導かれるまま、目を向ける。

 気がつくと、俺は東郷にお姫様抱っこをされていた。

 

「と、とりあえず下ろして……」

 

「ふふっ」

 

 たまに友奈が寝落ちした際に彼女をお姫様抱っこしたりすることはあるが、されたことは無い。

 にこやかにこちらを見下ろす東郷から離れようとするが、力が入らない。

 どうやら満開で生じたエネルギーは全てなくなったらしい。

 急激な疲れが意識を襲う。

 

「―――――」

 

 巨大なアサガオの花のような物に乗っており、ソレがゆっくりと降下していた。

 そっと東郷に身体を下ろされると、隣には既に着いていたらしい友奈が横になっていた。

 視線が合う。

 

「やったね……」

 

「おいしい所だけ貰って悪いね……」

 

「亮くんも友奈ちゃんも、2人ともお疲れ様……」

 

 身体には、敵を破壊したという充足感と満足感と、疲労感が残っていた。

 正直冷静になると、これから落下するという恐怖に襲われかねないので、東郷と友奈の手を握る。

 急激な疲れか、握力が入りにくい手で握るが、彼女たちはしっかり握り返してくれた。

 

 横になり見上げると、こちらを見下ろす緑の瞳が申し訳なさそうに潤む。

 

「ごめん。最後の力でこれだけ残したけど、どうなるか分からない」

 

「そのときは、そのときさ」

 

「大丈夫。神樹様が守ってくださるよ」

 

「……そうね」

 

 頭上で広がる宇宙は、花弁が閉じられ見えなくなる。

 これから大気圏に突入し、地面に叩きつけられると思うとゾッとするが。

 

「……」

 

 目を閉じる。

 この後どうなるか分からない。バリアがあれど、完璧ではないだろう。

 けれども、最後の瞬間がこれなら。

 

「……」

 

 薄れる意識の中。

 最後にもう一度目を開く。

 霞み出す視界で、東郷と友奈が映りこむ。

 

 ぎゅっと目蓋を閉じた乙女たちは、不安なのか手が震えている。

 そんな彼女達を網膜に刻み込む。

 友奈と東郷の手を握り返しながら、俺は最後に神に祈りを捧げた。

 

 どうか、彼女達が生きて帰れますように、と。

 

 目の色が霞み出す。

 再び目蓋を閉じると同時に意識が――――――

 ――――――――――――――――

 ――――

 

 

 

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