樹海の空。
一面を覆わんばかりの白い星群は見覚えがあった。
およそ全長が3メートルほどだろうか。
一つ一つはそう大きい訳ではない。
特筆すべき特徴としては、その歯だろう。
カチカチと小刻みに歯を鳴らしたてる姿は、獲物を求め舌なめずりをする狩人を思わせる。
仮に一匹でも現実世界にいたら、多くの人があの歯に噛み砕かれ、その命を落とすだろう。
「……?」
だが上空に舞う星屑たちは、なぜか空にいるだけで何もしなかった。
本来アレらは神樹や、それを守る勇者に対して攻撃をする存在であるはずだというのに。
明らかに俺を視認しているはずなのに、上空に漂うだけだった。
まるで何かの命令を待つかのように。
馬鹿馬鹿しいと思った。
アレらにそんな思考能力があるとは思えない。
あってはならないことだ。
「まずは合流か……」
だが敵が何もしてこないのは、こちらも少し猶予が出来たと言っていい。
端末を開く。
すぐ近くに友奈や他の部員たちもいた。
それに安心すると同時に、
襲撃者の名前が判明した。
端末のアプリの地図では、大赦がバージョンアップしたのか、
13体目の襲撃者には名前がつけられていた。
ソレは、黄道十二星座でありながらも番外という不遇な存在の名前だ。
蛇遣座【オフューカス・バーテックス】
それが便宜上与えられた名前なのだろう。
蛇遣座には、かつてこの国が襲撃者によって滅ぶ以前。
この星座が香川県の上空に見えると、七夕が近いという言い伝えがあったという。
その程度しか知識がなかった。
---
「皆、円陣!」
「またそれ……」
風の指示に対して、呆れた声を出すのは夏凜だ。
少しはわからなくもない。
上空を見上げると、どこまでも広がるような星空。
……のように見える醜悪な顔をする星屑たちが、上空を忙しなく動き回る。
「まぁ40秒もかからないし。それに士気ってのは戦場では大事だ。そうだよね東郷さんや」
「そうよ、夏凜ちゃん。今度旧世紀の護国の戦場でのあり方について一緒に見ましょう。大丈夫、初心者でも分かり易い90分構成だから」
「結構よ。―――あんた達、本当にこういうの好きね」
理解のため息か、あきらめのため息か。
よく分からないため息をついた夏凜は、前回とは違いすぐに円陣に加わる。
隣に来た夏凜の肩に手をのせつつ、目線で風に何か士気が上がるような事を言う様に頼む。
「えっと、皆。これが本当に最後の戦いよ。アレを倒したら御役目も終わり。この戦いが終わったら何でも奢るわよ!」
「よーし! 肉うどんいっぱい頼もう!」
「今日も御国を護って、明日の日の光を皆で拝みましょう」
「それじゃあ勇者部、ファイトォーーー!!」
「「「「オーーーーッ!!!!」」」」
---
「あれってさ、どこが蛇なの……?」
「――――ふむ。確かにそうだね」
夏凜が話しかけてきたが、それにどう答えるか返答に迷う。
手が自然と顎に触れる。
今までのような巨大なバーテックスが一匹いるという訳ではなく、
今回は無数の星屑がわんさかと上空にいる。
しかも心なしか、時間経過と共に増えているように感じる。
「とりあえず、仮名称としてつけたんじゃないかな。今までのだって名前ほど見た目があっている訳でもなかったし」
「確かにね。まあ名称なんてどうでもいいわね。結局やることは変わらないし」
「そういうこと」
夏凜含め、勇者部の女性たちと空を見上げながら、俺はモノクルを左目につける。
退院後に少しでも以前のような、まともな色の視界にするために家に引き篭もって作った。
それなりに時間とお金を掛けたレンズ部分は少し薄暗い透明色である。
本来ならばコンタクトレンズとしての使用や、眼鏡としての運用も考えていたが、
色々な事情によって片目だけを補佐するモノクルとして使っている。
モノクルを耳と鼻にかけ、天を見上げる俺に対して夏凜が話しかけてくる。
「また変な物ね。ソレは……?」
「見てのとおり、モノクルだよ。別名を片眼鏡。視界の色の補助用に作ったんだけども中々調整が難しくてね……。他にも重い双眼鏡の代わりに遠視を可能とする機能もつけてみた。モノクルタイプにしたのは、あくまで一時的な利用を前提とした試作品であるという事と、急な視界の変化に少しずつ慣れるためだ」
「自作って、また凄いわね」
「ありがと。おかしいな……今の俺には夏凜が凄く可愛く見えるよ」
「なっ、可愛いとか……」
「可愛いよ、夏凜ちゃん。にぼし可愛いよ」
「……か、揶揄うんじゃないわよ!」
モノクルにより、レンズ越しにではあるが色覚の補正が与えられる。
可能な限り本来の視界に近づけたが、中々のものだと思う。
おかげで頬を赤らめ、照れる夏凜の姿がモノクル越しにではあるが正常に見ることができた。
多少の色が片目だけにではあるが戻った為、改めて上空を見上げる。
ズーム機能を使用し、星の中から本体を探し出す。
「なあ、夏凜」
「何よ」
「俺には、アレらが蜂のように見えるよ」
「――――つまり、どこかに女王蜂がいるって言いたいのね」
「そういうこと。そして俺は見つけちゃったのさ」
「どこ!?」
夏凜の視界を誘導するように指をさすが、肉眼だと微かにしか見えない距離にいる。
目を細める夏凜にモノクルを貸し、レンズ越しで目を細める彼女もやがて理解した顔になった。
先ほどモノクルによる遠視機能によって、やや中型のバーテックスを視認した。
全体的に白く、多少の黒色が混じり込み、尻尾のような物が生えている。
細長い形であるが、なんとなく蛇のように見えない訳でもない。
敵は見つけたが、問題がある。
それは勇者のジャンプ力では届かないということだ。
勇者の脚力は凄まじいものだが、敵の高度はそれ以上に位置する。
つまりあれを倒すには、満開によって得られる浮遊能力が必要になる。
「……」
「どうしたの? さっきあれだけ皆でテンション上げたじゃない」
それを理解した彼女達は、先程までのテンションが嘘のように静まり返った。
無言になる彼女たちに対して夏凜が声をかけるが、その声に返す者はいなかった。
当然だと思う。
皆も感じているのだろう。
もしかしたら、また体のどこかにダメージが来るんじゃないかと。
そんな不安に満ちた空気を感じつつも、俺はRPGを出現させる。
狙いはバーテックスだ。
引き金を引くと、凄まじい反動が肩を襲う。
今回は流石に、照準器を目に当てるようなヘマをしないようにしっかり握る。
「……ファイヤー」
開口した砲尾から、後方に向けてバックブラストが起きる。
砲弾が発射される。
クルップ式によって発せられる砲弾は、発射と同時に加速する。
安定翼を得て回転する黄金の砲弾は、暗い空気を断ち、明確に真っ直ぐに獲物に向かうが―――、
「―――そうか、あいつらは弾幕対策か」
納得する。
金色の砲弾は、何十匹もの星屑がその身を犠牲とすることで、標的まで届きはしなかった。
そうして出来た穴を、本体が口と思わしき部分から大量の星屑を吐き出して埋める。
そうして数秒後には、先程となんら変わらない状況に戻る。
……いや、状況は変わった。
星が墜ちてきた。
「回避! 回避ーーーっ!!」
夏凜が全員にそう告げつつ、回避運動に移る。
当然、友奈も風も樹もこの状況を見ていた為に逃げ回るが―――、
「こいつ、追ってくるぞ」
逃げ場所がなかった。
空にある星が一斉に降り注ぐ姿は、幻想的でありつつも確実な殺意に溢れていた。
白い尾を引き、重力と共に勇者と樹海を破壊するべく、一人につき50体ほどが迫った。
他を助ける余裕は無かった。
必死に軽機関銃で一掃するが、星屑はお構いなしに迫りくる。
醜悪なその面は、自慢の歯をカチカチと鳴らしたてる。
「―――――ひっ」
その悲鳴は誰だったろうか。
振り返る余裕は無かった。
俺に近づく星屑は、次々に自爆した。
「―――――っ」
自滅の爆炎が次々と起きる中でも星屑は止まらない。
爆炎の中を潜り抜け、弾丸にその身を撃ち抜かれても、
一匹一匹が確実に俺との距離を詰める。
そして、
「あぐっ――――――」
バリア越しにではあるが、被弾した。
被弾したせいで、銃の引き金を引くのが遅れる。
爆発、爆発、爆発。
衝撃が脳を叩く。
自らの身を守ろうにも、四方八方から次々と星屑が押し寄せる。
至近距離で起きるそれらに、俺は為す術もなかった。
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少しの間、気絶していたのか。
全身に痺れがある。
「皆は―――――」
彼女達はすぐに見つかった。
というよりも、近くに転がっていた。
樹も、風も、夏凜も、何十分と続くような豪雨の如き爆炎と衝撃に耐えられなかったようだ。
精霊たちが顕現して、意識の無い主たちを守っている。
彼女達の事は精霊に任せて、辺りを見渡す。
「―――――」
絶句した。焼け野原とでも言うべき惨状が広がっていた。
地面には巨大なクレーターがそこら中に出来上がっていた。
木も、森も、根も。
何もかもが消し飛んでいた。
あたりには、樹海と呼べるような面影は何も残っていなかった。
「……」
落ち着こう。
こういう時は慌ててはいけない。
まずは敵情報を確認しよう。
「………」
樹海に爆撃を行い穴という穴を作った蛇遣座は、新たに星群を生成しつつ、
ゆったりと神樹に向かっている。
速度を考えても、神樹に辿り着くまで時間はあるだろう。
「東郷さん、出るかな……」
どうやら神樹が囮となり、時間を稼いでくれるらしい。
携帯端末を呼び出し、東郷に電話を掛けるが出ない。気絶しているのだろう。
続いて友奈に電話を掛ける。
「あっ、友奈。生きてるか……?」
『――――――生きてるよ、亮ちゃん。だけど少し身体が痺れてて……すぐに行くから』
「無理もないさ。俺も少し痺れてる。それにこっちは風先輩も樹も夏凜もみんな気絶している。初見の相手にしては高い授業料をふんだくられたよ。……ところでそっちの満開ゲージだけども、どんな感じだ?」
そう俺が尋ねると、微かな友奈の息遣いがノイズ越しに耳朶に響く。
確認したのか、少しして彼女の声が聞こえる。
俺は友奈の声を聞きながら、自分のゲージを確かめる。
左肩のゲージは既に準備が整っていた。
敵を攻撃すれば溜まるのかと思っていたが、逆も然り。
あれだけの爆撃を受ければ、容易く溜まったらしい。
他の部員のゲージも確かめたいが、今はバーテックスを優先する。
『えっと、3枚まで溜まってる』
「そうか、分かった。ありがとう、友奈大好き」
『あ、りょ――――』
通話を終了する。
友奈との話ならずっとしていてもいいが、
この世界には優先順位がある。
「初代」
『キミから呼びかけるとは珍しいね』
走りながら、指輪に呼びかける。
平然と人前で話しかけるというお喋りな自覚があるのか、
指輪の世界の王は、自らが認める後継者の声に応答した。
「満開するなら今しかないはずだ」
『そうだね。星屑の数もさっきの流星群の様な攻撃で使い切ったのか、満開のエネルギーを飛翔性能と火力に注げば押し切れるだろう。星屑が減っている今がチャンスだろうね』
「……だよな」
躊躇っている場合ではない。
怖がっている場合ではない。
不安に慄く時間ならば、既に過去においてきた。
今俺がすべきことは、神樹を守ることだ。
それが勇者部を守ることに繋がるはずだ。
覚悟を決める。
もしも、東郷と懸念した満開の代償が本当にあるならば。
それならば、自らの身体で検証すればいい。
それで大赦が嘘をついているかも分かるだろう。
もとより、あの組織には一分の信頼も寄せてはいないが。
「――――――」
今動けるのは自分だけという状況に、思わずため息が出る。
切り札がある。迷っている場合ではない。迷う時間が星屑を増やす。
なせば大抵なんとかなる。大丈夫だろう。
祈るように、叫ぶ。
「―――――満開!!」
園子。
どうか、俺に力を貸してくれ。
紫黒色の花が咲き誇った。
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勝負は短期決戦だった。
時間の経過はこちらに不利。
昏いコートが翼のように舞い上がり飛翔する。
一瞬だけ下を見ると、樹海だった場所は完全に別の場所だと錯覚させた。
焼け野原が殆どだった。辛うじて残った森も火の手が上がっている。
「―――――」
意識を敵にのみ向ける。
今回の満開も変則的だ。
見た目の変化はさほどせず、コートが風にはためく。
そう。見た目に回す力も、余力も全て集める。
全ては一点突破の為に。
「―――――」
かつて、5体目のバーテックスを夏凜は撃破した。
その時彼女は自らの武器である刀を複数生み出し、周囲の地面に刺した。
勇者の代わりとして、ソレらはきちんと封印の儀を行った。
ならば、俺もできるはずだ。
脳裏に蛇遣座撃破に至る工程を作り出す。
武器の中には剣がある。
――――――――夏凜とは違う、尚且つ空中のために破棄。
拳銃の銃弾ならばどうだ。
――――――――破壊力が低い、弾数も少ないために破棄。
機関銃の弾丸ならばどうだ。
――――――――条件付きで可能だろう。
上空へと飛翔する俺に対して、複数の星屑が降り注ぐ。
両手にある軽機関銃と飛翔性能だけでは躱しきれない。
ならば致命傷以外は無視する。
バリアが最低限機能するならば死ぬことはないだろう。
あとは脳裏に浮かぶ工程通りに動けば良いのだが。
「出でよ」
かつて夏凜が複数の刀を出現させたように、俺も空中に2丁の機関銃を生み出す。
出現したソレらは既に引き金は引かれている。
3丁の機関銃から放たれる紅の逆雨が、降り注ぐ星屑を蹂躙する。
迫りくる星屑を全て倒す必要はない。
そのための一点突破なのだから。
多くの星を重厚な音と共に潜り抜ける。
そのまま、目標に向けて衝突するように飛ぶ。
星屑と銃弾が飛び交う中で、いくつかの弾丸が蛇遣座の装甲にめり込む。
「封印の儀、開始―――――」
金と銀のベールが舞い、動きを止めたバーテックスから御霊が出る。
だが案の定、ソレを守るべく星屑が盾となるが、
「それが通用するのは、地上だけなんだよ―――――!!」
単純な距離の問題だった。
加えて、星屑の壁があったから通用しなかった。
だが既にこちらも空に飛翔したことで、距離は埋めた。
加えてRPGを空中に2砲展開する。
肩に載せたソレも合わせて、3砲の砲撃。
「せ、ああぁぁぁぁっ―――――!!」
白い壁と、金色の砲弾が衝突する。
一瞬、停滞が生まれ、続く数秒で結果が生じる。
数では少ないが、破壊力は3つの砲弾で余裕だった。
星屑の盾ごと、黄金の砲弾が御霊に風穴を開けた。
「……よし」
破壊の意志を乗せた3つの砲弾は、御霊を防衛する星屑の数を上回った。
司令塔たる御霊の破壊を完了した俺は、風穴が出来たソレを見つめた。
やがて蛇遣座が砂と化し、崩れ落ちるのを俺は見届けた。
そして、微かに感じる勝利の余韻と、
間違いなく敵を破壊したことへの高揚感が生じる。
それがいけなかった。
「……?」
あとは周囲の雑兵を排除するだけ。
いつの間にか時間切れか、満開が解除されつつも空中をゆっくりと下る俺に。
星が群がった。
敵はバーテックスだ。
人間ではない。
こいつらには感情なんてものはない。
だから、指揮官が殺されようが動揺はしない。
つまり、指揮官が排除されても、事前に命じられた命令は実行する。
蛇遣座は殺した。
だが蛇遣座によって生成された星屑たちは止まらなかった。
すなわち、樹海の破壊と勇者の排除である。
あえて神樹を狙わず、リソースとして使っている信者も、インフラも破壊する。
残った星屑は纏まりを持たず、指示に従って。
一斉の破壊を行うべく空から降り注いだ。
地上で気を失っていた勇者たちは何もできなかった。
立つこともままならず、爆風がバリアを軋ませ、少なからず勇者本人に衝撃を与える。
安全な場所はどこにも無かった。
勇者を中心とした半径3キロは、降り注いだ白き流星によって、
樹海は燃え、地面に罅が入り、根は枯れるどころか消し飛んだ。
「―――――ぁお、ぎっ」
熱い、熱い、熱い。
叩きつけられるように樹海へと落ちた俺は腕に痛みを感じた。
地上に落下しつつ大量の爆発を浴びる中で、頭をかばった際にバリアが耐え切れず僅かに火傷を負ったらしい。
「あ――――――、――――――――」
身体が痛みと衝撃で痺れ、意識が白く染まる。
敵は倒したのだ。神樹も友奈達も無事なのだ。ならばもういいだろう。
俺はソレに従うように意識を手放した。
滝の様な、雷雨の様な、そんな爆撃が終わり。
樹海に立っている者は誰もいなかった。
敵もいなくなった為、神樹が樹海化を終わらせ、世界の歯車を回す。
こうして勇者は今回も神樹様を守る事に成功した。
ただし、多くの犠牲を出しながら。
---
「―――――ぁ」
意識の覚醒を果たす。
白い天井が自らの視界に映り込む。
バリアによって致命傷は避けたが、至近距離での爆発は厳しかったようだ。
確実に数十発の爆発を至近距離で食らった。
常人なら何回死んだのだろうか。
「あ、あー」
声を出す。
寝ぼけていた意識と闇に沈む思考が、声を出すことで覚醒を果たす。
視界は見える。
両手を視界へと持っていくと、包帯に巻かれている。
動かなくなった訳ではないので、恐らくは火傷の治療だろう。
しばらく自らの肉体を弄ってみたが異常は見られない。
東郷と話をしていた満開の後遺症は、気のせいだったのだろうか。
「――――ははっ」
僅かに乾いた声が出る。
カーテンを開いて窓から外の景色を見る。
別におかしいと感じる物は無い。
多少色落ちした世界だ。
「……」
なんとなくコーヒーが飲みたくなった。
---
医者の許可を得て、談話室で一人コーヒーを買う。
冷たいソレを持ちながら、適当なパイプ椅子を引いてテレビをつける。
今回の検査は軽いものですぐに終わった。
火傷の方は軽いらしく、軟膏を塗って寝れば回復する程度のモノだと言う。
現に僅かに痒いと感じるのは治り掛けだかららしい。
「東郷には……」
今回満開を使ったが、後遺症は感じない。
寧ろスッキリした気分だ。
この眼もリハビリすればきっと治るに違いない。
リモコンを手に取り、テレビをつける。
『今回の地震で、現在だけでも20名の死者と10名以上の行方不明者が出ております。1日前に四国全域を襲った大地震では、今もなお救出作業が続いている箇所があり――――――――――』
談話室は静かだ。
誰もいない。
『続いて、現在死亡された方で、身元の分かっている方々について―――――』
俺はテレビを見ながら、ふと目の端に変なモノを見た気がした。
視界を移動させたが何もいない。
紙コップに入ったコーヒーを飲みながら、俺はふと端末がどこへ行ったか医者に聞くべきだったと思い出した。同時に友奈達の顔がなんとなく恋しくなった。
『先ほど分かりましたのが、高宮礼二さん、涼宮貴船さん、加賀見―――――失礼しました』
とりあえず13体のバーテックスは倒したのだ。
これからは、園子に会う準備をしないと。
『加賀宗一朗さん、加賀綾香さんの死亡が判明しております』
テレビに眼を戻す。
2人の顔写真が映っていた。いつの間にか両親が有名人になっていた。
『なお、今回の災害は神世紀300年の中でも最も被害の大きいものであり、死亡者は今後も増える見込みとのことで―――――――』
宗一朗が死んだ。
綾香も死んだ。
「……は」
先ほどまで映っていた彼らの写真は、すぐに他の人のソレに差し替わる。
唐突に、自分が何を飲んでいたのか分からなくなった。
「……」
紙コップを見下ろすと、泥の様な昏い液体に俺が映り込んだ。
不快な電子機器が再び人物の写真を映したので、俺は無言でテレビに投げつけた。
---
数十分後、顔をしかめた禿げ医者に俺はある場所へと案内をされた。
遺体安置室。
白い布を取り払うと、宗一朗も綾香もそこにいた。
2人を見下ろした。
白い顔だがそれ以外は元気そうに見えた。
だが、手で彼らの頬に触ると―――――――――
「――――――あ、あぁ」
それで俺は―――――――――――――
――――――――――――――
――――――
そこから先が思い出せない。
次回、ほのぼの回