変わらぬ空で、貴方に愛を   作:毒蛇

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「第四十五話 破滅さえ、厭わないで」

 友奈と東郷が、風に先代勇者の事や満開の代償の事を話してから数日が経過した頃。

 既に話をしてしまった亮之佑と友奈、風は東郷に呼び出され、現在東郷家に来ていた。

 

「来ましたね、先輩」

 

「うん……。それで東郷、一体どうしたの? 急に呼び出したりして」

 

 距離的にも時間が一番掛かるであろう風がやってきたことで、東郷も話を進める。

 友奈と亮之佑が指相撲を終え、2人してフローリングの床に座り込みながら東郷を見上げる。

 三者の視線を受けて東郷はコクリと頷き、車椅子を操作し話しながら移動する。

 

「実は、風先輩と友奈ちゃんと亮くんに見てもらいたいものがあって」

 

「何?」

 

 友奈の問いかけに答えるように東郷は机の上に置かれていた小刀を手に取る。

 黒塗りの鞘に花の装飾のあるソレを、ぼんやりと綺麗だと思いながら少女達が見る。

 視線が集中する中、無言で東郷は小刀を抜くと、汚れ無き白い刀身が姿を現した。

 

「……?」

 

「……」

 

 一体どうする気かと見つめる友奈と風に対し、亮之佑はゆっくりとその紅の双眸を細める。

 やがて、目の前の車椅子に乗る聡明な少女は、

 

「―――――っ!!」

 

 それは一瞬の出来事であった。

 おもむろに白い刃に手を添えて、両腕の力で東郷は自らの首を引き裂こうとし、

 主人の自殺を、彼女の精霊が瞬時に防ぐように首と刃の間に割って入るのを3人は見た。

 

「な、なにやってんのよ……!!」

 

 風が驚きと僅かな怒りと安堵の念を持って東郷に怒鳴る。

 それが当たり前の反応だろう。

 なぜなら、東郷の自殺まがいの動きを精霊が止めなければどうなるかは明白だからだ。

 

 恐らく、いや間違いなく頸動脈を小刀が切り裂き、出血多量で死ぬだろう。

 そんな突拍子もない物を見せられて、優しい勇者部の部長が黙る訳がなかった。

 

「アンタ、今精霊が止めなかったら……」

 

「―――――止めますよ。精霊は確実に」

 

「……」

 

「えっ……?」

 

 驚愕の声を上げる風は、東郷の静かな声によって今度は疑問の声を上げる。

 狸のような精霊――刑部狸――が出現し、東郷の小刀を優しく回収するが、

 それに対して誰も目は向けない。

 

「―――――切腹、首吊り、飛び降り、一酸化炭素中毒、服毒、焼身」

 

「……」

 

「この数日、私はあらゆる手段を用いて、自らを殺そうとしました」

 

「何が、言いたいの……」

 

 風の声に対して、ゆっくりと東郷は伏せていた顔を上げる。

 深い深い緑の双眸は中空を漂い、未だ驚愕に震える友奈を、風を。

 そして、無言で少女の瞳を見返す亮之佑を見て、噛み締めるように再び口を開いた。

 

「私は今、勇者システムを起動させていませんでしたよね」

 

「確かにそうだね」

 

「それにも関わらず、精霊は勝手に動き、私を守った」

 

「……」

 

「精霊は勝手に動いたんです」

 

「だから! 何が言いたいのよ東郷」

 

 大事な事だから二度言ったのだろう。

 言葉を目の前にいる人達の脳裏に染み渡るように、東郷はあえて二度言った。

 友奈はやや困惑の表情を浮かべ、亮之佑はその言葉に言いたい事の意味を理解し、

 風は結論から言わず、回りくどく言う東郷の様子に眉をひそめた。

 

「つまり、精霊は私たちの意志とは関係なく動くという事です」

 

「……」

 

「私は今まで精霊は勇者の戦う意思に従っていると思ってましたが……違った。精霊に勇者の意志は関係ない」

 

 一言一言、東郷が呟くように、確かめるように言葉を紡ぐ。

 両手を合わせ、擦る東郷の声は落ち着いていたが、その瞳は剣呑としていた。

 その姿に風も僅かな苛立ちが無散したかのように息を呑み、無言で続きの言葉に耳を傾ける。

 

「それに気づいたら、この精霊という存在が違う意味を持っているように思えたんです。精霊は勇者の御役目を助けるものなんかじゃない。勇者を御役目に縛り付け、死なせず、戦わせる為の装置じゃないかと」

 

「……!」

 

 東郷の推測に部屋は無言となり静寂が訪れる。

 誰も反論を紡ぐ事が出来ず、ソレをさせない様に東郷は一呼吸置いた後、

 

「精霊が勇者の死を必ず阻止するならば、乃木さんの言葉は正しい物となる」

 

「勇者は、死ねない」

 

 亮之佑と風はその時現場にはいなかった。

 だがその後、亮之佑は友奈に、風は友奈と東郷から聞いていた。

 

「乃木園子という前例がありながら、大赦はこのことを黙っていたことになる」

 

「―――――」

 

 ふと亮之佑は小さくため息を吐く。

 まさか、こんなに早く真実へと繋がってしまうとは思わなかった。

 

 元々満開の後遺症については、バーテックスの総攻撃終了後から調べていた彼女だ。

 園子の出した情報があれば、聡明な彼女が隠された真実へ辿り着くのは容易いだろう。

 東郷の言葉は正しい物であると亮之佑は理解している。

 

 実際に園子自身の口から13回の満開をしたと聞いた。

 その部位も聞いた時、心臓や内臓なども損失した事を少年は知った。知ってしまった。

 人間が生きる為に必要な部位を失って常人が生きられるはずがない。

 今の時点で既に乃木園子という少女は、精霊によって生かされている状態であるのだ。

 

 だが、このシステム自体は悪いものではないと亮之佑は思う。

 精霊の加護が無ければ、間違いなく勇者部に所属する者は全滅しているのだから。

 当たり前だが、訓練もしていない少女が戦えるのは、精霊バリアの恩恵が大きい。

 

 問題は一つだが大きい。それは満開の後遺症を大赦が隠していたということだ。

 本来ならば手を取り合って共に戦うはずの大赦が勇者を騙していたのだ。

 ソレが勇者達の不信感を買った。

 

「私たちは何も知らされず、騙されていた」

 

 少年の思考の渦を止めるように、車椅子に乗った少女は少し声量を上げて断言した。

 ジワリとその言葉が脳に浸透したように風は残った片目を大きく見開いた。

 与えられた真実。知ってしまった残酷な真実の重さに膝をつく。

 

「―――――待ってよ、じゃあ樹の声はもう二度と……」

 

 希望はたった今無くなった。

 その衝撃に耐えられず、風の瞳からは熱い涙がこぼれ落ちる。

 自らの頬を流れる涙にすら気づかず、自らの罪と制御できない感情を風は吐露する。

 

「知らなかった……知らなかったの……。人を護るため身体を捧げて戦う。それが勇者だと……」

 

 自分の大切な妹の姿を思い出す。

 この世界で誰よりも大切な樹との思い出が脳裏に過る。

 

 もう二度と、友達とカラオケで歌うことが出来ない。

 もう二度と、演劇でセリフのある役を行うことが出来ない。

 もう二度と、風が帰宅した時に微笑を浮かべて「おかえり」と言うことが出来ない。

 もう二度と、「お姉ちゃん」と笑顔で呼ぶあの声を聞くことが出来ない。

 

 それを理解して自らの胸を掻きむしる。

 湧き出す後悔に、真実に対する焦燥に、過去の物となった記憶の全てに、

 風の魂が鷲掴みされたかのように心臓が悲鳴を上げた。

 

「―――――」

 

 意識するように呼吸をして、これは誰の所為かと考えた。

 この真実を黙っていた大赦の所為だ。そう思う。許せない。

 だが何よりも、誰よりも許せないのは――――、

 

「私が樹を勇者部に入れたせいで……!」

 

 涙が止まらなかった。

 己の無知が、樹の声を奪った。

 もしも、勇者部に樹を入れることを大赦に拒否していたならば、今頃どうなったのだろう。

 ふと風の胸中をそんな思いが過ったが、

 

「もう……」

 

 床に頭を垂れ、自らの“もしも”を、あったかもしれない未来を否定する。

 そんな妄想に意味などはない。今、風に圧し掛かるのは、残酷な事実のみだ。

 

 樹の声はもう二度と聞くことは出来ない。

 

「……」

 

 そんな風の姿に、友奈も東郷も掛ける言葉を持たず、亮之佑はそれをジッと見ていた。

 

 

 

 ---

 

 

 

 現在、風は自宅にいた。

 何かをする訳でもなく、一人無言で自室の椅子に腰を掛けていた。

 

「治らない……」

 

 ふと己の左目に触れると、愛着の湧いてきた眼帯の感触を感じる。

 この先、この左目に光が戻ることはない。

 その事実が理解できなかった。理解したくなかった。

 

「樹は……樹の声は……もう」

 

 戻らない。

 意味が解らない。決してあってはならないことだ。間違っている。誤っている。

 喪失感が風の心の中を占める。

 この先、樹の声を聞くことはできないという事実が、風を苦しめる。

 

「あ、あ……あぁ―――――」

 

 握り締めた拳をテーブルへ叩きつける。何度も何度も。

 

「くそっ……くっそがああああぁぁぁああっ!!」

 

 怒りに任せて片手を横に殴り払うと手が何かに当たり、テーブルから床に散らばる音が響く。

 だがそれに風は目もくれず、訪れた事実に慟哭する。

 

 もしも、アタシが樹を勇者部に入れなかったら。

 もしも、大赦の指示に従わず、勇者部に所属させなかったら。

 同じ事を何度も何度も何度も、何度も風は考える。考えたのだ。

 

 だがもう遅いのだ。

 遅い。

 

「何が復讐だ……!!」

 

 風の戦う理由は、決して胸を張って他者に言える物ではない。

 両親を殺した未知なる敵への復讐だった。

 それと同時に勇者として御役目を与えられ、調子に乗っていたのだ。

 自分だけが、自分たちだけが、世界を守り、人々を救い、明日へと導くことができるのだと。

 

 薄暗い快感に、勇者として活躍できることに心が躍った。

 しかし、現実は甘くなかった。

 

「アタシの、アタシのせいで……樹の人生が……!」

 

 この先、樹の人生はきっと過酷な物になるのは間違いないだろう。

 学校ですら既に音楽の授業で声が出ない為に問題が発生している。

 この先学校を卒業して就職することになっても、声を発することのできない樹は、

 これまで普通だと思っていたことすら困難になり、働き口にも苦労するのだろう。

 

 これから先、あまりにも重いハンデを背負って樹は生きなければならない。

 

「ちがっ……アタシはこんなこと……アタシが勇者部さえ作らなければ……」

 

 何度も拳を、額をテーブルに叩きつける。

 自責の念に、遅すぎる後悔に、自らをひたすらに傷つける。

 物には当たれない。当たってはいけない。

 この思いを樹に悟られてはいけないのだ。

 

「―――――っ」

 

 壊れそうになる心が、必死に何かを食い止める。

 それでも涙がこぼれ落ちる。心を震わせ、身を震わせ慟哭した。

 無知で愚かな自分を、誰かに断罪して貰いたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 そんな中で、自宅の据え置きの電話が鳴った。

 

「――――」

 

 砕けそうになる意識を繋ぎとめ、風は立ち上がる。

 居留守を考えたが、もしも緊急の物だったら……と考えると勝手に身体が動いた。

 リビングにある受話器を手に取り、耳に当てる。相手は女性だった。

 

「……はい、犬吠埼です」

 

『突然のお電話失礼致します。伊予乃ミュージックの藤原と申します。犬吠埼樹さんの保護者の方ですか?』

 

「はい……そうですが」

 

 グチャグチャの意識が、僅かにだが受話器の向こうの声へと向かう。

 口を開くとしゃがれた声が出たが、幸い相手は訝しむことなく淡々と用件を口にした。

 ―――――その内容が風の最後の何かを壊す。

 

『ボーカリストオーディションの件で、一次審査を通過しましたので、ご連絡差し上げました』

 

「…………何のことですか」

 

 受話器から届く単語を反芻する。

 歌手のオーディション。その一次審査を通過した。

 

『あっ、ご存知ないんですか? 樹さんが弊社のオーディションに……』

 

「い……いつ、応募をして……」

 

『えー、3ヶ月ほど前になりますね』

 

 3ヶ月前。

 その頃ならば、樹は自身の声を出すことができた。

 同時にその頃からか、少しずつ風の背中に隠れること無く、能動的に動くようになった。

 そういえば、その頃は樹もよくニコニコとしていたのを思い出す。

 

『樹さんからオーディション用のデータが届いてます』

 

 思わず受話器を落とした。

 その言葉に弾かれるように風は樹の部屋へと向かった。

 落とした受話器から聞こえる僅かな戸惑いの声は、既に風の意識の外だ。

 

「樹、入るわよ!」

 

 ノックをする暇も惜しく、風は慌てて樹の部屋の引き戸を開けて中に入る。

 乱雑に散らかる部屋の中を風は見渡す。

 

「いない……」

 

 ふと風の目が留まる。

 主のいない部屋、その机の上にノートが広がっていた。

 

 体の調子を良くする為の方法が。自らの咽喉を治すための治療法が。

 その模索された方法が。治せたら何をしたいかという樹の望みが。

 自らの願望を、そのまま全て書き込んだ希望のノートが、そこにはあった。

 

「―――――っ」

 

 奥歯を噛み締め、限界まで己の瞳を見開く。

 呆然としている風は、思い出したように樹のノートパソコンのハードディスクの中を覗く。

 

「……」

 

 やがてデスクトップにオーディションと書かれたファイルを風は見つけた。

 無言でマウスを操作してファイルを開く。

 

『あっ、ボ、ボーカリストオーディションに応募しました、犬吠埼樹です。 讃州中学1年生、12歳です。よろしくお願いします』

 

「―――――」

 

『私が今回オーディションに申し込んだ理由は、もちろん歌うのが好きだっていうのが一番ですけど、もう一つ理由があります。私は、歌手を目指すことで自分なりの生き方……みたいなものを見つけたいと思っています』

 

「―――――」

 

 その声に、風は座り込む。

 なんだこれはと思った。

 本当に樹は、歌手のオーディションに申し込んでいたのか。

 

『私には、大好きなお姉ちゃんがいます。強くてしっかり者で、いつもみんなの前に立って歩いていける人です』

 

「―――――」

 

『――――私は、本当はお姉ちゃんの隣を歩いていけるようになりたかった』

 

「―――――ぁ」

 

『だから、お姉ちゃんの後ろを歩くんじゃなくて、自分の力で歩くために、私自身の夢を、私自身の生き方を持ちたい。その為に今、歌手を目指しています!』

 

 目の前が歪む。

 やめて欲しい。自分はそんな素晴らしい人間などではない。

 自分は樹にそんな風に思われ、慕われる資格など決してないのだ。

 ただの私怨で残酷な運命に巻き込んだ、愚かで矮小で罪深い―――――、

 

『―――それで今は部活の時間がすっごく楽しくて……あ、ごめんなさい。余計なことまで話し過ぎちゃいました。では、歌います』

 

 そんな風の耳に、あまやかな声が届いた。柔らかな歌声が、風の心に染み込む。

 よくお風呂場で樹が歌っているのをこっそりと聴いていたのを今でも覚えている。

 

 祈りの歌。

 

 二度と聞くことのできない樹の声が、樹の歌が流れる。

 だが、もう二度と樹は夢を叶えることはできないだろう。

 そして、樹の望む自分の生き方は、その道は、永久に開かれないだろう。

 

「…………」

 

 残酷な現実に打ちひしがれる。

 そんな状況で風が呆然としていると、自らの携帯にメールが届いた。

 

「……」

 

 樹の歌声が主無き部屋で響く中。

 風は緩慢とした動きで携帯を手に取り、メールを確認する。

 

 大赦からだった。

 不安に駆られ、大赦に満開の、勇者の身体異常の調査を依頼したメールには。

 『肉体に医学的な問題は無く、じきに治ると思われます』という簡素なソレだけが返ってきた。

 

 あまりにも簡潔な文章には、人の温かみも優しさも感じられない。

 戦場から帰還した傷ついた戦士に対して、あまりにも冷たく感じた。

 

「あ、あぁぁ」

 

 大赦は嘘をついていた。

 こちらは既に情報を掴んでいた。治らないという情報と認めたくない確証がある。

 にも関わらず、“治る”という甘言を用いて、一体どこまで人を馬鹿にするのだろうか。

 ギリギリと端末を握り締める。

 

「アタシ……たちは……」

 

 こんな目に遭うために、遭わされるために、誰かの為に戦ってきたのだろうか。

 

「違う」

 

 決して楽しいものではなかった。夏凜のように、必死に努力した訳ではない。

 それでも、友奈と、東郷と、亮之佑と、夏凜と、樹の5人と、

 世界を、町を、何も知らない人々を護って来た。

 

 決して誰かに褒められたかった訳ではない。賞賛が得たかった訳ではない。

 ただの善意で、他の人にはできない事を勇んでやるという勇者部の理念に則って。

 そして、最後には勇者部の皆と日常に戻って、笑い合いたかっただけなのに。

 

「その結果が、これか……!!」

 

 ふざけるな。

 13体のバーテックスを、唯の人が撃退したのだ。たったの6人だけでだ。

 

 怖かった。痛かった。苦しかった。

 隣に立つ仲間と、樹と苦難を乗り越えて、血反吐を吐いて、涙をこぼして戦った。

 戦いの果てに、樹海へのダメージで人が死んだりもしたけれど。

 

 それでも自分たちはやり遂げた。戦い抜いたのだ。

 

 樹の声を犠牲にして。

 友奈の味覚を犠牲にして。

 東郷の聴覚を犠牲にして。

 亮之佑の色覚と何かを犠牲にして。

 

 多くの犠牲を出して。

 そんな全ての人類を危機から救った、勇者に与えられる物は――――、

 

「……ふざけるな、ふざけるなぁぁああああっ―――!!」

 

 心に黒い、どす黒い物が満ちる。

 感情が理性を殺す。

 原因は誰だ。風自身だろうか。きっとそうだろう。間違いない。

 そして、何よりも絶対に許せないのは、犬吠埼風が、許してはならないのは。

 

「大赦ぁ……」

 

 自らが報復する対象の名前を魂へと塗りこむ。

 ミシリと端末を軋ませるほどに少女は拳を握り締める。

 

「うっ……う、ああああああああああああああっ――――――!!!」

 

 風は叫ぶ。

 ソレは自らの肉親の夢を、未来を壊された事に。

 同時に、共に戦った戦友たちの未来を壊された事に対して。

 

 オキザリスの花が咲き乱れる。

 絶対に許さない。

 

「大赦を……潰す! アタシが! 大赦を! 潰してやるぅぅぅっ―――――!!!!」

 

 憎悪に満ちた声が部屋に響き渡る。

 勢いそのままに、大赦に向けて復讐を誓う。

 そして自宅の窓を壊して、片目に憎悪を滾らせた乙女が飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ---

 

 

 

 

 

 

 

 

 電話の指示に従い、予測されるポイントへ向かう。

 聞くところによると、既に夏凜と風が交戦している状態だという。

 

「風、あいつ大丈夫かな……」

 

 ソレに答える声は無い。

 いや、たとえ初代が何かを言っていても俺の意識には届かなかっただろう。

 そんな中で、

 

「―――――ぁ?」

 

 思わず疑問の声が出た。

 聞いたことの無いソレは、憎悪に溢れ、憤怒に染まり、殺意に満ちた声であった。

 そして自らの視線の先で、突如黄金の花が咲き誇り、俺は―――――――

 

 

 


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