変わらぬ空で、貴方に愛を   作:毒蛇

50 / 93
「第四十八話 慟哭の雨、武器はイラズ」

 オレが再び跳躍を繰り返し、大穴の開いた壁を通り抜けると、既に戦闘は終わりに近づいていた。

 

 真実に対して絶望し、世界を破壊しようとする者。

 真実を知り、破壊者の言い分を聞きながら、世界を守ろうとする者達。

 

「ハアァッ―――!!」

 

 盲目らしい風が大剣を振りかざすが、流石にそこまで命中精度は高くない。

 そんな風に対して、冷静に東郷が話をしつつ銃を向けるが、それを樹がワイヤーで封じる。

 東郷と樹、そして風が戦っているという状況が眼前で繰り広げられていた。

 そして既に状況は、東郷が優勢へと傾きつつあった。

 

 それも当然であると言えるだろう。

 錯乱を起こし視界を失くした人間がここまで来て、戦うことができているのが不思議なのだ。

 夏凜と別れる直前に、彼女自身の口から錯乱していたと聞いてはいたが、

 ツンデレ少女か勇者系少女のどちらか、もしくは両方が何かしたのかもしれない。

 

「だからあの時、遅れたのかもな……」

 

「……!」

 

「吹き飛べ」

 

 高機動多用途装輪車両。

 無人のソレを東郷の目の前に落とすと同時に爆破させる。

 重々しい地響きが鳴り、爆風に飛ばされ吹き飛ぶ東郷を見ながら、ようやく到着する。

 

「―――――」

 

 吹き飛ばされる東郷の姿を見ると何かがスッキリするのが分かった。

 ドン引きしたような、何かを言いたげな樹の目に対して、オレは笑って誤魔化す。

 恐らくだがワイヤー使いの少女に書くものを与えたら、即座に『うわぁ……』と書き見せるかもしれない。

 そんな己の想像に対してクツクツとした笑い声を上げながら、

 

「風」

 

「―――――あ、亮之佑!?」

 

「そうです、加賀さんちの亮之佑です」

 

 爆炎の熱とオレの出現に、思わずといった感じで驚愕の声を上げる風に爽やかに挨拶をする。

 オレの発した声の方向を向く風の瞳を覗くと、光を宿していない。

 それでも、その声には小さくも微かな芯が宿っていた。

 

「その様子だと、何か言われたか? 夏凜あたりに」

 

「友奈と樹にもよ。眼が見えなくても、精霊のサポートでなんとなく程度だけど分かるのよ」

 

「ほう、どんな感じですか」

 

 東郷を吹き飛ばし、僅かにではあるが時間が出来たので、多少の時間の埋め合わせをする。

 風の発言はつまり「たかがメインカメラがやられただけだ…… 」的な感じなのだろうか。

 聴力や匂い、精霊のサポートなどで最低限なんとか戦うことができているのかもしれない。

 

 大剣を肩に担ぐ風に緩慢な動きで近づき、どの程度見えるのかと思いながら、

 せっかくだからと風の顔や勇者服を至近距離から上から下へとジックリと眺めていると、

 

「そうね……アンタが変態そうな顔をしているのが分かるわ」

 

「失礼な。元からですよ、風先輩」

 

 微妙に判定しづらい回答ではあったが、この戦闘だけならなんとかなるかもしれない。

 そんな健全な先輩と後輩のじゃれ合いをしていると、

 

「亮之佑」

 

「なんですか」

 

「……ごめんね」

 

「―――――」

 

 迷子の子供のように、中空に伸ばされた風の手がオレの方へと向かった。

 無言でその手を取ると握り締められ、ごめんねともう一度、オレの方を向いて謝罪した。

 

「…………」

 

 風のやったことは、オレとしてはそこまで問題とは感じなかった。

 むしろ、予期される可能性の一つとして考えてはいたのだ。

 

「アレは風先輩がオレ達のことを思ってやった事なんですよね。なら悪くないですよ」

 

「で、でも」

 

「悪いのは先に裏切った方。つまりは大赦って事で今は良いじゃないですか。……それに、あの時オレが言った言葉は嘘じゃありませんよ」

 

「……」

 

 黙り込む風を見ながら、オレは思った。

 確かに風がした行動が正しい物であるかどうかと問われると、そうだとは言いづらい。

 あの戦いの最中に、多くの車や建物に損害を与えたりもした。怪我をした人もいるかもしれない。

 

 だがあの時の風は、感情に呑まれながらも、満開をしてでも確実に大赦を潰すという覚悟を示した。

 たとえ代償を支払うと分かっていても、絶対に大赦を潰して消し去るという意志を示したのだ。

 そしてオレは、風が抱いたその気持ちに対して理解が出来る。

 理解が出来るから、オレは風が剣を向けてきたことを許したいと思っている。

 

 東郷が吹き飛ばされた方向を見ながら、辺りを見渡す。

 相変わらず地獄のような光景ではあるが、昔ほどの怖さは感じなかった。

 オレは現在も気の抜けない戦場で、盲目の大剣使いの肩を叩く。

 

「しっかりして下さいよ、部長。こんな所で弱気になってたら東郷を止められませんよ」

 

「……ええ、そうね」

 

 硬い表情であった風が僅かに頬を緩めるのを見ると、自然と自身の頬も緩むのを感じた。

 そんな中、少々焦った表情の樹がオレのコートの裾を引っ張った。

 

「―――――どうした、樹?」

 

「―――――」

 

 オレが樹の方を見ると、こちらを上目遣いで見上げる金髪の少女はある方向を指差す。

 樹の指す方をオレも見る中で、視界が閉ざされた風はさすがに分からず尋ねてくる。

 

「どうかしたの?」

 

「えっと……」

 

 オレはその質問にどう答えるべきかを、後頭部を掻きながら数秒ほど頭で練り直す。

 現在オレ達がいる場所は、神樹が作った壁に大きな穴が開いた所である。

 ちょうど紅の世界が眼前に見え、背後に顔を向けると樹海が広がっている。

 

 この大穴から、先ほどまで膨大な数の星屑が流水の如く溢れ出していたのだが、

 

「星屑……敵の進行の勢いが止まって、外の世界に撤退してます」

 

「それじゃあ、アタシ達は勝ったの……?」

 

 僅かな安堵と期待を込めた声で我らが部長が聞いてくるが、

 

「残念ですが、凄まじい勢いで獅子座が復活しようとしてます」

 

「えっ」

 

 大穴の向こうに広がる世界。

 その先にある不完全な状態であった獅子座の損傷部分を星屑が埋め合わせていく。

 だがまだ完全には修復されていない為か、獅子座自体の動きは非常に鈍いものになっている。

 

「…………」

 

 虚空から携帯式対戦車擲弾発射器を出現させ、肩に載せる。

 照準装置から狙いを定め、やや遠くにいる不出来なソレとの距離を測る。

 少し風達と距離を離し、引き金を引くと、相変わらず凄まじい反動が肩を襲う。

 同時に開口している砲尾から後方に向けてバックブラストが起きる。

 

 発射と同時に加速した黄金の砲弾は、安定翼を開き回転し、狙った獲物を捉えるべく飛翔する。

 途中、迫る砲弾に気づき止めようとする星屑を回転するソレが弾き飛ばし、標的に迫る様子をオレと樹は見ていたのだが、

 ―――――横から迫る収束された蒼きビームが黄金の砲弾を破壊した。

 

「―――――!」

 

「東郷ぉ……」

 

「……退いて下さい」

 

「退くわけないでしょ!!」

 

 苛立つ己の声に対して、あくまでも低く平静な声で東郷が告げる。

 腕を組みこちらを見下ろす東郷は、覚悟を決めた剣呑な目つきをしていた。

 既に満開を行ったのか、浮遊型移動台座の上で、8つの砲台が光を収束し、

 

「――――ごめんなさい」

 

 何への、誰に対してかが不明な謝罪を告げた東郷は、こちらに向けてその一撃を叩きつけた。

 その攻撃にオレ達は、文字通り樹海の方向へと焼き払われた。

 

 

 

 ---

 

 

 

 本日何度目か忘れた意識の浮上で目蓋を開けると、近くに転がり呻く風や樹が視界に入った。

 更にその頭上で、オレは太陽を見た。

 

「―――――ぁ、あぁ」

 

 獅子座【レオ・バーテックス】が復活を果たしていた。

 奴の作った火の玉が、明確な殺意を持って東郷と射線上にいる神樹を狙う。

 

 そして火の玉は放たれ、東郷は颯爽と回避した。

 東郷を狙った炎の塊は轟と音を立て、そびえ立つ神樹に向かう。その炎の塊に手を伸ばす。

 

 いつの間にか解けていた変身をするべく立ち上がろうとして転がる。

 軋み鈍い頭痛と眩暈、身体の芯にまで響くような耳鳴りに苛まれる。

 間違いなく先ほどのレーザー攻撃の直撃を受けた所為だろう。

 

「は――――――、あ――――――」

 

 このままでは世界が終わる。

 東郷によって、獅子座の一撃で、終わらせられる。

 

 まだまだ未練だらけの人生だ。

 やりたい事、成したい事、遊びたい事、叶えたい約束や夢。

 まだオレは死にたくはない。

 

「―――――っ」

 

 身体は動かない。

 まだ生きたいと叫ぶ意志に反し身体は軋み、ただただ悲鳴を上げるばかりだ。

 マグマの如き憤怒も、闇よりも深い憎悪も、全ての感情を人形のように動かないソレに籠める。

 それでも肉体は苦しいと、休ませてくれと訴えるだけだ。

 

「―――――」

 

 ふと、もう駄目だと思った。

 思ってしまった。

 理不尽に振り回され、不条理に取り残されるのは一体何度目なのだろうか。

 

「――――勇者ァ」

 

 そんな事を考える中で。

 己の眼だけが来たる世界の崩壊を眺める中で、僅かにだが諦観を抱く中で、その声を聞いた。

 オレは知っている。きっとこの世界の誰もが絶望に屈する時が来ても、

 彼女ならば、怖さを噛み締めて、苦しさを押し殺し、恐怖を勇気が凌駕するだろうと。

 

「パアアアァァァアアンチ―――――!!」

 

 桜色の光を纏った勇者が樹海から飛び立ち、自らの拳を炎に振るう。

 その一撃が、もう無理だと感じさせた絶望を弾き飛ばす。

 その光景を自らの不調を忘れてオレは見た。

 

 強靭な意志を秘めた双眸は、色褪せた世界の中でも燦然たる輝きを放つ。

 決して諦めないという表情が、その生命の輝きが、やけに瞳に焼き付く。

 

「……友奈」

 

 四散する爆炎の中、着地する少女の名前を呟くと、聞こえたのかこちらを振り向いた。

 

「―――遅れてごめんね、遅刻しちゃった」

 

 震える身体は未だに動かず。

 必死な意志で、鋼鉄のように固まる身体を立たせようとオレはもがく。

 その動作を見届ける赤い瞳が、決意に溢れ、確かに聞こえる声ではっきりと言った。

 

「もう私は迷わない。私が勇者部を、東郷さんを守る!」

 

 

 

 ---

 

 

 

 親友同士の戦いが始まる。

 一方は、この世界を破壊して一緒に消えようとする東郷だ。

 対する相手は、そんな彼女すら守ろうと頑張る友奈。

 

 東郷のファンネルを握り締めた拳で破壊しつつ、獅子座を破壊しようと迫る友奈を、

 東郷の指示に従う移動台座の主砲が蒼いレーザーを放ち妨害する。

 

「そいつがたどり着いたら、私たちの世界が無くなっちゃう!」

 

「それでいいの……一緒に消えてしまおう」

 

「よくないっ……!!」

 

 完全に凝り固まった思考の東郷を一蹴し、友奈は満開する。

 上空に桜の花が咲き誇る。

 

 その様子を、戦いを見ながら、オレはなんとか肉体を起こす。

 気を抜けば無気力になりそうな己の心を奮いつつも吐息をこぼす。

 一人で消えればいいのにと、ラスボス系少女に対してオレは思った。

 

 結局、東郷がやっている事は全て独り善がりでしかない。

 だからこそ、勝手な想いを抱き、勝手に世界を破滅に至らしめる行動をする東郷が許せない。

 

 しかしだ。

 確かに東郷の言うように、見知らぬ人々の為に自分の大切な人が傷つくのを見たくはない。

 その通りだ。ここまでは分かるし、共感も抱ける。

 無知な人間など生きているだけで罪なのだ。いくら死んでも仕方がないで済む。

 

 だが、オレはここまでしか共感できない。

 行動が遅い。徹底的な行動ができていないから、友奈に防がれているのだ。

 東郷の所為で、先ほど友奈は自らの肉体を捧げるルーレットを回してしまった。

 

 オレは疑問だった。

 どうしてそこで戦うという決断ができないのだろうか。

 世界を壊すという逃げではなく、仲間と共に戦うという考えができないのだろうかと。

 

 大切な物を失くすくらいなら、一緒に消えてしまおうという願望を抱くのではなく、

 失くさないように自らの全てを賭して、大切な物を守り抜けばいいだけの話なのだ。

 そんなオレの考えに同調したかのように、友奈は叫ぶ。

 たった一人の心に届くように、その心の奥まで響くように叫ぶ。

 

「東郷さん! どんなに辛くても、私が東郷さんを守る!」

 

「どうしてそんな風に思えるの!」

 

「私が、勇者だから! 私は忘れない。絶対に東郷さんの事を忘れない! 滅茶苦茶に、メッチャクッチャに東郷さんと築いた思い出、作った物を一生、絶対に忘れないから――――!!」

 

 そんな男前な告白のような叫びを聞きながらオレは辺りを見渡す。

 樹と風は意識は戻りつつあるが、戦線復帰には少し時間が掛かるだろう。

 夏凜は……よくやってくれた。今はいない戦友に心の中で敬意を示す。

 

「私だって、きっとそうだった……」

 

「……」

 

「でも、結局は忘れてしまった。どれだけ想っても、どれだけ抗っても、結局は忘れてしまったの!」

 

「―――――っ」

 

「今ではもう、こぼす涙の意味すら分からない! 私は嫌だよ! また無くすのも、失うのも!! 友奈ちゃんにも、亮くんにも、風先輩にも、樹ちゃんにも、夏凜ちゃんにも。誰にも忘れられたくないっ! 私も誰かをまた忘れたくなんてないよ―――!!」

 

 そんな彼女の慟哭に僅かに友奈が怯む。

 東郷が言っているのは『わっしー』、つまり鷲尾須美を名乗っていた時代だろう。

 その時の話もいくつか園子から聞いた。

 そして多くの思い出を聞かされたオレは、だからこそ東郷の想いを否定しなくてはならない。

 

 限界はとうに超えている。

 それでも、今だけはやらなくてはならない。

 飛ばなければ、同じ場所でなければ、何も言うことはできないのだから。

 

「―――――満開」

 

 命を弾丸にルーレットを回す。

 首に下げた指輪が輝きを放ち、自らを中心に紫黒色の花が咲く。

 勇者服へと再び姿を変えて、上空へと、彼女の乗る浮遊する移動台座へと飛翔する。

 意識が友奈へと向いていたからか、運よく何の妨害も無く着地する。

 

「……!」

 

「オレ達は覚えているよ、東郷」

 

「嘘よ」

 

 一歩。

 正面に到着し、オレは東郷へゆっくりと歩いていく。

 拳銃を向ける東郷に対して武器を持たずに、警戒する少女へと構わず近づいていく。

 

「この先、東郷がオレ達を忘れてしまっても、オレ達が東郷を覚えているから。この先たとえ東郷の記憶を失くす時が来ても、オレ達は傍にいるから。何度忘れても、オレが、友奈が、風が、樹が、夏凜が、お前と何度でも記憶を育むから」

 

「嘘」

 

 一歩、一歩。

 理不尽に怯え、失うことの恐怖に目の前が見えない少女を諭していく。

 最後の一歩で、そっと東郷の手を拳銃ごと握り締める。

 

「オレも、友奈も、一緒にいるよ……だろ?」

 

「うん。東郷さん、私も亮ちゃんも、皆も東郷さんと一緒にいるよ。ずっとずっと一緒だよ。そうすれば忘れないよ」

 

 背後に気配を感じ、問いかけると即座に返答が返ってきた。

 背中のリングごとアームを解除し、友奈はオレの横を通り、東郷を抱きしめる。

 友奈に抱きしめられた東郷は不安を顔に貼り付け、こちらを見る。

 

「ほんとうに……?」

 

「うん」

 

 忘れたくない。

 忘れられたくない。

 どんな事を言っても、結局はソレだけだったのだ。

 

「どうしてそう思えるの……?」

 

「私がそう強く思っているから」

 

 友奈が答える。

 そうして友奈は彼女の心を蝕む絶望を、東郷の身に宿る昏い感情ごと抱きしめた。

 そしてオレも、無言で二人を優しく包み込むように抱きしめた。

 

 男ならともかく、可愛い女の子を殴り倒したりなんてことはしない。そんな物は紳士ではない。

 だから精々が押し倒して、泣き出すまで徹底的にくすぐり倒す程度だが、今は我慢する。

 やがて、

 

「忘れたくないよ……私を一人にしないで……」

 

 そんな子供の癇癪のような事を言って、東郷の瞳から昏い物が流れ落ちていった。

 嗚咽と共にポロポロと何かが剥がれるように泣く東郷の眦からそっと熱いソレを拭っていると、

 そんな随分と久しぶりに感じる和やかな状況に、水を差す者がいた。

 

「ん……? 何……?」

 

「太陽……?」

 

「いや、獅子座か……」

 

 少女達の柔肌を抱きしめながら、背後に感じる熱に振り返ると、

 全ての星屑を集結させ、自身を一つの太陽の如き形態にした獅子座が、ゆっくりと神樹へと向かっていた。

 

 あんな物が神樹どころか、樹海に当たるだけでも大惨事だろう。

 正直失う物が無い身だが、ソレを言うと流石に顰蹙を買いかねない。

 東郷の撃破、もとい説得に随分と時間を取られた結果とも言えるだろう。

 世界を破壊しようとした張本人もようやく状況を呑み込み、後悔の声を漏らす。

 

「私、なんてことを……」

 

「そんなっ、東郷さんのせいじゃないよ!」

 

「……いや、間違いなくコレは東郷、お前の所為だ」

 

 東郷美森の暴走の結果、壁を破壊し、大量の侵略者を招き、仲間に切り札たる満開をさせた。

 それは間違いなく東郷の責任であるとオレは思う。

 涙を拭きとり、罪人を抱きしめるのを止めて立ち上がり、その深緑の瞳を見下ろす。

 そんなオレの瞳に、言葉に対して、東郷は思わず息を呑む。

 

「亮ちゃん!」

 

「いいの」

 

 庇うように優しさを示す友奈だが、ソレを東郷は止める。

 確かに友奈のように「悪くない」と言い、優しさを与えることはできる。

 だが、誰かがソレを糾弾しなければ、罪に対して罰を与えることはできない。

 

「東郷」

 

「はい」

 

「お前の力が必要だ。命を懸けて友奈を守りたいなら、お前の力を貸せ」

 

「―――――」

 

 手を東郷に伸ばす。

 状況は全く芳しくはない。敵は減ったが、それでも防衛側が不利な状況だ。

 だからこそ、オレは再び反逆者に向けて、微かな笑みを添えて手を伸ばす。

 

「キミが、東郷さんが必要なんだ。神樹の防衛に力を貸してくれ」

 

 そんなオレの言葉に呆然とする彼女だったが、

 

「……はい」

 

 そうしてオレの赤い手袋越しに彼女の白い手が乗せられた。

 今のオレの状態も悪くない。

 言いたい事を言ったからか、内側で熱を発していた憎悪も殺意もだいぶマシになった。

 

 正直に言って、今ならなんとかなる気がする。

 根拠も何も無いが、常に計算尽くしである訳ではないのだ。

 

「さて、それじゃあ始めますか」

 

 不敵な笑みを浮かべオレが言うと、友奈と東郷はコクリと頷いた。

 それから――――

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。