変わらぬ空で、貴方に愛を   作:毒蛇

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そして数日遅れながら、園子様誕生日おめでとう。


「第五十三話 私だけを見て」

「どうかな~?」

 

 静寂な空間に突如少女の間延びした声が響く。

 加賀家の自室で、俺のベッドで転がる園子の気配を背中に感じながら、

 俺は自前のノートパソコンで園子が書いたのだというネット小説を読んでいた。

 

 奇術の腕を周囲に披露したり、変装して病院に侵入したりする程度のアグレッシブさがあると自負しているのだが、反対にそれと同じくらいに俺は読書家であると自称している。

 

「……」

 

「……」

 

 目から入る言葉が、水晶体や網膜を突き抜けて頭の中に入り込む感覚。

 積み重ねられた多くの文字を読み取り、己の中で一つの確固たる世界に作り変える。

 小説とはコレが楽しいから止められないのだと、両目で文面を追いながら俺は思った。

 

「―――――」

 

 背後から無言で向けられる少女の視線を黙殺しながら、やがて最後の行を読み終える。

 目を閉じると物語の余韻が残り、ソレを優しく呼吸しながら吐き出す。

 その行為で読み終えたことを察しながら、無言を保っていた作者が再度問いかけてくる。

 

「ねえ、かっきー。それで……」

 

「……」

 

 催促する声に俺が振り返ると、期待の表情を浮かべ、煌めかせた琥珀の瞳を園子が向けていた。

 俺の寝台にその身を預け、以前目の前の少女から貰ったピンクのサンチョを柔な体で抱き込む。

 

 目の前の読者がどんな感想を言うのか気になっているのだろうか。

 両腕で俺のサンチョを抱きしめ、奇形の何かへと変貌させていることに園子は気づかない。

 もしくは気づいていながらも、優先することがあるのだろう。

 

「……」

 

 そんな少女の目の前であえて薄く微笑み、余裕の表情を俺は浮かべた。

 寝台の端に腕を乗せ、少女との距離を僅かに縮めながら口を開く。

 

「面白かったよ」

 

「良かった~」

 

 無骨で面白みに欠ける感想に、園子は華を咲かせたような笑みを浮かべ再度寝台に身を転がす。

 ベッドと少女との間にサンチョを挟みこみながら、頬杖を付いて園子は言った。

 

 コロコロと柔らかな笑みを浮かべながら少女が寝台を転がる度に長い金髪が乱れる。

 昔と異なり彩色に穏やかさの増した金色の長い髪を無造作にシーツの上に広げる。

 園子の腕に抱かれ潰されているサンチョと場所を変わりたいと思いつつ、

 

「それにしても、園子がこの小説の作者さんだったなんてな」

 

「うん」

 

 白い肌を惜しげもなく晒し、無防備に寝台に乗る少女を見ながら俺は声をかけた。

 シーツに己の頬を押し付けながら、顔を横にして見上げてくる。

 

「結局、かっきーには今まで私の小説を読んで貰う機会がなかったからね~。かっきーはその様子だと以前から知っていたの?」

 

「ああ、これでも俺は文学少年だからさ。結構小説とかは色々と読むんだよ。その関係で偶然見つけたのが園子の作品だったって訳だ」

 

「ほへー」

 

 以前から何の因果か己の小説を読んでいたという俺の言葉に対して、

 園子は意味を判別しづらい言葉を発する。

 

「園子はさ、小説書くのが好きなんだな」

 

「そうだよ~。私は恋愛小説を読むのも、小説を書くことも好きなんよ」

 

 両手を合わせ、園子は本格的に潰れ始めたサンチョの上で嬉しそうに肩を揺らす。

 その可愛らしい無垢な子供のような態度に、俺はそっと苦笑で応じる。

 

「少し偏りが見られるけどな……」

 

「えー、そんなことはないと思うけどなぁ」

 

 少女の嗜好なのか、少し女性と女性の絡みがある小説もあった。

 もちろん園子が主張する通り、『スペース・サンチョ』なる独特な世界感の小説も書いてたが。

 ふと、以前から読んでいたという言葉に対して疑問を抱いたのだろう、

 

「じゃあじゃあ、かっきーは私の書いた中でどの作品が好きなのかな……?」

 

「うん? ……そうだな」

 

 園子によるやや唐突な話題の転換が、気だるいような間延びした口調で発生する。

 ほにゃりとした顔を見ながら、その言葉に俺は自分の顎に指を当てて、

 

「――――あの執事とお嬢様の話かな」

 

 ふと自らの脳裏に過った、ある作品名を口にした。

 口調の荒っぽい行動力に溢れた執事と、無口だが可憐なご令嬢。

 彼らを中心としたラブロマンスとも言える切ない話の多い作品であったのを覚えている。

 明るい話もあれば、濃厚で暗い雰囲気で描かれる官能的な話が個人的には気に入っていた。

 

「あの話か~」

 

「ああ、あのなんとも言えない二人の関係が読んでいて面白く感じたよ」

 

「……そっか」

 

 そう言って園子は己の顔をサンチョに埋める。

 マーキングでもしているのかと思い、そのままフリフリと揺れる金髪を見ていたが、

 やがて園子の動きが緩慢な物となり遂には動かなくなった。

 

「園ちゃん……?」

 

「―――――」

 

「園子?」

 

 返事がない。どうやら屍になったらしい。

 動かない屍に手を出すべきか悩んだが、フェイントの可能性もある。

 念のためもう一度名前を呼ぶが、俺の言葉に園子は一切の反応を見せない。

 

 埒が明かないように見えるが、俺は焦ることなく対応する必要がある。

 それが乃木園子との接し方であるのだから。

 

「……」

 

「――――ん」

 

 慎重に自分の手を伸ばし、金色の髪越しに園子の頭に触れる。

 綿のようにふわふわとした長い金色の髪は、彼女の背中を飾っている。

 癖のないその真っ直ぐな髪の感触を自らの手のひらで感じながら、

 

「…………ん……あ、寝ちゃってた。ごめんね~」

 

「―――うん、知ってた」

 

 園子が自らの頭を撫でる手のひらによって再覚醒を果たす。

 無言で撫でられながらも、信頼を宿した瞳をサンチョと金色の髪の束の間から覗かせる。

 少しの間そんな風な触れ合いをしていると、園子は自身の眦を和らげた。

 

「えへへ……」

 

「ご満悦ですかの、姫」

 

「うむうむ、よろしいですの~」

 

 弛緩しきった肢体を俺の寝台に乗せ、同じくらいに緩んだ顔をする。

 そんな顔を見下ろしながら何となしに髪を撫でていると、ふと眼が合った。

 

「それで、今日は一体どうしたんだ……?」

 

「ん~、ちょっとだけお願いがあるんだけどね」

 

 園子の言葉を聞きながら、こぼれ落ちる髪を梳いていた指を移動させて顎に這わせる。

 その行為に対して、くすぐったそうに目を細めながら、

 

「かっきーはあの作品を読んでくれたんだよね?」

 

「そうだな……もう一度言うけど、俺はあの作品が好きだったよ」

 

 あの作品は幼馴染であったという二人の男女が様々な経験を積んで成長するという物であり、

 全十五章という園子の書いていた長編物は、俺が見つけた時にはもう最終章に入っていた。

 

 当時俺が勇者部と園子探しを併行して行い、溜まり始めたストレスを酒で誤魔化してた頃、

 ふとその小説が目に入り、なんとなくで読んでいたら非常に琴線に触れた。

 

 皮肉な話である。

 探していたはずの相手が書いている小説を読んでストレスを解消させていたのだから。

 

「――――だが一つだけ気に食わない所があった」

 

「……」

 

「最終話だけが書かれないで、未完で終わってしまったことだよ」

 

「……」

 

 仰向けになった園子の顔を俺は見下ろす。

 お互いの顔が近づき、息遣いが聞こえる中で、園子の瞳に俺の顔が浮かんだ。

 

 整った形をしている顔だと思ったら自惚れでしかないのだが、

 個人的には温厚か、穏やかな性格であると自負しているが、それらをある部位が消し去っている。

 自らの瞳の色が、園子の艶のある眼が映し出す光景の中で最も際立っていた。

 

「……それでそのお願いって?」

 

 彼女の長い睫で埋まりそうな目からそっと目を逸らしながら、俺は問いかけた。

 

「うん。あの作品はね、どうしても最終話の展開が決められなくて。いい感じに喉からアイデアが湧き出そうなんだけどね」

 

「要するに、スランプって事か?」

 

「―――あんまり言いたくはないんだけどね~。そもそもあの作品は私の個人的な願いを籠めて書いてたから。ある意味で身勝手な願掛けみたいな物だったんよ」

 

 そう言いながら、仰向けに寝転がっていた園子は大きな瞳を揺らしながら再度口を開いた。

 

「でも、かっきーが協力してくれるなら続きを書けそうな気がするんだ~」

 

「協力」

 

「うん。あっ、難しいことじゃないんよ。ちょっとかっきーに演技をして貰えれば、インスピレーションが湧いてきそうな気がするんだけど……」

 

「なるほどね……」

 

 園子の頼みとは、簡単な演技を実際に目の前でして貰いたいという事であった。

 よっぽどな頼み事かと思い、僅かに強張らせていた身体が弛緩し始めるのを感じながら、

 その程度の事ならと、何よりも目の前の少女の為ならば一肌脱ごうじゃないかと俺は思った。

 

 

 

 ---

 

 

 

 了承を貰えたことに目を輝かせ、瞳の奥に星を煌めかせた園子は薄めの本を取り出した。

 特に何かが書かれている訳ではない表紙を捲ると、結構な量の文章が書かれていた。

 

 その多さに思わず眉を寄せ流し目で園子の方を窺うと、ほにゃりとした笑顔が返された。

 薄い本と言えども結構な量があれば面倒でしかないのだが、

 

「……」

 

「ん~?」

 

 今更断るのも園子に悪い気がした。

 長い髪をなびかせ悪戯っぽく笑う彼女に薄い笑みを浮かべ、暗記する作業を始め、

 それから2時間が経過した。

 

「おーい、おれのおんなに、てを―――」

 

「疲れたのかな?」

 

「……うん」

 

「そろそろ休憩しよっか」

 

 最初の頃はノリノリで演技していたのだが、少し前から疲れ始めた。

 疲れ始めるとふと目に付くのが台本に書かれている執事役の台詞の内容である。

 

 何かこうゾクゾクするというか、背筋が痒くなるような臭い台詞が多い。

 これは作品内に出てくる『柿原』という執事のキャラクターの台詞なのだが、

 ふと疲れて素面に戻った際に、「俺は何を言わされているんだ」と思ったりした。

 

 この執事は、少し荒っぽい口調が特徴的であるが、それでも主である『苑』という令嬢に対して、

 無骨ながらも気障な紳士さと正反対の強引さを兼ね揃えた存在である。

 一体どこからこんなキャラクターを創作したのかと聞いてみたが、

 当の作者様は、僅かに朱色を帯びた頬を緩めて微笑みながら「秘密」と言うばかりであった。

 

「こんな物しかなかったけど、はい」

 

「ありがと~」

 

 両手を叩き、手のひらから適当な菓子の類を出現させたように見せると、

 園子は目を輝かせながら子供のように無邪気な笑みを浮かべて受け取った。

 自らが出した菓子は、『うどん饅頭』という白い饅頭なのだが、中の白い餡子が美味しい。

 

 正直うどん要素が感じられない名ばかりの饅頭を胃の中に収めると、

 ふと飴玉のような瞳がこちらを見ていることに気づいた。

 

「……どうした?」

 

 少女も気に入ったのだろうか、3口ほどで平らげたのでおかわりの催促かと思ったが、

 

「今思ったんだけども、さっきのお饅頭がかっきーのカロリーを消費して作られていたら凄いな~って思って」

 

「……いやいや、そんなビックリ展開は無いから」

 

「あっ! 閃いた~」

 

「……」

 

 魔法使いになった覚えは無いので否定するが、少女は既に聞いておらず寧ろ何か閃いたのか、

 必死に自らの手帳に何かを書き込む姿を俺は寝台に寝転がりながら見ていた。

 瞳に星を宿した金色の髪の不思議な少女を見ながら、ふと寝台に園子の匂いを感じた。

 

「―――――」

 

 無言で仰向けになり、柔らかで優しい香りを肺に満たしながら、

 先ほどの台本を再度ペラペラと捲っていると、ふと思いつくことがあった。

 

「園子」

 

「園子だよ~」

 

 寝台に寝転がっている俺が近くでサンチョを抱きしめている少女の名前を呼ぶと、

 ちょうど俺のお腹部分に向かって頭突きを食らわせんばかりの勢いで飛び込んできた。

 

「ちょっとお願いがあってさ」

 

 そう言いながら、台本部分に書かれていたある部分を読ませようとすると、

 その部分を読んだ好奇心に目を輝かせていた少女が僅かに目線を逸らした。

 

「ここを是非、園子様にやって欲しいなって」

 

「……私ってあんまり演技って上手じゃないんだけどな~」

 

「いや、そんな事は無いと思うな」

 

「またまた~、かっきーは煽てるのが上手いな~」

 

 その行は、ある種の告白めいた文章であった。

 この後俺に言わせるつもりであった少女は、辺りをキョロキョロと虚しく見回す。

 しかし、周りには誰もいなかった。

 そんな少女に俺が悪戯っぽく笑いかけると観念したらしく、

 

「……私の役者人生に賭けて頑張るよ~」

 

 と、微妙に恥ずかし気ながらも妙な決意を漲らせて園子は告げた。

 

 

 

 ---

 

 

 

「かっきー」

 

「園ちゃん」

 

 互いに名前を呼び合う。

 その特に何かの意味を持たない呼び合いをしながら、意識を速やかに演技用に切り替える。

 園子も真面目に頑張るらしく、気合いの入った表情をしているが、

 

「かっきーはそのままでいて」

 

「ん……?」

 

 寝台に横たわっていた身を起こそうとしたら、園子がなぜかのしかかってきた。

 さして重くなく寧ろ軽めの身体は、俺の下半身に腰を下ろした。

 なんのつもりかを目線で問いかけるが、その視線を園子は無視して演技を始めた。

 

「あー、ごほんごほん。さて貴方は……私の事が好きですか?」

 

 寝台の上で男女が触れ合いながら愛の告白(演技)をするという状況。

 見知らぬ第三者が見たら勘違いを起こしそうな状況下で、園子はノリノリで演技をする。

 何がそこまで彼女を楽しませているのかと思いつつも、せっかくなので本気で頑張る。

 

「――――当たり前だろ。俺にはお前しか見えねぇよ」

 

「…………」

 

 そんな(台本に書かれていた)台詞を、瞼を見開きながら己の上に乗る彼女に告げると、

 僅かに頬を赤らめながらも園子は演技を続ける。

 

「そ、そうですか。それでは私に永遠の愛を誓えますか?」

 

「あ、ああ」

 

 告白シーンなためか、微妙に緊張する。

 こちらを見下ろす園子が小首をかしげて台詞を放つと、簾のように金色の髪が落ちてくる。

 熱が篭っているからか前傾姿勢になりつつも、顔を僅かに赤くし演技する園子に感心しながら、

 せっかくなのでこちらも奇術師として、最大限期待に応えるべく残りの意思を振り絞る。

 

「もう一生私以外の誰も好きにならないって誓えますか?」

 

「誓うよ」

 

 喋りながら、やはり小説の通りに中々に重い愛である設定のご令嬢だなと思う。

 

「なら貴方の頭の天辺からつま先まで、髪の毛一本も残さず全てが私の物になると誓えますか?」

 

「ああ、誓おう」

 

「…………」

 

 無言になる園子に対して、もしかして台詞を忘れたのかと思ったが、

 見上げて映りこむ園子の瞳には深く隠された感情が、妖艶の色が奥に見えた気がした。

 独占欲や諸々が強いという令嬢のキャラクターを再現しているのだろう。

 そう思った。思うことにした。

 

「なら、かっきーは私以外の人と話さないと誓う?」

 

「ああ、約束するよ」

 

「――――そっか。嬉しいな」

 

 そう言った園子は一瞬だけ瞼を閉じる。

 そうして再度開かれた琥珀色の眼の奥には、微笑みに似た淡い光を浮かばせていた。

 

「それじゃあ、私は貴方だけの物になる。頭の天辺からつま先まで、この髪の毛一本に至るまで全てが貴方の物」

 

「―――――」

 

 そう言い終えると、その身体をゆっくりと俺の身体に合わせるようにしな垂れかかった。

 しな垂れかかると二人分の重さに、寝台が少し沈み込んだ。

 ふとどんな顔をしているのか俺は気になり、首部分に顔を埋めている園子の顔を窺うが、

 長い髪が園子の顔を隠しているため見ることが出来ない。

 

「ふ――――」

 

「……ひぅ!」

 

 このまま沈黙を保っていると心臓の音を聞かれそうだと思いつつ、

 形の良い耳を金色の髪から覗かせているのと、ちょうど良い距離にある為に息を吹きかけた。

 その瞬間、ビクリと身体を震わせ、耳を押さえながら慌てて園子は顔を上げる。

 

「どうしたの? 園ちゃんや」

 

「――――。……なんでもないよ~。なんとなくかっきーに抱きついてみたくなったんだ~」

 

 そうして上目遣いで甘えるような表情をする園子は、

 視線に微かに揶揄するような色合いを混じらせつつ、いつも通りであった。

 えへへと笑いながら、いつも通りの様子であった。

 

「それよりも、私の演技どうだった? 役者で生きていけると思う?」

 

「え? そうだな。良かったと思うよ」

 

「わぁ〜……!! かっきーに褒められた!」

 

「俺ってそんなに褒めないっけ?」

 

「あんまり聞いたこと無かったかな~」

 

「……よーし、園子偉いぞー」

 

「わぁ~、凄く雑な褒め方~」

 

 そんな風にコロコロと表情を変える園子は、虚脱したように俺の身体の上に寄りかかっていた。

 東郷ほどではないが、友奈よりもある柔らかな感触が間で押しつぶされるのを感じながら、

 ふと園子が手を伸ばして俺の頬に触れた。

 

「……?」

 

「赤いね」

 

 いつの間にか真顔になっていた園子は俺を見ていた。

 俺の紅の瞳を見ていた。

 

「……変か?」

 

「ううん。ウサギみたいで可愛いよ」

 

 結局、一番最初に出た満開の後遺症は治らなかった。

 色覚や視界に何か問題がある訳ではないが、単純に眼の色が黒に戻らなかったのだ。

 俺としてはそんなに問題視してないが、時々部活メンバーや東郷の視線に何かを感じることがあった。

 だが、それだけだ。

 

「もうこんな時間か」

 

 そっと横に園子の身体を移動させると、身体に掛かっていた圧迫感が消えるのを感じた。

 寝台に身体を横たえながら、同じく横になる園子の方を向くと少し離れた時計に目が行った。

 

「園子、俺の演技は役に立ったか?」

 

「うん、創作意欲がグングン湧いてきたよ」

 

「それは良かった。……せっかくだから夕飯を食べていくといい」

 

「わーい! かっきーのご飯だ~」

 

 そろそろ夕飯の準備を始める時間になった。

 寝台から今度こそ身を起こしながら、園子に手を伸ばした。

 その手を取りながら、園子も立ち上がった。

 

「料理長。今日の夕飯は何ですか?」

 

「料理長って。あんまり大した物じゃないけどな……。それじゃあ――――」

 

 部屋を出ながら、俺は今日の献立を考える。

 己の脳裏に浮かぶ冷蔵庫の中身を思い出しながら、園子に不敵な笑みを浮かべた。

 その笑みに気づいた少女は、少し艶の感じられる妖艶な笑みを返してきたのだった。

 

 

 

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