変わらぬ空で、貴方に愛を   作:毒蛇

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「第七十六話 変わらぬ空で、笑い続けて」

 生前、俺がニートとなり数日、とあるゲームをしていた時の話だ。

 

 いわゆる『ロールプレイングゲーム』という勇者が魔王を倒し世界を救うというゲーム。

 主人公はその旅路で仲間や武器を集め、敵を倒し、最後に邪悪の根本たる魔王を倒して終了。

 「世界は平和になりました」とエンドロールが流れる度に、素直という言葉を失くした俺は言う。

 

「そんなわけないだろ」

 

 世界全土に蔓延る邪悪な魔物たち、奴等が一匹でも残っている限り、平和などありえないと。

 魔王という頂点を排除しても、烏合の衆となった敵軍から新しい魔王が生み出されるかもと。

 魔王が死んでも、結局は魔物が同じ世界に居続ける限り、自由も安寧もまた蹂躙されるだろうと。

 

 そう捻くれた俺は、そんな風に思ったことがあったのを覚えている。

 何故だか、当時の思い出が蘇っていた。

 

「ちょっと、亮之佑。話聞いてる?」

 

「――。ん~、昔の話を思い出しててな。いや聞いてたよ」

 

 唐突に掛けられた少女の声音、夏凜の声に振り向きざまに苦笑する。

 俺は現在、勇者部の部室にいた。周囲を見回すと可憐な少女たちが黒板に絵を描いていた。

 彼女たちに加わらずに俺の隣で腕組みをする二刀流使い、夏凜はおもむろに口を開いた。

 

「もうすぐ風も卒業ね……」

 

「あと1ヶ月ほどあるけどな」

 

「そうよ。卒業しても遊びにくるわよ、アタシは」

 

「お、そうですか」

 

 聞いていたのか背後にいた風が話に乗ってきた。

 未だに妹離れが出来ない大剣使い、姉御肌である勇者部部長はこちらに視線を向けてくる。

 いや、既に部長ではなかったと俺は頭を横に振りながら呟き、新しい部長に目を向ける。

 

「――らしいけど、樹はどう思う?」

 

「えっと……お姉ちゃん、あんまり来なくても私は大丈夫だからね?」

 

「がーん!!」

 

 新しく決まった部長、樹は困ったような、しかし嬉しそうな顔をして少々慌てた声で応じた。

 その言葉を成長と取ったか否定と取ったのかは不明だが、衝撃的な顔を風はしていた。

 擬音を口にする風を見て苦笑する夏凜、彼女たちから目を離し、俺は無言で上を見上げる。

 

「――――」

 

 園子や友奈、東郷のそれぞれの個性が現れている絵、その黒板よりも上にある物。

 『勇者部六箇条』と書かれた、五箇条に代わる新しい勇者部の誓いが貼られている。

 

 ――無理せず自分も幸せであること。

 

 以前の五箇条に追加された新しい一文。

 その意味は、きっと誰よりも友奈自身が一番分かっているのだろう。

 

 世界中のみんなの為に、今日を頑張ることは確かに大事かもしれない。

 だがそれ以上に、みんなだけでなく自分自身も幸せでなくてはならない。

 戦いの果てに得たそんな勇者部の想いが、少し前から新しく五箇条に追加されていた。

 

「風先輩」

 

「ん? 何?」

 

「改めて受験合格、おめでとうございます」

 

「ありがとう。……ま~ね? アタシぐらい女子力を活性化させればこれくらいは余裕よ!」

 

「よく言うわよ。結構ギリギリだった気がするけど」

 

「そんな事ないわよ!」

 

 風と夏凜のじゃれ合いをニコニコと見ていると、「何よ……」と夏凜が噛みついてくる。

 照れ隠しのつもりなのかやや頬に朱を混じらせ、こちらを見て眉をわずかに吊り上げる。

 そんな少女に対して適当にいつもの笑みを浮かべて目を逸らしていると、声が掛かった。

 

「それじゃあみんな。横に並んでね」

 

「はーい!」

 

「キャメラだぜー!」

 

「誰が撮るの?」

 

「……脚立で時間式で撮るのよ、友奈ちゃん」

 

「タイマー!」

 

 去年のクリスマス以前から、東郷が事あるごとに写真を撮ろうと言い出したのが発端。

 こうして俺が勇者部に復帰してからも、彼女が持参するカメラで写真を撮ってきたのを覚えている。そして今回は樹の新部長就任と、風の受験合格を記念して写真を撮ろうという事になった。

 

「掛け声、何にしよっか」

 

 風、樹、夏凜、友奈、東郷、園子、そして俺。

 黒板に描かれた少女たちによる独創的な絵が並ぶ中で書かれた祝福の文字。

 その彩りに溢れた黒板を背景にして、見目麗しい可憐な少女たちと奇術師が横に並ぶ。

 

「うーん。……うちの部の黒一点、何かいいのある?」

 

「じゃあ、『うどんピース』で」

 

「採用」

 

「はやっ!? 何その掛け声!」

 

 掛け声が何かいいかと振ってきた元勇者部部長に対して、ふと思い出した言葉を告げる。

 何を思ったのか荘厳な顔でコクリと頷く風に夏凜のツッコミが炸裂し、思わずクツ……と笑う。

 久方振りに感じる『日常』という感覚、この部室は相も変わらず平和である今日この頃である。

 

 ――後で見た写真は、みんな良い笑顔だった。

 

 

 

 

 ---

 

 

 

 

 俺が入院して、そして病院のテレビの電源を点けたのは、今からおよそ3週間前の出来事だ。

 あの日見た映像、リポーターが生存していたらしい星屑に惨たらしく喰われる光景を俺は見た。

 そして、そもそもあの映像の発端は、独断で壁の外を見ようとする報道陣の行動が原因だったらしい。

 

 自業自得による物だったが、大変だったのは大赦である。

 秘密主義の組織ではあるが、その人員は神婚の儀によって随分と数を減らしてしまった。

 神樹と一つになるという思想が強い順に、多くの神官の魂が肉体という呪縛から解き放たれた。

 

 そういうわけで情報を隠蔽する以前に、表の政府と裏の大赦は行動を迫られた。

 結局大赦が行ったのは、神世紀に至るまでの真の歴史を全世界に公表するという事であった。

 元々大赦側も本来東郷の叛乱が無く順調に事が進めば、情報を開示するつもりだったらしい。

 

 生き残った信仰心が低かった者によって、大赦から情報が開示されると世界は荒れた。

 

 四国以外はウイルスではなく、映像にあった星屑、バーテックスという存在により滅んだこと。

 奴等に対しては通常兵器は意味をなさず、勇者と呼ばれる存在が迎撃していたということ。

 ――そして現在も外の世界には、天の神が去ったにも関わらず『残党』がまだいるという事実。

 

『廃墟、廃墟! 生存者の姿は見られません!』

 

『では、大赦は昔から壁の外を知っていたと?』

 

『―――子供達に罪はありません』

 

 開示される情報に色めき立つ報道陣、毎日の新聞、ラジオ、テレビなどは大騒ぎだった。

 そういった情報を与えられて騒ぐ者、疑う者などもいたが、騒ぎは表面上は収まっていった。

 

 ――神樹は変わらずに存在しているからだった。

 

 大地の神々が集いし神樹。

 四国を覆う緑樹の壁は以前よりも強度は下がっていたが、それでもまだ“在る”。

 神樹というこの神世紀を人間と共に生きてきた存在と長年の教育が騒ぎを鎮火させていった。

 

 300年の教育の成果によって、表面上は鎮まり返る。

 大人たちの世界は荒れはするが、そんな中でも子供たちの世界は変わらなかった。

 世情に問わず学校の授業は休みはあっても変わらず進み、そして、ある高校の受験日も変わらなかった。

 

「しかし、フーミン先輩は私の教えで無事合格出来たのであった……まる」

 

「凄いね、園ちゃんは」

 

「えへへ~、私がフーミン先輩を育てたんよ~」

 

「へー凄いね。それよりほら見て俺の包丁捌き! リンゴからウサギ。お食べよ」

 

「かっきー食べさせて〜」

 

 というのは3日前の俺と園子の会話である。

 お互い乃木家とその分家という事もあり、英才教育により既に大学レベルの教養は得ている。

 今更高校の受験程度、問題などないのだと少しドヤ顔で胸を張る園子は、相変わらず可愛かった。

 

 

 

 

 ---

 

 

 

 

 神樹は確かに未だに存在している。

 だがその寿命は既に底が見え始めているのが現状で、あと3ヶ月もないだろう。

 表面上は多少の恵みがあってもいずれは尽きてしまい、星屑程度に蹂躙、滅ぼされるだろう。

 

 現在四国を囲う壁の強度は、星屑や進化体ならば通れない程度でしかないらしい。

 このままでは人類に明るい未来など永久に訪れず、また薄氷の上の平和は崩壊するだろう。

 だからこの数週間、限られた日数の中で、大赦含めて俺たちは手段を模索し、そして――

 

「あれ、亮之佑は行かないの……?」

 

「俺は少し寄るところがあるので、みんなは先行ってて」

 

「遅刻しないでよ」

 

「……はいはい」

 

 そう言って、少し前に勇者部の部員たちと別れた。

 どのみちそこまで距離があるわけでもないので大丈夫だろうと小さく吐息をつく。

 

 彼女たちと別れて行う用事は、墓参りであった。

 宗一朗と綾香がいるであろう大赦御用達墓地にある『加賀家之墓』に、俺は一人報告と挨拶に来ていた。

 黒く光を吸い込むような墓石を軽く掃除し、用意してきた酒瓶や花束を添えて一人手を合わせる。

 

「――また来たよ、2人とも」

 

 この場所は静かで落ち着く。

 一人で飲む酒は相変わらず喉を焼くような感覚がして、俺はそっと目を細めた。

 

「――――」

 

 墓前で語る言葉は多くはない。

 ただ助けたいと思った愛する少女を、神を相手に勝ち取ったという話をしただけだろうか。

 そうして目の前の墓石と向かい合っていると、砂利を踏む音が聞こえて、その人物を目にした。

 

「安芸先生」

 

「――こんにちは」

 

 旧大赦で生き残った神官の一人、かつての自分の先生がこちらに歩み寄ってくる。

 彼女は白い仮面を着けてはおらず、砂利上に胡坐を掻く俺と目が合うと、その片目を見張った。

 晒された素顔は、彼女の右目は以前とは異なり、白い医療用の眼帯で覆われていた。

 

「先生も墓参りですか?」

 

「――ええ、そうですね」

 

 そう言いながら、ふとこちらが持つ酒瓶に視線を向けたので、そっと背後に隠した。

 訝しむような安芸はこちらの行為を見逃し、近くに屈み、線香を置き両手を合わせて目を閉じる。

 2人がいる墓を前に両手を合わせ瞑目する安芸を見ながら、残りの酒もさっさと飲んでおく。

 

「その目はもう治らないんですか?」

 

「これは……、私自身への罰のような物だと思います」

 

「そうですか」

 

「そうです」

 

 目を開け、そう語る安芸の横顔はちょうど眼帯で感情を窺うことは出来ない。

 神婚の儀が進行する過程で多くの大赦神官がその身を神樹に捧げた中で、彼女は生き残った。

 大赦の神官として役目を果たしながら、その心中がどのような感情に満ちているかは不明だ。

 

「――――」

 

 だが、知る必要のない事だと首を横に振り息を吐く。

 どう思っているかを考えても、本人が言わなければ胸中を理解することなど出来ないのだから。

 今度眼帯をプレゼントしようと俺は脳裏にメモしながら、安芸の横顔に向かって口を開いた。

 

「今の大赦……、いや『大社』の状況はどうですか?」

 

「ひとまず最低限の準備は完了しました。後は実行するだけです」

 

 如何に神樹を祀り、勇者を始めとした神秘を管理し、世界を裏から支配する組織でも、ある程度の糾弾はあった。

 これを口実に大赦は解体、西暦時代に名乗った『大社』に名前を変えて再編を開始していた。

 とはいえ、大社の組織としての機能が十全に果たされるのは、もう少し時間が必要であるだろう。

 

「天の神が倒されても、状況は変わってはいません」

 

「――――」

 

 淡々と、仮面を取りその素顔を晒しながら安芸は口にする。

 世界は、この箱庭は、時間が経過する度に刻々と崩壊への道を辿っている。

 

「辛うじて神樹様が壁を維持していますが、それも限界がきています。だから貴方たちには――」

 

「分かってますよ」

 

 安芸の言葉、その先を言われるまでもない。

 既に両親に挨拶を終えた俺は墓前から立ち上がり、砂利道を歩いていく。

 そうして去り際に、安芸に対して全てを解決させる言葉を、一拍溜めて口にした。

 

「――だって俺は、勇者だから」

 

 

 

 

 ---

 

 

 

 

 空を見上げると、青空が延々と広がっている。

 偽りの、幾千と繰り返し見慣れた空に時折ノイズのような物が奔っているのは気のせいか。

 それを見てゆっくりと歩を進めつつ、わずかに寒さの残る空気を肺へと取り込みながら、

 

「――――」

 

 左手中指に嵌めた、長い付き合いとなった家に伝わる蒼色に鈍く光る指輪を空へとかざした。

 以前よりも輝きの薄れた指輪からは、あの戦い以降そこに宿る力を感じにくくなっていた。

 目を閉じると感じられる、因子を通じた存在が希薄になりつつあることを俺は感じていた。

 

「――なあ」

 

 呼びかける。

 だが、返事はない。

 

 あれから俺は一度も、現実よりも美しい幻想の如き夜の世界に脚を踏み入れてはいない。

 厳密に言うならば、己の意識を指輪に移動させる事ができず、未だ夜の密会は催されていない。

 因子に問題は感じられず、原因としては事前に予想されていた指輪の世界での問題なのだろう。

 

「――――」

 

 天の神を撃滅する。

 口で言うのは簡単だ。言うは易し、行うは難しという言葉通りである。

 あの瞬間、俺の肉体に憑依を果たした初代によって放たれた世界を内包した一撃は神を砕いた。

 

 しかし最初で最後の必殺の一撃で、指輪内部にある膨大なエネルギーを使用してしまった。

 彼女を構成したシステムを維持するだけの力、外部供給源の神樹の力はどちらも残ってはいない。

 それでも、こうして目を閉じると微かに感じる残り香が脳裏に囁きかけてくるような気がした。

 だから――

 

「俺とお前は共犯者だ」

 

 この偽りの空の下で一人、俺は唇を震わせる。

 会話は成り立たず、だがそれでもこの声が、この想いが届いていると思って、

 

「契約はまだ終わってはいない。一人だけ先に終わるなんて事は、俺が赦さないよ、初代」

 

 結局残りの一つ、彼女からの最後の願いは聞き届けてはいない。

 脳裏に浮かべば思い出せる昏色と濃紅色の少女の姿は、この世界で唯一自分だけが覚えている。

 

「――だから、いずれまた会おう」

 

 記憶という名の楔が、その存在が、俺を前へと進ませるのだ。

 

 

 

 

 ---

 

 

 

 

 そうして俺は歩いた。

 いつの間にか己の体躯を包み込む黒衣を身に纏い、瀬戸内海の聳え立つ壁上に到着した。

 墓参りをしていたからか、独り言を呟いていたからか、どうやらわずかに遅刻した気がする。

 

「――待たせたな、みんな」

 

 赤い手袋に包まれた手を振り、そう口にすると、俺の存在に気付いた少女たちが視線を向ける。

 

「遅いわよ! 亮之佑」

 

「時間通りだろ」

 

 時間厳守、30分前行動が当たり前な赤衣の勇者、夏凜が少し低い声音で告げる。

 完成型の追及を躱しながら、しっかりと予定していた全員が揃っているのを見て取った。

 夏凜、樹、風、東郷、園子、友奈、俺を含めた勇者部の面々は、勇者装束を身に纏っている。

 

「――東郷さん、祝詞はちゃんと覚えている?」

 

「もちろんよ、亮くん」

 

 両手を胸の前で組む国防系少女にして巫女の適正があると判明した東郷こそが作戦の鍵。

 この後の作戦を前にして穏やかに微笑む東郷の背中には、死神の握る大鎌を思わせる武器。

 名も無き勇者が使用したとされる〈大葉刈〉を、東郷は背中に刃を折り畳んで背負っている。

 

 少し前に、新生『大社』は次の手を打つことにした。

 失われつつある神樹の恵み、枯渇を始めるエネルギーと外の敵などの問題を解決する手段。

 このまま何もせずにいれば、真実を知ったばかりの世界は泡のように弾けて消えるだろう。

 

 その為に大社が計画したのは、ある儀式を改良したもの。

 神樹の力が減る中で、当然勇者の力も減少の一途を辿り、精霊の護りすら展開出来ない状態。

 これから行われる任務は本当の意味で死と隣合わせの状況であるのだが、

 

「バリアが無い状態の方が当たり前だったからね~」

 

「――――」

 

「かっきーが行くなら、私はついていくよ。どこまでも」

 

「……そっか」

 

 そう言って小首を傾げ告げるのは、紫の装束を纏った園子だ。

 平然と惚れそうな言葉を口にする天然気質のある金髪の美少女が肩にある刀を背負っている。

 その武器は、かつて西暦で幾千の敵を斬り裂き、明日を求めた勇者の刀――名を〈生大刀〉。

 

「似合うわね、園子の日本刀」

 

「そう……? ご先祖様の刀なんよ~」

 

「ホント、どこから引っ張り出してきたのよ」

 

「昔の勇者たちが使用していたらしい……でしたよね? 亮さん」

 

「そうだよ。大社にある秘密の資料を園子とスコップで掘って見つけた結果、キチンと保管していたらしいよ」

 

「えっ、掘ったの……?」

 

 そう口にする風の左腕には、修繕された盾が装着されている。

 だが厳密に言うならば、盾にも成りうる旋刃盤〈神屋楯比売〉は風に似合っていた。

 

 微妙に馴染むと口にする風の隣で、樹が持っているクロスボウもまた神器の一つである。

 女神が岩屋を打ち抜いた弓矢に因む〈金弓箭〉の力を宿したクロスボウを樹が所持する。

 

 少女たちが所持する武器は確かに外の世界にいる敵に有効ではあるが、今回は別用途だ。

 外の世界、本土にいる残党から完全に土地を奪還し、土地神の力を取り戻すという儀式。

 神樹は土地神の集合体。神樹の一部である土地神の数柱を、旧日本の霊山に祀るという儀式。

 

「言うなれば、『真・国造り』かな……」

 

 西暦時代に存在していた、富士山、立山、白山、大峰山、月山と呼ばれた霊山に神器を祀る。

 四国外の世界は、天の神によって一度理を書き換えられ、地獄の如き世界に変わってしまっていた。

 今回はその逆、『真・国造り』により、旧日本本土にいる“星屑が存在する”その理を書き換える。

 

「よーし、それじゃあみんな集合! あれやるわよー!!」

 

「やりましょー!」

 

 世界を存続させる重要な任務。しかし重い空気はない。

 元勇者部部長の掛け声で久方ぶりの円陣を作る勇者部に、緊迫という文字は見られない。

 それは潜り抜けた死線の数の所為か、お互いを信用して背中を任せられる為かは分からない。

 

「それじゃ……樹、お願い!」

 

「ええっ!? ……そ、それじゃあ、皆さん。無理をしないように、自分も幸せであれる程度に、この旅を頑張りましょう!」

 

「樹……いつの間にか立派な事を言えるようになっちゃって……!」

 

「ゆ、勇者部、ファイトーー!!」

 

「「「「「「オーーーーーッ!!」」」」」」

 

 

 

 

 ---

 

 

 

 外の世界は、中の世界となんら変わりない。

 同じ天気、青い空が、変わらない空がどこまでも続いている。

 

「――――」

 

 神樹も内側から外の世界を見えなくする力は既に失っているらしい。

 だからこそ内側の報道陣が外の様子を映すことができ、そして結界の外に出て星屑に喰われたのだろう。

 

「なあ、友奈」

 

「何?」

 

「怖いか?」

 

「うん……けど」

 

 ふと思うことがあり、湧いた疑問を友奈に告げると、彼女は隠すことなくその心境を口にした。

 そう桃色の唇から紡ぐ言葉はそこで終わらず、俺の左手に友奈の柔らかな手が触れた。

 勇者服の彼女、その両手の〈天ノ逆手〉を宿す手甲越しに、友奈の確かな熱を俺は感じた。

 

「――亮ちゃん」

 

「なんだい……?」

 

 俺の返事には答えず、仲間たちが次々と神樹の壁から飛び降りていく中で。

 そうして彼女たちに続く中で、友奈は薄紅色の瞳を煌めかせて、俺の姿を捉えた。

 

「ずっと、一緒だよ」

 

「ああ」

 

「私ともね~、かっきー」

 

「――もちろんさ」

 

 そうして、友奈に手を引かれて俺と園子も壁から飛び降りた。

 わずかに不快な浮遊感は、左手を友奈が、右手を園子が生む確かな熱が溶かしていった。

 周囲から向けられる生温かい視線に対しては片頬を吊り上げて、いつもの笑みを浮かべた。

 

 変わらない空がどこまでも広がり続ける。

 眼下には崩壊した廃墟、かつての文明の名残と星屑が見えた。

 

 刻々と川のように時間は流れていく。だが俺は前を進み続ける。

 

 

 笑いながら、俺はこの旅路を歩き続けるのだ。

 

 

 




【第七幕】 反逆の章 -完-

ラスト一話。
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