変わらぬ空で、貴方に愛を   作:毒蛇

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【番外】 「ぼた餅、お持ち帰りで」

「久しぶり」

 

「……? あぁ、独り言ね?」

 

 コクリと頷くと安心したような微笑で少女は前を向く。

 頭のおかしい人だと思われたのだろうか。それは今更か。

 挙動のおかしい奇術師を無視し、或いは既に受け入れているのか、少女は話題を提示した。

 

「それで、この後なんだけどね」

 

「……」

 

 思考を切り替え、隣を歩く少女に目を向ける。

 春が来て、夏を過ごし、今年も秋が来た。去年の今頃は何をしていたのかを考えると、恐ろしいと思う程度には平和である。それがたとえ、束の間でしかなくともだ。

 

「聞いてるの? 亮くん」

 

「ああ……、聞いてるよ、東郷さん」

 

 濡羽色の髪は艶を帯び、深緑色の瞳はいつ見ても吸い込まれる。

 いっそ溺れたくなるような微笑は、時折街を歩く有象無象の視線を惹きつける程には大和撫子然とした美少女であると思うのは、親友兼、戦友兼、■■としての自惚れではないだろう。

 彼女は、東郷美森は亮之佑の目から見ても間違いなく美人だ。

 

「ぁ……、ありがとう……」

 

 大きな瞳で幾度か瞬きをする彼女は、ふいっと奇術師から目を背ける。

 相も変わらず白皙の肌は朱色に染まる瞬間が分かりやすく、愛らしく感じる。

 歩く度に微かに揺れ動く双丘、クリーム色の縦セーターと黒色のスカート、黒タイツといった格好は何といえば良いのだろうか。プレゼントした本人としては着用してもらえて嬉しい限りだ。

 

 ――DT殺し(キラー)が歩いてるよ。

 

 ――なんであんな服を。

 

 ――ふぅ。

 

 ――かきわし……。

 

 どこか遠くで聞こえる奇声に耳を傾ける奇術師ではない。

 確かに彼女はある属性を持った人間を、視覚を通じて殺害できる服を着用している。

 だが、流石に外で雪肌のような白い背中を街中で晒すような真似をする少女ではないし、流石に亮之佑も止めている。何が悲しくて他の人間に彼女の素肌を見せなくてはならないのだ。

 

 背中部分は追加で着用している蒼色のシャツで隠されている。

 だが、何も肌を隠せば、衣服を着用すれば何も問題が無いのだろうか。

 奇術師が思うにだ、巨乳+縦セーターというコンボの方が、凄まじい破壊力を秘めていると思わざるを得ない。

 

 その破壊力は、パンデミック感染に匹敵する。

 視覚の制御を破壊し、神経を伝い、思考と脳の回転を止めてしまうのだ。

 一言で言えば、“エロい”。この一言に万感の思いが凝縮される。

 

 閑話休題。

 

 現在、奇術師と黒髪の少女は二人きりだ。

 とはいえ、何もいかがわしい事をしている訳ではない。

 健全たる日の当たる下、彼女の買い物に付き合うという形で休日を過ごしている。

 

「亮くん、これなんてどう?」

 

「微妙」

 

「じゃあ、これは?」

 

「うーん、似合うと思うけど……」

 

「……これは?」

 

「――! 良いと思います」

 

 亮之佑の買い物は基本的に即決だ。

 視覚情報を基に、九割を己の直感に従い購入している。

 たまに後悔することもあるが、それでも止めないのはあまり時間を掛けたくないからだ。

 

 買い物が嫌いという訳ではない。

 選ぶ時には最低限似合う物を心がけており、適当に選ぶつもりは毛頭ない。

 ただ、あれも、これも、と目移りしていれば買う物も買えず、効率的とも言えない。

 

 ただの買い物に効率など求めても仕方がないかもしれない。

 そう口に出した途端、全国の女性陣を敵に回しそうなので絶対に言わないのだが。

 

「試着してきたら? 似合うと思うよ」

 

「……そうね」

 

 何を考えているのか。

 薄青色のシルクのパジャマを手に取った少女はいそいそと試着室に入った。

 漆黒の黒髪を束ねる青色のリボンがカーテンに消えるのを確認すると、そっと椅子に座った。

 

 試着室の前に置かれた四角状の椅子。

 店員の細かな配慮に感謝の念を抱きつつ、亮之佑はそっと目を閉じた。

 ――衣擦れの音と、パサリと衣服が床に落ちる音が聞こえた。

 

 ふと、このままカーテンを開けたらどうなるのだろうかと思った。

 彼女は許してくれるだろうか。涙目で羞恥に顔を赤くし、赫怒を表情に宿すのだろうか。

 笑って試着室に招いてくれるならば嬉しいが、それを東郷に求めるのは性格的に厳しいか。

 

 座っては立ち上がり、立ち上がっては座り込む。

 別段筋トレをしたい訳ではないが、絶賛奇術師の頭の中では戦争中だ。

 隙間から覗けという悪魔の声と、紳士らしく黙って待てという神による果てなき戦いが。

 

「――――」

 

 最低限気を紛らわせる為に、この時間を何かに使うとしよう。

 亮之佑は無言のまま携帯端末を取り出し、弄り始めた。すると、

 

『――お元気ですか?』

 

 いつの間にか防人の人間から連絡が来ていた。

 カーテンの下から僅かに覗く隙間、忙しなく動く少女の影を目端に捉えつつ、返事をする。

 

『元気だよ、スマホちゃんと使えてる?』

 

『はい! 防人の皆さんに教えてもらいましたから。ばっちりです』

 

 要するに、電波塔の復旧には成功したという事である。

 僅かに聞きたい事とは異なりつつも、この通信が成り立つことが答えだろうか。

 現在、彼女達防人チームは、ひとまず敵がいなくなった近畿地方に拠点を作成中である。

 

 とはいえ、最前線にいることには変わりない。

 今も巫女である亜耶は戦闘においての力を持たないが、その存在は確かに防人達の支えだ。

 

『何してるの?』

 

『お掃除中です』

 

『そっか』

 

 たまにこうして、亮之佑は亜耶と連絡を取る。

 別に連絡を取るのならば彼方のリーダーに取るべきなのだが、それはそれ、これはこれだ。何よりも今回こうして他愛の無い話をするのは、友人として変なことではないだろう。

 女の買い物と着替えは長いと決まっている。少しくらい時間を潰しても良いだろう。

 

『そちらは何をしているんですか?』

 

『東郷さんと買い物』

 

『それって、もしかしてデートじゃないですか!!』

 

『そう?』

 

『はい! ……あれ? でもこの前は友奈さんで、その前は樹ちゃんで、その前は……』

 

 どこの世界でも、人間関係とは複雑な物なのだ。

 ただ、複数の異性と買い物をする程度には、亮之佑の人間関係は愛憎入り乱れている。

 奇術師の真相に無垢な少女の瞳が濁る日を予感し、小さく口端を緩めつつも端末を弄る。

 

 俗世から隔絶された場所に住んでいた亜耶にとって、神樹への信仰だけが自己の全てだったのだろう。

 それが、防人と出会い、勇者部と出会い、世界を知り、己の世界を広げていった。

 何も知らない無垢で汚れを知らない少女に、少しずつ彼女を成長させる『色』が付着する。

 

 それはきっと、良いことなのだろう。

 世の中には知らなくて良いこともあるだろうが、周囲が彼女を守るだろう。

 

「亮くん、亮くん」

 

 やがて友人との通話を終え、端末を仕舞う少年に、僅かに喉を震わせる少女の声が届く。

 薄布一枚を隔て、黒髪の少女は着替えた自らの姿を見せる訳でも無かった。

 確かに、『試着=相手に見せる』といった方程式が正解という訳ではないが、少しぐらい少女のパジャマ姿を見せてくれても良いのではないのだろうか。

 

 そんな事を考える自らの思考が伝わったのか。

 ゆっくりとカーテンの端を掴む、白く細い少女の指が焦らすようにカーテンを開く。

 パジャマを着用した少女は、ジッと見られることに羞恥を覚えたように柔肌に朱色を差した。

 

 彼女が好みそうな薄青色のパジャマだ。

 昨日履いてた下着と同色のゆったりとした衣服は、主に一部が盛り上がっている。

 東郷のぼた餅がやはり勇者部随一であることが間違いないのは、不変の事実なのである。最近加速的に彼女の母性が、色気が磨かれていると感じる奇術師は静かに吐息した。

 

「どう……?」

 

「――――」

 

 控え目に言って、可愛らしい。

 十五歳の少女。青春真っ盛りの巨乳JCの新規パジャマ姿だ。ひゃっほー!!

 これがガチャならば、大衆はその姿を収めるべく、課金という一線を越え、やがては脳汁を噴き出すことへの快感の為に回し続けるのだ。経験者には分かる。札をカードに変える姿が見える。

 

 パジャマは別に露出が激しい訳ではない。皆無だ。

 だが、恥ずかし気に佇む少女の生活の一部を感じさせる装いに、心が震える。 

 

 奇術師の思考は燃え上がった。

 燃え上がった思考は、すぐに鎮火された。

 一定のラインを超えた畜生の変態思考は、紳士的に消し飛ばされたのだ。

 

「これ……買うわ」

 

 彼女の眼差しが決意に満たされる。

 その要因として、亮之佑は一言も喋ってはいないのだが、何かを感じ取ったらしい。

 一度凝り固まった彼女の思考は解すことは難しく、何より奇術師は解すつもりはない。

 むしろ嬉々として勧めた。

 

 

 

 +

 

 

 

 休日に少女と過ごす平和な一時は、何物にも代えがたい。

 平和過ぎて、人気のないベンチで奇術師の肩を枕にして眠ってしまっても許されるだろう。

 普段の戦闘からの疲れが溜まっていたのかもしれない。しっかり休んで貰いたいものである。

 

「すぅ……」

 

 それなりの荷物を片手に持ちながら、亮之佑は隣の少女に目を向ける。

 年甲斐もなくはしゃいだと言うにはお互い肉体的には若いのだが、そういう時もあるのだろう。これが見知らぬ人ならば美人でも何でも立ち上がるのが奇術師だが、相手は向かいの隣の家のお嬢様だ。――もう、他人ではない。

 見知らぬ相手ではなく、むしろお互い殺し合う程度には仲も良いと奇術師は思う。

 

「んん……、そのっち……それは違うわ」

 

 寝言を呟く少女の寝顔は年相応だ。

 普段の落ち着いた雰囲気は霧散し、柔和な表情の東郷は夢の中で園子とよろしくしているらしい。具体的には何かを論破しているようだが、それ以上の内容は亮之佑には見通せそうにない。

 

 僅かに身じろぐ少女は簡単には目覚めない。

 いい感じに寒くもなく暑くもない本日の午後。

 普段は絶対に見ることの出来ないであろう少女の寝顔を外で拝む機会はそうそう無い。

 

 月明りや薄光ではなく、太陽の下での少女の寝顔。

 これを撮らない男など、獣にも劣る存在に成り下がるのは間違いないだろう。

 

 ――キミは畜生だけどね。

 

 一瞬、何かを受信した。

 具体的には首にかけた指輪から。

 

 しかし彼女が何かをすることはないだろう。

 唯一神ではなく、悪魔を信仰している最も近しい信者に何かをするとは思わない。

 血紅色の悪魔は言った。少しくらい寝顔を撮って、少しくらい触ってもいいだろうと。

 

「ぼたもちぃ……っ!! すぅ……」

 

「――!」

 

 突然、それなりの音量で声を上げる東郷。

 一瞬心臓が止まる程度には驚く奇術師だが、大きな寝言だったようだ。

 密着する彼女は肩どころか、僅かに身体の重心をずらすだけでもたれかかってくる。

 

 完全に奇術師は大和撫子の枕だった。

 或いは、そっと膝に頭を預けさせる高性能のベッドだろうか。

 

「これは有罪(ギルティ)ではないな」

 

「ぅ……ぁ」

 

 ふにゅん、と服の上からでも分かる豊かな双丘が膝の上にぶつかるのは事故だ。

 寝言を呟きながら、内容を聞く限り何とも言えない世界観の中に東郷はいるらしい。

 手持ち無沙汰の奇術師は、少女の髪の毛や乱れた衣服を整えながら少女の顔を見る。

 

 随分と無防備を晒している。

 まるで赤い髪の少女のように。

 

 ここが神世紀ではなく、奇術師がかつていたあの地獄だったら、今頃は悲惨な目に遭っているのは間違いないだろう。二度と家の外には出られないような、具体的にはR-18な展開どころか陰惨な鬱のある展開に繋がるだろう。

 

 ふにふに。

 ぷにぷに。

 ふゆんふゆん。

 

 おっと手が滑った。指が踊り、触覚が歓喜の声を上げた。

 基本的に紳士な亮之佑は、こうして安心したように眠りこける少女の頬の感触を弄び、愉しむ。驚く程にきめ細かく、雪肌のように白い乙女の柔肌を蹂躙する楽しみにしばらく耽った。

 

「んやぁ……」

 

 突く指が嫌なのか瞼を震わせる少女は、しかし起きる様子は無い。

 繊細な手つきで、卑猥な手つきでガラス細工に触れるような奇術師の指先は、触り過ぎて少女を起こすというような素人がよく行う単純な過ちは起こさない。周囲から見ればただの変態だが。

 

「ん、ん……ッ」

 

 起きるか、起きないかの境界を見極める。

 開閉する薄い唇の隙間から覗く透明な糸、手のひらに掛かる吐息は僅かに熱が籠っている。そっと額に手を添えて確認するが別段熱がある訳ではない。東郷は少し体温が高いようだ。

 

「――――」

 

 こうして隣人の顔をマジマジと見る機会はない。

 起きている時に見つめ合うと、先に目を逸らされるか、顔を赤らめられるのだ。睨めっこは多感な少女には厳しいのだろう。いつだったか、顔を背ける東郷と目を合わせようと彼女を中心に一周して怒られたのは懐かしい話だ。

 

「ん……? ふわ……」

 

 膝を枕にしている少女の長く艶のある髪の毛に触れて遊んでいると、やがて体力が回復したのか、小さく欠伸をする少女は薄く瞼を開いた。蕾が花開くように開かれた深緑の瞳は透き通る程に美しく、何度見ても飽きるという事は無い。その未来も来ないだろう。

 

「――りょう?」

 

「――――」

 

 しばらく見つめ合う二人。

 人気のない公園で、否、多少人はいるが誰も近寄らない木陰のベンチ。

 

 ――これはメモらないと~。

 

 ――わしかき? かきわし……?

 

 ――こんな外でなんて……ぼた餅ね。

 

 ――きっとこの後あそこの茂みで……ぼた餅。

 

 遠くで聞こえるBGMはこの公園専用なのだろう。最後の声の持ち主の顔は覚えた。

 茂みや遊具付近から聞こえる楽しそうな、愉しそうな声音の持ち主とは後で話をするべきか。否、奇術師としては特にネタにされて困る事と言ったら、眠る少女の身体をぷにぷにした程度なので大丈夫だろうか。

 

「だ、大丈夫じゃないよ!?」

 

「おはよ」

 

「お、おはよう……ございます、亮くん」

 

 少女の覚醒は早かった。何故か敬語だった。

 奇術師の指先を掴み、しばらくぼんやりとしていたが、青空の下、遠くから聞こえる声を運悪く拾ったのだろう。聡明な頭脳は誰を指しており、誰を揶揄っているのかを理解したようだ。

 

 羞恥に悶える少女が突然上体を起こし、あわや衝突の事故になりかけた。回避に成功した事に喜ぶ思考を余所に、「あー」とか「うー」とか形の良い耳まで赤くする少女は唸り声を上げながら奇術師と目を合わせない。

 

「と、取り敢えず亮くん、今日は帰ろう?」

 

 涙目で上目遣いをする少女の言葉には賛成だった。

 遠巻きに暖かい目を向けられている二人はそのまま茂みに――ではなく公園を抜けて自らの邸宅へと、何故か少年が少女に手を引かれる形で足早に移動することとなった。

 

 

 

 +

 

 

 

「あ! 東郷さーん!」

 

「……! 友奈ちゃん」

 

「亮ちゃんも! こんばんはー」

 

 コンビニ帰りの少女と帰り道に出会った。帰り道というか家の前で。

 ほにゅんとした快活な笑みを向ける少女は今日も可憐だ。明日も、未来永劫。

 満開した桜のような笑顔を向ける友奈は、後頭部で纏めた髪を振り東郷に笑い掛ける。

 

「楽しかった?」

 

「え、ええ……。今度は友奈ちゃんも一緒に……」

 

「そうだね! みんなで一緒に行こうね!」

 

 にこにこと楽しそうに笑う友奈に釣られて、東郷も微笑を浮かべる。

 あはははは。うふふ。

 

「あれ?」

 

「どうしたの? 友奈ちゃん」

 

 小さく小首を傾げる友奈は、そっと東郷の白い頬に手を伸ばす。

 既に薄暗くなりつつある時間帯、夕日は姿を消しつつある中で、友奈は東郷に尋ねた。

 

「東郷さん、頬に何か跡がついてるよ? どうしたの?」

 

「――――」

 

「これって……」

 

「その、少し眠っちゃって……、それで」

 

「そっかー! 珍しいね」

 

 少年が着用しているスラックスの生地の跡だろう。

 面白いことに片頬にだけ跡が出来上がっている少女の姿など普段見る機会はない。

 物珍し気に告げる少女と固まる少女という構図を見つめていると、友奈はゆっくりと自らの家の門扉に手を掛け、亮之佑にも微笑みを向けた。

 

「ごめんね、二人とも。お母さんにおつかいを頼まれてるから」

 

「ええ、気にしないで友奈ちゃん。おやすみ」

 

「おやすみ」

 

「うん! おやすみ!」

 

 快活な少女がゆっくりと家の中に入っていく。

 後頭部で結われた髪が扉の向こうに消える姿を、二人で見送った。

 

「――月が綺麗ね」

 

「――――」

 

 そうして彼女の後姿を見届けると、小さく東郷が呟いた。

 彼女の言葉に夜空を見上げるが、しかし月など見当たらない。

 ならば東郷の独り言なのだろう。自分もそれなりに口にしているのだから。

 

「ねえ、亮くん」

 

「どうした?」

 

 心配しなくても、キチンと家まで送るつもりだ。

 友奈の隣の家。当時の大赦の思惑が伝わりそうな配置なのは奇術師の別荘もだが。

 そう告げると、小さく首を横に振る少女の髪から、ふわりと甘い甘い華の香りが漂った。

 

「実は今日ね………お母さん達には、友達の家に泊まるって言ってるのよ」

 

「――ほう」

 

 その友達は既に家の中に入ったのだが。 

 そんな軽口は飲み込みつつも、微妙に挙動不審な少女の行動を見守る。

 

「それで――?」

 

「それで、えっと……」

 

 別段、お泊りができなかったから何だというのだろうか。

 泊まると言った手前、その日の内に自宅に戻れば、友人との不仲を勘繰られかねない。とはいえ、そういった話になったとしても、東郷ならばそんな事はないとしっかりと否定することは容易だろう。そうして自らの部屋の寝台で一夜を明かすのだ。

 ――そういう展開を望んでいないと思うのは、果たして傲慢だろうか。

 

「せ、責任取って!」

 

「ん……?」

 

「亮くんのせいで私、眠れなくなっちゃったから……」

 

「――――」

 

 秋の柔らかな日差しに眠ったのは東郷の責任だ。

 当然そんな事は理解出来ているだろうし、結局は理由を作る為の建前でしかない。大体、見知らぬ他人ならばともかく、ちょっと可愛い声で「同衾していい……?」と聞けば即答なのに、どうしてこう面倒な手順を踏もうとするのだろうか。

 その辺りの東郷の固まった価値観は分からないが、ここは男の出番なのだろう。

 

「東郷さん」

 

「あ、あの……、これはそういう意味じゃなくて……」

 

「東郷さん」

 

「――――」

 

 いつの間にか、加賀家別宅の門扉に二人は来ていた。

 家の明かりは無く、住んでいる人間は亮之佑一人しか存在しないのだ。

 

 門扉を開き、少女の細く白い手を取る。

 もう言葉など要らなかった。握り返す少女は俯き表情は窺えない。

 

「――――」

 

「――――」

 

 

 

 ――家の窓から見上げた夜空には、やはり月は見えなかった。

 

 

 





リクエスト回。
東郷さん、可愛いよ。東郷さん。

《縦セーター》
ただの暖色系の縦セーター。実は奇術師の手編みで彼女への貢ぎ物。
時間と労力を掛けて、相当に拘って作ったらしく軽いのに重いという不思議な服。
一つだけ言えるのは『巨乳+縦セーター』というのは素晴らしいという事だけだ。
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