「ぼっちゃま」
「ん?」
「本当に、他の人間でも人修羅を試してみるおつもりで」
「むろんだ」
小妖精から生気を吸いとり、新たなる禍魂を作り出したルイ少年は、その顔に無邪気な笑みを浮かべてみせた。
「複数の人修羅、どうなるものか……」
――――――
「あら、ルイ君」
「こんにちは、白川のお姉さん」
「あらやだ、お上手ね」
すっかり軽子坂高校に馴染んでしまったルイ少年と五森婦人は、その顔を見合せながら。
「私に何の用?」
「これ」
何か、昆虫のような物を白川由美へと差し出す。
「カブトムシ……、とはすこし違うみたいね」
「僕の故郷で、御守りとなるアクセサリーなんだ」
「へえ……」
「あげるよ、これ」
「ええー?」
嬉しさ半分、嫌さ半分はといった表情でその昆虫を実とみやる白川由美。
「少し、気持ち悪いかも」
「痛いのは、最初だけだから」
「ませてるー」
いかにも「私はお姉さんでござい」というスタンスを崩さない彼女の後ろ姿に対して。
「あの程度の悪魔が、最適かなぁ……」
ぺろりとその舌を出すルイ少年。
――――――
「嫌な月……」
あたかも血で出来た皿のような満月の月夜、白川由美はその歩を家路へと急がせる。
「ちょっと、怖いけど……」
一の頭公園を突っ切ろう、そう思って彼女はその脚を駆けさす。
「ん?」
公園の真ん中まで来たとき、その中心の池、その辺りに何か光る物を確認した由美は、興味本意でその物体を眺めようとその身を乗り出した。
ザァ!!
その、目を凝らした時。
「ひっ!?」
大型の人影が一つ、池から飛び出してきた。
「ば、化け物!!」
「女の、肉!!」
その「化け物」は筋骨逞しく、最初彼女こと白川由美は不審者かと思ったが。
シャア!!
化け物の口から吐き出された液体により、その認識を改める。
「だ、誰か!?」
その吐き出された液体が地面を濡らすと同時に、鼻を刺すような悪臭が彼女の鼻を襲う。
「助けて!!」
――助けよう――
「え?」
バッ、シュ!!
カブトムシ、いや禍魂が彼女の口の中へと。
「ガ、ふぅ!?」
無理矢理に入り込み、彼女は激しくむせた。
「ゲ、ゲホッ!!」
それと同時に身体を襲う激痛、それに耐えている白川に向かい。
「女の、肉!!」
怪物がその丸太のような両手を締め付けてくる。
「こ、の……」
それでも力、それが身体の中心から湧き出るのを感じた彼女は。
バァン!!
「はあ、はあ……」
激しい回し蹴りを、その怪物へと振るう。
「グゥ!!」
「この、化け物!!」
パァン!!
強烈な平手打ちがその「化け物」を襲い、そのまま彼女はその場から立ち去ろうとする。
「待て、女ぁ!!」
「待てと言われて!!」
その巨体を利して白川へと追い付く化け物に向かい、待たしても由美は強烈なキックをその巨人の。
「ガホゥ!?」
「そのままそこで、大人しくしてな!!」
「グ、グゥ……」
「変質者!!」
駆け足、それもいつもの彼女とは比べ物にならないほどに早く、素早い。
「早く、警察に!!」
その彼女を、赤い血のような月が美しく照らしていた。
――――――
「オーガを、な……」
その様子を物陰から見ていたルイ少年は、感心したようなため息をつく。
「戦闘向けではない、イヨマンテであそこまで制圧するとはな」
面白い、ルイ少年と五森婦人は心からそう思った。
「だが、まだ人数が足りない」
「まだ人修羅を、ぼっちゃま?」
「バトルロイヤルこそ、戦いの花だよ、ゴモリー」
そう言い切ったルイ少年の顔には、すでに無邪気な表情は浮かんでおらず、大人のみがうかべることが出来る笑みに覆われていた。