IFのマガツヒ   作:早起き三文

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第10話 「白川由美の禍」

 

「ぼっちゃま」

「ん?」

「本当に、他の人間でも人修羅を試してみるおつもりで」

「むろんだ」

 

 小妖精から生気を吸いとり、新たなる禍魂を作り出したルイ少年は、その顔に無邪気な笑みを浮かべてみせた。

 

「複数の人修羅、どうなるものか……」

 

 

 

――――――

 

 

 

「あら、ルイ君」

「こんにちは、白川のお姉さん」

「あらやだ、お上手ね」

 

 すっかり軽子坂高校に馴染んでしまったルイ少年と五森婦人は、その顔を見合せながら。

 

「私に何の用?」

「これ」

 

 何か、昆虫のような物を白川由美へと差し出す。

 

「カブトムシ……、とはすこし違うみたいね」

「僕の故郷で、御守りとなるアクセサリーなんだ」

「へえ……」

「あげるよ、これ」

「ええー?」

 

 嬉しさ半分、嫌さ半分はといった表情でその昆虫を実とみやる白川由美。

 

「少し、気持ち悪いかも」

「痛いのは、最初だけだから」

「ませてるー」

 

 いかにも「私はお姉さんでござい」というスタンスを崩さない彼女の後ろ姿に対して。

 

「あの程度の悪魔が、最適かなぁ……」

 

 ぺろりとその舌を出すルイ少年。

 

 

 

――――――

 

 

 

「嫌な月……」

 

 あたかも血で出来た皿のような満月の月夜、白川由美はその歩を家路へと急がせる。

 

「ちょっと、怖いけど……」

 

 一の頭公園を突っ切ろう、そう思って彼女はその脚を駆けさす。

 

「ん?」

 

 公園の真ん中まで来たとき、その中心の池、その辺りに何か光る物を確認した由美は、興味本意でその物体を眺めようとその身を乗り出した。

 

 ザァ!!

 

 その、目を凝らした時。

 

「ひっ!?」

 

 大型の人影が一つ、池から飛び出してきた。

 

「ば、化け物!!」

「女の、肉!!」

 

 その「化け物」は筋骨逞しく、最初彼女こと白川由美は不審者かと思ったが。

 

 シャア!!

 

 化け物の口から吐き出された液体により、その認識を改める。

 

「だ、誰か!?」

 

 その吐き出された液体が地面を濡らすと同時に、鼻を刺すような悪臭が彼女の鼻を襲う。

 

「助けて!!」

――助けよう――

「え?」

 

 バッ、シュ!!

 

 カブトムシ、いや禍魂が彼女の口の中へと。

 

「ガ、ふぅ!?」

 

 無理矢理に入り込み、彼女は激しくむせた。

 

「ゲ、ゲホッ!!」

 

 それと同時に身体を襲う激痛、それに耐えている白川に向かい。

 

「女の、肉!!」

 

 怪物がその丸太のような両手を締め付けてくる。

 

「こ、の……」

 

 それでも力、それが身体の中心から湧き出るのを感じた彼女は。

 

 バァン!!

 

「はあ、はあ……」

 

 激しい回し蹴りを、その怪物へと振るう。

 

「グゥ!!」

「この、化け物!!」

 

 パァン!!

 

 強烈な平手打ちがその「化け物」を襲い、そのまま彼女はその場から立ち去ろうとする。

 

「待て、女ぁ!!」

「待てと言われて!!」

 

 その巨体を利して白川へと追い付く化け物に向かい、待たしても由美は強烈なキックをその巨人の。

 

「ガホゥ!?」

「そのままそこで、大人しくしてな!!」

「グ、グゥ……」

「変質者!!」

 

 駆け足、それもいつもの彼女とは比べ物にならないほどに早く、素早い。

 

「早く、警察に!!」

 

 その彼女を、赤い血のような月が美しく照らしていた。

 

 

 

――――――

 

 

 

「オーガを、な……」

 

 その様子を物陰から見ていたルイ少年は、感心したようなため息をつく。

 

「戦闘向けではない、イヨマンテであそこまで制圧するとはな」

 

 面白い、ルイ少年と五森婦人は心からそう思った。

 

「だが、まだ人数が足りない」

「まだ人修羅を、ぼっちゃま?」

「バトルロイヤルこそ、戦いの花だよ、ゴモリー」

 

 そう言い切ったルイ少年の顔には、すでに無邪気な表情は浮かんでおらず、大人のみがうかべることが出来る笑みに覆われていた。

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