「むう……」
「そのアイテムは僕のだぞ、黒井」
「解っているよ、狭間」
黒井慎二たちによる二度目となる赤根沢の母への見舞い。それについてきた狭間偉出夫と電車内でソーシャルゲームに興じる皆。
「だめ、あたしソシャゲには向いていない」
「根性がないな、白川」
「うっさい、黒井」
スマートフォンを握りしめたまま文句を言い続ける白川由美を無視して、赤根沢玲子もソシャゲに夢中になっている。
ビッピ……!!
「だれだ、外部から侵略?」
電波の通信状況から見るに、その「侵入者」はすぐ近くにいるらしい。
「へへ……!!」
そのソシャゲの外部からの乱入者、大きめのキャスケット帽のような物を被った少年が、慎二達へと
「あ、また侵略させた!!」
「やりぃ!!」
「てめぇ!!」
ガ、タン……
電車が揺れるのも気にせずに、慎二はその少年、服装的には慎二ことチャーリーによく似ている彼へと詰め寄った。
「良い根性じゃねえか、お前!!」
「お前じゃない、新田という名前がある」
「じゃあ、新田!!」
「新田、勇だよ、軽子坂!!」
よほどこのゲームが好きなのか、その少年は黒井慎二の剣幕にも一歩も引かない。
「お前の名前は、軽子坂!!」
「黒井、黒井慎二だよ!!」
「油断をしたお前が悪い、黒井とやら」
「なんだと!?」
その二人の大人げない光景を、たまたま同じ車輛に乗っていた。
「迷惑だろ、お前ら……」
宮本明が、無愛想に嗜める。
「チッ……」
その宮本の「不良」の気配を感じたのか、新田と呼ばれた少年はそのまま口をつぐむ。
「母さん……」
「落ち着いて母に対応してね、狭間君」
「偉そうに言うな、赤根沢」
「それを条件に、見舞いを許可されたんだから」
その赤根沢の言葉に、狭間偉出夫は何やら冷たい、冷笑をその端整な顔に浮かべて見せる。
「どうしたの、狭間?」
「いや、なんでもない内田」
「フーン……」
内田環のその言葉、それを受けても狭間の冷笑は止まない。
「……」
その様子を、宮本明は不思議な物を見るような目で見つめていた。
「俺は次に降りるぜ……」
「何か怪我をしているようだから、そのまま病院に行った方がいいんじゃないの、宮本?」
「内田、大きなお世話だ」
プシュ……
列車のドアが開き、そのまま彼はホームへと立ち去るかと思ったが。
「何か変な化け物に襲われてな、内田」
「あんたも、宮本?」
「俺の格闘技で、撃退出来たがな……」
「へえ、あんたもか」
その「内田環」の言葉に気が付いたのかどうかはわからないが。
「身辺に気を付けな、内田……」
「あんたもね、宮本」
彼女、内田環には少しは気を許しているのだろうか、そう言い残すと彼は今度こそホームへと去っていった。
――――――
「いつ来ても、この病院は……」
新田勇もこの病院に用があったらしい、謎の距離感をおきながら、総勢六人の男女はそのまま。
「人が、いない……」
「やはりそうか、新田……」
「ああ……」
病院、新宿衛生病院の中へと入っていく。
「母さんに、会いに行ってくる」
「俺たちは行かない方がいいな」
「ホウ……?」
その言葉を聞いたとたん、珍しく狭間の口の端に皮肉ではない笑みが浮かぶ。
「気が効くじゃないか、黒井」
「俺は、その、なんだ……」
本当ならその狭間の母、同時に赤根沢の母だという彼らの複雑な家庭環境の事は無視して。
「俺は高尾先生の所へ行ってくるよ」
「高尾先生、もしかして……」
「あんたらの見舞い客の、隣にいる先生だよ」
「だったら……」
本当は、黒井慎二もあの時の先生の事は気になっていたのだ、ただ赤の他人だという事もあって、言い出せないだけで。
「俺もそっちへいくよ、新田」
「そうかい……」
少し考えた後、何かに納得させるかのようにその首を縦にふる新田、新田勇。
「橘のやつも、行方不明になっている事だしな」
「橘?」
「同級生だ、いけ好かない女だよ」
そう言ったきり、新田は階段を使い病室のある二階へと上がる。
「何か、彼女が行方不明なんだ」
――――――
「くれぐれも、冷静にね」
「わかっているさ、赤根沢」
「そうだといいけど、狭間君……」
そのまま隣の病室、狭間と赤根沢の母の元へと入っていく二人に続いて。
「あたし達も」
白川と内田も、彼らにと続いていく。
「じゃ……」
何か、見舞いにしては暗い雰囲気となってしまった事を吹き飛ばすかのように。
「高尾センセ!!」
新田勇が、おもいっきり病室のドアを開ける。
「あれ?」
しかし、そこには誰もおらず。
パ、フゥ……
ただ、風によってカーテンがたなびくのみ。
「センセェ?」
「いねえじゃねえかよ、新田」
「おかしいな……?」
何か、隣の病室から緊迫した声がするが痴話喧嘩、やっかい事に巻き込まれたくない慎二は気にせずに。
「探そうぜ、黒井」
「あ、ああ……」
そのまま、病院の中を探索することにした。
――――――
「ぼっちゃま」
「ああ」
衛生病院の屋上、そこには車椅子に乗り。
「……」
あらぬ瞳で宙を見やっている、高尾祐子。
「時がきました」
「だが、ゴモリー……」
ルイ少年の瞳には、マグネタイト。
「マガツヒの濃度が」
いや、マガツヒの紅き光が強く空へと舞っている。
「異常だ」
「何か、一波乱ありそうですか?」
「あの生け贄の娘、マガツヒ含有量が高く」
シュ……!!
何か、妖しい鳥が空を飛び交い、そのままキィキィと耳障りな声で啼く中、ルイ少年が真剣な顔つきで。
「ただ、マガツヒを吸い尽くすだけの女ではないようだ」
紅い光が乱舞する大空を、実と眺める。
「鬼と出るか、蛇と出るか……」