IFのマガツヒ   作:早起き三文

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第13話 「人修羅」

 

「この地下に」

「やだよ、いかねぇぞ俺は……」

 

 慎二にしてみれば、つい先日に恐ろしい目にあった場所なのだ、足がすくむのも無理はない。

 

「俺は行かないからな!!」

「いるとおもうか、黒井?」

「人の話を聞けよ、勇!!」

 

 トッ……

 

 その黒井慎二、チャーリーの言葉も聞かずに、新田勇は地下へと降りていく。

 

「まてってよ、勇!!」

「地下キョーフショウか、慎二?」

「化け物を操る野郎がいるんだってよ!!」

「そんなやつが、いるものかよ……」

 

 そうこうと言い合っているうちに、前に来た防火扉の前までその歩を進める慎二達。やはりというべきか。

 

「扉が開いているな……」

「帰ろうぜ、勇!!」

「ビビリ屋だなあ、お前は……」

 

 僅かに彼を軽蔑したかのような口調でそう言いつつに、新田はそのまま歩みを止めない。

 

「何だ、この赤い装飾は……?」

「だ・か・ら!!」

「まるで、血のようじゃないか?」

 

 ブルゥ……

 

 またしても感じる強烈な冷気、しかしその冷気に混じって。

 

「……だれ?」

「ん?」

 

 聞こえてきた、そのか細い少女の声に、勇の足が止まる。

 

「だれかいるの?」

「その声……?」

「助けて!!」

「橘かよ!!」

 

 ダッ!!

 

 慎二の制止する手を振り払い、勇はその声が聞こえてきた部屋へと飛び込んでいく。

 

「新田、勇!!」

「橘!!」

 

 その橘と呼ばれた少女は鎖で壁にと繋がれており、その鎖を。

 

「なんてこった、監禁じゃねえか!!」

 

 どうにか基部からこじ開けようと、勇はその力を振り絞る。

 

「誰がこんな事を!?」

「あの化け物使いだと思う……!!」

「何だって、慎二!?」

「化け物を呼び出した、そんな男がいたんだよ!!」

 

 ゾクゥ……

 

 殺気、戦闘訓練を積んでいない二人がその気配に気がついたということは。

 

「また会ったな、少年」

「ば、化け物使い……!!」

「二度目は無いと」

 

 そういいながら、氷川はそのリストバンドを目の前へとかざしながら。

 

「いったはずだ」

 

 音を立てて「悪魔」達を呼び出した。

 

 

 

――――――

 

 

 

「マガタマ、二つ余りましたね」

「地下にいる、黒井君にはあげたしなあ……」

 

 無人の病院を駆けながら、ルイ少年はその手に握る二匹の禍魂をどうしたものかと考えている。

 

「まあ、どちらにしろ」

「黒井様を助けますか」

「あの氷川という男は、こういう事には容赦はしない性格のようだ」

 

 

 

――――――

 

 

 

「いけ、チン……」

 

 その「チン」と呼ばれた怪鳥が狭い部屋の中を飛び回り、その嘴を。

 

「くそ、今度は帰してくれる様子はないらしい!!」

「あ、わわ……」

 

 慎二と勇達に向けている中、漏らしている勇。しかし彼黒井慎二は新田勇の事を責めることは出来ない。

 

「チ、チート!!」

 

 ブゥン!!

 

 何か、紅い光と共に黒井慎二の姿が淡く光り、彼のその手から。

 

「やった!!」

「ホウ……」

 

 弾き出された衝撃波が、チンと呼ばれた怪鳥を一匹、地面へと叩き落とす。

 

「ただの少年ではなかったか、なるほど……」

「さあこい、化け物ども!!」

 

 所謂「チート」の発動に成功したことにより気が大きくなった彼、黒井慎二はそのまま仁王立ちで。

 

「このまま、釣瓶落としにしてやる!!」

「まさか、この少年は……」

 

 キェ、ア!!

 

 怪鳥が慎二の頭上を旋回しようとしているが、なにぶん部屋の狭さのせいで本領を発揮出来ないようすだ。それも慎二には幸いしている。

 

「食らえ!!」

「ミロク教典にある、人修羅なのか?」

「化け物ども!!」

 

 再びの衝撃波がチンを叩き落とし、その妖鳥の死骸から。

 

 スゥ……

 

 紅いライン、いや燐光が黒井慎二の口の中へと入ったことに、この場にいた皆が気がつかない。

 

「マガツヒを吸引する能力も備えている、目覚めているな」

 

 いや、氷川だけはその現象に気がついている様子である。

 

「では……」

 

 ビィ、ビ……

 

 またしても以前のように呪符を空へと投げつける氷川、その呪符の塊から。

 

「あんの亡霊みたいなもんか!!」

 

 コロンゾン、以前に一回だけ確認しただけなので慎二にはその名は解らないが。

 

「ま、また化け物ォ!!」

「何なの、こいつら……?」

 

 勇と橘千晶には、そして黒井慎二にも単なる「化け物」でしかない。

 

 ジッ、ジッジ……

 

「な、なんだ?」

 

 総毛、それが体から伸び立つのを感じながら、慎二は氷川が投げ付けた呪符がそれだけ、コロンゾンだけではないことに気が付いた。

 

 バァ、ン!!

 

 空間が膨れ上がり、その宙の空間の中から。

 

「我はバフォメット、神格の者なり」

 

 凄まじい迫力をともないつつ、雄羊の形相をした悪魔が慎二達の前へ立ちふさがる。

 

「ヒッ……」

 

 ついにパニックが限度に達したのか、新田勇が千晶達を置いてその部屋から飛び出した。

 

 キィア……!!

 

「ぐぅ!?」

 

 生き残りのチン、その妖鳥の嘴が彼の頬をかすめ。

 

「いてえ、いてぇよ!!」

 

 そのまま彼新田勇は、地面を転げ回る。

 

「新田!!」

 

その勇に、悲鳴のような声を上げる橘と。

 

「ちっ、バカが!!」

 

 バァ!!

 

 彼女とは別に、コロンゾンを衝撃波で吹き飛ばした慎二は一瞬新田勇を助けるか、そのままバフォメットに立ち向かうかを決めかねたが。

 

「無謀だな、少年……」

「う……」

「このバフォメット、今までの雑魚とは訳が違う」

 

 バフォメット、その悪魔が放つ「オーラ」に対して、その慎二の身体が凍りつく。

 

「肉が、いてぇよ!!」

「新田!!」

 

 どうやら、チンと呼ばれた妖鳥は毒を持っていたらしい。そのまま地面を転げ回る新田勇。

 

「後は任せるよ、バフォメット」

「くそ!!」

 

 最後のコロンゾンを衝撃で吹き飛ばした慎二は、その余裕寂々といった風に立ち去っていく氷川の態度に腹が立ったが。

 

「どこへ行く、人間よ……」

 

 キィイ、ン……

 

 バフォメットが怪音波、謎の音波を放ち、慎二の行く手を阻む。

 

「新田……!!」

 

 もはや転げ回る力もないのか、瀕死の昆虫のようにその身をピクリとも動かさない勇の姿に。

 

「どうすれば!!」

 

 今度は、慎二は自分がパニックに陥りそうになっていた。

 

 

 

――――――

 

 

 

「陰形の術、なかなか使えるな」

「ぼっちゃま」

「解っているよ、五森」

 

 氷川をやり過ごしたルイ少年達は、そのまま足音を忍ばせたままに慎二達の部屋へと向かっていく。

 

「やむを得ん」

「禍魂の摂取は、急性マグネタイト中毒に陥らないでしょうか?」

「だからといって」

 

 部屋の入り口の辺りでピクリとも動かない新田勇の姿を見やりながら、ルイ少年はその肩を竦めてみせる。

 

「ボクが、積極的に手を出す事は控えたい」

「確かに……」

「勿論、最後には手を貸す予定だが」

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