「ウゥ……!!」
橘千晶、彼女の口に昆虫の様なものが飛び込むと同時に。
「カッ、カハァ!!」
新田勇にも昆虫、マガタマがその口の中へと吸引される。
「俺のチートが!!」
「小賢しいな、小僧……!!」
「全く通じない!!」
衝撃波、そして破魔と頭で念じたは良いが、その効果が全くバフォメットには見られないのだ。
「もっと、チートはないの!?」
「フン……!!」
バリ、ハァ……
バフォメットとかいう化け物、彼から冷気が、その筋が黒井慎二にと伸びるが。
「おっと!!」
「素早さだけは、大したものであるな」
「俺だって驚いているよ!!」
素早くその一撃をかわす慎二のその素早さは、もしかするとマガタマの効果の一つかもしれない。
カ、シャ……!!
「よくも、今までこのあたしに!!」
自力で鎖を引きちぎる事に成功した千晶は、その怒りに任されるままに。
ボフゥ!!
淡く輝く光を、バフォメットへと投げつける。
「クゥ!!」
「この償いさせてもらうわよ、異形の化け物!!」
どうやらその一撃はバフォメットにダメージを与える事に成功したようだ、そのまま追撃を試みようとする橘千晶。
「すげぇな、アイツ……!!」
その自分とは比べ物にならない「チート」の力に対し、慎二は彼女「橘千晶」の顔を疾るピンク色のラインをやや、微かな時間みとれていた。
「ぐぅ、グ……」
しかし、同じく顔に薄青色のラインを作らせている新田勇の動きは止まったままである。どうやらチンの毒が全く抜けていないようだ。
「イヨマンテ、あの力があれば毒を消せるかも……」
遠目からその戦いの光景を見守っているルイ少年は、陰形の術を使役したまま、その場から駆け足で立ち去る。
「お食らいなさい、異形の負け組!!」
「おのれ!!」
「メギド・ファイア!!」
この橘千晶という女生徒のマガタマ適性は大したものだ、この異質な力を瞬く間に使いこなしている様子だ。
「くっ、覚えておれよ!!」
フゥ……
そう捨て台詞を残したきり、悪魔「バフォメット」は、この部屋からあたかも空気のように消え去る姿をみた慎二は、軽く口笛を吹いた。
「す、すげぇなお前!!」
彼女、橘千晶の力はバフォメットを仕留める事はおろか、ついぞ撤退させることすら出来なかった慎二の力を遥かに凌駕している。
「すげえチートだ!!」
「はぁ、はぁ……」
「大丈夫か、おい?」
「うるさい、負け組」
「なんだと……?」
確かに彼らの眼前から消え去った悪魔「バフォメット」を、慎二にはどうすることも出来なかったのは確かであるが。
「もういっぺん言ってみろ、女!!」
「ただの女じゃないわ、勝ち組の女よ」
「生意気なんだよ、お前は……!!」
助けようとしたのに、ここまで言われる筋合いはない。
「ウウ……」
だが、その二人の口喧嘩を「仲裁」したのは。
「新田!!」
「勇、俺が解るか……!!」
新田勇の、呻き声であった。
「こっち、ルイ君!?」
「そうだよ、お姉ちゃん!!」
「だけど、あたしに医者の真似事のんて!!」
「あの昆虫みたいな物を飲んだでしょ、お姉ちゃん」
「だったら、あたしにお医者さんのような事が出来ると!?」
「イヨマンテならね!!」
ギィ!!
その大声と共にドアが大きく開き、顔に紅い線条を疾らせた白川由美が新田勇の傍へと佇んだ。
――――――
「何。あれは……?」
気分転換の為、屋上に出ていた内田環の頭上では可思議な現象が起こっている。
グ、ミャア……
東京が、謎の放電をしつつにあたかも卵の内側のような形状に変化していっているのだ。
キ、シュア!!
「はあ!!」
頭上から舞い降りてきた怪鳥へと向かって雷撃を投げ付けながら、その光景を。
「何なの、これは……?」
実と眺め続けていた内田環は、そのまま。
「え、車椅子の人……?」
車椅子に乗ったまま、病院の屋上から落ちそうになっている女性の姿をその目の端へと捉えながらも、彼女は。
「危ない……!!」
その女性を助けようしてその手を伸ばそうと、彼女はその手を伸ばそうとしたが、徐々に。
「う……」
徐々に、その意識を失っていった。