IFのマガツヒ   作:早起き三文

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第15話 「菊理媛」

「全く……」

 

 辺り一面の砂漠、そこに佇むは黒井慎二。

 

「なんなんだよ、ここは?」

 

 確か、新宿衛生病院で勇を白川に見てもらっていて、それで……

 

「まさか、アイツもチートを使えるとはな」

 

 新田勇を侵していた毒、それを白川由美が謎の力で取り除こうとしていた姿は、まさしく慎二のそれと同じものだということは。

 

「チートは、俺様ちゃん一人でいいっての……」

 

 悔しいが、慎二にもそれが解る。

 

「しかし、本当に」

 

 所どころにビルの残骸のような物が見えるが、無論に東京新宿ではない。

 

「なんだってんだよ、ええ……?」

 

 そのうえ、自分が一人だということに黒井慎二ことチャーリーには。

 

「他の連中は、どこへ行ったんだ?」

 

 微かな心細さがある、その為。

 

「おおい、だれかぁ!!」

 

 いつもの臆病さは影をひそめ、大声で人を探し始めた。

 

 

 

――――――

 

 

 

「はあ、はあ……」

 

 空腹ではない、何か得体のしれない疲労が。

 

「つ、疲れた……」

 

 黒井慎二の身体を、強くつつむ。

 

「全く、どこなんだよここは……」

 

 どこまでも拡がる荒野、そこに一人慎二は佇んでいた。

 

「それに……」

 

 太陽、にしては何か不思議な感じのする天体の存在も、慎二にとってややに疎ましく感じている。

 

「あれが月なら、餅でも降ってこないかな……?」

「あれはカグツチじゃよ……」

「だ、誰だ!?」

 

 すぐ近く、慎二のすぐ近くに一人の美しい、和服を身に纏った女が立っていた。

 

「先程からわらわがいたというのに、そなたはきずかなんだ……」

「あ、あんたは……?」

「菊理媛(キクリヒメ)とでも名乗っておこうか、若いの?」

「な、何か食べる物はないか?」

「全く……」

 

 そうブツブツと何かを口ごもりながら、キクリヒメと名乗った女性は懐からなにか、果物の様なものを慎二へと差し出す。

 

「これでどうじゃ?」

「桃じゃねえか」

「いやか?」

「いや……」

 

 ム、シャ……

 

「旨い」

「そりゃ、上質のマガツヒだからのう……」

「マガツヒ?」

「知らんのか?」

 

 そう言いながら、またしても口ごもりながら自分を納得させるかのように、キクリヒメは自身の頭を軽く叩く。

 

「マガツヒについて知らんことは」

「知らないことは、なんだよ?」

「このボルテクス界においては」

「ボルテクス界、それは……」

「全く、実に!!」

 

 ハァ……

 

 今度は、心のそこから呆れたような声を出すキクリヒメ。

 

「どこまでも無知なのじゃ、お主は!!」

「う、うるさいな!!」

「ボルテクス界もマガツヒについても、知らんということは」

 

 そう愚痴を言いながら、辺り一面の荒野をその細い指で指し示すキクリヒメ。

 

「この世界では、死んでいるのとおなじじゃ!!」

「じゃあ、死んだのかもな」

「ハア?」

「俺はよ……!!」

 

 どこか寂しげにそう言う黒井慎二を、今度は気味悪そうな顔をして見やる彼女。

 

「と、ともかくな、キクリヒメさんよ!!」

「な、なんじゃよ?」

「どこか、落ち着ける場所はないか」

「ふむ……」

 

 どうやら、この彼女キクリヒメは力になってくれそうだと判断した慎二は、少し甘えたような声を彼女に向かって放った。

 

「ギンザはどうじゃな?」

「ギンザ、ね……」

 

 もちろんその「街」の名こそ黒井慎二はしっているが。

 

「どうせ、ロクな場所じゃないんだろうな……」

「来るのか、こないのか?」

「俺の知っている、ギンザじゃねえだろ」

「どうなのじゃ?」

「ああ、行ってやるとも!!」

 

 なかば自棄になって、キクリヒメという女性にそう怒鳴る慎二である。

 

「そこで、あんたにイイコトを教えてもらうぜ……」

「イイコト、夜伽の事であるか?」

「いいのか!?」

「そのような訳があるか、阿呆」

「ちぇ」

「破廉恥な男じゃ……」

 

 ククゥ……

 

 そう、言いながらも彼女はまんざらでもない表情を黒井慎二へと見せた。

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