「全く……」
辺り一面の砂漠、そこに佇むは黒井慎二。
「なんなんだよ、ここは?」
確か、新宿衛生病院で勇を白川に見てもらっていて、それで……
「まさか、アイツもチートを使えるとはな」
新田勇を侵していた毒、それを白川由美が謎の力で取り除こうとしていた姿は、まさしく慎二のそれと同じものだということは。
「チートは、俺様ちゃん一人でいいっての……」
悔しいが、慎二にもそれが解る。
「しかし、本当に」
所どころにビルの残骸のような物が見えるが、無論に東京新宿ではない。
「なんだってんだよ、ええ……?」
そのうえ、自分が一人だということに黒井慎二ことチャーリーには。
「他の連中は、どこへ行ったんだ?」
微かな心細さがある、その為。
「おおい、だれかぁ!!」
いつもの臆病さは影をひそめ、大声で人を探し始めた。
――――――
「はあ、はあ……」
空腹ではない、何か得体のしれない疲労が。
「つ、疲れた……」
黒井慎二の身体を、強くつつむ。
「全く、どこなんだよここは……」
どこまでも拡がる荒野、そこに一人慎二は佇んでいた。
「それに……」
太陽、にしては何か不思議な感じのする天体の存在も、慎二にとってややに疎ましく感じている。
「あれが月なら、餅でも降ってこないかな……?」
「あれはカグツチじゃよ……」
「だ、誰だ!?」
すぐ近く、慎二のすぐ近くに一人の美しい、和服を身に纏った女が立っていた。
「先程からわらわがいたというのに、そなたはきずかなんだ……」
「あ、あんたは……?」
「菊理媛(キクリヒメ)とでも名乗っておこうか、若いの?」
「な、何か食べる物はないか?」
「全く……」
そうブツブツと何かを口ごもりながら、キクリヒメと名乗った女性は懐からなにか、果物の様なものを慎二へと差し出す。
「これでどうじゃ?」
「桃じゃねえか」
「いやか?」
「いや……」
ム、シャ……
「旨い」
「そりゃ、上質のマガツヒだからのう……」
「マガツヒ?」
「知らんのか?」
そう言いながら、またしても口ごもりながら自分を納得させるかのように、キクリヒメは自身の頭を軽く叩く。
「マガツヒについて知らんことは」
「知らないことは、なんだよ?」
「このボルテクス界においては」
「ボルテクス界、それは……」
「全く、実に!!」
ハァ……
今度は、心のそこから呆れたような声を出すキクリヒメ。
「どこまでも無知なのじゃ、お主は!!」
「う、うるさいな!!」
「ボルテクス界もマガツヒについても、知らんということは」
そう愚痴を言いながら、辺り一面の荒野をその細い指で指し示すキクリヒメ。
「この世界では、死んでいるのとおなじじゃ!!」
「じゃあ、死んだのかもな」
「ハア?」
「俺はよ……!!」
どこか寂しげにそう言う黒井慎二を、今度は気味悪そうな顔をして見やる彼女。
「と、ともかくな、キクリヒメさんよ!!」
「な、なんじゃよ?」
「どこか、落ち着ける場所はないか」
「ふむ……」
どうやら、この彼女キクリヒメは力になってくれそうだと判断した慎二は、少し甘えたような声を彼女に向かって放った。
「ギンザはどうじゃな?」
「ギンザ、ね……」
もちろんその「街」の名こそ黒井慎二はしっているが。
「どうせ、ロクな場所じゃないんだろうな……」
「来るのか、こないのか?」
「俺の知っている、ギンザじゃねえだろ」
「どうなのじゃ?」
「ああ、行ってやるとも!!」
なかば自棄になって、キクリヒメという女性にそう怒鳴る慎二である。
「そこで、あんたにイイコトを教えてもらうぜ……」
「イイコト、夜伽の事であるか?」
「いいのか!?」
「そのような訳があるか、阿呆」
「ちぇ」
「破廉恥な男じゃ……」
ククゥ……
そう、言いながらも彼女はまんざらでもない表情を黒井慎二へと見せた。