「ここが、イケブクロか?」
「そうだとも、兄貴」
「兄貴は止めろって……」
兄貴、そう異形の悪魔に呼ばれた宮本明は、隣に佇む女生徒の顔色を見て。
「大丈夫か、内田?」
「お腹すいた……」
「大丈夫そうだな」
そのショートカットに紅い「血化粧」を施している内田環に向かい、ニヤリと笑ってみせた。
「で、オニやろう」
「なんですかい、兄貴?」
自分より頭一つは低い男、明にのされたオニは、そのまま宮本にへりくだりながら、そのスキンヘッドに伸びた一本角へと自身の手をやる。
「ゴズテンノウとやら、本当に俺達の力になってくれるんだろうな?」
「それは、兄貴しだいですぜ」
「俺しだい?」
「まずは、力を見せつけないと」
「力、か……」
マントラ軍、その名と実をこのオニから聞いたときに、明は皮肉げな笑みを浮かべるしかなかった。
「力が正義、の連中だったな?」
「それは、よくない事だと思う」
「ハッキリいうじゃねぇか、内田……」
その力が正義という考え方も、この内田環という女生徒も、宮本明にとって不愉快なものではない。
「まっ、な……」
ビュウ……
いずこからか、マガツヒを大量に含んだ風が、この三人へと吹き付けてきた。
「とりあえず、入ってみるか……」
廃ビルの集合体、その中に一際輝くサンシャイン・ビルを見上げながら、明はその顔に嬉しそうな笑みを浮かべている。
「ちょ、ちょっとまってよ宮本!!」
「待ってくれ、アニキ!!」
他の二人に構わず、早足で歩き始めた宮本明を、その内田とオニは慌てて追いかけ始めた。
――――――
「どうしたってんだ、狭間?」
「どうしたも、こうしたも」
宮本明、イケブクロ駅の構内に入り込んだ彼を迎えたのは、何匹かの悪魔を地面へとねじ伏せていた狭間偉出夫の姿であった。
「この愚か者どもが、突然襲ってきたんだ」
「へえ、なぜ?」
「なんでも、僕のスマした顔が気に入らないとかなんとか……」
「それは、災難だったわね、狭間」
その内田環の声に、狭間偉出夫はブスリとした表情を浮かべるのみ。
「それよりも、お前達」
「なんだよ、狭間?」
「お前達は、どこへ行こうとしているのだ?」
「何でも、このイケブクロの支配者が」
そう言いつつに、宮本明はサンシャイン・ビルを眩しそうに見上げた。
「このビルにいるようじゃねえか……」
「だったら、どうしようというのだ、お前は?」
「一つ、顔を拝んでやろうと思ってな」
「止めた方がいい」
そのキッパリとした狭間の声に対して、宮本はややに鼻白んだ様子である。
「ゴズテンノウは、お前達の手に負える存在ではない」
「ゴズテンノウってのか、ふぅん……」
「氷川によれば、このボルテクス界では神そのものの力も持っているそうだ」
「そりゃ、面白い」
「いくら、貴様も人修羅の一人とは言え」
「人修羅?」
「禍魂」
スッ……
マガタマ、そういいながら、狭間はポケットから一つの「昆虫」を取り出す。
「寄生させたであろう?」
「変なガキとババアにな、やられた」
以前の「世界」、そこで謎の化け物に襲われている最中に。
――今日から、君は悪魔になるんだ――
金髪の少年によって、戦いにより疲弊した宮本明は抵抗する間もなく口の中へとその昆虫を入れられたのだ。
「なんで、てめえがそれを知っているんだ?」
「マガツヒの流れ、少しコツを掴めば解るものだ」
「ふん……」
この隣に立つオニから聞いたカグツチ、そしてマガツヒということもマガタマという物も、宮本明には今一つ解らない話である。
「ではな、僕は忠告したぞ」
「一応、お礼は言っておくわよ、狭間君」
「礼は不要だ」
そう言ったきり、狭間偉出夫は優雅な足取りでイケブクロ構内から立ち去っていく。その姿を見送りながら。
「本当に変なやつだ、狭間のヤロウ……」
「だから、軽子坂でへんな噂も立ったのね」
「気に入らねぇ、な……」
二人は、互いに顔を見合わせずに、それぞれ軽くそう呟いた。