IFのマガツヒ   作:早起き三文

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第19話「ギンザに佇む」

  

「ありゃ!?」

 

 ギンザ、よく区画が整えられた街並みに、慎二は知った顔をその目で見た。

 

「勇、新田勇じゃねえか!?」

「慎二、慎二かよ……」

 

 何か、街の中心と思われる噴水の縁へと座り込んでいる勇は、その無気力そうな顔を慎二へと向ける。

 

「元気そうだな黒井、べっぴんさんもつれてよ……」

「わらわをべっぴんというか、よいぞよいぞ」

「ハァ……」

 

 その上機嫌となったキクリヒメの浮かれた言葉にも、勇はその表情を明るくさせることが出来ない様子だ。

 

「どうしたんだ、勇?」

「どうもこうもねぇよ、軽子坂……」

「確かに、妙な異世界転生だけどよ」

「ゲームとかの世界の話じゃねえかよ、全く……」

 

 その勇の不機嫌さ、それは何もこの「異世界」へと飛ばされただけではない様子だ。

 

「祐子先生がな」

「あの美人の先生か」

 

 その「美人の」といったとたん、隣にいたキクリヒメが嫌そうな顔をしたことに、黒井慎二は気がつかない。

 

「あの先生がどうした?」

「氷川とかいう奴がいる、ニヒロ機構って所に囚われているんだってよ」

「氷川?」

「あの、新宿衛生病院で俺達を襲った男の事」

「ああ、アイツか……」

 

 例の冷徹そうな顔つきの男、彼の顔を思い出したとたんに、慎二は不機嫌そうにその顔を歪めてみせる。

 

「こんどは、あの橘という奴に続いて美人の先生を監禁しているのか」

「ああ……」

「警察に連絡した方がいいな」

「どこに警察があるっていうんだよ……」

 

 ハァ……

 

 深く、そうため息をついた後に、彼新田勇はその場から離れようとする素振りをみせた。

 

「俺達といっしょに行かないか、勇?」

「悪いが、断るよ」

「なぜ?」

「俺はな、黒井慎二……」

 

 トゥ……

 

 後ろ姿のまま、新田勇は慎二へとその右手を挙げて。

 

「祐子先生を助けるヒーローになりたいんだ」

「なんだよ、それは……」

「ヒーローは、一人でいいんだよ」

 

 そのまま、ギンザの中央階段を上がっていった。

 

「なかなか難儀な知り合いじゃな、ええ?」

「知り合って、間もないがな」

「縁は大切にした方がいいぞ、ええと……」

「黒井慎二、チャーリーと呼ぶ奴もいる」

「チャーリーの方が」

 

 そう言いながら、キクリヒメは妖艶な笑みを浮かべて。

 

「わらわは好みじゃ」

「な、何をしやがる!?」

 

 彼、慎二の頬へ軽くキスをする。

 

「意外とあんた……」

「積極的、そう申すか?」

「ああ……」

「わらわはキクリヒメ」

 

 一礼、と言うには浅すぎる礼をしながらキクリヒメは。

 

「縁結びの神にして、地の神でもある」

「そのあんたは、俺のどこが気に入ってくれたんだ、オイ?」

「はて?」

 

 そう言いつつにキクリヒメ、彼女は。

 

「どこがじゃろうなあ……」

「あのな……」

 

 ニコと、明るい笑みを慎二へと向けた。


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