「ありゃ!?」
ギンザ、よく区画が整えられた街並みに、慎二は知った顔をその目で見た。
「勇、新田勇じゃねえか!?」
「慎二、慎二かよ……」
何か、街の中心と思われる噴水の縁へと座り込んでいる勇は、その無気力そうな顔を慎二へと向ける。
「元気そうだな黒井、べっぴんさんもつれてよ……」
「わらわをべっぴんというか、よいぞよいぞ」
「ハァ……」
その上機嫌となったキクリヒメの浮かれた言葉にも、勇はその表情を明るくさせることが出来ない様子だ。
「どうしたんだ、勇?」
「どうもこうもねぇよ、軽子坂……」
「確かに、妙な異世界転生だけどよ」
「ゲームとかの世界の話じゃねえかよ、全く……」
その勇の不機嫌さ、それは何もこの「異世界」へと飛ばされただけではない様子だ。
「祐子先生がな」
「あの美人の先生か」
その「美人の」といったとたん、隣にいたキクリヒメが嫌そうな顔をしたことに、黒井慎二は気がつかない。
「あの先生がどうした?」
「氷川とかいう奴がいる、ニヒロ機構って所に囚われているんだってよ」
「氷川?」
「あの、新宿衛生病院で俺達を襲った男の事」
「ああ、アイツか……」
例の冷徹そうな顔つきの男、彼の顔を思い出したとたんに、慎二は不機嫌そうにその顔を歪めてみせる。
「こんどは、あの橘という奴に続いて美人の先生を監禁しているのか」
「ああ……」
「警察に連絡した方がいいな」
「どこに警察があるっていうんだよ……」
ハァ……
深く、そうため息をついた後に、彼新田勇はその場から離れようとする素振りをみせた。
「俺達といっしょに行かないか、勇?」
「悪いが、断るよ」
「なぜ?」
「俺はな、黒井慎二……」
トゥ……
後ろ姿のまま、新田勇は慎二へとその右手を挙げて。
「祐子先生を助けるヒーローになりたいんだ」
「なんだよ、それは……」
「ヒーローは、一人でいいんだよ」
そのまま、ギンザの中央階段を上がっていった。
「なかなか難儀な知り合いじゃな、ええ?」
「知り合って、間もないがな」
「縁は大切にした方がいいぞ、ええと……」
「黒井慎二、チャーリーと呼ぶ奴もいる」
「チャーリーの方が」
そう言いながら、キクリヒメは妖艶な笑みを浮かべて。
「わらわは好みじゃ」
「な、何をしやがる!?」
彼、慎二の頬へ軽くキスをする。
「意外とあんた……」
「積極的、そう申すか?」
「ああ……」
「わらわはキクリヒメ」
一礼、と言うには浅すぎる礼をしながらキクリヒメは。
「縁結びの神にして、地の神でもある」
「そのあんたは、俺のどこが気に入ってくれたんだ、オイ?」
「はて?」
そう言いつつにキクリヒメ、彼女は。
「どこがじゃろうなあ……」
「あのな……」
ニコと、明るい笑みを慎二へと向けた。