Blue Lord   作:アインズ・ウール・ゴウン魔導王

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第1話

「渡り人よ…汝何を求め、この地に来たりや?何故、門の先を見んとす?」

 

「未知を知りたいから…未だに解明されていない深淵を解き明かしてみたい…冒険がしたいから…だから、この伝説の地に来た」

 

「来るべき時か、未だ来たざるべき時か…我に知る術は無し…さりとて、汝求む深淵…我は止めはせぬ…汝、その心に従うべし」

 

「それは、この門を通って良いってこと?」

 

「我、その問に足る答を知らず…修験者が己が足にて行脚するが如く…汝自らさ迷い、道を探すべし…然らば、自と道が生まれてゆこう」

 

ラキュースは"覗きし者"の言葉を、ゆっくりと反復した。

すなわち、門を通るか通らないか…それは自分次第だということ。

 

そして目指す先は、霧の中のよう。故に迷いに迷って探し出さなければならないという忠告───しかしそこから自然と進むべき道は見えてくるという助言でもある。

 

ならばこそ、行かねばならない。

 

決して他人に悟られてはならない…私が"私"という存在を封じるという真の目的のためにも!!

 

さあ、いざ扉は開かれた…決して折れぬ心と愛剣を携え、伝説のk…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいラキュース」

 

 

 

「ふぎゃあ!!?」

 

 

 

「おい?ラキュース、大丈夫か?」

 

「何でもないわガガーラン!大丈夫!冥界の淵を越えた先に引っ張り込まれそうになっただけ…ああ!いや本当に何でもないから!」

 

「あ…ああ…分かった。けど何かあれば言えよ?」

 

「うん、ありがとうガガーランじゃお休みなさい!」

 

 

とあるこじんまりした古い宿屋。そこの一室では、太陽のような輝く金色の髪を持ち、翡翠のような美しい瞳のそして世の女性が羨むような美貌、そして無駄な肉は存在せず───しかし女性として恥ずかしくない母性の象徴を携えた肢体の持ち主である少女が1人いた。

 

 

 

ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラ。

 

 

 

彼女は彼女の祖国であり、現在も暮らしている国───リ・エスティーゼ王国という王政国家出身の貴族であった。

 

貴族は適齢の齢に差し掛かると、男児ならば王から授けられた所領の発展・維持や、国家の政への参加、非常時に置ける戦への参戦等とといった仕事を行うようになる。

 

女児ならば適齢に差し掛かると他領の貴族と婚姻を結び、嫁ぐ。

嫁いだ後は夫の子を身籠り、子育てや政を行う夫のサポートといった仕事が課せられる。

 

 

しかしラキュースは、そういったしがらみに巻かれるだけのガチガチの貴族生活を望まなかった。

 

というのも、貴族の仕事というのはそのような綺麗事のみでは回らないし、生き残れない。

理想の貴族像とは正反対を行くのが内実であり現実だからだ。

 

他者の功績や繁栄に実力の無い者達は"やれ姑息だ"、"やれ伝統を知らない"と陰口を叩き、妬み合う者同士で派閥を組み、革新的な意見を持つ貴族を保守的な貴族があの手この手で叩き潰す。

 

 

しかもこのリ・エスティーゼ王国は他の貴族社会とは一線を画す特徴まで兼ね備えている。

 

 

それは長年の安寧・平穏・停滞による膿が吹き溜まっているという、どうしようもなく情けない理由からくるものだった。

 

まず王国は派閥が真っ二つに分裂しているのだ。

 

 

片方は王の権力集中を狙う王閥派。長い年月を経る中で実権が衰えた王に再び権力を集め、昔の強かった王政に戻そうとする派閥の集まりである。

 

そしてもう片方は王の権力を削いで貴族───特に王国でも有数の実力を持つ6大貴族にとって都合の良い国家を目論む貴族派閥である。

 

こう言うと王の派閥が正義で貴族派閥が悪の構図なのだが、その内実は更に複雑かつややこしい。

 

 

ここらは省略するが、実は貴族の派閥割れ以上に致命的な病が王国に蔓延していた。

 

それは貴族の特権階級意識の異様な高さだ。

 

何せ貴族は8割方が税金は民草から搾り取れるだけ搾り取るものと考えており、増やすよりも取り立てるほうを優先している。

 

故に王国の中でも平民───取り分け農業に従事する民の生活は常に圧迫されていた。

いくら作物を育て、家畜を増やし、資産を蓄えてもそのことごとくが貴族の懐に収まるのだ。

 

取り分はマシな場所でも7:3、もはや末期レベルの貴族の所領では9:1も珍しくはない。

 

しかし民は逃げ出したり、納税を拒否は出来ない。理由は単純で、逃げ出したり、納税拒否は無意味だからだ。そんなことをすれば領主は逆らった民を処刑し、見せしめにする。

 

当然それを見た民は例え横暴な領主でも頭を下げて恭順するしかなく、そんな円環が続くうちに王国はほぼ末期状態に追いやられていた。

 

 

 

 

 

話が長くなったが、ラキュースはそういった貴族社会に嫌気が差していた。

 

そこである日、貴族の特権も身分も捨てて家を出奔───王国を含めたこの近隣の国々で職業の1つとなっている<冒険者>という仕事に就いたのだ。

 

それから何年もの間、冒険者として日々命を掛けてモンスター退治を続け、様々な出会いや艱難辛苦の果てに今の立ち位置に、"蒼の薔薇"という冒険者チームのリーダーという立場になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

………までは良かったのだが代わりに彼女、ラキュースは特権階級意識のような悪辣な病よりはマシなのだが、それとは別次元に救いようのない病を発症していた。

 

彼女は突如扉を開けてきた仲間の女戦士の呼び掛けに慌てて隠した、所々が擦りきれた茶色い日記帳を取り出し、仲間が去ったのを確認してから中を開く。

 

ページというページ中に書かれていたのは様々な黒歴───ではなく彼女が想いを馳せつつも、叶わないだろうと思われる理想的な自分像の数々であった。

 

 

「んん…"魔族よ、私が居る限り、世界に滅びをもたらさせはせん!受けよ!偉大なりしドラゴンをも恐れさせた魔導師が遺せしスレイヤーの奥義!

 

<黄昏より暗きもの…血の流れよりも…>」

 

 

 

そして再び自分だけとなった部屋で、少女は竜を山ごと吹き飛ばせそうな呪文の羅列を初め、数分で頭を机に突っ伏した。

 

 

「…何が駄目なのかしら…どうやっても暗黒のパワーとか支配者みたいなのが取り憑かないし…予知夢やヴィジョンみたいな能力も降臨しないし…この間は詳しい悪魔が居ないかと思って召喚試したら処女狙いの悪魔が出ちゃうし…」

 

 

何やってんだあんた…。

 

 

「うーん…とりあえず寝ましょう。うん、きっと明日にはなにがしかの兆候とか気配みたいなのが…」

 

 

宿屋の一室…理想にひた走る少女の想いは留まる所を知らない…。

 

 

 

 

 

 

 

 

<何故そう簡単に捨てられるんだ…ここは皆で作り上げたナザリック地下大墳墓だろう!>

 

 

 

 

 

<スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン…>

 

 

 

 

 

 

<ひれ伏せ>

 

 

 

 

 

 

<そういえばギャップ萌えだったなタブラさん>

 

 

 

 

 

<はぁ…明日は4時起きか…>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜中、ラキュースはふと目を覚ました。何かに呼ばれた気がしたからだ。

 

しかし何かに呼ばれたにしては感覚が曖昧だ。というより呼ばれたというか招かれた?いや、そもそも誰に?それにあの夢は?

 

 

ナザリック地下大墳墓

 

スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン

 

ギャップ萌え

 

タブラさん?

 

4時起き

 

 

 

どれも聞いた事が無い単語や名前ばかりだ。

 

未だぼんやりとして思考が纏まらない頭を振りつつ、とりあえず顔を洗おうとベッドから足を下ろした。

 

と、そこでラキュースは自分の身体に違和感を覚えた。普段着…ではなく寝間着姿の自分だった筈が、何やらローブのような服を着ている。

 

辺りが暗いままなので手探りで身体を触る。

 

まず着ているのは間違いなくローブだ。マジックキャスター(魔法詠唱者)が着るような…それもさわり心地から多分超弩級の高級品…。

 

肩には何やら水晶を嵌め込んだような大きな装備。先が尖っているっぽい。

 

そして左手に持つ何か複雑な螺旋を描いているっぽい艶がある大きなスタッフ───先っぽには何か小さな宝石みたいなのが7つ埋め込まれている。

 

さて、逆に手や足には何も着けていない。

 

というか着ているローブ以外寝間着どころか下着類も消え失せていた。

 

しかも胸元が大きく開いた男性用のローブらしく、触れば自身の胸が隠されていないままであった。

 

 

「……っ!///」

 

 

誰も見ていないとはいえ咄嗟の羞恥心から左右に開いた部分を手繰り寄せて胸元を隠す。だが左手に持つスタッフは取り落としたりはしなかった。

 

もし落としていれば音が喧しく響き渡り、自分の仲間が何事かと見に来ていただろう…グッジョブ私!

 

だがまだ落ち着かない。何せローブの下は素っ裸そのものだからだ。

 

着ているローブは豪奢な飾りや装飾だけでなく着心地も一級だ。つまり肌触りが最高に良く、まるで磨き抜かれた大理石の如くスベスベしている。

 

お陰で隠した胸元やお尻、身体のあちこちがその柔らかでスベスベする布に包まれて、撫で回されるような感覚が止まらない。

 

動くたびに擦れるためにそんなつもりは無いのに、吐息が溢れ動悸が止まらない。

 

更にモジモジしてしまいながら股部分をキュッとした途端に布の一部がそこに挟まってしまった。

 

ラキュースとて冒険者や神官戦士、そして貴族令嬢である前に肉体をもて余しやすい年頃の娘である。

 

性的快感や肉体の交わりに全く興味が無い訳ではない。しかしそれまでは冒険者として血と泥にまみれた戦いを駆け抜けてきた中で、そういった煩悩にかまける暇は無かった。

 

それが今回の謎の寝間着と下着類消失&女神の羽衣も太刀打ち出来ないような超弩級の高級ローブの衣擦れによってムクムクと沸き立ち、ローブを股に挟んでしまった際に走った電流のような感覚も煩悩に拍車を掛けてしまった。

 

 

「ハァッ…ハァッ…」

 

 

ラキュースは沸き立つ煩悩にいけないと思いつつも魅惑的な誘惑にフラフラと誘われ、己が普段気にしなかった自らの肢体を慰めようと…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『待て…私の服でナニをしている?』

 

 

「ふぎゃあっ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

唐突に脳内に響いた声に驚き、仲間の戦士が部屋に入ってきたときのように叫びを上げてしまった。

 

なお瞬時に頭に冷や水を浴びせられたような状況に、ラキュースは幸運にも肉体の疼きや煩悩の誘惑を綺麗に頭から弾き飛ばすことに成功していた。


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