Blue Lord   作:アインズ・ウール・ゴウン魔導王

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生きてますよ〜。


幕間 〜ハリケーン〜

唐突だが、皆さんはハリケーンをご存知だろうか?言わずもがな、例の大国で起きる災害である。

 

では災害であるハリケーンに付けられる名称が、なぜ女性名なのか?

 

きっとそれは恐らく、怒り狂った女性の怒濤の罵声と説教の嵐の前に相手方の弁明・言い訳・謝罪は全てが虚しく吹き飛ばされる────そんな抗いようの無い状況が、全てを無差別に巻き込むハリケーンのようだからだろうと私は思う。

 

何故、今こんな話をしたのかって?

 

それは私が引き起こしたとある事件により、まさに現在進行形でそのハリケーンに巻き込まれているからに他ならない。

 

事の始まりは私がカルネ村での一件を終えて、ラキュースと共に王都へと帰還してからである。

まず初めて私がこの世界へと流れ着きラキュースと融合してしまった時、お互いの持つ装備が入れ替わっていたのだが、どうやらこの装備入れ替わりの現象は、装備の質によって起こる現象らしい。

 

例えば、ゲームによっては数ある鎧や武器に数値やゲージにより表示される性能差がある。良い装備ほど数値が高く、逆に悪い装備は数値が低くなり、場合によってはゲームのナビゲーションが現時点で装備している物よりも性能が高い物を画面に表示してくれたりもする。

 

この現象はそんな装備ランクによるものである。どうやら私とラキュースが融合した場合、何らかのシステムだか制約だかが働き彼女を守るべく、両者が持つ装備の中から最も高レベルの物が自動的にラキュースに装備されるのだ。

 

なお現時点で高レベルなのはアインズが纏うローブや指輪、ギルド武器であるスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンであるため、ラキュースと融合した際にはそれらがラキュースが着る装備類と入れ替わり、ラキュースが身に付けていた装備はアインズが持つ無限の背負い袋《インフィニティ・ハバサック》という物搬アイテムへと自動転送されるのだが、ここが今回の事件の原因となったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

─少し前─

 

 

 

 

 

 

 

「はーっ!やることやったし、やっと帰れるわ!」

 

『済まなかった、アインドラ嬢。大分遅くなってしまったな』

 

 

スレイン法国の偽装帝国騎士によるカルネ村襲撃に、リ・エスティーゼ王国王国戦士長ガゼフとの出会いに、ガゼフ暗殺の刺客として差し向けられた六色聖典特殊部隊との戦闘という怒涛の出来事を片付けた後、アインズはラキュースと共に王都にある冒険者組合へと転移した。

 

目的は急に消えたラキュースを探しているであろう組合長の記憶改竄である。本来ラキュースは王都の冒険者組合に居る筈なのだ。応接室に居たアダマンタイト級冒険者のリーダーが急に居なくなれば、何か起こったと考え、探そうとするだろう。

 

冒険者に無関係なアインズのみなら問題無いが、ラキュースは紛うことなき冒険者組合の関係者だ。当然ながら冒険者が国家間のゴタゴタに関わり、あまつさえ首を突っ込んだなんて話が広まれば、周りの他の冒険者に迷惑が掛かり、ラキュースも只では済まない。

 

よって王都へと帰還するアインズがラキュースに最初に提案したのが、冒険者組合長の記憶改竄であり、組合長には周囲にラキュースの事を上手い具合にぼかして説明して貰うのだ。

 

そして今、アインズは組合長の記憶改竄を手早く済ませ、ラキュースと共に冒険者組合から王都の人気の無い裏路地に転移すると、徒歩で蒼の薔薇が宿泊する高級宿へ戻っていた。

 

 

(これで一段落か……記憶操作は偽装騎士で実験しておいたお陰で特に記憶に齟齬は生じていない。組合長の人格や記憶を崩壊させずに改竄が出来たし、組合長が要らぬ騒ぎを起こさないようアダマンタイト級冒険者の行方不明を隠していたのも有利に働いたしな)

 

 

記憶操作は非常に繊細さと慎重さを要する作業だ。下手に弄れば本人の本来の記憶と植え付けられた嘘の記憶の間に齟齬が生じ、そこから人格や行動がどう変化していくか予想がつかない。やりようによっては最悪、聖人君子レベルの温厚な人物が唐突に稀代の極悪殺人鬼化しかねない。

 

 

(これから機会があれば記憶操作は練習をするようにしておかないとな)

 

 

そうアインズが心で呟いていた辺りで、両者は目的の宿へとようやく辿り着いた。ラキュースとアインズが入口に近付けば、宿の入口に控える品の良い服装の使用人男性がこちらの姿を認めると、恭しく一礼をしてから扉を開いてくれる。

 

中へと入ってとある一角に目を向ければ、そこではほどよく酒が入って上機嫌に笑うガガーランにうんざりした雰囲気を漂わせているティアとティナ、そして我関せずとばかりに頬杖をつくイビルアイという何時ものメンバーが居た。

 

そこでガガーランがテーブルに近付いてくるラキュースとアインズに気付き、手を振って招き寄せる。

 

 

「よぉラキュース、アインズ!大分遅かったな!なんだ、2人して夜のお楽しみだったか?」

 

 

そしてテーブルについた2人に対して、開口一番セクハラ発言を放ってきた。どうやらかなり良い具合に酔っているらしい。

 

 

『ああ、ちょっとした野暮用でな……」

 

「おう、そうかそうか!そういう事にしておいてやるよ!」

 

「ガガーラン、野暮用の相手は件の聖典部隊よ」

 

「……悪酔いで聞いて良い話じゃ無いらしいな。イビルアイ……」

 

「もう魔法は展開した」

 

 

イビルアイはラキュースの言葉を察し、既に行動に移していた。ラキュースは礼を述べると、アインズと共にカルネ村との一件を話し出す。

 

 

 

スレイン法国の偽装騎士による村々の破壊。

ガゼフを狙った陽光聖典部隊の暗躍。

その暗殺阻止に加え、陽光聖典の生き残りはガゼフが連行したこと。

 

 

「なるほどな……ならば後は国王がそれをどう活用するかということだな」

 

 

イビルアイの言葉に頷く面々。事は冒険者が関わる範疇を越えている政治的な分野だ。例えアダマンタイト級冒険者でも軽々と口を出せる場ではない。

 

となれば願うは、国王ランポッサⅢ世が国を割るかもしれない荒療治を覚悟してでも今回の暗殺劇を仕組んだ敵対貴族を粛清し、王国の膿を少しでも絞り出すという決断をする事だ。

 

 

『よし、ではこの話題はひとまず国王の決断を待ってからとしようか。アインドラ嬢、次は君の装備に関してだが……』

 

「そうね。私の装備はアインズさんのマジックアイテムに収納されている筈だったわね」

 

『ああ、では皆、装備を取り出すからテーブルを空けてくれ』

 

 

 

 

これが悲劇を呼んだ……呼んでしまった……。

 

 

 

 

アインズが何も無い虚空に両手を伸ばすと、手から先が虚空に現れた空間へと沈み込む。そして数秒ののちアインズが引っ張り出した両手には、アインズとの同化で転送されていたラキュースの装備が全て載せられていた。

 

 

「おお、こいつは凄いな!一体どんなマジックアイテムなんだ?」

 

『これは無限の背負い袋《インフィニティ・ハバサック》。500kgまでならあらゆる武器・防具、物品を大きさ・形を問わずに運べるマジックアイテムだ。まぁ、重量制限があるのに"無限(インフィニティ)"なんて名前、一体誰が考えたのやらな』

 

 

見たことの無いマジックアイテムに食いつくガガーランに、アインズはアイテムの性能を教える。魔法詠唱者のイビルアイは勿論、ティアとティナも興味があるのか話を聞いている。

 

 

だがラキュースはアインズの両手に載っかる装備を見て、固まっていた。

 

 

無垢なる白雪《ヴァージン・スノー》やキリネイラム等は別段問題は無い。むしろ問題というか肝心なのは、背負い袋から取り出された装備の一番上に、ラキュースの"寝間着一式"が置かれているということだ。

 

 

『……嬢……ンドラ嬢……アインドラ嬢?何かあったかね?』

 

「あ?えっ、ご、ごめんなさいアインズさん!」

 

 

アインズのマジックアイテム談義が終わっていたのか、ラキュースは自身を呼ぶアインズの声で我に返った。

 

こちらを心配そうに覗き込む黒髪の青年に擬態するアインズと目が合い、とりあえずラキュースは現状が生み出しかねないトラブルを極力避けるべくアインズに言う。

 

 

「アインズさん、私の装備なんだけれど、返却してくれるのは嬉しいのよね……でも、あのね……」

 

『どうした?』

 

「とりあえずそれを一回仕舞ってほしいかな〜、なんて……」

 

『ん?何故だね?』

 

「あ……おい、アインズ。とりあえず一回装備を仕舞え」

 

 

疑問符を浮かべるアインズにどう言うべきかラキュースが迷っていると、ガガーランがその理由に気付いてアインズに単刀直入に指示する。

 

 

「アインズ、それは不味い。直ぐに仕舞うべき。そのままだと鬼リーダーの矜持とか世間体が八欲王時代になる」

「アインズ、不味いけど最高。複製するマジックアイテムがあるなら後でそれを複製して貰いたい。鬼ボスの使用済みはレア物」

 

「アインズ、悪いことは言わない。一回装備を全て直ぐに仕舞うんだ。お前は乙女に恥を掻かせる趣味は無いだろう?」

 

『皆、先ほどから一体何を言…っているん……だ………あっ…!』

 

 

周りの言葉に理解が及ばないと疑問を口にするアインズだったが、彼女らの視線が向けられる先、すなわちラキュースの装備一式に目線を移したことでようやく現状を理解した。

 

ラキュースの鎧や剣の上に置かれたとある品々……蒼の薔薇のリーダーがあの日アインズと初めて融合してしまった際に就寝のために着ていたのであろう、寝汗で湿ったネグリジェや下着がアインズの両手に載せられていた。

 

 

イビルアイの消音結界の魔法で声は周りに聞こえないが、当然ながら姿やそこにある光景は見えているのだ。宿でも噂の黒髪の青年が両手にラキュースの装備を持つという光景は直ぐに周りに知れ渡り、何事かと見ていた宿の宿泊者達。

 

そして周りから何かを言われた青年が視線を向けた先に、周りの客も興味からちらほらとだが視線を向けていたのだ。

 

 

そして宿泊者達は直視してしまった……。

 

 

青年の両手に載る女物のネグリジェや下着類を………蒼の薔薇のリーダーが装備する彼女の象徴とも言うべき"無垢なる白雪《ヴァージン・》"と一緒に載せられていることから、恐らくは当人のもの………それが面前で晒されてしまったのだ。

 

唖然とする客達は、この非常にデリケートかつ深刻なトラブルを引き起こしかねない状況にどう反応すべきなのか分からず固まっている。

 

そんな中、アインズが装備に混じるラキュースの下着を直視し、更にはうっすらとしたラキュースの残り香が漂いアインズの(無い筈なのに匂いを感じる)鼻腔をくすぐった事で、事態は最悪の展開へと至った。

 

 

 

 

『くぁwせdrftgyふじこlp!!?』

 

 

 

 

アインズは自身の脳内処理能力を越えた事態を前に奇声をあげ、咄嗟にそれらから手を離してしまった。

 

当然ながらレベル30程で英雄と呼ばれるこの世界では、レベル100のプレイヤーが力の差を考慮せず咄嗟に腕を離せばそれだけで風圧が起きる。

 

結果、アインズの手から離れた装備と下着は風圧により床に落ちずに宙を舞い、ばら蒔かれた────他の客達が座る席やテーブルへと………。

 

 

 

「「「「「…………」」」」」

 

 

 

『あ……いや……これは……その……』

「………///(プルプル)」

 

 

「「「「あ〜あ……」」」」

 

 

 

その場にいた宿泊客の間に沈黙が舞い降り、アインズはしどろもどろに言い訳を捻り出そうとし、ラキュースは顔を真っ赤にして羞恥に身体を震わせ、蒼の薔薇のメンバーは「やらかしたな」と言わんばかりにため息と共にそうボヤいたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──そして現在──

 

 

 

 

 

 

 

アダマンタイト級冒険者蒼の薔薇リーダーのラキュースの下着が宙を舞いばら蒔かれたという事件はあっという間に宿屋の宿泊者達の噂として広まり、その犯人というか原因は蒼の薔薇の庇護下に置かれている青年(アインズ)という事も相まって噂は当分消えそうにない。

よって今、アインズは蒼の薔薇メンバーが宿泊に使う部屋にて怒りの言葉をマシンガンの如く吐き出し続けるラキュースの前で正座し、各メンバーから冷たい眼差しを浴びていた。出会った当初は慣れない敬語を用いながらもアインズに対して例を失しないようにと気を付けていたイビルアイすら、敬語も敬称も付けることなく蔑みの態度を隠そうともしない。

 

 

『なあ、アインドラ嬢。そろそろ機嫌を直してくれな……』

 

「はい?"な・に・か"言いたい事でも?」

 

『……いえ……』

 

 

宥めの言葉すらハリケーンの前に撃沈した。

 

それから1時間、怒涛の如く押し寄せる怒りを纏う乙女を宥めるべく、アインズは世の同じ境遇の男達同様、虚しい奮闘することになったのは言うまでもなかった………。

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