Blue Lord   作:アインズ・ウール・ゴウン魔導王

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カルネ村編、始まりまーす。




第5話

カルネ村はリ・エスティーゼ王国の東、城塞都市エ・ランテルから徒歩2日。馬車ならば約1日ほどの場所に位置する開拓村である。

 

側にはトブの大森林と呼ばれる広大な森林地帯が広がっており、村人らは日々の農耕以外に、この森林から伐採した樹木や、森林の奥で採れる薬草を収入源としている。

 

言ってしまえば、何の変鉄も無い普通の開拓村だ。

 

だが、今日という日に限っては、この村に住まう者達は、己が不幸を嘆かずにはいられない筈だ。

 

時刻は夜明け前、このまま時が進めば村人達は何時ものように夜明け頃に起床し、長年続けてきた村の生活を始めるだろう。

 

しかし、この村は太陽が空に差し掛かると共に全滅するという未来が待ち受けている…。政治という名を借りた薄ら暗い陰謀の犠牲者として…。

 

 

村人はほとんどが虐殺され、村は灰塵に帰す…そうなるのがこの村と村人らの避け得ぬ運命───

 

 

 

…の筈だった。

 

 

だが、ある存在が何気無い行動からこの村を知ったことで、村人らの運命は大きく変わることになるとは、まだ誰も予想してはいなかった。

 

 

 

 

 

 

…………………………

 

…………………

 

…………

 

 

 

 

 

 

エンリ・エモットは、このカルネ村に住む少女だ。容姿は特段優れた美しさを持っている訳ではなく、また特別な技能も持たない。

 

だが日々の農作業や薬草採取で太陽に当たり続けてくすんだ金の髪は彼女の誠実さを表したようである。

 

またその顔は愛嬌があり、母性の象徴は同じ年齢の少女らより豊かで、優しく微笑む彼女にハートをかっ拐われた年若い薬師がいたりする。

 

そんなエンリは、夜明けを迎えたカルネ村で、一抱えはある瓶(かめ)を両手で持ち、自分の日課である朝の水汲みに出ていた。

 

荒縄の先に付いた桶を井戸に放り込み、水を汲み上げ、瓶に溜めていく───それだけを聞くと簡単そうだが、これが意外と肉体作業なのだ。

 

(分かりにくい方で一戸建て住宅にお住まいの方は、2リットル天然水のペットボトルを3本くらい紐にくくりつけて2階に引き揚げる作業を繰り返してみると、大変さが分かる…多分)

 

エンリは額に玉の汗を浮かべながら繰り返し水を汲み上げ続ける。朝の朝食や衣類の洗濯など、水は必須である。

 

水汲みが終わったら水で更に重くなった瓶を両手で抱えて、自宅へと戻る。その頃には起きて農作業の準備をしていた父に朝の挨拶をしてから、朝食の準備をしていた母を手伝う。

 

朝食の準備が整った頃には家の裏で保存食用の魚の日干しをしていた妹のネムが戻るので、家族揃って食卓を囲む。

 

魚は大森林の近場を流れるそれなりの幅がある浅い川から獲れるものだ。内臓を取り出して血抜きしたそれを日当たりの良い場所で干し、冬や緊急時用の保存食にする。

 

朝食を終えたら、父は農作業へと赴く。母は家の掃除や作物を入れる袋を編んだり、昼食の準備。

 

自分と妹は採取した薬草をエ・ランテルへ出荷する分の仕分けと、村で使う分の仕分けの仕事がある。

 

こういった開拓村で暮らす人間は遊ぶ暇はほとんど無い。自分は勿論のこと、妹も基本的には仕事の毎日である。

 

何故なら日々の仕事が未来に直結するからだ。

 

開拓村は領主お抱えの村とは違い、災害や飢饉による援助や保証は無い。だからこそ常日頃から蓄えられるだけ財を蓄え、備えられるだけ備えるのだ。

 

それでも毎年の徴税や作物の不作等で残る財は微々たるものにしかならない。

それでも細々と続けていけば、将来的に子供達が成長して一族の血筋を残していくための手助けとなる。

 

 

 

 

農民とは、そうして生きて死んでいくものだった。

 

 

 

 

太陽が昼を回った頃、エンリは昼食の準備のために再び瓶を抱えて井戸に水汲みへと来ていた。

 

エンリは、その作業の途中ふと何やら鳥のざわめきが聞こえ、顔を上げた。

 

そして村の外側───エ・ランテルへと続く道の向こうからやってくる影を見つけた。

 

 

人数は30人くらいの集団…徒歩の者も居れば、馬に騎乗している者も居る。

 

 

エンリは最初こそ何の集団なのか分からずしばらく村へと歩いてくる彼らを見ていたが、ようやく目視で外観が分かる距離まで近付いてきた時、彼女は血の気が引くのを感じた。

 

リ・エスティーゼ王国の隣国に位置するバハルス帝国。その帝国の紋章が刻まれた鎧を纏った騎士達がこのカルネ村に近付いていたのである。

 

騎士達が剣を抜いて走り出すのと、エンリが村に危険を報せようと叫ぶのは同時であった。

 

そして何事かと表に出てきた村人達は、突如として襲いかかってきた帝国の騎士らによって虐殺の渦に叩き落とされたのである。

 

 

 

 

 

…………………………

 

…………………

 

…………

 

 

 

 

 

 

 

「……祭りか?」

 

 

そう鏡を前に呟いたのは、全身黒軍服に帽子姿の青年。

 

ラキュースらと別れて王都見物をしていたアインズであった。

 

もともとは王都見物のみの予定であったのだが、指に着けている装備の1つであるリング・オブ・サステナンス<疲労無効の指輪>の効果のせいで、疲れることなくサクサクと見物が終わってしまったのである。

 

 

……なお、見物が早々に終わってしまった一番の理由は王都にこれといって目を見張る観光名所のようなものが無いからであるが……。

 

 

だが合流予定の夕刻まではまだまだ時間があり、アインズとしてもまだ何かしら見るべきものがある筈と考えていた。

 

そこでアインズは

 

「ゲート<転移門>があるし、すぐ戻ってこられるし、大丈夫だろ」

 

と、蒼の薔薇との合流までは王都の外、ラキュースから聞いた城塞都市エ・ランテルを見物予定の中に入れたという訳である。

 

ただ問題は、アインズは王都しかこの世界の場所を知らないことであった。

アインズが使用出来る転移魔法である<ゲート(転移門)>は、リキャスト・タイム0、成功確率100%の魔法である。

 

だがこの<ゲート(転移門)>───使用するには本人が行きたい場所を知らないと使えないという欠点が存在した。

 

つまり"A"という場所から"B"の場所に転移する場合、使用者は"B"の場所を名前を知っているだけでなく、具体的な風景(広場だとか大通りだとか)を覚えておく必要があるのだ。

 

ユグドラシル時代は、一度行った場所は履歴や移動場所一覧に載ったため、コンソールから行きたい場所を選んで使えばそれで終了だったが、アインズがこの世界に転移してからは、そのシステムは"転移場所の風景を脳内記憶"しておくという法則に置き換えられてしまったらしい。

 

ならば、まず最初にすべきは転移先を知ることである。

 

アインズは一度ラキュース達が泊まっていた宿に戻ると、蒼の薔薇の関係者だと店主に伝えて部屋へと通してもらう(店主は今朝の一件でアインズをしっかり記憶に留めていた)。

 

部屋に籠ったアインズは誰も見ていないことを確認してから、懐の袋───ユグドラシル時代から使い続けてきた無限の背負い袋(インフィニティ・ハバサック)から幾つかの巻物(スクロール)を取り出した。

 

そしてアインズはそれを次々と展開させていく。

 

巻物(スクロール)の中身は、情報対策系の魔法であった。

 

アインズはユグドラシル時代、ギルドメンバーの"ぷにっと萌え"という男から、戦術や情報対策として様々な手解きを受けていた。

 

この世界に来てからも、その慎重深さはしっかりと身に付いていたのだ。

まだ自分を害する何者かが居ると決まった訳ではないが、それでも万が一を考えた場合、対策を万全にするに越したことはない。

 

ちなみに、蒼の薔薇との朝食時にも実はこっそり情報対策魔法で自分をメンバー共々守っていたりする(アインズは知らないが、もしこの世界のレベルの人間が蒼の薔薇の朝食時の風景を盗み見ようとしていた場合、その人間は凄まじい爆発のカウンター魔法に曝されただろう)

そうして情報対策を終えたアインズは、今度は袋から遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)と呼ばれるアイテムを取り出す。

 

これもユグドラシル時代からアインズが使い続けてきたアイテムだ。

その名の通り遠くの場所や街等を遠隔視で見ることが可能である。

 

もっとも音や会話を聞き取ることは出来ず、建物の中を覗いたりすることも出来ないため、使い勝手が良いという訳ではないのだが……。

 

だが今回に関しては、それは問題ではなかった。アインズが知りたいのはあくまでもエ・ランテルの外観や風景であって、誰かしらの内緒の話や、子作りに勤しむ営みを見たい訳ではないのだ。

 

 

 

『さて……確かエ・ランテルはここから東だっけか……』

 

 

アインズはラキュースから教えられたエ・ランテルの方角を思いだしながら鏡を操作し始める。

 

 

「ん?……あれ…うわ、どうしたらいいんだこれ……」

 

 

アインズは操作を始めて早々に鏡と格闘する羽目になった。

 

あっちこっちに両手をワサワサ動かし、手首に捻りを入れたり、指先のみでいじったり、両手をグワッと開いて仰け反ってみたりと色々試すが、どれもいまいち。若干鏡の映す場所が動いただけである。

 

 

要は<鏡の使い方分からない助けて誰か>状態だ。

 

どうやら遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)まで、ユグドラシルのシステムからこの世界の法則に移し変えられてしまったらしい。

 

ユグドラシル時代は指先で行きたい方向をクリックするだけで済んだのが、ヒント無しの謎解きゲームと化していた。

 

だがしばしの格闘ののち、両手を同時に左右に開く動作をした途端、鏡の映す場所がズームアップしたのだ。

 

 

「おっ!これはもしかして……」

 

 

今度は両手を左右から中央に戻すとズームアウトした。その流れで両手を使って操作すると移す場所の移動方法もようやく理解が出来た。

なんとか操作が分かったので、浪費した時間を取り戻すために早速周囲を観察しつつ鏡を動かしていく。

 

『おっと、エ・ランテル発見!……うわー、凄いな!まさに城塞都市だ!』

 

 

アインズは目当てのエ・ランテルを発見すると、その壮大な外観に目線が釘付けになる。

 

現実世界(リアル)では本や写真、ゲームでしかお目にかかれなかった中世の城塞都市が、鏡越しとはいえアインズの目の前に見えているのだ。

 

当然ながら年甲斐もなくアインズははしゃいでしまう。しかもアンデッドの時とは違い人間状態の今は楽しい感情が抑制されたりはしない。

 

本来はエ・ランテルの風景や位置を確認したら向かう予定であったが、アインズは"もう少し周りも見てたい"と思い、再び鏡を動かし出した。

 

 

『うん、なんだ?』

 

 

すると遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)がひとつの村を映し出すところで、アインズは村の様子に手を止める。

 

村では多数の人々が走り回ったりぶつかり合ったりしているようだが、見た感じ何かがおかしいとアインズは思う。

 

 

 

 

『祭りか?』

 

 

 

 

アインズは疑問を解消すべく、鏡を操作して村の風景を拡大した。

 

そこでは村人と思われる人々が次々と騎士の姿をした人間によって馬上から斬りつけられたり、別の騎士によって村の中央に集められたりしていた。

「……っ!(何だ、これ……虐殺じゃないか……!王国の兵士は誰も居ないのか!?)」

 

 

モモンガは内心で、虐殺される村人とそれを平然と行う騎士に嫌悪を催す。だがそれと同時に、とある事に驚いた。

 

 

『おかしい……人間の時だったらこんな光景見たら吐いた筈なのに……憤りや嫌悪を感じても、そういった感覚は起きない……』

 

 

恐らくだが、元の身体が人間ではなく骸骨(スケルトン)───種族は死の支配者(オーバーロード)だが、つまりは異形種になったことで精神も変化したと考えるのが妥当だろう。

 

今は指輪で人間化しているために憤りや嫌悪等の義憤を覚えるという面もあるが、同時にアンデッドの特性で極端な感情による身体の不調はカットされているのかもしれない。

 

 

そこまで考えてアインズは、もしかしたらあり得たかもしれない自分のとある未来に戦慄した。

 

 

(もし俺が只のアンデッドとして生きようなんて考えてたら……この指輪が無くて異形のアンデッドとして生き続けてたら……)

 

 

恐らくそれが現実であったならば、アインズは人間を下等生物のように扱う異形のアンデッドとなっていたかもしれない……。

 

只の実験動物・材料として見て、無関係な人間の人生を簡単に踏みにじるような存在になっていたかもしれなかった。

 

 

『良かった……そうなる前に気付けて……』

 

 

ラキュース達と出会えて、まだ短い時間ながら現実世界(リアル)では感じられなかった人との付き合いを楽しんだアインズは心に決めた。

 

 

 

"決してただ人の人生を踏みにじるアンデッドにだけはならない"と……。

 

 

そう決心したアインズは更に鏡を動かしていく。すると鏡はそれまで真上や斜め上から見る状態だったが、地面に接近すると今度は人や生き物のような目線で見られるようになった。

 

どうやら地面に着くと視認性を考慮して視界位置が変化するらしい。もしかしたら他の操作方法で、空中でも視界位置を変更出来るかもしれない。

 

そけでアインズは鏡の中に映る光景に、再び手を止めた。

 

そこでは父親らしき人物が手斧を持って、家族を逃がしているところであった。だが父親らしき人物は瞬く間に騎士に取り押さえられてしまう。

アインズはそこまではただ見ていたが、父親らしき人物が何かを呟くのを見て唐突に立ち上がる。

 

そして片手で無限の背負い袋(インフィニティ・ハバサック)から幾つかアイテムを取り出しながら、もう片手で<伝言(メッセージ)>を発動する。

 

伝言相手はラキュースである。

 

 

<<ラキュース、聞こえるか?>>

 

<<え?アインズさん?この声は一体……>>

 

<<話は後だ。時間が無いから単刀直入に言う。エ・ランテル近郊の村が騎士に襲われている。だから俺はこれから村を救いに行く>><<え?アインズさん、ちょっと!>>

 

<<何か問題があれば俺が責任を取る。後は頼んだ!>>

 

<<だから待った……>>

 

 

アインズはラキュースに繋いだ<伝言(メッセージ)>で矢継ぎ早に状況と自分が取る行動を告げると、一方的に<伝言(メッセージ)>を切った。

 

 

 

『<ゲート(転移門)>!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………

 

…………………

 

…………

 

 

 

 

 

ラキュースは突然耳元に聞こえたアインズの言葉に状況を詳しく聞こうとしたがアインズは一方的に伝えることだけを伝えると、一方的に魔法を切ったらしい。

 

どうするべきかと思案するラキュースに、ガガーランが寄ってくる。

 

 

「おい、ラキュース。一体どうした?まさかアインズに告白でもされたかw?」

 

 

アインズとラキュースのやり取りを知らないガガーランは、カラカラと笑いながら冗談を飛ばす。

 

だがラキュースから返された言葉に、ガガーランは笑いを止めた。

 

 

「ガガーラン、アインズさんからだけれど……エ・ランテル近郊の村が襲われているらしいわ……」

 

「なに?」




【遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)】

操作方法は捏造。地面に着くと視界が水平になるのはアニメの描写から。
主人公が遠望の危機に気付くのに大変便利なお助けアイテム。




※あっちいったりこっちいったり、カルネ村が始まったりしますが、本作品はアインズ×ラキュースというラキュースヒロインな作品です。
なので時折イチャコラします。
アインズ様の側は純白の大口ゴリラか、死体愛好者の八つ目ウナギしか認めないという方は、低評価を叩き付けてから、お戻り下さい。
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