米林三兄妹の生活様式 作:米林
兄
姉
妹の視点で書いていきます。
妹は転生者である。らしい。
夕食後の、いつもと変わらない時間に、二人いる内の妹の一人の厨二妹が、暗い雰囲気を醸して弁じた。もう一人のぽっちゃり妹の方は、「厨二おつ」とケラケラ笑っている。二人は双子である。一卵性双生児だが、体型が違うため、見た目の区別ははっきりとつく。
厨二妹は、そんなぽっちゃり妹のことを異に返す様子はなく続けようとしたので、一旦待ったを掛けて、俺はお茶を用意することにした。きっと疲れているのだ。
しかし、厨二妹の意思は固かったよう。
神様転生で手に入れた筈のチートな肉体が、俺に流れていってしまっている、らしい。
「へぇー」と、ぽっちゃり妹と共に、愉快な頭の厨二妹に生温かい目を向けて、それから寝るまで優しく接していたら、いつのまにかその話題は流れていた。しかし、実際は心当たりがないこともなかったのである。
おう身体よどうした、なんか最近おかしいぞと自覚したのは、中学入り立ての頃。徐々に変化があったのか、それともある日突然のスパイダーマン事例だったのかは、今は知る由もない。
それには一応のわけがある。
俺は運痴であった。
かけっこも、まあまあのフォームで走ることはできるのに、そのスピードが極めて遅く、本気を出してジョギングレベルだった。容姿も相まって、子亀と揶揄られたこともある。
貧弱と云うわけではないのに…そう見た目以上に力が足りなかったのだ。
では、筋トレすればいいじゃんとある日思い立ち、一時期励んではみたものの、同級生に「筋肉つけたらチビのまんまだぜ」と嘲りを受けたので、速攻で辞めた。しかし、あのあんちくしょうのお陰で今の俺があると言っても過言ではないだろう。母親や妹達は同年代の平均を下回る身長だが、俺は試行錯誤して何とかほんの平均少し下をキープ。これからが勝負である。
即ち、運動を苦手として、体育の授業でもひっそりとやっていたため、自分の身体の変化に気づかなかったのだ。見た目、まぐっているわけでもないしね。
それが、最近顕著に出てきている。とは言え、いくら身体が変わったからといっても、運動嫌いなサガは抜けるということなく、自主的にスポーツに励む気は更々起きなかった。俺は、もう根っからのインドア派であったのだ。太陽は嫌いだ、焼ける。運動する暇があるのなら、本を読む。そもそも、家事を担当しているため、部活動をする暇はない。妹達との登下校(送り迎え)という、大事な使命もある。
厨二妹に身体のことを不審がられたキッカケというのも、曇りの日曜日に珍しく外に出て、ぽっちゃり妹とバトミントンをしていた時に、ぽっちゃり妹がうおー!と喜んでくれて調子に乗った結果という、別段大したことのない理由である。
「兄ちゃん兄ちゃん」
「なんだい、こーちゃん」
「はぁ磨いておくれ。あの超速のやつ希望」
「後でしっかり磨くからね」
「あーん」
ぽっちゃり妹の頭を膝に乗せて、要望に沿って超速で歯磨きをした後、こしこしと丁寧に磨く。ぽっちゃり妹は、口から泡を垂らしながら、うつらうつらとし始めた。俺の太ももは適度な弾力があって、寝心地がいいらしい。ぐへへ、上質な肉やと怪しい目で見られた時には、鳥肌立った。
「お兄さんお兄さん」
「なんだい、やーちゃん」
「私も…歯ぁ磨いて」
「いいよ。ほら、才子ちゃんはおわり。チェンジして」
「断固阻止する所存ー」
「どいてデブサイコ」
「兄ちゃん、べぃじたぼぅが才子の悪口言ったぞ、いいんか」
二人共やる気のなしの喧嘩なので、スルーする。
双子なのに、この二人は仲が良くない。悪いとまではいかないけど、決して良いとは言えない空気感がある。でも、二人はいつも一緒にいる。
夜は基本家を空けがちな母親に代わって、小さい頃から妹達の親代りとして、それなりに世話をしてきた自覚はある。
この二人は昔からこうだった。何かと張り合って甘えてくる。妹達はまだ子どもで、互いに独占欲を発揮してくる。その内仲良くなってくれるだろうと、この時は思っていたり。昔はもっと酷かった。今でも、ねこのじゃれ合い程度はするが、昔は噛み付くわ、引っ掻くわでガチだったから。
中学校の卒業式。
周りは笑い、泣き、一部では公立の結果待ちに身を竦ませるなど様々だ。
ちなみに、俺の行き先は決まっていた。母親によって、知らぬ間に決められていた。
四月から、喰種捜査官養成学校高等部に通うことになっている。今更だが、めっちゃ行きたくない。訓練なるものがあるそうではないか。
俺に高校受験の必要がないと知ったのは、受験勉強に夏を費やした後の、九月。
あの努力は何だったのだろう。一応、入試形式の試験はあったが、まんま形だけであった。
夏休みは、図書館に行って勉強しようと計画するも、寂しがる妹達を置いていけず、ゲームや読書に没頭する妹達の横で、ガリガリ勉強したあの日々はなんだったのだろうか。トップの高校に入って、母親を楽させようと少しは考えていた俺の親孝行は、母親には伝わらなかったらしい。特待も狙えていたはずなのになあ。
自業自得感もある。そもそも、母親は俺の成績を知らなかったのだ。だが、当たり前だった。俺、母親に学校のこと話したことないもの。対して、母親も俺の学校生活には興味はなかったようだ。冷え切った関係というか、母親は年下の恋人に夢中だったから。最終三者面談の時に、それなりの頭であることは知られたものの、もう遅かったのだ。
そして、開き直ったというか、俺の頭の出来がよかったことに喜んだ母親はそのまま、将来は喰種対策局の幹部にでもなるように、酒で顔を赤くしながら絡んできた。
ああ、なりたくない。捜査なんて柄ではないし、喰種なんて怖くて関わりたくない。刑事物は観ないし、ホラーは大の苦手なのだ。なのに、何故か妹達は乗り気だった。
厨二の方は「よ、目指せ米林特等。お兄さん、一発かませるで」と、シャドーボクシングしながら、いやらしくニタり。母親の酒を舐めて、フラフラと酔いながらのセリフだ。
ぽっちゃりの方は「しっかり稼いで、才子をしっかりと養って兄ちゃん」と、言われたので兄ちゃん頑張るぞ。でも、ドナドナはやめてしかった。珍しく二人で仲良く歌ってたから、そこは嬉しかったけど。
そういうわけで、CCGアカデミージュニアに通うことになった。自宅通学です。
寮もあったが、妹達に泣き付かれながら、服に洟水を擦り付けられながら止められたために、少し距離があるが自宅から通学することに。走れば直ぐだけどね。あ、そうそう。最近、本気出して空を飛んだ。ついでに、雲のない真っ暗な夜に、妹達を抱えて飛んだ。星が少しだけ明るく見えた。
入学後、一年も経たずにアカデミージュニアを中退することが決まった。まさかの就職である。
俺の身体能力に目をつけた教師陣が、喰種対策局にチクったらしい。セーブしていたのになあ…担任の野郎。妙な視線を向けられていると思っていたら、そういうことだったのかと納得。あっち方面じゃないのはよかった。そして、意味分からないが本人の俺を飛び越して母親に話が行き、即で了承された。母親からは何の相談もなかった。事後承諾で、飲み屋の経営が苦しかったらしい、と。だからラッキー、これからの妹達の諸々はよろしくね。母親の話はそれだけだった。一応母親には、今まで育ててくれた礼は言った。
そして、タイミングを合わせたかのように、父親からの補助も打ち切られた。今までは、母親に内緒で何度か会って、足りないお金を貰っていたのだ。しかし、父親にも新しい家族が出来たらしい。奥さんが気にするので、会うのはこれっきりにして欲しいと言われた。最後に纏まったお金を貰えたので、当分は大丈夫だろう。少しの貯金もある。父親には、素直に祝っておいた。育ててくれたお礼も言った。
もう、働くしかない。バイトだけでは足りない。
可愛い妹達に苦労はかけられない。もうすぐ妹達も高校生だ。つまり給食がない。アカデミージュニアでは通いの生徒でも学食は食べれるが、食券購入だ。
稼がなければ(使命感)。
我が片割れは転生者である(笑)。
誕生日に兄にもらったゲームしてた時に、マダオポーズの片割れが兄にカミングアウトってた。前世は厨二だったらしい(www)。
「厨二乙」って思ってたら、口に出ていたようだ。話が長引くと考えた兄がお茶を取りに行った隙、トマトにモードチェンジした片割れに左のほっぺを伸ばされた。痛し。
サイヤ間違えた、ヤサイは、双子の妹である。才子よりも、ちょっとばかし肉が削げており、同じ身長、髪型も同じ。顔のパーツも全く同じだけど、目のハイライトさんのみ仕事放棄しとる。そして才子よりも勉強できる癖に基本アホで、思春期特有の病を患っている。その上甘えたがりの困ったちゃんなのである。よく怖い夢を見て、才子に抱きついてくるのは毎度のことよ。正直暑い苦しい。しかし、才子は弥才のお姉ちゃんだから、いつも優しく接してあげているのだ。
兄はチビだ。中学生になってもチビ。本人はまだ成長期だと思っているが、そんなものはない。もうとっくに終わっている。ひげはないけど、小学校出る時には一通りというか一部分の毛は生え揃って成長していたから、あなたにもう望みはないわ。しかし、優しい才子とコミュ力最弱弥才は気を遣ってあげて、時には兄の身長伸ばしの努力を応援し、時には身体を引っ張ってあげたりとお手伝いをしたものだ。
健気に努力を続けている兄ちゃんに現実を見せることなんてできなかったのよ…。
そんな小柄な兄だが、間違いなく人類最強だと、才子は確信しておる。世界を殺れる右を持ってるのだ。タオルをインする日は永遠に来るまい。
高校、また一緒に通えると思ってたのに、兄ちゃん今度は本当に出荷されちゃった…。
私は弥才である。前世は中二だった転生者の女だ。
何やかんや死んで、特典もらってこの世界に生まれ直した。でも、グールの世界だなんて聞いてなかった。喰種の存在を知ったのは、四月。特典役に立たないねと気づき始めていた時だ。別に喰種に出くわしたとかではなく、普通にニュース番組で知った。それまで家にテレビなかったから仕方ないよね。友達なんて出来たことないし仕方ないね。
転生者であることを、意を決して家族にバラした。一生一大の告白だった。気味悪がられたらどうしよう、お前は偽物だと拒絶されたらどうしようと不安でいっぱいいっぱいだった。一週間前からよくお昼寝できなかったほどだ。
まあ、デブに笑われて、気づいたら兄にも流されていたが。私の心労はなんだったのか。
前世では、才子は嫌いなキャラクターだった。愛読していたグールを切ったのは、クッキーを爆乳(笑)に埋めたことが決め手だった。あの時、私は思い知らされたのだ。もうクッキーなんていなくなってしまったことに。もう取り返しなんてつかないことに。男子なんて結局…と、五分は泣いた後は全巻倉庫部屋に封印した。それ以降、私がグールを読むことはなかった。
と、十年以上生活を共にしても、まあなんとなく双子の姉に苦手意識を引きずっている。そもそも、人間的に噛み合わない。双子の姉と道が交わることは、この先一生来ないだろうと確信している。だけど、別に特別仲悪いわけでもないから、これでいいとも思っている。前世で兄弟のいなかった私だが、姉妹ってこんなもんだよねと納得しているのだ。特別仲良いとか幻想。人間関係、大事なのは距離感だと、どこかで聞いたことがある。まあ、双子としては終わっている感はあるが。
兄。ちっちゃい兄がいる。かく言う私も比例して小柄なのでそれほど気にはならないが、本人はすごく気にしている。可愛くて、頼りになる、大好きな自慢のお兄さん。
そんな兄に、私の転生特典がいっちゃってるようだ。まあ、つえーとか興味ないし、荒事嫌いだし、そもそも特典も押し付けられたものだから、別にいいのだけれど。むしろありがたい。
なんでか知らないけど、双子の姉にも少しいってる。割合的には、兄8、双子の姉1.5私残りだ。まさかの、私が一番少ない。わかりやすく考えれば、私が最後に生まれたからだろう。何故こうなったのかは、それこそ神のみぞ知ることである。
境遇は異なるが、前世にも増して外出を控えている。喰種こわい。世間では都市伝説レベルでしか認知されていない喰種だが、私は前世で漫画読んでたから知っている。彼らはどこにでもいるのだ。お外こわい。そうなると、家族以外はみんな喰種に見えてくる。ベビーカーに乗ってる赤ちゃんでもダメだ。その日の夢で、赤ちゃんが赫眼装備で出てきた。もう無理だ。だから今、私が外出する時は、兄か双子の姉が一緒の時のみである。学校でも、一度不登校になりかけたことから考慮されて、双子の姉のクラスに入れてもらった。0.5の私では、その辺歩いただけで軽く死ねるからな。改造されてない1.5双子の姉でも勝てるか怪しいが。でも、いないよりはずっといい。
兄が喰種捜査官になるらしい。この前十六なったばかりなのに。それ、どこの死神さん?てなった。まあ、兄は見た目は子どもにしか見えないから、天使になるのかな?あ、ジューゾーもいたか。
兄には、本気出さないように再三忠告した。目、つけられたらもう終わりだ。にちゃにちゃした人達に連れて行かれる。
いい方向にいったとしても、喰種捜査官にされ、馬車馬の如く働かされるだろう。
そんなのごめんだ。
私の将来の夢は、獣医さんになることである。