米林三兄妹の生活様式   作:米林

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同じく


妹で続きます。


兄は喰種捜査官

 

 

 

 喰種捜査官生活一日目。

 といっても今日は、顔合わせということなので、お昼過ぎの出勤である。

 しかし、初日からトラブルが起きた。指定された場所、一区の本部に到着するまでに、かなりの時間がかかると思われる。普通に遅刻だ。でも待ってほしい。俺は決して悪くないと思うのだ。まさか、警官に補導されるなんて、誰が思うのだろうか。初めての経験だった。

 迎えに来てくれたのは、母親…ではなかった。母親は、昨日も帰って来なかったから、多分恋人のところだろう。

 迎えに来てくれたのは、お会いしたことのないーーつまり、これから会うことになっていた筈の、CCGの捜査官の方である。

 すらっと背が高い、綺麗な女性だった。俺より普通に高い。見た目は、三十幾らか…母親と同じくらいかな?しかし、比べ物にならない程、凛々しい。出来る女性のイメージを具現化したような人だった。

 安浦清子さんというらしい。階級は、一番上の特等捜査官。女性では一人しかいないというのだから驚きだ。そんな人が迎えに来たことも驚きだ。そして、交番を出て自己紹介後、冷たい目で見下される。こっわ…。

 

 「あなた、何で高校の制服来ているの?スーツは支給されていたでしょう?」

 「…すいません。サイズが大きくて…」

 

 安浦さんは、俺を下から上まで眺めた。屈辱感。

 ワンサイズではない、二つほど大きかった。明らかにミスだろう。一応、妹達にスーツ姿を見られるのが嫌で、今日家を出る直前に初めて袖を通した俺の責任でもあるけれども。

 

 「はぁ…前もって準備確認しておくのが、社会人の基本よ。今後、その制服は着ないこと。もう学生ではないのだから、しっかりするように。それと、すいませんではなくて、すみませんと言いなさい」

 「…すみません」

 

 再度、安浦さんはため息をついた。

 なんだろう。やるせない気持ちだ。望んでここにいるわけじゃないのに。ああ、でも生活のために稼がないといけないし…。

 

 「…これくらいで泣かないの。ほら、立ち止まっていないで行きましょう」

 

 安浦さんが、ハンカチを俺に押し付けてきた。そのまま、手を取られて引かれるがままに歩く。対策局本部に行くと思いきや、入ったのは定食屋だ。運良く、一つだけ席が空いている。

 安浦さんは、携帯を操作したあと、メニューをこちらに渡してきた。

 お昼済ませて来たのだが。

 

 「私、昼食まだなの。私が出すから、米林くんも、好きなもの頼んでいいわよ」

 

 奢りか。やった。受け取ったメニューが、キラキラと輝いて見える。

 食べようと思えば幾らでも入るのだ、この底なしの胃袋は。

 

 

 

 

 

 

 

 俺の捜査官生活が始まって、早一ヶ月が経った。しかし業務と言えば専ら、パートナーとなった上位捜査官について回っているだけ。捜査官の仕事は、とても地道な仕事だった。よって、未だ俺は喰種に出会ったことがない。

 本来は、二十四区という聞き覚えのない地下空間で、新人捜査官が喰種に慣れるための実習があるらしい。が、俺は免除された。この前まで一般人だった俺には無理難題だと判断されたらしい。地下に入る人達は、然るべき訓練を受けてからだそうなので、つまり俺もそのうち行くことになるのだ。やだなぁ、地下とか完全ホラーだ。

 

 本日は、訓練の日。偉い人が来るそうだ。

 でも、なかなか来ない。本局の特別訓練室に案内されて、もう三十分経った。

 ここに案内してくれた、若白髪で眼鏡な有馬さんとレモンの蜂蜜つけを食べているが、もう残りも少なってきた。本当は、訓練後に食べる用に持ってきたものだが、見るからにこんなにも苦労している人に、俺は何かしたかった。

 だって、黒の一本も残ってないんだ、この人。真っ白だ。どれくらい苦労しているんだろう。雰囲気も、おじいちゃんみたいで労りたくなる。レモンの蜂蜜漬けには、リラックス効果もあるから、少しは疲労回復できただろうか。

 あ、なくなった。

 

 「おいしかったよ、ご馳走さま。始めようか」

 「お粗末様です……え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄ちゃんが捜査官になった一日目の夜。

 

 兄が無事か不安で、作り置きの味噌肉をチンしたホカホカご飯に乗せて頬張っていたところ、チビ兄はぴかぴかのスーツ姿で帰って来た。ブフォと吹いてしまいそうになって、何とか飲み込んだ。隣でチビチビ食べていた双子の妹は、普通に吹いていた。

 この前まで着ていた制服も似合っていなかった兄だ。もはや、スーツが兄を着ていた。それに、才子と弥才は知っている。明らかに兄にサイズが合っていない、かなり大き目のスーツが家に置いてあったことに。なのに、これはどういうわけか。壁掛けにも、朝見た筈のスーツカバーはない。

 目線を戻せば、兄は得意げに笑っていた。

 

 「似合う?」

 

 才子は、弥才に目配せする。我が片割れは小さく頷いた。さすがだ。兄ちゃんのことになると息合うんよな、あっしら。この間、一秒にも満たない。

 

 「お兄さん、似合ってるよ」

 「よっ!兄ちゃんのショtっえーっと、似合いますぜ!」

 「お兄さん、似合ってるよ」

 

 弥才が、才子の痛恨のミスをフォローしてくれた。あまり、フォローにもなってないがしかし。

 恐る恐る兄を見る。

 兄は、もう満面の笑みだった。ぐほむ。きゅん死にするわい、こんなん。

 

 「そう?これはねーー」

 

 安浦特等って人に買って貰ったらしい。きっとその人はヒゲありのナイスミドルに違いない。あのデカスーツも、一度家まで取りに来たそうな。兄は、実に嬉しそうに話した。

 ここで、黙って聞いていた片割れが、口を開いた。

 

 「その人、女の人?」

 「…?うん、そうだよ。たぶん、才美さんと同じくらい歳の、背の高い綺麗な人だよ。あ、あれだ。バリキャリ女性」

 

 

 想像してみる。…………。兄と、二人……。

 ちょ。えぇーー!ーーーーーーーー!ーー!うぉー!ーーーー!

 

 

 

 

 

 

 

 お兄さんが喰種捜査官にされて、二週間経っての休日。

 兄妹三人で、旅行に出ていた。天気予報もチェックしている。二日間、ちゃんと曇りで小雨も降る、絶好のお出かけ日和。

 旅費はいらない。兄の瞬間移動で一瞬だ。特典の仕様なのか、一度も行ったことのない場所でもいける。

 宿代もいらない。テントがある。

 食費もいらない。何とかなる。

 つまり、旅費ゼロ円の非常にリーズナブルなひと旅ができる。

 

 やってきたのは、水の都。

 昨日、双子の姉とポケ映画鑑賞会をしたのがキッカケだ。兄にお願いしたら、じゃあ行こうってなった。

 あの兄妹ポケいないかなーと探したりする。

 

 「ゴンドラ、ゴンドラのろ!才子唄います!」

 「え、才子ちゃん、もしかしてあの変な歌を…?」

 「この三大妖精の弟子、フェアリー才子にお任せあれよ。ほら、みんな笑って」

 

 はっ。再現度ゴミの分際で何を。アテナ様に土下座しろ。

 ペンギンマスクで顔を隠した双子の姉を、兄と二人で憐憫な目で眺めた。

 

 「素敵な静寂。そんな目でみられても、へっちゃらぽん」

 

 ぺっ。

 

 

 

 

 

 

 お兄さんが、捜査官になって一ヶ月くらい経った日の夜のこと。

 私は、大好物のハンバーグを吹き出してしまった。しかし、そこは0.5の私。前の失敗から反省して、吹き出して宙を飛んだそれを、下に落ちる前にもう一度食べた。「ひぃ」うん、おいし。

 視線を感じて、前を向けば、兄が頬を引きつらせていた。隣を見れば、双子の姉が親指を立てていた。

 

 「片割れ、ナイスなプレー。でも、ちょっと怖かった。動き人外やった」

 

 双子の姉の言葉に、兄もコクコクと首を振っている。私は、首を傾げるばかりだ。

 …あ。ちがう、そんなことより。

 

 「お兄さん、その人と戦ったの?」

 「戦ったって…そんな物騒じゃないよ。訓練だよ訓練。一緒にレモンの蜂蜜づけ食べて時間潰してたんだけどね、結局偉い人来なくてさ。有馬さんにお相手してもらったんだ。…でも、木刀でも、刃を向けれなかった」

 

 やっぱり向いてないな、と自嘲気味に笑う兄。

 いや、偉い人って、その人だよお兄さん。

 

 兄は、怒涛に繰り出される攻め(おそらく)を、全て受け切ってーーではなく、全て避け切ってしまったらしい。ちょっとまって。やばくないかそれ。

 何でと聞いたら、痛いのは嫌だったって。

 納得ではある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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