ペロロンチーノの冒険   作:kirishima13

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第1話 美少女モノのエロゲは王道

 

 

 ユグドラシルの終了まで残りわずか。ペロロンチーノは急いでいた。目指すはナザリック地下大墳墓の第9階層、そのミーティングルームだ。速度上昇や移動系のスキルをフル活用し階層を最短距離で走り抜ける。鳥人である彼が疾走していく様子はまさしく弾丸であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 DMMO-RPGユグドラシル。ペロロンチーノの元にメールが訪れたのはユグドラシルサービス終了の前日であった。体感型RPGはペロロンチーノがかつて遊んでいたゲームだ。そして、そのギルドメンバーからの久しぶりのメール。ペロロンチーノも所属していたギルド「アインズ・ウール・ゴウン」のギルドマスター、モモンガからのものであった。内容は要するに「サービス終了前にみんなで集まって遊びませんか」というようなものだ。

 

 サービス終了の前日にメールするなんてモモンガさんらしいなぁ、きっと迷惑かな、送ってもいいかなとか迷っているうちに前日になってしまったのだろう、彼らしいなぁ、とかつての友人を思い出す。しかし、彼にはそんな思い出に浸っている時間はないのだった。なぜなら彼がモモンガからのメールに気づいたのはサービス終了1時間前だったからである。なぜ気づかなかったのか。それにはやむを得ない事情があった。世界の平和、人々の安寧、犯罪率の低下、それらのために彼は戦っていたのだ。いや、いつも彼は戦い続けている。世界のため、そして自分のために。モモンガのメールに気づくその時まで。そう、つまり彼はエロゲとかエロゲとか、つまりエロゲをしてたためメールに気づかなかったのである。

 

 ユグドラシルに久しぶりにログインした彼の目に最初に飛び込んできたのは銀髪の少女であった。場所はナザリック地下大墳墓の第2階層の死蝋玄室。彼が最後にログアウトした場所である。銀髪の少女こそ彼が制作したNPCシャルティア・ブラッドフォールンである。

 

(久しぶりに見たけど、可愛いなぁ……真祖(トゥルーヴァンパイア)をこれだけ可愛く作るのは苦労したものなぁ)

 

 目の前の少女の頭を撫でる。サラサラとした感触が心地よい。そして、ほかの場所も触ろうと手を伸ばし、手を止める。そうだ、これはエロゲではなく、R18指定がかかっている。ユグドラシルにおける規約違反のペナルティは非常に厳しく即時アカウント停止もあり得る。残念そうに手を引っ込め、さっそく集合場所であるミーティングルームに向かおうと転移を選択するが、何も起きなかった。

 

「あれ?なんで転移できないんだ?」

 

 そしてふと自分の手を見る。ギルド拠点内でギルドメンバーは転移が可能であったが、それはギルドの指輪(リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン)を装備しているときだけだ。彼は引退したときに指輪を含むほとんどのアイテムをモモンガに預けていたので当然装備は何もしていないのであった。

 

 彼の額に汗が浮かぶ・・・・・・ことはないため、汗のアイコンを表示する。指輪がないのであれば第2階層からモモンガがいるであろう第9階層までは歩いて行かなければならず、かなりの距離がある。残りの時間内でいけるかどうかぎりぎりだ。

 

「メッセージを使ってモモンガさんに迎えに来てもらえばいいかもしれないけど・・・・・・」

 

 ただ、それでは直接会う感動が半減だ。もう来ないのでは、と思っているところで直接顔を出したい。間に合わなかったらメールで話をしよう。そう思った瞬間、彼を翼を羽ばたき、難攻不落のダンジョンナザリック地下大墳墓を一気に駆け抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サービス終了10分前、ミーティングルームの前にペロロンチーノが立っていた。すでに集まりは解散しているということはないだろう。少なくともモモンガさんは最後までいるはずだ。モモンガをよく知る彼には分る。モモンガさんならサービス終了の瞬間までいるはずだと。ユグドラシルというゲームに拘っていたモモンガさんなら。

 

(サービスが終了したら別のゲームに誘ってみようかな)

 

「モモンガさーん!お久しぶりです!」

 

 部屋に入ると41の椅子で囲まれたテーブルのみがあった。誰もいない。残り時間も少ない。汗のアイコンを出し、そしてまた彼は走り出した。

 

・・・・・・ギルドメンバーの個室。いない。

・・・・・・大浴場。いない。

・・・・・・食堂、にはメイドたちがいた。そして立ち止まる。

 

「メイド服はいいものだ。うん、ビバメイド服!」

 

 いや、違う。そんな時間はない。そしてふと思い出す。モモンガさんを魔王、自分がその右腕として遊んだ魔王ロールのことを。

 

「たっち・みーさんが勇者で、ヘロヘロさんと姉ちゃんが女冒険者の服を溶かす役だったなぁ」

 

 そして、モモンガが言っていたことを思い出す。ナザリック地下大墳墓が8階層まで攻略されたときは、迎撃に向かうのではなく、そこで待とうと。魔王は玉座で待つものだと。

 

 

 

0:00 ペロロンチーノは玉座の間の扉を開ける。そこに漆黒のローブをまとった骸骨を見た気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、立ち眩みがした気がした。しかし、何も変化はない。そして、結局玉座の間にもモモンガさんはいなかった。それどころかほかの誰もいなかったのだ。

 

「仕方ない。メッセージでも送るか」

 

 そう思ってふと時計を見ると、サービス終了時間はすでに過ぎていた。

 

「あれ?サービス終了処理に手間取っているのかな?」

 

 過去にもこのような経験があったため、俗にいう『ロスタイム』かと思い、気にせずにいた。

そこへ、誰もいない玉座の間に声が響き渡った。

 

「ペロロンチーノ様!?」

 

 声のしたところを見るとやはり誰もいない。いないはずであった。言葉を発するはずもないNPC以外は。

 

 

 そこには8人のNPCがいた。玉座の間に配置していたサキュバス。白髪の執事。六姉妹(プレアデス)と名付けられたメイド達。

 

「えーっと、確か名前はアルベドだったかな?」

 

 自分の名を呼んだNPCの名前を思い出す。頭からヤギのような角を生やし、腰には黒い翼が生えている。黄金の双眸からは驚きの感情が見られたが、その美貌はひと欠片も失われていない。胸元が開いた白いドレスを纏い扇情的な雰囲気を醸し出している。

 

(うん、エロい。やっぱサキュバスはいいよね)

 

ペロロンチーノはサムズアップをした。

 

「お帰りなさいませ、ペロロンチーノ様」

「お帰りなさいませ!」「お帰りなさいませ!」

 

 アルベドを筆頭に、その場のNPCすべてから喜びの声が上がる。

 

「NPCが喋ってる?もしかしてNPCを操作できるパッチでも追加されたんですか?うわー、俺もやってみたかったなぁ!R18ぎりぎりのこととか操作してやってみたかった!」

 

 ペロロンチーノがまず思ったことは、彼らNPCはギルドメンバーであるということだった。NPCが勝手に話を始めるはずもない。

 

「モモンガさんですよね?お久しぶりです!」

 

 しかし、その声に対する反応は困惑であった。

 

「あ、あのペロロンチーノ様?おっしゃっている意味がわかりません。モモンガ様がいらっしゃるのですか?」

 

 サキュバスが困惑している。

 

「モモンガさんじゃない?もしかしてヘロヘロさん?それとも姉ちゃんとか?」

「あ、あの、私は先ほどペロロンチーノ様がおっしゃったとおり、アルベドでございます」

「え、いや、そんなことあるわけが・・・・・・誰か中の人がいるんでしょう?」

「中の人とは誰のことでしょう?」

 

 その時、違和感に気づく。

 

(口が動いている・・・・・・瞬きや息遣い?こんな機能はなかったはず)

 

 分からないことだらけだ。だが、分からなければ詳しい人に聞けばいい。そう思い、ペロロンチーノはモモンガにメッセージを送る。

 

 しかし、メッセージはつながらなかった。ほかのギルドメンバーにも、そしてGMにさえ。

 

 さらにコンソールも出なければログアウトもできない。ここにきてペロロンチーノは悟る。これはゲームに閉じ込められる的なアレだと。そしてAIが進化したのかどうなのか分からないがNPC達は自我を持っている。これは今までのユグドラシルではない・・・・・・。そして考える。R18指定ももしかして解除されているのではないか・・・・・・と。

 

「アルベド」

「はっ!何でございましょうか」

「胸を触ってもいいか?」

 

 そう言って、アルベドの胸に手を伸ばした瞬間、激痛が走る。

 

「ペロロンチーノ様。私は身も心も魂さえもモモンガ様のものです。たとえ至高の御方であるペロロンチーノ様といえどもこの身に触れることは叶いません」

 

 ニッコリとほほ笑むアルベドだが、その手はペロロンチーノの手を握りつぶそうとしていた。

 

「いででででで」

「アルベド様!何をなさいます!」

 

 白髪の執事とメイド達が慌てて引きはがす。

 

(このおじさんの名前なんだっけ。男のNPCなんて名前覚えてないしなぁ、まぁおじさんでいいか)

 

「助かったよ、おじさん、ユリ、ルプスレギナ、ナーベラル、ソリュシャン、エントマ、シズ」

「おじ・・・・・・」

 

 おじさんがショックで口をДの字にして固まっている。だが、口をДの字にして可愛いのは小さい女の子だけだ。

 

(痛みまで感じるのか・・・・・・)

 

 そして気になることが一つ。

 

「アルベドってそんな設定だっけ?たしかモモンガさんが作ったわけじゃなかったよね?」

「はい、私の創造主はタブラ・スマラグディナ様です。しかし、その後モモンガ様から私にモモンガ様を愛していると!ええ、愛せよと!そのようなお心をいただきました!」

 

 目は爛々と輝き、腰の翼をパタパタさせながら胸の前に両こぶしを揃えて力説する。

 

(モモンガさん・・・・・・まさか最後にそんなことして遊んでたなんて・・・・・・見直しましたよ!やっぱりモモンガさんと俺は似た者同士ですよね!そんなこと言うと姉ちゃんはモモンガさんに失礼なこと言うなって怒ってたけど)

 

「しかし、触れないということはR18設定は生きている?いや、アルベドはモモンガさんの設定に縛られているだけの可能性もある。ここは・・・・・・」

 

 じっとプレアデスたちを見る。うん、かわいい。

 

「ナーベラル」

「はっ!」

「胸を触ってもいいか?」

「はっ!至高の御方がお望みとあらば!」

 

 そう言って頬を染めながら近くに跪いた。そして手を伸ばそうとした瞬間

 

「ナーベラル。初めてがペロロンチーノ様で本当によいのですか?」

 

言葉の主を探すとやはりアルベドであった。

 

「このナザリックを今までずっと守り、私たちとともにいてくださったモモンガ様より先にはじめてを捧げてよいのですか?」

 

 ナーベラルはその言葉にはっとする。

 

「あなたたちはモモンガ様とペロロンチーノ様どちらにはじめてを捧げたいのですか?私はもちろんモモンガさまです!」

「モモンガ様・・・・・・です」

「ぼ・・・・・・私もモモンガ様でしたら」

「当然モモンガ様ですわ」

「モモンガ様・・・・・・好き」

「わたしもぉ、モモンガ様がいいですぅ」

「モモンガ様っす」

「私はモモンガ様でもペロロンチーノ様でもお望みとあらば」

 

 最後のおじさんは殴っておいたが、ナザリックのNPC達はモモンガさんを慕っているらしい。それは嬉しいことだがなんとなく釈然としないペロロンチーノであった。

 

「ところでペロロンチーノ様、なぜ突然胸をもみたいなどと。いえ、確か以前いらっしゃったときもそんな話ばかりされてた気もしますが」

「現在ナザリックには異常事態が発生している。それを確かめるためだ」

「異常事態・・・・・・でございますか?」

「GMコールも機能しないし、ログアウトもできない。明らかに異常事態だ。まぁむしろそれが良いともいえるんだけど」

「申し訳ございません。私ではGMコールやログアウトに関する知識がございません。階層守護者を呼び状況を確かめるのがよろしいかと愚考します」

「そうだな、ではおじさん、そしてプレアデス達。各階層守護者を呼んできてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最初に来たのは、この階層から一番近い第7階層の階層守護者であるスーツを着た悪魔であった。黒髪に丸眼鏡スーツという姿でありながらその後方にはしっぽが生えている。

 

「おお!ペロロンチーノ様!いつかお帰りになると思っておりました!」

 

そう言って、平伏する悪魔の名前が思い出せない。男のNPCの名前なんて覚えるつもりもなか

 

「デミウルゴスでございます」

 

男のNPCの名前なんて

 

「デミウルゴスでございます」

 

その瞳に宿るカラットがキラリと光る。

 

「ああ、デミウル・・・・・・ゴスだったな。久しぶり」

 

 それを見た白髪の執事がДの字の口をしていたが、可愛くなかったので無視した。

 

 その後、ダークエルフの双子の姉妹、アウラとマーレ。姉妹?確か姉妹だったはずだ。そして、二足歩行の白い昆虫、コキュートスが到着し、ペロロンチーノを見て歓喜する。そして一番最後に来たのがシャルティアであった。玉座の間に黒い空間が突如として出現する。移動系魔法であるゲートだ。そこから銀髪の少女が飛び出してきた。フリルのついた赤いボールガウンを纏い、そのままペロロンチーノの胸に飛び込む。

 

「ペロロンチーノ様!ああ、ペロロンチーノ様!ペロロンチーノ様!」

 

 その目からは涙がとめどなく溢れ、涙以外の色々なものも合わせて溢れペロロンチーノの胸を濡らしていく。

 

「えぐっ・・・・・・信じていました。いつか来てくださると信じていました。ペロロンチーノ様ぁ・・・・・・。それに一番に私に会いに来てくれて・・・・・・頭を撫でてくれて・・・・・・嬉しい・・・・・・嬉しいです・・・・・・」

 

普段の廓言葉も忘れて泣き続けるシャルティア。

 

ダークエルフの双子の姉、アウラがそれを見て

 

「よかったね・・・・・・よかったね・・・・・・」

 

と泣いている。他の守護者も目に手を当て感激していた。

 

「それではお帰りになったペロロンチーノ様に忠誠の儀を」

 

 

 

 

 

 

 各々からの忠誠の言葉を聞き、ふと疑問に思う。彼らは自分のことをどう思っているんだろうと。何となくだが、彼らはギルドメンバーのことを神のように崇めて、尊敬しており、そんなギルドメンバーの一人である自分もそう思われているんだろう。ここにいるだけで感謝され、忠誠を尽くされている。

 

「それでは各階層守護者に聞きたい。お前たちにとって俺はどのような存在なのか」

 

「モモンガ様の親友。まさに魔王の右腕にふさわしい方です」

「淫魔さえも超える知識を持った人を堕落成さしめる恐ろしい御方です」

「空ノ支配者。遠距離攻撃ニオイテ比類ナキ腕ヲ持ツオ方デス」

「あ、あの・・・・・・えっと・・・・・・すごくエッチな方です」

「あの人のようになっちゃだめだよーってぶくぶく茶釜様がいってました!」

「わらわの創造主にしてエロの伝道者。ありとあらゆる性癖を熟知した御方でありんす」

 

「あ、はい」

(こいつら・・・・・・マジか?)

 それしか言えなかった。

 

 

 

 


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