ペロロンチーノの冒険   作:kirishima13

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第11話 女騎士モノは嫌がってなんぼ

―――バハルス帝国 帝都アーウィンタール 北市場

 

 ワーカー。それは冒険者を脱落した者たちを指す。ワーカーチーム《フォーサイト》、4人で構成されるチームだ。冒険者では出来ない違法な事から違法ではないが、冒険者組合が断るような案件まで規則に縛られることなく仕事を請け負うことが出来るのが魅力ではある。その分、自分たちで仕事の裏を取るべく情報を収集をしなければならないのだが。

 フォーサイトのメンバー、ヘッケランとロバーデイクは北市場に次の冒険で役立つ魔道具(マジックアイテム)を探すため市場へと調査に来ていた。大金が入る仕事を斡旋され、前金もたっぷり色を付けてもらったので、今であれば普段買えないような装備やアイテムも買えるかもしれない。掘り出し物がないかと魔道具の取引が盛んな北市場まで出向いてきたのであった。

 

「ないなぁ、ロバーデイク」

「ええ、ヘッケラン。掘り出し物はありませんね」

「まぁ、自分たちがいらなくなったものを売ってるから仕方ないか」

 

 ここでの物を売っているのは商人だけではない。冒険者たちが自分たちで使わなくなったアイテム等も売っているのだ。そのため、残り使用回数の少ないワンドや不要となったアイテム等、汎用性の少ないものが多い。値段交渉の大きな声が響き渡っているが、そんな中ひときわ注目を集めている声があった。

 

「おっちゃん!もっとこう、エロい目的で作られた魔道具ってないの?」

「こう、ウネウネ動く棒みたいなものとか、振動する玉みたいな魔道具はありんせんか!?」

「帝国って魔道具開発が進んでいるんだろ、どうなのそのあたり」

「こういう、しっぽみたいのはありんせんか?」

「あ、あのなぁあんたら・・・・・・ちょっとやめてくれないか」

「それか何か飲んだだけで女の子をその気にさせちゃう薬とかでもいいから」

「や、やめろー!そんなアホな目的のために貴重な触媒や魔法を使うわけないだろ!」

 

 店主が目を白黒させながら叫んでいる。結構顔もいい男女なのに残念なことを大声で言っている。周りが生暖かい目で注目する中、そんなことを気にせずにあんな道具はないか、こんなものはないかと聞いている。

 

「あれは・・・・・・冒険者か?」

「我々もあのくらい真剣に道具を探さなければいけませんね」

「そうか?」

 

 もう少しあの騒がしい二人を見ていたくはあったが、それほど暇なわけでもない。ここには必要なものはなさそうだと判断し、中央市場にでも移動しようと考える。その場を後にするヘッケランの後ろから、子供のような高い声が聞こえた。

 

「あの、ペロロンチーノ様。なんか変態みたいですよ?」

 

 

 

 

◆ 

 

 

 

 

「ぐっ・・・・・・」

 

 アウラのツッコミに思わず(ぶくぶく茶釜)を幻視する。今回はシャルティアに加えてアウラが同行していた。シャルティアが馬鹿な真似をしようとしたら止めると息巻いているが、彼女の発言はペロロンチーノの心を抉ってくる。

 帝都についたペロロンチーノ達は、魔道具の開発が進んでいると言う帝国のアイテムを物色するため、北市場へと来ていた。今回は王国で得た金があるので資金は潤沢だ。今回はアウラが同行したため、恒例の情報収集(のぞき)は中止にせざるを得なかった。ちなみにシャルティアはペロロンチーノの希望で白いセーラー服を着用している。赤いスカーフを、そして白いスカートをヒラヒラさせて楽しそうにしている。ペロロンチーノの身に着けているものも一部変化があった。胸に揺れる冒険者プレートをふと見る。

 

(シルバー)級・・・・・・か」

 

 冒険者組合に立ち寄ったところ、王都の冒険者組合が手を回していたらしく、王都防衛の報酬を渡されるとともに昇級を言い渡された。貴族たちの目がある中、一気に昇給させることは難しかったのだろうが、王国を救ってくれたせめてもの対応だろう。プレートを触りながら鉄より輝きを増したそれにペロロンチーノは顔をほころばせる。

 

「ペロロンチーノ様はただの変態ではありんせん。変態と言う名の紳士でありんすよ」

「シャルティア。それって変態とどう違うの?」

 

 ペロロンチーノの心を抉るその会話に、落ち着きを取り戻した店主が不思議そうな顔で問いかける。

 

「はぁ・・・・・・あんたら本当に変わってるね。奴隷とそんなに仲よくするなんて」

「え?奴隷?誰が?」

「え?そのダークエルフ、奴隷だろう?この辺りじゃ、エルフは奴隷として売買されているんだよ?」

「え?あたしってペロロンチーノ様の奴隷だったんですか?」

 

 なぜかアウラは嬉しそうにしてペロロンチーノを見つめている。

 

「ずるいでありんす!ペロロンチーノ様の奴隷はわらわでありんす!」

 

 そう言ってペロロンチーノの腕にしがみつくシャルティア。

 

「ほう・・・・・・奴隷売買なんてしているのかこの国は・・・・・・」

 

 

 

 

◆ 

 

 

 

 

―――バハルス帝国 皇城

 

 冒険者組合を通じ、冒険者チーム《変態》が帝都に入ったのを確認したジルクニフは帝国四騎士の一人を呼び出していた。帝国最高の攻撃力を持った女騎士、《重爆》レイナースである。金髪碧眼であるが、髪で顔の片方を隠している。これはかつてモンスターより呪いを受けたことによる。呪いが解けるのであれば帝国にも敵対すると公言する人物であり、もっとも忠誠心の低い騎士ではあるが、その力を評価し帝国四騎士に任じている。

 

「陛下、お呼びとお聞きしまして参上いたしました。どのようなご用件でしょうか」

「ああ、レイナース、お前に頼みたいことがある。この帝都に来ているある冒険者の力を確かめてほしい」

「冒険者?どのような人物でしょうか」

「ペロロンチーノと言う(アイアン)、いや今は(シルバー)級か・・・・・・の冒険者だ。力を確かめる方法は・・・・・・そうだな、全力で殴って見ろ」

「恐れながら陛下。(シルバー)級程度の冒険者を私が全力で殴れば死んでしまうかと・・・・・・」

「そうだな、その時はその時だ。私の眼鏡にかなわなかったということ。処理はこちらで行うから安心しろ」

「そうならない、と思っていらっしゃるのですね?」

「ふっ、そうであったら嬉しいな」

「ですが、もし強者であった場合、私と敵対することになるのでは?」

「情報によるとその男が女に暴力を振るったという話は聞かない。せいぜい装備を剥かれるくらいだろう」

「装備を・・・・・・剥かれる?」

「まぁその時も処理はこちらでするから安心しておけ。ああ、攻撃するときは偶然を装って、喧嘩をうれ。ただし殺す気でな」

「・・・・・・かしこまりました、陛下の命とあらば。ですが本当に殺してしまいましたら申し訳ございません」

 

 レイナースの目に冷たいものが宿る。帝国四騎士、その中でも最高の攻撃力を持つ自分が(シルバー)級の冒険者と比べられ侮られているということを考えて。女を捨て強さを求めてきたプライドが言っている。ならばそのような男は殺してやろうじゃないかと。自分が男などに負けるはずがないと。

 

 

 

 

◆ 

 

 

 

 

 

―――帝都 城下町

 

 

 市場を後にしたペロロンチーノ達は豊富な資金があるということで、帝都で一番の宿屋に泊まってみることにした。恐らく出される食事も驚くほどのものだろうし、この世界では味を感じることが出来ると知ったペロロンチーノはそれも楽しみであった。超がつくほど豪華な造りであり、当然ペロロンチーノはこんな王侯貴族が泊まるような宿に泊まったことはない。庶民根性がペロロンチーノの足を鈍らせるが、勇気を出して入口へ向おうとしたところで警備員と思われる男に止められた。

 

「お客さま、どなたかのご紹介状をお持ちでしょうか」

「あ、いや、あの・・・・・・初見です」

「冒険者の方・・・・・・ですね。プレートを確認しても?」

 

 (も、もしかして一見さんお断りか?だけど、俺は王都で活躍した冒険者の・・・・・・はず。俺たちのことを知っていれば・・・・・・)

 

 警備員が丁寧にプレートを受け取り、その裏を確認する。

 

「《変態》のみなさまですね。確認させていただきました」

 

(裏にそんなことが書いてあったのか、アインザック組合長あのやろう)

 

 そう言って、受け取った時と同様の丁寧な態度でプレートを返す警備員。

 

「お客さま達のご活躍はこのバハルス帝国にも鳴り響いております。大変申し訳ございませんが、当宿屋の品位を保つためお客さまをお泊めすることはできません。お引き取りください」

「ですよねー」

 

 予想通りの答えにがっくりと肩を落とす。シャルティアとアウラは不服そうだが、ここは(シルバー)級にあった宿を探すべきだろう。そう思い、少し下町のほうで宿を探そうと歩き出し、交差点を曲がろうとしたところ、角から一人の女がぶつかってきた。相当な勢いで走ってきたらしく、ペロロンチーノにぶつかった反動で大きな音と振動を立てながら塀までふっ飛んで倒れる。金髪碧眼の女性であり、マントを羽織った旅人といった恰好である。スラリとしたスタイルの美人系のお姉さんキャラと言った感じだ。

 

「なっ・・・・・・私の全力の突撃でびくともしない・・・・・・くっ・・・・・痛っ・・・・・・」

「あの・・・・・・大丈夫ですか?」

 

 そう言って、女性に手を伸ばすのと彼女が振り返るのが重なり、彼女の顔へペロロンチーノの手が触れる。「ぬるり」、そんな感触を彼女の顔から感じた。手を見ると黄色い膿のようなものがついている。

 

「なっ、何を・・・・・・見た・・・・・・な・・・・・」

「もしかして怪我をさせちゃいましたか?」

 

 そういって女の髪を除けると女性の顔の半分は非常に整った顔立ちだが、ペロロンチーノの触った半分は焼き爛れたようになっており、血の混じった膿が後から後から湧いてきていた。レイナースの心に怒りがわく。呪われた素顔を見られた!それもこんな綺麗な顔の奴に!皇帝の命令など関係ない、そう思った瞬間、目の前の男の顔にレイナースはビンタを食らわせた。ビンタと言っても《重爆》が放った掌底に近いそれは一般人であれば首がちぎれ飛ぶほどのものだ。しかし、ペロロンチーノはなんの痛痒も感じていない・・・・・・どころか笑顔になっている。

 

「ありがとうございます!」

 

 何故か礼を言われるレイナース。訳が分からないが、ようやく冷静さを取り戻した彼女は顔を隠す。皇帝からの依頼は達成した。この男は常人ではないことは分かった。ならばもうこの場に用はないだろう。

 

「失礼しました。これは怪我ではありませんので、お気になさらずに」

 

 そう言って去ろうとするレイナースをペロロンチーノが引き留める。

 

(もしかしてこれか?これがデミウルゴスが考えたフラグか?ならば乗るしかない!)

 

 ペロロンチーノはデミウルゴスによるフラグではないかと考えたのだ。そしてよく見ると彼女のそれは今できた怪我ではなく呪いによる効果ダメージが入っているように思われた。ならば、とカースドナイトのクラスを持つシャルティアに頼むことにする。シャルティアならば呪いをかけるのも移すのもお手の物だ。

 

「怪我じゃなければもしかして呪いですか?シャルティア」

「はい、ペロロンチーノ様」

「彼女の呪いを俺に」

「それが御方のお望みとあらば」

 

 シャルティアが手をかざすとレイナースの顔の呪いはペロロンチーノの顔へと移った。レイナースは自分の顔に手を当てる。いつものべたつく感覚も痛みもない。民家の窓に自分の顔を映してみた。呪いが消えている、これまで付きまとい、自分の人生を台無しにしてきたあの呪いが。レイナースの胸に複雑な感情が錯綜する。喜びと言う感情では言い切れない何かは涙となって流れ落ちる。

 

「あ・・・・・・あああああ・・・・・・」

 

 泣きながら目の前の恩人に感謝をしようとするがあまりの感情の爆発に言葉が出てこない。泣きながら頭を下げるしかなかった。 

 

 ペロロンチーノは土下座して泣きすがるレイナースを見て戸惑っていた。周りの視線が痛い。男が女に泣きながら土下座をさせている光景・・・・・・。何か言ってくれればいいが、泣いてばかりで何も言ってくれない。こんな女性に何と言ったらいいか経験の乏しいペロロンチーノの辞書にはない。少なくともエロゲにはなかった。

 

「じゃ、じゃあそういうことで」

 

 考えることを諦めたヘタレ(ペロロンチーノ)はそう言って逃げ出すのであった。

 

 

 

 

◆ 

 

 

 

 

―――皇城

 

 

 帝国四騎士の一人、《雷光》バジウッド・ペシュメルは己が見たことを皇帝へ報告していた。先ほどまで城下町で冒険者チーム《変態》を尾行していたのだ。

 

「なるほどなるほど、重爆の攻撃をものともしなかったか」

「はい陛下。あれは本気の一撃だったと思います。それから情報と違い、ダークエルフの娘を一人連れていました」

「王国では銀髪の少女と二人で行動していたと報告書にあるが・・・・・・。ダークエルフか」

「かつてトブの大森林にいたと聞いたことがあります。滅びたのか住処を移したのかは分かりませんが」

「奴隷か?そのあたりも調査の必要がありそうだな」

「しかし、重爆の全力の突撃でも倒れもせず、殴っても傷一つつかないとかどうなってるんですかね」

「魔道具の可能性もあるが、魔道具を使っていようといまいとそれは力だ。よし、やつを帝国に取り込むぞ」

「取り込めますかね?なんつーか、権力をものともしない感じでしたが」

「皇帝としていきなり訪ねても嫌がられるだろうな。ふん、先に友情でも深めるとするか」

「友情・・・・・・ですか?」

「ああ、いきなり知りもしない地位の高い人物が訪ねてきたらお前ならどう思う?」

「そうだなぁ、俺から情報を得る、または俺を利用して陛下に近づこうとしてるんじゃないかと思うんじゃないですか?」

「だろうな。では、お前の親しい友人が訪ねてきたら?私に会いたいとでも言ってきたら?」

「そりゃまぁ、一応陛下に聞いてみますかね。ただ、会う合わないは陛下の判断ですし、俺は陛下を売ったりはしませんよ」

「お前のそう言う正直なところは嫌いではないぞ。だが、その程度の違いでも随分違うではないか。私は奴の友人となる」

「しかし、聞いたところでは相当な変わり者ですよ。市場でも何か訳の分からないことを言って店主を困らせてましたし」

「それは奴を知らないからだろう。奴を知れば奴の言っている意味も分かってくるだろうし、分からなければ聞いてみればいい。見たところ奴を理解できている人間は少ない。人は誰かに理解されたいと思うものだ。奴の話を聞いてやり、情報とともに友情もいただいてやろうじゃないか」

「さすがは皇帝陛下。でも、本当にできるんですかい?」

「ああ、私に作戦がある。お前にも協力してもらうぞ。ふふふっ、見ていろ。王国の黄金め。お前では取り込めなかったやつらを私の手のひらの上で転がしてやる」

 

 

 

 

◆ 

 

 

 

 

 

 ―――宿屋《歌う林檎亭》。現在ペロロンチーノ達が宿泊している宿屋である。バジウッドは普段の鎧姿ではなく、冒険者風の服装でその入り口をくぐる。彼らは食事をしながら談笑しているところであった。バジウッドは困惑する。ジルクニフからあの冒険者への贈り物を渡されたが、こんなものをもらって喜ぶのだろうか、と。バジウッドには理解できない。ジルクニフは非常に頭が回るのは知っている。だが、今回ばかりは気が触れているとしか思えなかった。命令された以上実行するしかないことにため息を吐く。そして、もうどうにでもなれと一歩を踏み出した。

 

「あー、ちょっとすまない」

「あ、はい?俺ですか?」

「ああ、私はバジウッドと言うものだが少し話をいいだろうか」

「えー、まぁ、なんでしょう」

「あー、その、なんだ。あんたに会いたいという方がいてな。少し時間をもらえないだろうか」

「会いたい?なんで?それ女の子?可愛い女の子ですか?ロリですか?」

「あ、いや、男性なんだが・・・・・・」

「えー・・・・・・」

 

 露骨に嫌そうな顔をされた。

 

「会いたいならそいつから会いに来ればいいでありんす」

「そうそう、失礼なんじゃない?」

 

 取り巻きの少女二人が口を出す。皇帝に対して失礼とは何事だ、とも思わないでもないが、皇帝の予想通りの展開だ。奴が男の誘いに乗るはずがない。そこで、バジウッドはジルクニフから渡された切り札を出す。封筒から紙を取り出すと、それをペロロンチーノの前に置いた。ペロロンチーノはそれを見るとバジウッドの顔を見上げ、二度見する。

 

 ―――それはメイドの着替え中の様子を魔法で紙に転写したものだった。

 

 こんなものを渡すくらいなら金や女でも渡したほうがよっぽどいいのではとバウジッドは思うが、ペロロンチーノは無言でそれをポケットにしまい、右手を差し出した。バウジッドも困惑しながら右手を差し出すとそれが強く握られる。そしてペロロンチーノは高らかに言った。

 

「行きましょう!同志よ!」

 

「ペロロンチーノ様、何をもらったんですか?」

「何でありんすか?」

 

 少女たちが騒いている中、パウジッドは何故かやるせない気分になるのだった。

 

 

 

 

◆ 

 

 

 

 

―――帝都郊外

 

 ここは郊外の屋敷を急遽借り上げたものだ。皇帝としての身分を明かして会うのは憚られたため、アンダーカバーとして別人として会うことにした。身分を明かすのは友人となってからでいいだろう。金髪を茶に染め、顔も魔法で多少変えてある。

 

「やあ、よく来てくれたね。私の名は・・・・・・そうだね。ジルとよんでくれるかな」

「ジルさんですか。この度はお招きいただきましてありがとうございます。俺はペロロンチーノです」

「ジルと呼び捨てしてくれても構わないよ」

「いえ、いくら同志でも親しき者にも礼儀ありです。ジルさん、それともジル氏と呼びましょうか?」

「い、いやジルさんで構わない。ところでここは男同士の会話と行きたいとおもうんだが。すまないが、そちらの可愛らしいお嬢さん方には美味しいお菓子も用意しているのであちらの部屋で歓談でもしていてくれないだろうか」

 

 ペロロンチーノは今まで言いにくかったことをジルが言ってくれて感動する。シャルティアはともかくアウラが一緒にいたらペロロンチーノの心をザクザクと抉ってくるのは間違いないだろう。

 

「そうですね。シャルティア、アウラ。少し待っていてくれるか」

 

 二人が部屋を出ていき、ジルクニフ、ペロロンチーノ、そしてバジウッドの3人が残った。

 

「さて、お渡ししたブツは気に入っていただけたかな?」

「もちろんです。メイドはやっぱりこういう恥じらいがあるのがいいですよね」

「え、ええ。恥じらいは大事ですね!その辺りも大いに語り合いたいと思いまして」

「ところで、こういった魔法で姿を投影したものは売ってたりはしないんですか?絶対売れると思うんですけど!っていうか買うんですけど!」

「ああ、魔法の触媒や行使に使われる代金が高いからね。作っても売れないだろうな。だが、自分たちがそういう技術を持っている者たちは違う。例えばこういう風に」

 

 そう言って、ジルクニフは一冊の本を差し出す。ペロロンチーノが恐る恐るそのページをめくると、その中にはメイドのあられもない姿が、それも明らかに隠し撮りだと思われる無防備な姿が映し出されていた。

 

「お、おおおおおおおおおおおおおお、こ、これは!これこそは俺が求めていた知識いいいいいいいいいいいいいい!ひゃはははははは!」

 

(ひえっ、狂った)

 

 ジルクニフは仰天するが、すぐに気を取り戻す。

 

「あ、あの大丈夫かい?」

「すみません、興奮のあまり。これほどの物をお持ちとは恐れ入ります。いい趣味をお持ちで」

「それはありがとう。そうだ、よろしければ同好の士と言うことでそれは差し上げよう」

「え!?本当ですか。しかし・・・・・・」

 

 そう言ってペロロンチーノは悩んでいる。目は左右に泳ぎ葛藤している様子が手に取るように分かる。頭を抱え、髪を振り乱して、そして最後に冷静になった。

 

「申し訳ありませんがいただくわけにはいきません」

「え、なぜだい?」

「これはあなたにとって大切なものでしょう。例え見飽きたとしても久しぶりに見るととても新鮮に感じるものです。やり飽きたとデータを消してしまったエロゲを後で無性にやりたくなるように、これはあなたが持っているべきものです」

「え、あ、はぁ、ありがとう・・・・・・ございます」

 

 正直こんなものはジルクニフは持っていたくはない。そのような趣味もなければ、こんなものを持っていると誰かに知られればとんだスキャンダルだ。ペロロンチーノに渡すために作ったというのに持ち腐れになってしまった。ただ、彼が物ではつられないタイプということは分かった。軽い人物かと思っていたが、なかなかに固い。

 

「そうそう、噂で聞いたのだが、ペロロンチーノさんは色々と特殊な趣味をお持ちのようで」

「え、いやぁ、お恥ずかしい」

「恥ずかしがる必要なんてないとも。実は私も恥ずかしい趣味を持っていてね」

「ほう、メイドモノの他にもですか」

「ええ、実は私、女性に踏まれるのが好きなんだ」

 

 ロウネの性癖をここで使わせてもらう。自分の恥部を曝け出すことで親近感を持たせるためだ。後ろでバジウッドがぎょっとした顔をしているが無視だ。

 

「Mですか!Mもいいですよね。Mモノってなんか途中で逆転するのが多くて嫌になっちゃいますけど、やっぱり最後まで逆転なしがお好きですか?」

 

(逆転?途中から女性を攻める側に回るということか?頭を働かせろジルクニフ。この国の未来がかかっているんだぞ)

 

「もちろんさ。逆転などもってのほかだよ」

「分かりますか!いやぁ、こういうトークするの久しぶりだなぁ」

「ここには我々しかいないのです。大いに語り合いましょう」

「いいんですか!語っちゃっても!」

 

(乗ってきたな。ここでさらに親しみを深めさせてもらおうか)

 

「ええ、あなたと私は同好の士、遠慮すること何てありません」

 

 

 

 

 

◆ 

 

 

 

 

 

 ペロロンチーノが出て行った後、ジルクニフは疲労に眩暈がするようであった。ペロロンチーノは語った。語りまくった。今まで貯めこんでいたものをすべて吐き出そうとするように。その言葉の多くが意味不明のものだったが、それをさも興味深そうに聞き、彼の好むものの意味、色や形、趣向、そう言ったものを一つずつ把握していった。だがその量たるやとても一晩で語れるものでもなく、また会おうということで本日はお引き取り願ったのだ。

 

 隣の部屋でフール―ダが彼の相棒に靴を舐めながら弟子にしてくれと懇願してぼこぼこにされていたようであるが、それは見なかったことにしておく。

 

「陛下、大丈夫ですかい?」

「ああ、さすがに疲れたがな。あそこまでとは思っていなかった」

「そろそろ彼女を呼んでも構いませんかね」

「ああ、レイナースか。私に文句でも言いたいのだろう。通せ」

 

 レイナースがペロロンチーノに会いたがっていたが、ジルクニフは許可はしなかったのだ。

 

「よく来たな。レイナース。頼んだことの成果は期待以上だ。さすがだな」

「陛下、この度は帝国四騎士の座を降ろさせていただきたく参りました」

「ふん、呪いが解けた途端にそれか。まぁ、一応理由を聞こうか」

「確かに呪いは解けましたが、それはあの方がそれを引き受けてくださったからこそ。これからの人生はあの方のために生きたいと存じます」

「ふん、惚れたか?」

「そ、それは・・・・・・」

 

 頬を赤らめ俯く様子から一目瞭然だ。呪いを捨てた代わりに捨てた女を取り戻したとでも言うのか。帝国四騎士の一人、それも最大の攻撃力を有する《重爆》レイナースに抜けられるのは一軍を失うより痛い打撃だ。そんなことを許すつもりはないが、それを言っては彼女との溝はますます深まるだろう。他に取られるくらいなら殺したほうがマシと言うものだ。

 

「だが、お前のその気持ちを彼が受け入れてくれるだろうか。彼はあのような美貌を持つ女を二人も抱えている」

「それはそうですが・・・・・・」

 

 レイナースは悲しそうな顔をする。自分では相手にされないのではないのかと言う不安だ。それに彼女には恋愛経験などまったくない。今までの自分は恨みを晴らすため、そして呪いを解くためにすべてを犠牲にしてきた。そんな自分に恋愛など出来るのだろうか。

 

「ああ、安心しろ。彼女たちとペロロンチーノとの関係は不明だ。娘のように扱っているという報告もあれば、悪友のように扱っているという報告もある」

「さようですか」

「ところでどうだレイナース、お前のその恋に私も協力しようではないか」

「え?へ、陛下?」

「私とペロロンチーノは本日より友人となった。彼からは色々と話を聞かせてもらっている。そう彼の好みや趣向、どんな服装やどんな髪型、どんな性癖をしているかもな」

「なぜ私に協力してくださるのでしょうか。私に都合よすぎるのではと思うのですが」

「お前に一方的に利があるわけではない。もし彼とうまくいったらそのまま彼とともに帝国に残ってくれ。それは帝国のためにもなる」

 

 レイナースは悩む。だが、生まれて初めてのその気持ちは止めることが出来なかった。

 

「分かりました。もし、彼とこ、こここ・・・・・・恋・・・・・・人になれましたらそうさせていただきます」

 

 そう言ってレイナースは恥ずかしそうに俯いた。

 

 

 

 

◆ 

 

 

 

 

 《重爆》が去った後、ジルクニフとバジウッドが部屋に残った。

 

「ありゃ、完全に恋する乙女の顔でしたね。あの《重爆》がねぇ・・・・・・」

「そう言うな。あれも女だ。だが、そこをとことん利用させてもらうじゃないか」

「しかし、陛下。よくここまで読まれましたね。俺はまさかあんな紙きれ一枚でここまでなるなんて思いもしませんでしたよ」

「奴が王国の冒険者組合で言っていた内容の報告から考えてな。あの1枚でも結構な出費なんだぞ」

「はぁー、そんな馬鹿な金の使い方するなんてなー。俺にはまったく考えつきませんぜ」

「趣味とは人に理解されないものだ。他人からしたらゴミのようなものでもな」

「ああ、それなら分かります。確かに男の趣味を女が理解しないってのはよくありますな」

「やつは確定するであろう未来を予想することを『フラグを立てる』とか呼んでいたな。ふふっ、女であるラナー王女には男の趣味など分からずフラグを立てられなかったらしい」

「しかし、あのペロロンチーノとか言うやつの趣味・・・・・・あれを理解しきれる女がいるんですかね」

「そこだな、問題は。だが、レイナースはいい駒になる。呪いを解いてもらえたことから来た気持ちは多少の趣味の問題などものともしないだろう。普通の女にはとても頼めん」

「確かに、あれを受け入れるのは大変なことですな。生まれたときから性的嗜好を詰め込まれたような女じゃなきゃ」

「そんな女がいるわけがあるまい。レイナースに頑張ってもらうとしよう。その準備もしなければならんな」

「はぁ・・・・・・あんなのが俺より強いとかやんなっちまいますな」

「そう言うな。あれはまさに・・・・・・《アダマンタイト級の変態》なのだからな」

 

 

 

 

◆ 

 

 

 

 

―――宿屋《歌う林檎亭》。

 

 レイナースはペロロンチーノの泊まっている宿を見張りながら立っていた。顔が熱い。これは彼への思いのため・・・・・・ではなかった。皇帝より彼の好みの服装として頂いた今、身に着けている衣装のためだ。髪はツインテールに結い、下には黒い厚手の伸縮素材のパンツ、上着は白の半そでの伸縮素材の生地で出来た服だ。胸には「れいな~す」と刺繍がされている。皇帝が急遽作らせたペロロンチーノ好みの趣味の服、《ぶるま》と《たいそうふく》だそうだ。他に《れおたーど》《どうていをころすふく》等も用意するつもりであったが、制作中とのことだ。

 

 恥ずかしい・・・・・・。周りの視線が痛い・・・・・・。しかし、これも彼と添い遂げるため。羞恥に耐えながらペロロンチーノが出てくるのを待つレイナースは思う。

 

 これは戦いだ。それも自分が今まで経験したことのない初めての戦い。負けるわけにはいかない。何としてでもやりとげ、彼にこの胸の想いを伝えるのだ。レイナースは自分をそう言い聞かせ、気持ちを奮い立たせる。そして、

 

 

「い、いくぞ」

 

 

 

 そう呟きパンを咥えた。

 

 

 


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