ペロロンチーノの冒険   作:kirishima13

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第13話 女装モノは男の娘モノへの登竜門

―――帝都 郊外

 

 

 

 その日もペロロンチーノはジルの屋敷を訪ねていた。お金もあるし、他に特にやることもない。すでに冒険者と言う立場も忘れつつあるペロロンチーノであった。シャルティア達はフールーダに会いたくないということで宿で待っていてもらってもよかったが、離れたくないと言うので外で待機している。

 

「よく来てくれたね、ペロロンチーノさん。今日はどんな話を聞かせてくれるのかな」

「ジルさん、先日すごいものをみたんですよ」

「すごいもの?」

「美人のお姉さんが体操服とブルマでパンを咥えて走ってきたんです。いやーこの国にもあったんですね。体操服とブルマ」

「へぇ」

 

 ジルクニフの仕掛けたことであるがそんなことはおくびにも出さない。子供の頃より王族として貴族達との駆け引きを演じてきたのだ。初めて聞くような興味深そうな表情を見せる。

 

「信じます?」

「ああ、もちろんだとも。だが、帝国では珍しい格好だね。でもペロロンチーノさんがそれを見てどう思ったか知りたいな。魅力は感じたかい?」

「エロいにはエロかったんですが、さすがにちょっと引いちゃいまして、その間にいなくなっちゃいました。いや、すごく綺麗な人だったんですけどね」

「ちなみにどこが引くポイントだったのか教えてくれるかな」

「やっぱ年齢はともかく雰囲気ですかね。ああいう恰好は小さい子向けですから」

「なるほどなるほど。ちなみにその人だったらどういう服を着てほしいと思う?」

「もっと大人っぽい服・・・・・・ですかね。OLとか女教師とか、ああ女騎士とかも似合いそうでしたね」

「女騎士・・・・・・いや、それは・・・・・・」

 

 もうすでに女騎士なのであるが、もしかしたら変に衣装を変える必要などなかったのか。ジルクニフは己の失敗を呪うが、こぼれたミルクは皿には戻らない。

 

「強気な感じで責められるのもいいですし、オークなんかに捕まって×××(ピー)な事されるのもいいですね。ジルさんもそういうの好きでしょう?」

「オークが他種族に対してそういうことをするというのは聞いたことがないのだが・・・・・・」

「え?オークは人間の女の子襲わないんですか?」

「食べるためにと言う以外で襲うのは聞いたことがないな」

「そうですか・・・・・・」

 

 露骨にがっかりしているペロロンチーノ。話題を変えるタイミングだと判断し、ジルクニフは次の作戦への布石を打つ。

 

「ああ、ところでペロロンチーノさんは学校に興味あるかい?」

「もちろんありますよ。学校というシチュエーションでは王道の中の王道。美少女モノから調教、寝取られ、透明化、あらゆるジャンルのエロゲが出てますからね。でもそれが?」

「実はこの国には帝国魔法学院というものがあってね。私もその関係者の一人なんだ。

それでね・・・・・・ペロロンチーノさんの仲間のシャルティア嬢が相当な魔法の使い手だという話を聞いた。ぜひご教授いただけないかと校長から相談されてね。もちろん報酬は用意するよ」

「俺も!俺もついて行ってもいいですか!?」

 

 詰め寄ってきたペロロンチーノに引きながらジルクニフは快諾する。

 

「もちろん良いとも。保護者として付き添って生徒と交流を深めてくれたまえ」

「いいですね、魔法学院!魔法少女、魔法少女はいますか!?」

「あ、ああ。まぁ魔法を使う少女はいるだろうが・・・・・・魔法少女は・・・・・・」

 

 フールーダと言う魔法少女の姿をジルクニフは頭の中から振り払う。

 

「ところで、学校で何かしたいことはあるかい?」

「学校のイベントですか?女の子からチョコとか手作りクッキーもらったりは定番ですね。リアルじゃ貰ったことないですけど・・・・・・」

 

 リア充爆発しろと呟いているペロロンチーノを見ながらジルクニフはその辺りの話もあとで詳しく聞いておくことにする。

 

「じゃあ詳しい場所や時間はあとで教えるよ。お願いできるかい?」

「分かりました!シャルティアを連れていきますのでよろしくお願いします!」

 

 その後ペロロンチーノは魔法少女についても語るのであるが、変身をしたり触手に絡まれたりするそれはジルクニフの知っている魔法詠唱者像とはかけ離れており、ジルクニフの頭を混沌(カオス)へと堕としていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――帝都 奴隷市場

 

 帝国内では奴隷制を認めていないが、エルフは別である。これはスレイン法国との国際関係にもよるものであった。スレイン法国ではエルフの国と戦争状態であり、そこで捕えたエルフの処分先として、帝国へ奴隷売却するという手段を取っていた。周辺国最強とされるスレイン法国の圧力により高値で輸入されたエルフの奴隷は、戦闘能力が高く、なぜか若い女ばかりである。そのため帝国内では超高級商品であり、一般人が手を出せるものではなかった。そんなエルフたちは首輪をつけられ、奴隷の証として耳を半分ほどから上を切り取られている。これからの自分の運命を悲観し、暗く悲し気な顔をしたエルフ奴隷たち。そんな商品を買おうと貴族や商人と思われる者たちが多く集まっていた。

 

「なんでこんなところに来たんですか?ペロロンチーノ様」

「アウラ、お前は同族のエルフが奴隷にされていると聞いてどう思った?」

「え、別に。ナザリック以外の者がどうなろうと何も思いませんけど?」

「そ、そうなんだ・・・・・・」

 

 ペロロンチーノはアウラが同族が奴隷扱いされていることに嫌な思いをしているのではないかと思っていたが、そうでもないようであった。だがまだ幼い彼女にはナザリック以外の者との交流は少なく、マーレ以外の同族と過ごしたこともない。これから同族について愛着を持つ可能性もある。そんなアウラのことを思っていると、大きな悲鳴が市場に響いた。見ると若い男がエルフを殴っている。

 

「さっさと歩きなさい。この愚図が!」

 

 バシッバシッという音が響く。叩かれたエルフは必死に耐えながら謝り続けている。男の名はエルヤー・ウズルス。切れ長の目に鈴の音を思わせる涼しい声をしている。腰には南方でしか手に入らないと言われる貴重な武器、刀を差していた。ワーカーチーム「天武」のリーダーであるが、チームは彼以外はすべて奴隷のエルフと言う構成をしている。

 

「ちょっとやりすぎじゃないですか?」

 

 そう言ってペロロンチーノはエルヤーの腕をつかんだ。プレイでもないのに女を殴るなど許されないことだ。

 

「何を・・・・・・。ああ、貴方も奴隷を買いに来たのですか。それはダークエルフですね。いい奴隷をお持ちのようだ。確かに物を粗末にするのも恥ずかしいですね」

 

 頭にきて物にあたっていた、そう言い切った男は見下すようにアウラを見つめた。

 

「物?この子は家族のようなものですが?」

「家族?ぷっ・・・・・・、失礼。私と同じ価値観の方かと思ったら人権主義者の骨董品でしたか。ははは、それでは失礼しますよ。ほらっ、さっさと歩きなさい」

「は、はい!」

 

 エルフを引き連れて去っていくエルヤー。

 

 ペロロンチーノは歩き去っていくエルヤーを見ながら思う。王国でも人を人とも思わぬ人間がいた。帝国ではエルフは人として扱われない。アインズ・ウール・ゴウンは異形として人間プレイヤーから忌避された者たちが集まったギルドだ。異形種狩りと称してただ人間でない、気持ち悪いそんな理由で狩られてきた。首輪をつけられ怯えるエルフ達にそんなかつての自分たちを重ねる。

 

「なるほど・・・・・・。少しだけ不快だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして競売の開始が宣言された。エルフの年齢、能力、性格などが紹介され競売参加者たちの入札を煽っていく。エルヤーは今回の競売で少なくとも一人、出来れば二人のエルフを手に入れたいと考えていた。エルフの奴隷は高価だが、エルヤーはワーカーとして報酬を独り占めしているためそのくらいの蓄えはある。今のエルフの戦闘能力に問題があるわけではない。

 

 ―――飽きたのである。エルヤーにとってエルフとは敵であり、ゴミであり、芥であった。それはエルヤーの出身国のスレイン法国の教えによるものだ。人間の役に立って死ねばいい存在、その程度の認識である。飽きたエルフは売るなり、モンスター退治の囮にして殺してしまうなりすればいい。

 

「100金貨!」

 

 エルヤーが声を張り上げる。しかし、すぐに別の声が続く。

 

「200金貨」

「くそっ!!」

 

 まただ。完全にエルヤーの予算を把握されている。

 

 「200金貨、200金貨以上入れられる方はいらっしゃいませんか?では、落札決定です」

 

 その落札者を睨めつける。黒髪で顔はいいが軽薄そうな男———先ほどの男だ。銀髪の白い奇妙な服を着た少女とダークエルフの少女を両脇に控えさせている。どちらも超が付くほどの美貌を有していた。あれほどの至宝を持ちながら女エルフの奴隷を落札することも許せないが、それが全ての女エルフ奴隷となればなおさらだ。そう、ペロロンチーノは本日この場で出品されたすべての女エルフ奴隷を落札していた。次の奴隷が連れてこられているが、エルヤーに落札することはできないだろう。

 

「おい、なんなんだこれは!」

 

 怒りに任せて傍に控えている自分の奴隷を殴りつける。倒れ伏しながら怯えた目でエルヤーを見つめる。

 

「なんなんだこれは!ええ!」

 

 蹴りつけ、殴りつけエルフの顔が腫れあがっていく。しかし、エルヤーの冷静な部分が手を止めさせる。殺してしまうつもりの奴隷であったが、新しい奴隷が買えない以上こいつをまだ働かさなければならない。

 

「も、申し訳ありません。ご主人様」

 

 怯えた目で見つめ、頭を地面に擦り付けるエルフ。他の二人も震えて目を伏せている。そう、この目だ。人外のゴミは生きたいのなら人間にそのような目を向けて卑屈に生きていればいい。

 

「覚えていろ。顔は覚えた。今に見ているがいい!」

 

 そう言って、エルヤーは3人のエルフ奴隷を連れて奴隷市場を去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、ペロロンチーノ様。こんなにエルフの奴隷を買ってどうするんですか?」

「そんなのは決まっているでありんすよ。×××(ピー)なことや、×××(ピー)なことをして楽しむんでありんす」

「うわぁ・・・・・・マジで?変態じゃん」

「マジでありんす。うふふふっ、今から楽しみでありんすね。ペロロンチーノ様」

 

 アウラがドン引きの顔をしている。シャルティアへの口撃はそのままペロロンチーノに向かう。アウラのまさかペロロンチーノ様まで?と言ったような顔を見てられない。

 

「買うつもりはなかったんだけど、あの男に買われるのを見てられなかったからな」

 

 まるでかつて迫害されていた自分たちを見ているようで、と言う言葉は飲み込む。

 

「それにアウラの近親種族だしな」

「へ?あたしエルフが奴隷としてどうなろうと別に何とも思ってませんけど」

「ああ、アウラはまだ子供だから分からないかー。大人になれば同じ種族の友達も欲しくなるだろう、たぶん」

「ぷぷぷっ、そうでありんすねー。アウラはまだまだ子供でありんすからね」

「なにさー、あんただって胸は子供どころか平面じゃない」

「なんですってー!」

 

 いつものように喧嘩する二人をよそに、エルフの奴隷たちを見る。勢いで買ってしまったがどうしようか。別に一緒に冒険をするつもりもなければ、何かをしてもらうつもりで買ったわけでもなかった。デミウルゴス達からもらったお小遣いの大半を使ってしまったわけだが。

 購入したエルフ達は全員女性で整った顔立ちをしている。普段であれば愛でるところであるが、奴隷の印として長い耳の半分ほどを残して切り取られており痛々しい。怯えたような目でペロロンチーノ達を見ている。自分たちのこれからの運命を思ってだろう。

 

「あー、諸君。俺が君たちを買ったわけだが傷つけたり酷いことをしたりはしないから安心するように。しかし、その耳の傷は痛々しいな。シャルティア治してやってくれ。その後はどこに行こうが好きにしてくれて構わない。ただもしも感謝のしるしにエッチなサービスをしてくれるというのであればこちらは一向にかまわないのでお願いします」

「かしこまりんした。我が君。《大治癒(ヒール)》」

 

 シャルティアの魔法によりエルフ達の耳やその他の傷が完治する。突然の大魔法に驚くエルフ達だが、一人が耳を触り、周りのエルフ達を見渡す。一人、また一人と自分の耳があることを確かに感じ、その感触に涙した。

 

「あ・・・・・・ああ!ご主人様・・・・・・私どもにしていただいたこの御恩は決して忘れません」

「ありがとうございます!」

「ありがとう・・・・・・ございます!」

 

 口々にエルフから感謝の言葉が上がる。

 

「いや、別に俺が善人で助けたわけじゃないから。気にしなくていい」

「ご主人様、私たちの話を聞いてくださいますでしょうか」

 

 エルフ達は話し出す。彼女たちはスレイン法国との戦で捕虜となり、奴隷として帝国に売られてきたとのことだ。そのため、この場で彼女たちを自由にしたとして、無事に国まで帰れるとは思えない。そして、彼女たちの国の王は強大な力を持ち、自分の血を継いだエルフ達を戦場に送り出して覚醒しないか実験しているという暴君であり、国に帰ったとしても、また戦に駆り出されるだけだという。

 

「ですので、できればご主人様にお仕えさせていただけないでしょうか。お願いいたします」

 

 ペロロンチーノは買っておいて行先もないのに放り出すのは無責任だと考える。だが助けておいて「じゃあエッチな事して」とこちらから言うのはさすがに恥ずかしい。向こうからしてくれる分にはむしろ歓迎するのであるが。そこでペロロンチーノの頭にナザリックのメイド達の姿を思い出す。帰ったら24時間監視の生活を強いるあのメイド達。その代わりとして彼女たちに働いてもらうのはどうだろうかと。

 

「そう言うことなら・・・・・・うーん。メイドでもやる?」

「は、はい!ご主人様」

「メイドと言っても絶対の忠誠を誓った仕事のためなら命をかけるようなそんなメイドじゃなく普通!普通のメイドな!24時間監視してくるようなのじゃなく普通にセクハラしたら恥ずかしがってくれるような!」

「え、ええ・・・・・・ご主人様が言うようなメイドは普通いないと思いますので・・・・・・」

 

 エルフ達は当面ナザリックで預かることととする。帰りたいというのであればいつでも帰すつもりだし、あの狂気のメイド達から解放されるのであればありがたい。

 

「じゃあデミウルゴスにでも任せるとするか。困ったときはデミウルゴスだろう」

「ペロロンチーノ様。それはやめておいたほうがいいと思いんすが・・・・・・」

「何でだ?シャルティア。デミウルゴスなら任せられると思うんだけど」

「何て言うか、そうでありんすねぇ・・・・・・なんか牧場で働かせたり酷いことになりそうでありんすし・・・・・・」

「ふーん、シャルティアあんた変わったね。何かナザリックの外のやつに優しいなんて」

「ふふんっ、これでもペロロンチーノ様から色々学んで成長しているでありんすよ」

「確かにシャルティアもちょっと変わったな。じゃあ、彼女たちは第6階層のマーレに預けることにしようか」

 

 シャルティアの成長を喜ばしく思い頭を撫でているとアウラが口を尖らせる。

こうして、エルフ達はナザリックの第6階層で預かることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――帝国魔法学院

 

 ジエット・テスタニアは悩んでいた。進級試験のことだ。同級生貴族の嫌がらせのため、平民の彼は昇級試験の実地課題への参加メンバーを集めることに苦慮していた。家族のため、ここで挫折するわけにもいかない。第1位階魔法までは使えるのでここをやめたとしても勤め先はあるが、ジエットの目標は帝国魔法省へ入ることだ。もしかしたら自分の才能(タレント)を晒せばもっといい職に就けるかもしれない。そう思い、右目の眼帯に触る。彼の才能(タレント)はあやゆる幻覚を見破るといったものだ。しかし、それは逆に危険を招き寄せる恐れもある。先の見えない悩みに頭を抱えながら授業が始まるのを待っていると教師とともに二人の見知らぬ学生が入ってきた。

 

「あー、今日から皆さんと一緒に勉強する転校生を紹介します。フールさんとレイナースさんです」

 

「私、転校生のフール!フールちゃんって呼んでくれると嬉しいですぅ!よろしくね!」

「レイナースです。よろしくお願いします」

 

 二人とも魔法学院の制服に身をつつんでいるがその印象は対照的だ。フールと名乗った少女は非常に活発そうであり、片足を上げポーズを取っている。銀髪のおさげ髪で非常に整った顔をしているが、なぜかそれがジエットには不自然なものに見えた。レイナースのほうは若干緊張しているのか表情は硬く、周りをきょろきょろと見回している。

 

「それと本日より臨時教師の方にも来ていただくことになりました。主席宮廷魔術師フールーダ様からのご推薦です。どうぞ」

 

 教室の扉から彼女が入ってきた瞬間、時間が止まった。いや、止まったと皆が感じた。余りにも美しいのだ。まだ幼さの残るあどけない顔、雪のように真っ白な肌、スーツにスカート、メガネと言う女教師スタイルだが、無理をしてして大人ぶっているようで愛らしい。教室のすべての視線が注目する中、その外見に相応しい鈴のような声を鳴らした。

 

「今回臨時の教師として参りんしたシャルティア・ブラッドフォールンでありんす。シャルティア先生と呼んでもいいでありんすよ」

「シャルティア先生は午後の魔法実習で早速講義をしてくださいます。みなさんよろしくお願いしますね」

 

 可愛い転校生と新任教師、周りの生徒たちが喜色満面で囁きあう中、ジエットのみは何とも言えない違和感を感じるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――昼の休み

 

 シャルティアは大勢の生徒たちに囲まれていた。

 

「シャルティア先生、どんな魔法を使えるんですか?」

「先生の肌すごく綺麗ー」

「先生、一緒にご飯食べましょう!」

「恋人はいますか!?シャルティア先生」

「先生・・・・・・わらわが先生・・・・・・はぁ!いい響きでありんす!ぬしら可愛いでありんすね。わらわのペットにしてあげてもいいでありんすよ」

「きゃー、先生のペットだって!」

「私も先生に可愛がられたーい」

 

 シャルティアは先生と呼ばれることに喜びを感じていた。いつもデミウルゴスやアルベドにアホの子扱いされ(自分ではアホの子などとは微塵も思っていないが)悔しい思いをしてきたのだ。その自分を先生を呼んで慕ってくれる生徒たち。

 そして生徒たちも幼い顔で先生扱いされて純粋に喜ぶシャルティアに好感を持っていた。なんて可愛い生き物なんだと。

 

「すごい人気ですねペロロンチーノ様」

「そうだな。まー楽しそうで何よりだ」

「まったくあんなに喜んで・・・・・・調子に乗らなきゃいいけど」

「ところで、あれはなんですか?バジウッドさん」

「あれ・・・・・・とは?」

 

 ペロロンチーノとアウラは保護者として、バジウッドは警備として隅のほうでその様子を見ていた。ペロロンチーノが指さした先、フールを見てバジウッドは顔をしかめる。

 

「あのじいさんは何なんですか?シャルティアの足を舐めた上級者だって聞いてましたけどまさか女装趣味まであるとは」

「あの・・・・・・幻術が見破れるんですかい?」

「あの程度の幻術ならすぐ分かりますよ。でもなりきってるなー。元の姿が見えてるから若干引きますが」

「ご不快でしたら斬り捨てますが、あのじじい」

「いやいや、女装したくらいで斬り捨てないでくださいよ。でも何であんなことを?」

 

 バジウッドは焦る。何と言ったらこの人物を不快にさせない、いやこちらに好感を持たせることが出来るのか。はっきり言ってフールーダのしていることは変質者のそれと変わらない。それをどう言ってごまかせばいいか。こういうのは陛下の考えることだ。裏路地出身で己の腕一本で今の地位まで上り詰めたバジウッドでは思いつかない。胃が痛くなってくる。誰かあの変態を止めてくれ、その思いがつい口に出てしまう。

 

「・・・・・・ただの変態だからですぜ」

「ほう・・・・・・。では女装して女学生に混ざり女の子たちの着替えを覗いたり、女の子同士の猥談を聞いたり、そしてそれがバレて逆に攻められたりと言った女装モノのエロゲによくあるシチュエーションを実践していると。でも、犯罪では?」

「いや、何言ってんのか分かんないですが、あーその・・・・・・あの方はそれなりの地位にいるんでこの程度は見逃してます。気持ち的にはとっ捕まえて斬り捨てたいんですが」

「しかし、あの発想はなかったな・・・・・・。俺は女の子に擬態するべきだったのか・・・・・・女の子の姿なら変態扱いされずもっと近くで覗いたり見たりできる。あのじいさん天才かよ・・・・・・」

「ま、まぁ、納得してくれんでしたらありがたいです」

 

 面倒だから正直に自分の気持ちを言っただけだが、バジウッドは何とかごまかすのに成功したことに安堵する、それが間違っていたらと思うとぞっとするが。女学生フールを羨ましそうに見るペロロンチーノを横目に見ながらバジウッドは息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジエットは他の生徒たちとともに午後の実習授業が始まる校庭に集まっていた。先生のシャルティア、それを爛々とした目で見つめる転校生のフール、付き添いとして離れたところにいる3人、一人はどう見ても屈強な騎士、もう一人はどこから連れて来たのか見たこともない可憐さを持つダークエルフ、もう一人の黒髪の男。そして手にチョコとクッキーを持って、その男をチラチラ見ているもう一人の転校生の女性。すべてが異常だ。ジエットは決意して己の眼帯を外して周りを確認した。

 

 ―――その瞬間、世界が変わった。まずはシャルティアの瞳の色、真っ赤に染まったその目は人間のものではない。そして保護者だと言う男は鳥の顔をした羽の生えた亜人であった。そして不可視化で隠れていたのか、建物の中には皇帝陛下と思われる姿も見える。しかし、そんなことは些細なことだった。その後見たものに比べればどうでもいいことだ。全身に鳥肌が立ち、足の震えを抑えられなくする存在、転校生フール。その本当の姿は白く長いひげを生やした老人・・・・・・帝国でその存在を知らない者はいない大魔法詠唱者フールーダ・パラダイン老その人だった。そしてそれが女学生の振りをしてキャッキャと飛び跳ねているのだ。恐ろしい・・・・・・怖気の走るソレをそれ以上見て居られなくなったジエットは、そっと眼帯を装着するのであった。

 

「それでは授業を始めるでありんす。えーっと、確かぬしらは魔法を覚えたいんでありんすね。先生のわらわが!わ・ら・わが授業をはじめるでありんすよ」

 

 魔法学院でそれ以外の何を学べと言うのか・・・・・・とは思うが嬉しそうに説明を始めたシャルティアに生徒たちは生暖かい目を向け頷く。

 

「まず魔法とは何か。それは神々から与えられた力でありんす。神々とは至高なる41人の存在。わらわにとってはペロロンチーノ様でありんす。わらわの魔法はすべてペロロンチーノ様に与えられたもの。分かりんしたか?」

「え、あの終わり・・・・・・ですか?」

「そうでありんすよ?」

 

(教えるの下手かよ!)

 

 ジエットはそう言いたかったが、フールーダからの推薦の教師にそんなことを言うわけにもいかない。誰か何か言ってくれないかとお互いの顔を見回している中、一人の女生徒が進み出た。フールである。

 

「はいはいはぁい!先生!質問でぇす」

「げっ・・・・・・あの時のじじい・・・・・・」

「フールでぇっす!」

「はい・・・・・・フールさん」

 

 幻術を見破り、老人が両手をフリフリしているのを見るシャルティアはドン引きしながら仕方なしにフールーダを指名する。

 

「じゃあ、その神様?ペロロンチーノ様に魔法の覚え方を教えてもらうのが良いと思いまぁす」

「それもそうでありんすね。ペロロンチーノ様?」

「え?俺?」

「ペロロンチーノ様。やっぱあの馬鹿じゃ人に何か教えるなんて無理だと思いますよ」

「まぁ、だよねー。そういう設定だし。そこがいいところなんだけど」

 

 保護者として離れて見ていたペロロンチーノはいきなり振られて戸惑うが、教師として報酬ももらっている以上あれだけではさすがに不味い。仕方なしにペロロンチーノの知っていることを語ることとする。

 

「えーっと、どうも。ペロロンチーノです。魔法を使うにはそれに応じた職業(クラス)につく必要があります。そしてその職業でのレベルを上げることにより魔法を覚えることが出来ます。上位の魔法を覚えるにはさらにレベルを上げる必要がありますが、一つの職業にはレベルの上限があるので、他の職を上げることにより新たな魔法を覚えたり、さらに新しいジョブに就く条件を満たしたりと順にこなしていく必要があります」

 

 静寂が訪れた。一つの職業(クラス)を極めるだけでも人生を費やすのに複数の職業(クラス)それもさらに先を求めよと言うのだ。彼らはそれを成したものと言うことなのだろう。途方もない努力と時間、そして才能、それが必要と知り顔を伏せるもの、ならばやってやろうという目に力が漲るもの、それぞれの反応を示す中、フール震える。最上位冒険者の中には強くなるため効率的なれべるあっぷなる儀式をする者がいると聞いたことはあるが、フールの求めるものは魔法の深淵。それを覗くのには不要と捨て置いた知識だ。

 

「先生、れべるを上げるというのはどうすればいいんですかぁ?」

「アイテムによる方法もありますが、基本はモンスター・・・・・・いや、モンスターに限らず何かを倒す・・・・・・殺すことで経験値がたまり、ある一定値を超えるとレベルが上がります」

「ただ、弱いものを倒しても意味は余りありません。大量に倒せばレベルは上がりますが、それよりは自分と同等以上の相手のほうがいいです。そうやって幅広い職業(クラス)でレベルを上げてさらに上を目指すって感じですね。まぁ俺は魔法詠唱者じゃないのでそれほどの魔法は使えません。シャルティア実際に見せてやろうか」

「それでは魔法の実演をするでありんすが、ここでやって本当にいいんでありんすか?」

 

 かなり広めのグラウンドの真ん中に木で出来た人形の的が立てられている。周囲からの距離もあり、十分大丈夫だと判断した教員が頷く。

 

「これだけ広ければ大丈夫でしょう。お願いします。先生」

「うふふ、先生・・・・・・いい響きでありんす。では簡単な魔法から行くでありんすよ。《魔法の矢(マジック・アロー)》」

 

 空中に魔法の矢が10本現れ、目標の人形に突き刺さった。

 

「きゃー!見て見て!すっごーい。第1位階魔法の《魔法の矢(マジック・アロー)》よ!実力により本数が変わるの!10本なんて見たことがないわ」

 

 フールが大興奮で叫んでいる。周りの生徒たちも驚き、尊敬の目をシャルティアに向けた。彼らでは1本、せいぜい2本を発動するのがやっとだ。シャルティアは続けて魔法を放っていく。

 

「《衝撃波(ショック・ウェーブ)》」

 

 通常の何倍もの衝撃が人形にさく裂しばらばらになる。その衝撃波はまわりを強風となって襲い、生徒たちがスカートを抑える。ペロロンチーノの目は的ではなくそちらに釘付けになった。

 

「《火球(ファイヤーボール)》」

 

 小さな指から放たれた火の玉は対象を炎で包むだけに飽きたらず、その周辺が火の海になった。襲い掛かる熱波に誰もが後ずさる。汗ばんだ女生徒たちの服が体に密着し、そのラインを浮き彫りにするのをペロロンチーノは脳に焼き付ける。

 

「すごいすごーい!」

 

 フールが大はしゃぎしているが、一部の生徒は若干引き気味であった。

 

「もっと下がったほうがいいと思うよ」

 

 アウラの忠告に教師も生徒もさらに一歩下がる。

 

「《吹き上がる炎(ブロウアップフレイム)》」

 

 校庭から炎の柱が吹き上がった。もう的の人形は跡形さえない。吹き上がる熱気に目も開けられない。

 

「《連鎖する龍雷(チェイン・ドラゴン・ライトニング)》」

 

 雷のエネルギーが龍の形を模して校庭をかけまわる。圧倒的な魔力、これを食らったら確実に死ぬということが誰しもわかる。これは伝説の物語(サーガ)に登場するほどの魔法であるということも。

 

「こ、これは私をも超える魔法では!すばらしい!すばらしいですぞ!ひゃははははは」

 

 フールの口調がおかしくなってきたが、みなそれどころではなかった。魔法としての極意、その頂点を目撃して。だが、まだそれが頂点ではないと分かり顔を青く染め上げる。

 

「《朱の新星(ヴァーミリオンノヴァ)》」

 

 紅い光点が目の前に炸裂する。だが、その熱量は恐ろしいものであった。地面が融解し校庭の木々は火を噴き上げる。校舎のガラスが解け始め周りは火の洪水といった様子だ。さすがに危険を感じたバジウッドとレイナースは皇帝の元へと走っていく。他の生徒たちはなすすべもなく立ち尽くすしかなかった。濡れる制服にめくれるスカート、ペロロンチーノも立ち尽くすしかなかった。フールのみが「MOTTO!MOTTO!」と狂喜乱舞している。

 

 

「《力場爆発(フォース・エクスプロージョン)》」

 

 シャルティアを中心とした爆風が生まれる。いや、それは爆風と言うだけでは収まらない魔力の渦である。女生徒たちのスカートが垂直にめくれ上がり抑えることさえできない。ペロロンチーノが顔の前で拳を握りしめて凝視している。建物の屋根が吹き飛び、建物自体もバラバラと崩れていく。

 

「最後は派手に行くでありんすよ!《魔法効果範囲拡大化(ワイデンマジック)隕石・・・・・・(メテオ・・・・・・)》」

「やめなさい!さすがにやりすぎでしょ!」

 

 スパーンと音とともにシャルティアの詠唱が中断される。お尻を押さえるシャルティア。常人には分からないほどのスピードで蹴りが入れられたようだ。

 

「アウラ。いいところなのに何をするでありんすか」

「少しは頭使いなさいよ。そんな魔法使ってこの国滅ぼす気なの?」

「あ・・・・・・」

 

 少しだけ頭を使ったシャルティアは魔法効果範囲拡大化したその魔法の結果を想像して額に汗を滲ませる。

 

「分かった?この辺でやめておくのが丁度いいって」

「分かったでありんすよ!」

 

 この惨状でどこが丁度いいんだとその場の誰もが思ったが、それを言い出すものはいない。むしろ自分たちがなぜ無傷なのかが不思議でたまらない。

 

「でもここの人達意外と丈夫だよねー。あれで怪我一つしないとか」

「ふふんっ、それはわらわが最初に《火属性無効化(エネルギーイミュニティ・ファイヤー)》と防御系魔法を全体化して使ってたからでありんすよ」

「へー、だから暑くてもダメージなかったんだ。やるじゃん。最後はちょっと駄目だったけど」

「わらわも手加減っていうものを覚えたでありんすよ。それにちょっと優しくなったと自分でも思っていんす」

「うんうん、シャルティアが成長してくれてなんか嬉しいよ」

「アウラ、なんで上から目線でありんすかー」

 

 キャイキャイと騒いてる様子は可愛らしい女の子同士のように見えるが、この惨状の中でそれを出来るということに誰もが瞠目する。崩壊した校舎、破壊尽くされマグマの池が出来ている校庭、メラメラと燃え続ける樹木。そんな中、フールの興奮した叫び声だけが響き渡っていた。そして

 

 

 

 

―――その日、帝国魔法学院は消滅した。

 

 

 

 ジエットの進学試験へ対する心配はなくなり―――

 シャルティアの教師生活に憧れる未来もなくなり―――

 フールーダの魔法少女生活もなくなり―――

 レイナースの期待した甘酸っぱい学生生活もなくなった―――

 

 そして、賠償と言う名の借金のみをペロロンチーノが得るのであった。


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