ペロロンチーノの冒険   作:kirishima13

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第14話 男の娘モノはBLモノとの境界線

―――スレイン法国

 

 

 議場のような場所に7人の男女が集まっていた。最高神官長及び6大神殿それぞれ、火水風土光闇の神官長である。彼らが何をやっているかと言うと・・・・・・掃除である。法国の最高権力者が掃除等と思うかもしれないが、神のために議論する議場を清潔に保つことはこの上ない栄誉であり、他の者に任せることなどできない。

 掃除が終わり、最高神官長が代表して神への感謝を述べる。

 

「今日も人間たる我々の命があったことを神に感謝します」

「「「「「「感謝します」」」」」」

 

 祈りが終わり、最高神官長が本日の議題を発表した。とは言ってもこの場で真っ先に話す議題など、かの者たちの話題しかないのであるが。

 

「では闇の神官長、報告を頼む」

「分かりました。では、占星千里からの報告を書き記したものを回しますのでご覧ください」

 

 そう言って紙を渡す闇の神官長の頬には紅葉のような赤い痕があった。まるで手のひらの形のようだと誰もが思う。そして面倒なことをする、と。回された紙を読み終わり、土の神官長が叫ぶ。

 

「嘘だ!難度200の悪魔を撃退し、第10位階の魔法を使いこなすものなどおるはずがない」

「帝国の魔法学院を消滅させただと。そしてその魔法を使った者と同等の力を持つものがさらに二人もいるとは」

「これはやはり100年の揺り返しではないのか」

「分からん。どこかに潜伏していた可能性もあるからな」

「それよりもその者たちが人間に対して敵なのか味方なのかと言うことが重要だ」

 

 神官長達はお互いの顔を見回し、彼ら・・・・・・冒険者チーム《変態》のしでかしてきたことを何度も読み返す。そして代表するように最高神官長が口を開いた。

 

「王国で冒険者として活躍・・・・・・と言っていいのかどうか分からんが、とにかく活動し、そうと思えば王国の暗部、八本指に肩入れし、そうかと思えば入ったばかりの八本指を壊滅させ、王国のために悪魔と戦ったと思えば、貴族と敵対し追放される。帝国に活動拠点を移したかと思えば冒険もせずに、学院の教師だと?何がしたいのかさっぱり分からん」

「強さから言えば神か魔神かいずれかと思うのだが、やつらの目的は何なのか・・・・・・」

「ふっ・・・・・・」

 

 議論が白熱する中、闇の神官長が笑いを漏らした。

 

「何がおかしい」

「闇の神官長、おぬし何か隠し事でもしておるのか」

「神の前に隠し事など、不敬にもほどがあるぞ」

「いえ、そうではありません。まぁ私の胸に仕舞っていても胃が痛いだけですし、話しましょう。皆さんもご存知でしょうか。占星千里の事件のことは」

 

 占星千里の事件とは、情報収集後しばらく情報を話そうとせず部屋に閉じこもってしまった事件のことだ。

 

「その占星千里からの詳しい報告書がこちらです。最初に見せた場合皆さんに信じてもらえないかと思いまして」

 

 そう言って、回された紙を見た神官長達は顔を真っ赤にして俯く。

 

「お、お、お前!これを占星千里に報告させたのか!」

「もしやその頬の赤い痕はその時のものか!若い女子にこのような報告をさせおって。この下種が!」

「うらやましい・・・・・・」

「なぜ私も呼んでくれなかったのか!」

「あとでもっと詳しい話を聞かねばな」

 

 そんな男たちの声の中、唯一の女性である火の神官長が軽蔑したような目で彼らを見た。

 

「おぬしたち・・・・・・最低じゃな」

「おほんっ!それで・・・・・・この報告書によるとその者は王国で多くの女性を半裸に剥き、さらに王女とその騎士を無理やりに×××(ピー)させ、×××(ピー)×××(ピー)×××(ピー)にするようなところを見物し、帝国魔法学院でも女生徒たちのスカートがめくれるところを愛でていたと・・・・・・」

「おい、言葉に出すな。恥ずかしい」

「これはセクハラではないのか!占星千里に訴えられたらどうするのだ!」

 

 そんな他の神官長達からの批判に闇の神官長が真面目な顔で答える。

 

「セクハラではないですとも。目撃した事実の報告を求めただけですから。涙目で恥ずかしがる占星千里に王女のどこに何をどうしたのか詳しく、ええ、詳しく状況報告させただけです。それはもうじっくり時間をかけてね。まぁ、私の気持ちが通じることなくこうして頬にご褒美・・・・・・いや、ビンタを食らってしまいましたがね」

 

「では、これより闇の神官長の懲罰動議を行いたいと思・・・・・・」

「「「「「異議なし」」」」」

 

 発議に被る形で決議が即時なされた。闇の神官長が神官たちに連行されていく。

 

「光ある限り闇がある・・・・・・女子がいるかぎりセクハラがある・・・・・・例え私がここで消えようとも第2第3の闇の神官長があらわれ・・・・・・」

「さっさと連れていけ!」

「はっ!」

 

 闇の神官長を見送り、穢れた議場を再度掃除した後、残った6人は頭を悩ませる。

 

「さて、冒険者チーム《変態》についてだが、おぬしたちどう思う」

「王国では墓地の事件の解決や悪魔騒動解決で英雄扱いか・・・・・・」

「帝国兵に扮して王国の村々を焼いて回っていた部隊の一つが全滅しておる。これは奴らの仕業なのではないか?」

「陽光聖典ニグンがその近くでガゼフ・ストロノーフを屠っておる。ニグンと遭遇する前にガゼフが殲滅した可能性もあろう」

「推測の域はでんな。だが、エ・ランテル近くの野盗のアジトで野盗と冒険者を殺したのはやつらで間違いないな?」

「それは間違いない。目撃者を呼んでおる」

 

 神官長に呼ばれ、鎧を着た長髪の黒髪の男と手首を錠と鎖でつながれた女が連れてこられる。

 

「お呼びにつき、漆黒聖典隊長参りました」

「ぺっ・・・・・・」

 

 礼儀正しく礼をする隊長とは対照的に連れてこられた女は神のために清掃したばかりの床に唾を吐く。神官長達が眉にしわを寄せる中、漆黒聖典隊長は語りだす。

 

「はい、野盗も冒険者もその二人、いや、そのうちの一人シャルティアなるものが殺しております。それも弄びながら。そしてその者は紛れもなくヴァンパイアでした」

「もう一人の男はどうなのだ」

「冒険者たちをヴァンパイアから守ろうと何度も噛みつかれておりましたが、それほどの負傷を負っていたとは思えません。同等の力があるように思えます」

「人間を守ったということはヴァンパイアと敵対していた?それとも眷属にされたか。ヴァンパイアは吸血することにより眷属とすると聞く」

「魅了の魔眼で操られている可能性もあるな」

「私には非常に仲睦まじく見えましたが・・・・・・」

「王国では悪魔の襲来から人々を守っており、王国の貴族がその英雄性に恐れ、罪を着せていますがそれも甘んじて受け入れておるな」

「人を守ったとは言い切れまい。目の前の敵を排除したのみかもしれん」

「ところでこの話を番外席次には?」

「しておりません。したらその者の子供を産みたいなどと言い出しかねません。いずれ知られるでしょうが・・・・・・」

「お前はどう思うのだ。直接会ったのだろう。クインティアの出がらしよ」

 

 その場にいる全員がクレマンティーヌを蔑んだ目で見つめる。彼女がここに居た時見慣れた目だ。

 

「なぁに?あたしなんかに頼っちゃってるわけ?王国の牢屋にいるところを攫ってきやがって糞が」

「クレマンティーヌ。生かされておるだけ感謝せよ。お前の奪っていった至宝、叡者の額冠のことも答えるのだ」

「知るか!つーかあいつに関わるなら勝手にやってよ。あたしはもう関わりたくないんだからさ」

「・・・・・・では自ら話したいようにしてやろうか?」

 

 冷たい目で見降ろされる。こいつらはやると言ったらやる。人類の守り手などと言っているが大を救うために小を見捨てるどころか小を殺し、焼き、苦しめてもなんとも思わない糞どもだ。神のためならなんだってする。クレマンティーヌは諦めたように息を吐いた。

 

「はぁ・・・・・・あいつらに捕まったらおまえらが想像もできないような目にあわされるよ。あれは本当の変態だ。おまえらも人類のためとか言ってエグいことやりまくってるけどあいつらの頭ん真ん中はもっととんでもない。捕まってこれからどういうことをあたしにするかたっぷり語ってくれた・・・・・・。ははっ!おまえらがそんな目に合うと思うと少しはすっとするよ」

 

 クレマンティーヌは彼らが自分に行うと宣言したプレイの数々を語る。それを聞いた神官長の面々が顔を赤くしたり青くしたりしているのが良い気味だった。 

 

「そ、そのような・・・・・・何と邪悪な・・・・・・ケツに・・・・・・×××(ピー)だと」

「どういう脳味噌をしてるのだ。×××(ピー)とは可能なのかそのような・・・・・・」

×××(ピー)とか天才のそれかよ・・・・・・」

「ヴァンパイアとして喜んで人の血を啜っている以上やはり人類の敵なのだろう。それにその変態性、見過ごすわけにはいかん。これは人類の・・・・・・女の危機じゃ」

「ババアに用はねーんじゃねーの。きゃはははは」

「黙れクレマンティーヌ」

「やはり破滅の竜王の捕獲を急ぐべきか・・・・・・」

「そうだな・・・・・・漆黒聖典に命じる。破滅の竜王(カタストロフドラゴンロード)を捕獲するためトブの大森林へ再度向かうのだ」

「はっ!」

「ところで、この報告書によるとやつらが出入りする遺跡を見つけたのであろう。潜入などの捜査は行っているのか」

「占星千里により平原にある遺跡の監視を続けているが、その内部までは探知できない。情報阻害の対策が施されているようだ。反撃の可能性もある。そこで帝国の貴族を使うことにした」

「帝国の?」

「遺跡の情報を貴族に流したところワーカーを雇って調査に乗り出した。うまく動いてくれたわい。それに対して奴らがどう動くか監視と行こうではないか」

「暫定としては、やつらは人類の敵として想定して動くこととしよう。用心に越したことはない」

「「「「「異議なし」」」」」」

 

 こうして、スレイン法国は破滅の竜王(カタストロフドラゴンロード)の捕獲、そして間接的にナザリック地下大墳墓の捜索に乗り出すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――帝都 郊外

 

 屋敷にバジウッドの姿はなく、ジルクニフ、フールーダ、レイナースにさらにもう一人の人物が参加していた。《激風》ニンブル・アーク・デイル・アノック、金髪碧眼美男子、貴族出身の騎士であり、鎧で身を包んでいる。

 

「陛下。最近城に居ないと思ったらこんなところにいたんですか。秘書官のヴァミリオンが仕事押し付けられて泣いてましたよ。ところで、私をお呼びになった理由をお聞きしてもよろしいですか?」

「ああニンブル。バジウッドが任務中体調を崩してな。後任として勤めてもらいたい」

「はぁ・・・・・・バジウッドからは胃を悪くしたと何となく聞いてますが、あの帝国魔法学院が《謎の》爆発で消滅した件でしょう。ですが本当なんですか?魔法一つでマグマの池が出来たとか周囲一帯吹き飛んだとか」

「いかにも!あれこそは魔法の深淵!魔法とは第10位階まであると言われていたがそれを証明する者はいなかった。あれこそが、あれこそが!もう、もう私は・・・・・・私はい・・・・・・い・・・・・・」

 

 フールーダが興奮した様子でさらに続けようとする。フールーダにとってあの魔法学院での時間は至高の時間であり、いまだに夢幻の中にいるような気持ちであった。求めても求めても手の届かなかった世界をその目で見られたのだ。

 

「じい、もう黙っててくれ。話にならん」

「フールーダ様がここまで興奮されるということは本当なんでしょうね。それで、どうするんですか?」

「魔法学院はなくなったが、被害者は0だ。いや、バジウッドが倒れたくらいか。教師も生徒も無事でいるんだ。学業をする場所など別に作ればいい」

 

 とはいうもののジルクニフも学園の崩壊までは想定していなかった。あの魔法は想定外だ。しかも、あれでも手加減していたと言うのだから笑うしかない。被害額はかなりのものだが、それはこれからペロロンチーノに払ってもらえばいいと思考を切り替える。ニンブルもそこは気づいているようで思考を変える。キレる男だ。

 

「いえ、学院も心配ですが、その二人です。危険では?」

「ああ、危険だな。何が危険かと言うと自分たちの力と言うものがどれほどの影響力があるのかまるで気にしていないところだ。扱いを間違えれば国が滅ぶほどだというのにな」

 

 ジルクニフは認識を改めた。あれは簡単に振るってよい力ではない。帝国に取り込めればと思っていたが、絶対に敵にしてはいけないだけでなく、安易に振るってはいけない力だ。

 

「それでどうされるのですか?」

「順番に言うぞ。まず一つ目だ。今回の魔法学院の事故については、彼らに賠償を負ってもらうことになっている。そしてそれが払えないというであれば私が肩代わりする。つまり、彼らの弱みを握るのだ。そして、その賠償として頼みごとをする。つまり利用するのだ」

「彼らほどの強者がそれを認めるでしょうか」

「認めなかったとしたら、それはそれで負い目になろう。敵対したときの命乞いの材料くらいにはなるかもしれないな」

 

 ジルクニフは自嘲気味に笑う。力ずくでこられたらもうどうしようもないのだ。フールーダさえああなのだから。

 

「それで頼み事とはどのようなものをされるのでしょうか」

「王国との戦争の先兵・・・・・・とかですか?」

「それは無理だ。彼らは王国に敵対心を持っていない。それにあの国は悪魔に襲われ多くの死者が出ている。そのような状態で攻め入れば国民からの反発が考えられる。占領しても統治はうまくいくまい。喪に服している間は、こちらからは弔意を出すこととしている」

「では、彼らに何をさせたいというのですか」

「王国の村々が襲われた件で帝国兵が犯人だという噂が流れているのは知っているか」

「ええ、ガゼフ・ストロノーフが殺された件と関係ある話ですね」

「そうだ。あれはガゼフをおびき出すために王国の貴族が仕掛けたのだろう。だが、裏ではスレイン法国が手を引いていると私は睨んでいる」

「スレイン法国ですか・・・・・・しかし、あの国は人類の守り手。そのようなことをするでしょうか」

「はっ!人類を守るためならどのような事でもするだろうさ。王国の最大の戦力を殺すことで帝国に王国を併合させようと動いていたんだろう。だが、そうなったら今度は法国の圧力に今以上に苦しむことになるだろうな。この国のためになるのであればよいが、人類のためと平気で無辜の村人を殺して回るような連中だぞ。役に立たなくなったら簡単に切り捨ててくるだろうな。信用できるか」

「そこで・・・・・・あの冒険者たちですか」

「そうだ。やつらに法国の動きを探らせる。うまくぶつかってくれるといいな」

「そううまく行くでしょうか」

「やつらには一国を滅ぼせる力があると私は見ている。うまく動かすんだ。私はやつの友人であり、借金の肩代わりまでしているんだからな」

「ですがすべて彼ら任せというのは危険ですね」

「その通り、そこで二つ目だ。あの学院でペロロンチーノが言ったことを考えてみた。命を奪うことによるけいけんちとれべるあっぷなるものについてだ。私なりに彼の言葉を言い換えると、命を奪うことによって人は強くなる。そして殺す相手は自分と同等の実力以上が望ましい。さらに一つの職でなく様々な職で行うことでさらに強くなる。どうだ?じい」

「さすがは陛下。かの御方の言葉をよく理解しておりますな。私は彼の言葉に目から鱗が落ちましたぞ」

「ニンブル、お前はどうだ?今の話に思うところはないか?」

「確かに強敵を打倒したとき、ふいに全身に力が漲り、強くなったと感じる瞬間がありますが、まさかそれが・・・・・・?」

「戦士でない私には分からんが、お前たちがそう感じるのであればそうなのだろう。これはまさに神の知恵ともいうべきものではないだろうか。これが本当であるならば命とは資源と見なすべきものになる」

「命が資源?」

 

 聞くものが聞けば非常に危険な言葉だ。もし神殿勢力が聞いていたらただでは済まないだろう。だが、ジルクニフはいるかいないか分からない神などより現実の知恵を是とする。

 

「まず、死刑囚たちの処刑はこれまで執行官が行っていたが、これは資源の無駄遣いと言えるだろう。死刑執行は特定の一人で行い、けいけんちなるものを得るべきだと考える。だが、命は有限だ。そう殺してばかりはいられない」

「どうするのですか?」

「そこで、じいの研究だ。アンデッドの自然発生の研究をしていたな。それをうち進めるのだ。無限にアンデッドを生み出すことに成功すれば、それを倒し続けることで人は無限に強くなれるのではないだろうか」

「おお!さすがは陛下。じいは感服いたしますぞ。かつて死の螺旋なる無限にアンデッドを発生させる儀式があったと聞きます。カッツェ平原で実験を行いましょう。巨大な穴を掘り、そこに死体やアンデッドを大量に入れることにより自然発生や強大なアンデッドの発生も見込めます。そしてその無限に続く至高への道を進む役にぜひ私を・・・・・・」

 

 このジルクニフの案こそナザリックのアンデッド自動発生のメカニズムに近いものであったが、知る由もないところ考えつくのはさすが帝国史上最高の頭脳を持つとよばれるだけはあった。

 

「自分と同等以上の相手でないと効率が悪いという。強者たるじいでは効果が薄かろう。他の者で実験せよ。その上で倒せないほどの強大なアンデッドが出現した場合ははじいにまかせる形でいいだろう」

「そうですな。では、私の高弟から見繕いますかな」

「次に3つ目だ。ペロロンチーノはエルフの奴隷を大量に買っていったらしい。これはエルフに同情した、または救うために動いたと見ているがどうだ?」

「そのようですね。その証拠に購入したエルフの耳を強大な回復魔法で癒しております」

「法国の圧力がある以上、奴隷制を廃止などできないが、やつとの交渉には使えるだろう。エルフの待遇改善を条件などな。まぁこれは相手次第だ」

「そして4つ目だが・・・・・・。レイナース。れおたーどなる服が出来上がったのだが・・・・・・」

「それですが、陛下。私はこれ以上あの御方を欺くようなことはしたくありません」

「なん・・・・・・だと?」

 

 レイナースは一直線にジルクニフの目を見つめ、ジルクニフが顔を顰める。

 

「あの御方に恩を受けておきながらちゃんとした礼も述べておりません。私は本当のありのままの自分であの方と向かい合いたいと思います」

「まぁ、待て。本当の自分が奴に拒絶されたらどうするのだ。ここは奴の好みに合わせて・・・・・・」

「偽りの自分を見せて気に入っていただいてもそれでは意味がありません。例え拒絶されようと気持ちだけは伝えたく思います」

「そう急ぐことも・・・・・・」

「いえ、陛下。私の気持ちは決まっております。ご安心ください。この場のことをあの御方に漏らすようなことは致しません。ただ、私は私のこの気持ちに従います。それでは失礼」

 

 そう言って、レイナースは去っていった。ジルクニフは己の手に残った衣装を見つめる。金、同情、友情あらゆる手を使って懐柔する気ではいるが、やはり欲や愛によって縛るのが望ましい。そして、ふと思いだす。ペロロンチーノが言っていた男の娘・・・・・・という属性について。

 

「ニンブル。お前なかなか綺麗な顔立ちをしているな」

「え?え?突然何を言われるのですか。陛下」

「おまえならば女装しても行けそうだな・・・・・・どうだ?」

 

 そう言ってれおたーどを差し出すジルクニフ。

 

「いやいやいやいや、どうだじゃないですよ!勘弁してくださいよ陛下」

「それならば私が・・・・・・」

「じい、お前の幻術は見破られただろう」

「そうでしたな。くぅ・・・・・・無念ですわい。あの御方の御傍に仕えて深淵を覗きたいと思っておりましたのに」

「そう言うわけだ。頼むぞ、ニンブル」

 

 この皇帝も帝国最強の魔法詠唱者もだめだ。帝国の未来は終わった。ニンブルはそう思い、バジウッドが倒れた理由がやっとわかった気がした。 

 

 

 

 

 

 

―――歌う林檎亭

 

「仕事をしようと思います」

「わらわのせいでありんすね・・・・・・。ペロロンチーノ様、もう・・・・・・もうわらわはこの身を売ってでも借金を・・・・・・」

「何を言ってるんだ。シャルティア、お前にそんなことをさせられるわけないだろう」

「ペロロンチーノ様・・・・・・」

 

 そう言ってわざとらしく抱き合う二人。アウラはそんな二人を冷めた目で見つめる。

 

「あのペロロンチーノ様、シャルティアをそんなに甘やかさないでください。そんなだからいつまでもこの子は馬鹿なんですよ」

「あれは女学生の下着に夢中になってた俺の責任でもあるからなぁ・・・・・・」

「ええ!あの時そんなものが見えてたでありんすか!?魔法に夢中で気づいてなかったでありんす」

 

 両腕をパタパタさせて悔しがるシャルティア。そのシャルティアの肩に手を置き、まるで彼女を導く指導者のようにペロロンチーノが語り掛ける。

 

「まだまだ甘いなシャルティア。もっと広い視野で世の中を見るんだ。思考を回転させるんだぞ」

「ペロロンチーノ様。良いこと言ってるようですが、それ駄目なやつだと思います」

「そんなことないでありんす!ペロロンチーノ様は正しいでありんす!」

「そう言うことで仕事をします。すっかり忘れてたけど俺たちは冒険者だったので冒険に出かけます」

「デミウルゴスにもらったお金はどうしたんですか?」

「エルフを買うのに使いすぎた」

「じゃあもっとナザリックから持ってくればいいですよ。まだまだありましたよ」

「人の物を期待するのもな・・・・・・やっぱエロゲは自分で買ってこそだからな」

「そうでありんすよ。まったくアウラは分かってないでありんすね」

 

 当然、シャルティアは意味が分かってない。

 

「でも冒険者かぁ。そういえばあたし冒険者の仕事ってしたことないです」

「ふふん、わらわが、先生のわらわが教えてやるでありんすよ」

「あんた教師クビになったじゃん」

「あれは・・・・・・あれは・・・・・・」

 

 何か言い訳をが探そうとしているようだが、シャルティアにはまったく見つからないようで目がぐるぐる回っていた。可哀そうになったアウラは話題を変えてあげる。

 

「ところでペロロンチーノ様。その顔の呪いの傷いつまでそうしておくんですか?」

「ああ、これ。もう呪いはとっくに解除されてるんだけど傷があるように擬態しているんだ。フラグのために」

「フラグ?ああデミウルゴスが言ってたやつですか」

「うまく立てばいいんだけどな。さて、ということで、アウラとシャルティアは冒険者組合で依頼を受けてきてくれ。俺はジルさんに謝ってくる。身を切る思いだが、俺に策が・・・・・・ある!」

「わかりました!報酬の多いの選んできますね」

「さて、この料理の美味しい宿屋ともお別れかな。行くか」

 

 金がない以上、これ以上宿屋に泊まって散財するわけにもいかない。維持する指輪(リング・オブ・サステナンス)をつけながら、名残惜しそうに歌う林檎亭を後にするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

―――帝都 郊外

 

 

「この度はうちの子が大変なことをしでかしてしまいまして・・・・・・すんませんでした!!」

 

 DO・GE・ZAである。最大級の謝罪の姿勢、そしてここまでするんだから許してという気持ちを込めた姿勢である。ジルクニフは目を丸くするが、すぐに助け起こす。

 

「頭をあげてくれ。ペロロンチーノさん」

「しかし、仕事を紹介してもらったのにその仕事先を壊してしまって・・・・・・」

「大丈夫ですよ。私のほうで費用は建て替えておきましたから。それに建物の被害だけで怪我人はゼロですから。人さえいればどこでも学校は再開できます」

「そう言っていただけるとありがたいですが、弁償はさせていただきます。あの・・・・・・これが俺の持っている全額で・・・・・・」

 

 そう言って机に置かれたお金はジルクニフが想像していたよりかなりの多い金額だ。魔法学院の再建の頭金には十分足りるほどである。それでもすべての弁償費用には足らないが。

 

「そしてこれを・・・・・・ぐぎぎ・・・・・・これを・・・・・・売って・・・・・・」

 

 そう言ってペロロンチーノが1冊の本を差し出す。目に涙を浮かべ、その手は震えていた。よほど価値のある本なのだろう。魔法学院の建物に匹敵するだけの書物・・・・・・魔導書か技術書か、ジルクニフはそれから得られる国益を考えながらそのページを開いた。

 

「これ・・・・・・は」

 

 そこには先日ジルクニフが作ったメイドの本に似ていたが、そこに写っているのはモンスターであった。すべて女性系のモンスターで扇情的な格好の悪魔や、半人半獣で上半身が裸のもの、妖精や人魚など艶めかしいが大切な部分は微妙に隠されている。これはモンスターの生態の研究資料としては価値があるだろうが、ペロロンチーノはそのようなつもりで集めたのではないだろう。エロ系モンスターを集めたペロロンチーノ秘蔵の品であった。これが魔法学院に匹敵するだけの価値があるのだろうと思っているのだと考えるとジルクニフは引きつった苦笑いが出そうになるが懸命にこらえる。

 

「だめだよ。これはもらえないよペロロンチーノさん。これは君が持っていてこそ価値がある」

「ジルクニフさん!」

 

 ペロロンチーノは同志の手を掴む。やはり同じくエロを嗜むものとして分かってもらえた。万感の思いであった。

 

「お金はある時払いの催促なしでいいから。ちょっとずつでいいから返してくれれば」

「それじゃさすがに悪いですよ。何か代わりになるものと思ってこれを持ってきたんですが・・・・・・」

「別の物ではどうだい?例えば商人から君がエルフを買い占めたという話を聞いたんだが、それを売るというのは?」

「すみません。彼女たちはもう別の場所に移して保護しているんです。そう言うわけには行きません」

 

(この短期間に帝国から連れ出した?どうやって?検問からそのような報告もないということは・・・・・・転移か?彼らほどの力があれば他者を転移させる魔法が使えてもおかしくはない・・・・・・)

 

「気を悪くしたならすまない。そういう方法もあると言っただけだ」

「分かっています。じゃあ、他に何か俺に出来ることがあれば言ってくれますか?」

 

 その言葉を待っていた。先ほどのモンスターの本は度肝を抜かれたが、流れはジルクニフの思う通りに進んでいる。

 

「では・・・・・・こういのはどうかな。ペロロンチーノさんは冒険者。私が依頼をお願いするので、その依頼を請けることで弁償費用に充てるっというのは」

「それでしたら喜んで。それでどういう依頼ですか?」

「実は・・・・・・」

 

 ジルクニフは王国の村民が殺されていること、それを帝国兵に偽装した者が行い、帝国へ罪を擦り付けていること。そしてその犯人を突き止めて欲しいことなどを依頼する。

 

「そういえば、前に王国でそんな連中見ました。あれが・・・・・・」

「知ってるのかい!?」

「ええ、ではその周辺を調査するということでいいでしょうか」

「ああ、ぜひお願いするよ。これは王国の人々のためでも、我々の名誉のためでもあるんだ。頼めるかい?」

「同志の頼みです。お任せください!」

 

 チョロい。魔法学院では失敗したが、うまく操れそうだ。部屋から出ていくペロロンチーノを見ながらジルクニフはほくそ笑みを隠し切れなくなるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――街道

 

 ジルから依頼を受けた帰り道、ペロロンチーノは女性の声で呼び止められた。男だったら無視してもいいが、女だったらまずは顔を見るしかない。振り向くと騎士の恰好をした女性。顔には見覚えがある。以前二度ほどぶつかってきたことがあるエロいお姉さんだった。

 

「突然失礼します。私の名はレイナース・ロックブルズと申します。先日は、大変お見苦しいところをお見せして申し訳ございませんでした」

 

 そう言って、深々と頭を下げるレイナース。以前がとんでもない恰好をしていたので、女騎士の凛々しい姿とのギャップが映えている。

 

「いえ、気にしないでください。見苦しいどころか、無理して恥ずかしがってるところがとても可愛らしかったですよ」

 

(か・・・・・・可愛い!?私が!?可愛いイコール好き。好きイコール愛している。これは結婚しようって言うこと!?)

 

 恋愛経験0のレイナースの頭は混乱のあまりおかしな計算式から混沌の答えを導き出す。

 

「いきなりすぎます!まだ早いです!で、でもその前に呪いを解いていただいたお礼を言っておりません。あの・・・・・・ありがとうございました!」

 

 深々と頭を下げるレイナース。これについてはいくら感謝してもしたりない。しかもその呪いは彼に移ってしまっているのだ。

 

「あの・・・・・・それであなたに移ってしまった呪いは大丈夫なのでしょうか?私のせいで苦しんでいるのでしたら・・・・・・」

 

 そう言ってペロロンチーノの顔に手を触れる。じっと物憂げに見つめてくる綺麗な青い目に今度は恋愛経験0のペロロンチーノが戸惑う。

 

(近い近い近い!ちょっ、やめて!そんな澄んだ瞳で見ないで!俺の醜い心を見ないで!)

 

 フラグを立てるために呪いを顔に残している自分が酷くちっぽけで醜く見えてくる。そんな自分に本気で感謝し、そしてペロロンチーノを心配して心を痛めている彼女とエロのために突き進む自分。心が痛い。

 

「だ、大丈夫ですから。このくらいすぐ治りますから」

「すごく感謝してるんです。私はモンスターからその呪いを受けて・・・・・・家を追放され・・・・・・誰もから奇異なものを見る目で見られて・・・・・・ぐすっ・・・・・・もうずっとそうだと諦めてたのにあなたが・・・・・・救ってくれたんです・・・・・・」

 

 レイナースの瞳から涙がこぼれ落ちる。つい言わなくて良いことまで言ってしまったが、レイナースは自分でも何を言っているのかもう分からない。

 

「だから・・・・・・いくら感謝してもしたりません。あなたのために何でもしてあげたいんです」

「ん?今何でもっていったよね」

 

 条件反射でテンプレを返してしまったペロロンチーノ。下種の上に下種を重ねる自分の行動に罪悪感が心の中で暴れまわる。

 

「はい!あなたのためならば!どんなことでも致します。何でも言ってください」

 

 真面目に返されてペロロンチーノは頭を悩ませる。これはどうすればいいのか。欲望のまま希望を言っていいのか悪いのか。これは感謝なのかそれ以上もオッケーなのか。恋愛経験0のペロロンチーノには判断できない。しかし、それはレイナースも同じで頭が沸騰してさらにおかしなことを言いだす。

 

「だから・・・・・・その・・・・・・私の部屋に来ませんか?」

 

(わ、わわ私は何を言ってるんだ。やっぱり陛下の知恵を借りないと私一人ではだめなの?これで来ますって言われたら私は・・・・・・。で、でも来てくれたらこの身を差し出しても・・・・・・キャー!)

 

(これはオッケーと言うことなのか?ここで行きますと言えばいいのか。エロゲだったらどうだったか。いやいやここはフラグを信じて・・・・・・いや、死亡フラグと言うこともある。どうする、どうする俺)

 

 恋愛経験のない同士で内心悶絶して見つめ会っている二人であったが、ペロロンチーノの心が先に折れた、ポッキリと。

 

「えーっと・・・・・・えーっと・・・・・・仕事があるんでまた今度!!今度お邪魔します!」

 

 そして、ペロロンチーノ(ヘタレ)は問題の先送りして走って逃げるのであった。

 

 

 

 

―――こうして、ペロロンチーノはジルクニフの依頼を受けることになるが、シャルティアとアウラが向かった冒険者組合では、(シルバー)クラスで一番報酬の高い仕事、すなわち未知の遺跡への探索隊護衛及び荷物運びを受けてきていた。

 ダブルブッキングとなったペロロンチーノはチームを二つに分けることとする。ペロロンチーノとシャルティアはトブの大森林周辺の調査へ、アウラは護衛と荷物持ち。このチーム分けがその後の彼らの運命を変えることになるのであった。


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