ペロロンチーノの冒険   作:kirishima13

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第22話 緊縛モノのエロゲは着衣のままで

―――聖王国 城門

 

 聖王国、リ・エスティーゼ王国の南西にあるこの国は、陸に面した北部と海に面した南部に分けられる。とりわけ陸に面した土地では高さ10mを超える強固な壁で囲まれているのが特徴である。国土の陸部全てを囲んだこの壁こそが、この100年国を守り続けているのである。そんな門壁の上部に聖騎士と思われる人間たちが散見された。

 

 聖王国に着いたペロロンチーノ達は壁を下から見上げる。今回は供としてシャルティア、デミウルゴス、アウラに加えてアルベドが付いてきていた。本来であればアルベドはナザリックの防衛に残しておきたいところであったが、モモンガがいるかもしれないと聞いて無理について来たのだ。

 

「ここが聖王国か」

「はっ、ペロロンチーノ様。ネイア・バラハなる者はここの聖騎士団に属しているとのことです」

「モモンガ様は!?モモンガ様はどこなの?モモンガ様ー!あなたのアルベドでございますよー!」

「アルベドちょっと落ち着くでありんすよ。必死すぎてなんか怖いでありんす」

「もうすぐモモンガ様にお会いできるかもしれないのよ、落ち着いてなんていられないわ!」

「アウラ、あの城壁にいる兵たちのレベルは分かるか?」

「はい、えっと・・・・・・およそ50から60レベルですね」

「我々には及ばすとも周辺国に比べてはるかに強いですね。いかがなさいますかペロロンチーノ様」

 

 ペロロンチーノは考える。もしこの国にモモンガさんがいるのであれば、快く迎え入れてくれることだろう。そのため、敵対することはないだろうと踏み、対話から試みる。

 

「まずは友好的に話をしてみよう」

 

 ペロロンチーノ達が門に近づくと門の上から大声で怒鳴られる。

 

「止まれ!何者だ!亜人に・・・・・・悪魔!?なんだおまえたちは!?」

 

 モモンガがいるのであれば人間の振りをしておくメリットは何もない。ペロロンチーノ達はありのままの姿で門の前に立っていた。それを見て聖王国の騎士たちは警戒を強める。

 

「はじめまして。俺はペロロンチーノと言います。この国にいるかもしれないモモンガさんと言う人に会いたくて来ました」

「モモンガ?」

 

 モモンガ?モモンガってなんだ?そんな声が壁の上で飛び交っている。そして返事が返ってきた。

 

「そのようなものは知らない!」

「ではネイア・バラハと言う方は?」

 

 その名前には聞き覚えがあるらしく、騎士が後ろを振り返る。だがいかにも怪しい集団に答えてよいかどうか迷っているようであった。しかし、しばらくすると後方から一人の女性が姿を現す。

 

「私に何か御用ですか?」

 

 それはブロンドの髪に整った顔立ちをしているが一つ欠点のある少女であった。そう、目つきが凶悪なまでに鋭いのだ。さらにその下にクマが出来ており、狂眼と呼ぶのがふさわしい。しかし、その装備は見事なもので特に弓は神聖な雰囲気を醸し出している。彼女が目的の人物と判断してペロロンチーノが話しかける。

 

「あなたがネイア・バラハさん?」

「そうですがあなたたちは?」

「この国にモモンガという方はいませんか?もしかしたらアインズ・ウール・ゴウンと言う名前かもしれませんが」

「モモンガという人はしりませんが、アインズ・ウール・ゴウン様はこの国の・・・・・・いえ、この世界唯一の神です」

「神?モモンガさんが?」

「そうです、あの方こそ正義の御方。まさに至高の御方です」

 

 ネイアはうっとりと上空を見つめる、まるで天にいるその神を崇拝するように。

 

「俺はモモンガ・・・・・・いや、アインズ・ウール・ゴウンさんの友人なんですが会うことはできませんか?」

「あなたが?」

 

 ネイアは訝し気にペロロンチーノを見つめる。狂眼から放たれるそれは視線だけで相手を殺せそうだ。

 

「ええ、俺はナザリック地下大墳墓からきましたペロロンチーノと言います。モモンガさんにそう伝えてもらえませんか?」

「ナザリック!!?」

 

 ネイアは驚きに凶悪な目がさらに悪く見える。その反応にペロロンチーノ達は確信する、ネイアは確実にモモンガのことを知っていると。

 

「やっぱりナザリックを知っている?モモンガさんはここにいるんですね?」

「違う!ナザリックなど、そんな名は知りません!」

 

 ネイアは頑なに否定する、まるで何かを恐れるように。しかし、その反応に後ろに控えていたアルベドがついに我慢を出来ず口を出す。

 

「嘘ね・・・・・・。ねぇ、ネイアとか言ったかしら。モモンガ様・・・・・・アインズ・ウール・ゴウン様は私の大切な大切な、ちょー超絶魅力値が降り切れてる素敵な素敵な・・・・・・私の愛して愛してやまない方なの。返していただけないかしら?」

「返す!?今までアインズ様をさんざん放っておいて!?アインズ様は私たちの神!そう!私たちのものです!あなたたちなど知らない!」

「モモンガ様が・・・・・・あなたたちのもの?」

 

 ネイアの言葉にアルベドの笑顔が引きつり、その背後から見えないどす黒いものが漂いだすのを幻視する。しかし、引くわけにはいかない。

 

「ええ、アインズ様はこの国を愛し、我々もアインズ様を愛しています。あなたたちにアインズ様を渡すようなことはありません!」

「モモンガ様を・・・・・・愛しているだと!この小娘が!モモンガ様は私の!私だけの愛する方!いつまでそんな高いところにいるつもり?降りてきなさい!」

 

 許せない言葉。モモンガから愛することを許されたのはアルベドのみのはずである。その「愛」という言葉にアルベドは我を忘れる。世界級(ワールド)アイテム、真なる無(ギンヌンガガプ)、対物体最強とされるその武器で迷うことなくネイアの足場としている擁壁を攻撃する。しかし、その結果は擁壁の一部のみが崩れるといったありきたりのモノで終わった。

 そして、その壁の中から異形が現れる。

 

 

 

――――デスナイト

 

 

 

 どんな攻撃をも一撃だけHP1で耐えるというアンデッドモンスターだ。そう、これが評議国の竜王たちによる襲撃をも防ぎ切った秘密だ。

 

「まさか!?この壁すべてが!?」

「やられたデスナイト!下がりなさい!あなたたちは聖王国に!アインズ・ウール・ゴウン様に敵対するということでいいですね!?」

「くぅ!」

 

 攻撃を受けたデスナイトは下げられ、負のエネルギーを注がれ回復されている。他の擁壁を守っていた騎士たちも城門の上に集まってきていた。その中でネイアは左手を天に掲げる。その薬指には赤い宝石の指輪が輝いていた。それを見せつけるようにネイアが声高々に叫ぶ。

 

「アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ!」

「「「アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ!」」」

 

 ネイアに続いて聖騎士たちがその誓いを唱和する。そして彼らの体が、いやその体から発せられる雰囲気が一回り大きくなったように感じた。

 その唱和に呼応するようにアウラが驚きの声を上げる。

 

「ペロロンチーノ様!?あいつらのレベルが跳ね上がりました!およそ70~80レベル!」

「使役系の能力!?それとも指揮系統か!?」

 

 驚くペロロンチーノ達にネイアはさらなる追撃を加えべく、声高々に命令を下す。

 

「アインズ・ウール・ゴウン様の名のもとにひれ伏しなさい!」

 

 ネイアが大きく手のひらで空間を押さえつけるように振るう。その瞬間、アルベドが地に伏せた。他の守護者たちも顔を歪めている。

 

「ぐぅ!」

「アルベド!?これは・・・・・・支配の呪言!?いや、特定条件下による洗脳?支配能力?アルベドが特に影響を受けていることを考えると・・・・・・」

 

 デミウルゴスがその明晰な頭脳で答えを導こうと現状を分析する。

 

「特定の信仰、この場合はモモンガ様への信仰ですか、それを持つものに影響が?くっ、油断すると私までも膝を屈してしまいそうです」

 

 ひれ伏すアルベドに戸惑うデミウルゴス。しかし、戸惑っているのは力を振るったネイア自信も同じであった。ネイアの職業(クラス)伝道者(エヴァンジェリスト)による効果はモモンガを信仰する者に特に強く現れる。

 

「なぜあなたたちが・・・・・・まさか本物!?」

 

 明らかに異常な自分たちの状態にアウラは特殊技能(スキル)により自分たちのステータスチェックも行う。

 

「デミウルゴス!あたしたちの能力値も下げられてるよ」

「不味いですね。彼女を何とかしなくては・・・・・・ですが、モモンガ様を崇拝する我々にとって彼女はまさに天敵・・・・・・いかがいたしますか?ペロロンチーノ様?」

 

 デミウルゴスがペロロンチーノの指示を仰ごうとして振り返った時、そこにはすでにその姿はいない。聖王国の聖騎士たちも一人足りないことに気づき周りを探すが見つからない。

 それぞれが戸惑っている中、太陽から一直線に降りる影、ペロロンチーノ。そう、ペロロンチーノは太陽の光の中にいたのだ。急降下勢いそのままにネイアの体を攫って壁の下に降り立った。その一瞬の出来事に双方が瞠目する。

 

「なっ・・・・・・あなたは影響を受けていない!?アインズ・ウール・ゴウン様を信仰していない?」

「モモンガさんと俺は友達だから信仰とかそういうのはないかな。シャルティア!」

「了解でありんす。転移門(ゲート)

 

 以心伝心、ペロロンチーノの命令と同時にシャルティアの《転移門(ゲート)》が開く。ペロロンチーノはネイアを連れての撤退を迷わず選択する。戦いに勝つことが目的ではなく情報こそが必要と判断したからだ。

 

「みんな!私のことは構わないでください!私に何があろうと門を開けないように!ちょっ、どこ触ってるんですか!?」

 

 ペロロンチーノに抱えられどさくさに紛れて色々と触られながらネイアの叫びを残して転移門(ゲート)は閉じた。

 

 

 

 

 

 

―――ナザリック地下大墳墓 第五階層 拷問部屋

 

 

 ネイアはナザリックに連れ込まれ、尋問を受けることになった。尋問官はペロロンチーノ、そしてシャルティアの二人だけだ。他のナザリックの者達はネイアに操られる危険があるためここにはいない。この部屋の主人、ニューロリストも含めてだ。特にアルベドは怒りのあまり殺してしまうかもしれないとの判断もあるが、その代わりネイアから剥いだ装備の鑑定を任せている。

 

「んーーー!むーーー!」

「シャルティア、なんでボール咥えさせてるんだ?」

「こうしておかないとすぐ舌を噛んで死のうとしんす」

「なるほど、それで・・・・・・なんで縄で全身を縛ってるんだ?」

 

 ネイアは口にボールギャグを咥えさせられ、服の上から縄で亀甲縛りと言われる縛られ方をしていた。第五階層の氷結牢獄にいるとあって、気温が低く、ネイアの息が白い湯気となってボールから立ち上っている。

 

「ボールと縄はセットかなと思いんした。いけませんでしたでありんすか?」

「なるほど・・・・・・シャルティア。おまえの考えはすべて正しい。なんか縛りって胸の小さめの女の子のほうがエロいよね・・・・・・。しかもジト目の子と来たらこれしかない」

「まさにペロロンチーノ様のおっしゃるとおりでありんす!」

 

 二人はサムズアップでお互いの趣味が完全に一致していることを再確認する。ネイアはそんな二人に何をされるのかと寒気を感じ暴れまくるが、縄がさらに深く服に食い込み体のラインをさらに浮き立たせる。

 

「んーーー!んーーー!」

「さて、ネイアさんだったね。まずは改めまして。俺はペロロンチーノといいます。モモンガさん、君たちの言うアインズさんの友達です」

 

 友達・・・・・・その言葉を信じていいものか、ネイアの目に警戒の色が浮かぶ。

 

「それから君を連れてきたのは話を聞いて欲しいからです。傷つけたり殺したりするつもりはないので安心してください」

「でも多少のセクハラはするかもしれないでありんすよ」

「それは否定しない」

(否定しないんだ)

 

 ネイアは連れて来られるとき体をどさくさに紛れて弄られたことを思い出して顔を赤らめる。

 

「さて、君が布教してたと思われる書物でナザリックのことが書かれていたけど、ここがそのナザリックです。もし君がナザリックについてモモンガさんに詳しく聞いてたら本当だと分かるんじゃないかな?」

 

 ネイアはここまで連れて来られた時に見たものを思い出す。墳墓、地底湖、氷河、ネイア達の神が話してくれたナザリックと一致している。彼らは神の居た土地の住人に違いないのだろう。

 

「君と話がしたいからボールを外そうと思うんだけど、舌を噛んだりしない?」

 

 突き付けられた事実、それを認めるしかないネイアは頷く。ペロロンチーノがボールを外すとネイアは少しむせたあと言葉を紡いだ。

 

「ここがナザリックだと言うことは納得しました。ですがアインズ様を渡すことはできません」

 

 ネイアは語る。アインズより聞かされた約100年前よりの出来事を。

 

 ネイアによると100年前この地に現れたアインズはナザリックを探そうと躍起になっていたらしい。しかし、仲間(かぞく)ナザリック(いえ)も見つからず、聖王国に行きついたということだ。そしてその地で力と知恵を授けて神とあがめられるようになった。特にアンデッドの自然発生を用いて作ったシステムが優秀であり、自然発生したアンデッドを襲われる心配なく倒せる仕組みを開発した。それを使い、かつての聖王国の民たちは急速にレベルを上げていったとのことだ。そしてそれからは血の混じりも加わり、聖王国民全体のレベルが底上げされることになる。

 さらに死んだ後も国のために働きたいと望んだ高レベルの民たちはアインズの上位アンデッド作成に耐えられるまでのレベルになり、死した後も聖王国を守るため働いているとのことであった。

 

 ネイアの話を聞いていたペロロンチーノとシャルティアは驚きを隠せない。モモンガがこの地に来たのが、100年も前のことであったこと。そしてその後行ったことの数々に。しかしシャルティアとペロロンチーノではその驚きの種類は違っていた。

 

「さすが・・・・・・さすがモモンガ様でありんすね」

「いやいや、やりすぎでしょ。何なのあの要塞国家。デスナイトの壁で国を囲うとかナザリックより攻めづらそうなんだけど」

 

 ネイアはさらに語る。その後、モモンガの力を利用しようとする勢力から仲間を騙った誘いが続いたらしい。何度も期待をさせられ、そして裏切られ・・・・・・それでモモンガはついに諦め、外の世界との交流を一切遮断したとのことであった。

 

「アインズ様は私たちの正義であり、希望なんです!私たちから取り上げないでください!お願いします」

 

 ネイアは床に頭をこすりつける。その姿はペロロンチーノの心を動かすに値する者であった。

 

「分かった、無理やり取り上げたりはしない。でもモモンガさん・・・・・・アインズさんが会いたいって言ったら?それでも君は反対する?」

「それは・・・・・・」

「もしアインズさんが会いたいって言ったらせめて一目会わせてくれないかな。無理やり攫ったりするようなことはしないから」

「・・・・・・分かり・・・・・・ました。聞いてみます」

 

 語り掛けるように紡いだペロロンチーノの心からの言葉にネイアも折れた。そして確信する。この人こそ神の言っていたかつての仲間なんだと。

 

 そしてネイアは聖王国へ帰されることとなった。

 

 

 

 

 

 

―――ナザリック地下大墳墓 第六階層

 

 ネイアを帰したペロロンチーノは第六階層の大森林にいた。ネイアからの連絡を待つしかないが、それでよかったのか。モモンガは自分に会いたいと本当に言ってくれるか。一人で少し考えたくなったのだ。珍しく真剣な顔をしているペロロンチーノに予期しない人物から声がかかる。

 

「むむ、そこにいるのはペロロンチーノ殿でござるか?」

 

 それはトブの大森林で成り行き上連れてきたハムスケであった。

 

「あ、えーっとなんだっけ。ハム太郎だっけ?」

「某の名はハムスケでござるよ!」

「相変わらず酷い名前だなぁ、ハハ」

「某の名は殿に着けてもらった大切な名でござる。馬鹿にしないでほしいでござるよ」

「ごめんごめん。あ、そういえばお前は別にここに居てもらわなくてもいいんだった。帰そうか?」

「忘れてたでござるか!?酷いでござる!でもまぁ・・・・・・ここは食べ物もおいしいでござるし餌をとる必要もないでござるからもうしばらくいてもいいでござるが・・・・・・」

「・・・・・・何て言うか、本能のまま生きてて幸せそうだな」

「・・・・・・ペロロンチーノ殿だけには言われたくないでござるよ。ところでペロロンチーノ殿。そろそろ某の指輪を返してくれないでござるか?」

 

 指輪と言われてペロロンチーノの頭にはクエスチョンマークが付く。

 

「指輪?なんだっけそれ」

「森でペロロンチーノ殿が某から取った指輪でござるよ!」

「そんなのあったっけ?」

「忘れるなんて酷いでござる」

 

 ハムスケは腹を見せて手足をジタバタさせて抗議をしている。思わず腹を撫でてみたくなるが、ぐっと我慢してペロロンチーノはアイテムボックスを探る。すると一つの赤い宝石をはめた指輪が出てきた。

 

「あった・・・・・・これか?こんなの取ったっけ?」

「それでござる!」

「ああ、そうか。トブの大森林で・・・・・・つい手に取ってそのまま精神支配されたから・・・・・・。あの時どこかで見た指輪だなって思ったんだよな・・・・・・」

 

 ペロロンチーノはその指輪をじっと見つめる。なんだか懐かしいような楽しいようなそんな気分になってくる。そしてペロロンチーノの記憶がつながる。

 

「これ・・・・・・ギルドの指輪(リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン)じゃないか!」

「なんでペロロンチーノ殿が殿の名前を知っているでござるか?」

 

 不思議そうな顔をするハムスケにペロロンチーノは驚く。

 

「おまっ、殿ってモモンガさん、アインズ・ウール・ゴウンのことだったのか!?」

「言ってなかったでござるかなぁ」

「でもこれがあれば宝物殿に入れる!ハムスケ、もうちょっとこれ貸してくれ」

「あ、ちょっと!ペロロンチーノ殿!某はいつ森に帰れるでござるかー!」

 

 ハムスケの叫びを無視して、ペロロンチーノは指輪の効果を発動させた。

 

 

 

 

 

 

―――ナザリック地下大墳墓 宝物殿

 

 ペロロンチーノは一瞬にして第六階層から宝物殿に転送を完了した。その事実に指輪をじっと見つめる。

 

「転移成功!これは本物か・・・・・・。ということはハムスケの言っていたことはすべて本当と言うこと・・・・・・」

 

 この指輪を持っていたのはギルドメンバーの誰かであることは確実だ。そしてそれは恐らくモモンガさんなのだろう。様々なことを考えながらペロロンチーノは宝物殿を進む。するとそこに見慣れた姿が現れた。

 

「モモンガさん!?」

 

 会っていない時間は長くともギルドで仲良くしていた親友のアバターを忘れることなどない。ペロロンチーノ前にはモモンガの姿があった。いつも着ていた神器級(ゴッヅ)アイテムではなくシンプルなローブ姿だ。

 

「これはこれはペロロンチーノ様。お久しぶりでございます」

 

 そう言って、モモンガは足をカッと鳴らし揃えると大仰に敬礼を行う。それを見てペロロンチーノは笑う。

 

「ぷっ!はははは、昔のモモンガさんみたいだ」

 

 ペロロンチーノは軍服や中ニ病的な行動を好んでいた頃のモモンガを思い出す。あの時は痛かった。そしてギルドのみんなはそれを生暖かく見守っていたものだ。

 

「おっと、これは失礼いたしました。アルベド様がいつもモモンガ様の声を聞かせろと言っていたものでそのままでした」

 

 そう言ってモモンガの姿が崩れる。その後現れたのは卵頭の埴輪に目と口の穴が開いたような黄色い軍服姿の人物だ。宝物殿の領域守護者、上位二重の影(グレータードッペルゲンガー)であるパンドラズ・アクターだ。あらゆる人物の姿や能力をコピーすることが出来る。

 

「お前は確かモモンガさんが創った・・・・・・」

「いかにも!至高の御方のまとめ役、ナザリック地下大墳墓のずぇったい的主人、ん~~~~~~~ノォモンガ様より創造されました、パンドラズ・アクターでございます」

 

 パンドラズ・アクターは片手を胸に、そして片手を帽子に当てオーバーアクションで自身を紹介する。

 ペロロンチーノはパンドラズ・アクターのどうだ、かっこいいだろう?と言いたげなドヤ顔で見つめられてまた吹き出しそうになる。モモンガさんそっくり。

 

「しかし、ちゃんと整理されてるなぁ、サービス終了するって言うのに。さすがモモンガさん」

 

 周りは金貨の山などが乱雑に積まれているように見えて、その奥には収納スペースに種類ごとに整理整頓されてアイテムが収まっていた。

 

「パンドラズ・アクター。俺の装備ももしかしてあったりする?」

「もちろんです、ペロロンチーノ様。こちらへどうぞ」

 

 案内された先は、ゴーレム像が並んだ通路だ。そこへ入る前にパンドラズアクターより指輪を預けるように言われる。覚えていないが、そのまま入ると襲われる仕組みであると言うことだ。そのゴーレム像を見てペロロンチーノは驚く。ペロロンチーノを始め、他のギルドメンバーたちを模ったゴーレムたち、そのすべてに当時装備していたアイテムが着けられている。

 

「売っちゃってもいいって言ったのに・・・・・・。モモンガさん・・・・・・」

 

 モモンガさんはどんな気持ちでこのゴーレムたちを作ったんだろう。ギルドメンバーが一人辞め、二人辞め、ペロロンチーノも辞めてしまった。しかし、モモンガは一人残り、このゴーレムたちを作りみんなで作り上げたものを残そうとしてきたのだ。ペロロンチーノはそう思うと少し切ない気分になる。そして、ペロロンチーノはかつての自分の最強装備をそのゴーレムから預かることとする。

 

「ちょっとの間返してもらいますよ。モモンガさん」

 

 今はいないこのギルドのリーダーに向かってペロロンチーノはつぶやくと、自分のアイテムを装着した。そしてしばらく装備したアイテムの能力や使い方を確かめているとパンドラズ・アクターが首を傾げてペロロンチーノに問いかけた。

 

「ところで、ペロロンチーノ様。ペロロンチーノ様が来られる前にアルベド様がこちらに来られたのですが、指輪は複数見つかったのですか?今までギルドの指輪は見つかっていないとの報告を受けていたのですが」

「何?」

「おや?先ほどアルベド様が来られまして世界級(ワールド)アイテムをいくつか持って行かれたのですがご存じない?」

 

 ペロロンチーノは急いでアルベドに伝言(メッセージ)を使う。しかし、その伝言がつながることはなかった。


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