ペロロンチーノの冒険   作:kirishima13

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第23話 百合モノのエロゲは男子禁制

―――聖王国上空

 

 アルベドは下方を見つめる。不可視化を行っているが、聖王国の聖騎士たちのレベルであれば看破は可能であろう。そんなことは知っている。しかし、彼女が目指すところは一つしかない。ネイアよりもたらされた情報、モモンガの居る場所こそが彼女の向かう場所だからだ。

 

(・・・・・・モモンガ様)

 

 国境を越えたところで警報の大きな音が響き渡った。しかし、そんなことはお構いなしにアルベドは突き進む。だが、聖王国の聖騎士たちは上から下から飛び交うように攻撃をしてくる。防御スキルでそれを防ぐが、それでもダメージが少しずつ蓄積する。だが、止まるわけには行かない、そして反撃をしている余裕もない。愛しい方の場所が分かったのだ。その場所へ向かい、愛する人に一目会うこと、それ以外はすべて無視して進むのみだ。

 

(・・・・・・モモンガ様・・・・・・モモンガ様)

 

 体力が削られ、特殊技能(スキル)もほぼ使い切った。それでも目的地へ向かって飛び続けるアルベドの意識はもう少しで遠のこうとしていた。すると、あたりと違う雰囲気の建物を発見する。それはアルベドの見慣れた建物、ナザリック地下大墳墓の地上部分だ。一瞬ここがどこなのか混乱するが、アルベドは確信する。これはモモンガ様の作られた場所、そう、ここにモモンガ様がいると。

 

(・・・・・・モモンガ様。今、アルベドが参ります!)

 

 モモンガ様に会いたい。その想いのみでここまで来た。それがついに叶えられる。尽きかけた体力の中、アルベドは世界級(ワールド)アイテムを発動させた。

 

 

 

 

 

 

――ナザリック地下大墳墓 玉座の間

 

 アルベドを除く階層守護者とペロロンチーノが集まっていた。議題となっているのはアルベドの取った行動だ。ネイアの装備を検分した後、アルベドの消息は不明であった。守護者を代表してデミウルゴスが口火を開く。

 

世界級(ワールド)アイテムを持って逃亡するとは。守護者統括にあるまじき行為」

世界級(ワールド)アイテムは至高の御方達が苦労して集めたアイテムでありんす。それを許可もなく持ち出すなんて」

「マッタクダ。許シガタイ」

「それよりさー、不思議だよね?アルベドはギルドの指輪はどこで手に入れたの?あれだけ探してなかったのに」

「そ、それにどこにいっちゃったんでしょう」

 

 アルベドの行動に怒る者、宝物殿に侵入されたことを不思議がる者、行方を心配する者、それぞれの反応の中、デミウルゴスが答える。

 

「それだよ。今までナザリックではギルドの指輪は一つも見つかっておりませんでした。今ペロロンチーノ様がお持ちになっている指輪はまさにギルドの指輪。ハムスケなる魔獣が持っていたものですね。そしてアルベドが手に入れた指輪、これが問題です」

「アルベドが持っていたならもっと早く宝物殿に行ってたはずでありんすね。パンドラズ・アクターにモモンガ様の姿を取らせるために」

「鹵獲したアイテムは宝物殿に入れられないので守護者統括たるアルベドが管理しておりました。ですのでこれまで指輪を持っていたとは思えません。つまり、最後に鹵獲したネイア・バラハが持っていたというのが妥当ではないでしょうか」

 

 デミウルゴスの読みに、ペロロンチーノは頷く。

 

「聖王国のネイアから伝言(メッセージ)が入っている。指輪を返してもらってないと。それから聖王国でアルベドが目撃されたらしい。異常事態が発生しているようで助力を求められている」

「それでペロロンチーノ様いかがなさいましょうか?」

「アルベドの行動は予想できる・・・・・・というかそれしか考えられないけどまず間違いなくモモンガさんのところに飛んで行ったんだろうな」

「まぁ・・・・・・そうですね」

 

 デミウルゴスを始め守護者全員が呆れたようにため息をつく。アルベドの行動は終始一貫している。モモンガに会うことだけでずっと望んでいたのだ。それが分かれば飛んでいかないわけがなかった。

 

「ソレデハナザリック全軍ヲ動員シテアルベドヲ捕縛スルトトモニモモンガ様ヲ助ケ出シマショウ。先兵ハコノコキュートスガ」

「落ち着きたまえ、コキュートス。今ナザリックを手薄にするのは非常に不味い。指輪の話を考えてみたまえ」

「ドウイウウコトダ」

「ハムスケの持っていた指輪、ネイア・バラハの持っていた指輪、これは恐らくモモンガ様が渡したものだろう。だが、その二つだけだとどうして言える?」

 

 デミウルゴスの疑問にペロロンチーノは納得する。

 

「なるほど、他にも指輪を持っている者が聖王国にいる可能性がある。そして彼らはいつでも自由にナザリックのどの階層にでも侵入できるというわけか」

「おっしゃる通りでございます」

「じゃあ聖王国には少人数で行くしかないな。危なそうなら逃げてくる」

「それがよろしいかと。それから世界級アイテムをお持ちください。パンドラズ・アクターの話ですとアルベドの持ち出した世界級アイテムは3つ。そのうちの一つはあの傾城傾国です。こちらも世界級アイテムを所持しているものでないと対処は難しいかと」

「分かった。それからナザリックの警戒強化については、アルベドがいない状態では防御力が心配だな・・・・・・。よし、パンドラズ・アクターを宝物殿から出そう」

「パンドラズ・アクター!アインズ様の創造されたかの者でしたらあらゆる状態での対応力という面では適任ですね。しかし、代わりの宝物殿の守りはどうなさるので?」

「宝物殿か。うーん、誰が適任か・・・・・・」

「現在ギルドの指輪は一つのみ。つまり一人しか宝物殿にはいけません。宝物殿を守れるだけの実力を持っていることが必要でしょう」

 

 デミウルゴスの心配に他の守護者たちも頭を悩ませる。

 

「でもさ、宝物殿に入ったら出られなくなっちゃうじゃない?どうするの?」

「ソウダナ、アウラ。コウイッタ議論ニ特ニ必要ナイ者デナイトナ」

「あと影が薄くて、誰も気にも留めないようなのが良いでありんすねえ」

「ぼ、僕もそう思います」

「うーん・・・・・・」

 

 ペロロンチーノは悩んだ末、一人の人物を思い出した。

 

 

 

 

 

 

―――ナザリック地下大墳墓 宝物殿

 

 宝物殿に一人の人物が立っていた。拳を強く握りしめ俯いて唇を噛んでいる。

 

「ぐぬぬ・・・・・・」

 

 白髪の執事は悔しそうにうめき声をあげた。

 

 

 

 

 

 

―――聖王国 女王の間

 

 聖王国の王城、白で彩られまさに聖王国の象徴とも言える場所へペロロンチーノとシャルティアは招待されていた。迎えるのは聖女王カルカ・ベサーレス。金色に輝く髪は光沢を放ち天使の輪のようであり、非常に愛らしい顔立ちをしている。そしてその両脇に茶色い髪の二人が控えている。顔立ちは似ているが、肩程度までの髪をしているのが聖騎士で姉のレメディオス・カストディオ、腰まで髪を伸ばしているのが魔法詠唱者で妹のケラルトカストディオだ。

 聖王国で発生した異常、それを解決するにはやむを得ずと判断し、ペロロンチーノたちを招き入れた。しかし、100年門を閉ざして門を守り抜いてきた国である。当然それを不快に思う者もいる。レメディオスもその一人であった。

 

「カルカ様、国外の有象無象をこの神の地へ招き入れるなど・・・・・・」

「レメディオス、ちょっと黙ってくれる?まぁまぁ何て可愛らしいお客さまでしょう。シャルティア様とおっしゃったかしら?」

 

 カルカは自分とは対照的な愛らしさのシャルティアを見て顔を輝かせる。金髪のカルカが太陽の輝きだとしたら銀髪のシャルティアは月の輝きといったところか。それを見てレメディオスはカルカの服の裾をクイクイと引っ張る。

 

(カルカ様!カルカ様には私とケラルトという者がおるではないですか・・・・・)

 

 頬を膨らませるレメディオスにカルカは唇に指をあてて黙らせる。

 

「もう、静かにしてて、ね。後で可愛がってあげるから」

「本当ですか!今夜ですか!今夜寝室に行ってもよろしいのですか」

「もう、姉さんばっかりずるいですよ」

 

 カルカはレメディオスに嫉妬したケラルトの唇も指で塞ぐ。

 

「もう、しようのない子達ね」

 

 それを見たシャルティアはペロロンチーノの服の裾をつまみ、クイクイと引っ張って耳打ちする。頷きつつ聞いていたペロロンチーノはカルカに告げる。

 

「あの、うちの子がぜひ3Pに混ざりたいと言って・・・・・・ごめんなさいなんでもありません」

 

 ペロロンチーノはカルカの後ろから4つの恐ろしい視線を受けて発言を撤回する。それを見てシャルティアは再びペロロンチーノの服の裾をつまみ、クイクイと引っ張り耳打ちをした。それを聞いてペロロンチーノは再び頷く。

 

「あの、うちの子がその指で唇塞ぐやつだけでもやりたいって言って・・・・・・いえ、なんでもありません続けてください」

 

 カルカは後ろからの視線には気づかない様子で本題の話を続ける。

 

「さて、ペロロンチーノ様。この国にお越しいただいたのはお願いがあるからです。聖王国の神アインズ・ウール・ゴウンが住まう地が謎の空間に飲み込まれました。アインズ様はその空間を調査しようと入ったきり戻りません。そしてその空間を発生させる直前、あなた方の地でネイアが見た女性が目撃されております。そこで事態の収拾をお願いしたいのです」

「その程度、このような外部の者に頼らずとも私が何とかしてご覧に入れます!」

 

 レメディオスは鼻息も荒くいきり立つ。それを聞きながしカルカは続ける。

 

「中は人が生きられるような空間ではないとのことです。ですが、あなた方ならそれが可能なのでは?」

「そうですね・・・・・・どんな空間か分かりませんが、対策をしてはいれば可能でしょうね。でもどうして俺たちに頼ろうと思ったんです?」

「ネイアがあなた方のことを話しておりました。我々の神を同じく愛する者達であったと。ならば何も言うことはありません」

「もしかしたらモモンガさん・・・・・・あなたたちの神は俺たちを選んでしまうかもしれませんよ?」

「神の選択に誰が異議を唱えられましょうか。ネイアは・・・・・・あの子はちょっとアインズ様に依存しすぎなところがあります。ですが、我々は信じています。神が我々を見捨てることなどないと」

 

 カルカの真摯に向き合う態度にペロロンチーノは頷いた。隣ではシャルティアが分かったように頷いているが、頭の中は目の前の3人との情事について想像を巡らせていた。

 

 

 

 

 

 

 聖騎士たちに案内される中で、ペロロンチーノは驚く。聖王国と言うのは名ばかりなのか、何とアンデッドが町中を闊歩しているのだ。アンデッドの馬が馬車を引き、アンデッドが農作業や土木作業をしているのも見て取れる。そんな中、人々は非常に豊かそうに暮らしており、農作物をたわわに実っている。他国との戦争や異種族との争いを抱えていたこれまで見た国と違い平和そのものである。

 

(ここがモモンガさんの国か・・・・・・すごいなぁ)

 

 ペロロンチーノが感心しているとやがて目的地に着いたようであった。そこには確かに謎の空間との境界が現れている。聖騎士たちは自国民でないペロロンチーノたちに友好的でないにしろ最低限の情報を与えてくれた。聖騎士たちの話によるとアルベドと思われる女が聖騎士たちの攻撃をかいくぐりここで何かを行った結果、謎の空間が現れたと言うことだった。しかし、ペロロンチーノにはこの謎の空間に見覚えがあった。

 

「これは世界級(ワールド)アイテムの効果だな」

「そうなんでありんすか?」

「世界級アイテムの一つの効果と現象が一致している。中はどうなってるか分からないな。シャルティア。準備はいいか?」

「各属性空間などへの対策は万全でありんす」

「よし、じゃあ行くか」

 

 ペロロンチーノとシャルティアは覚悟を決め、空間に触れる。そして内部への侵入を選択した。するとそのとき、この空間の製作者が定めたルールが頭の中に流れ込んでくる。《山河社稷図(さんがしゃしょくず)》、世界級アイテムの一つであるそれは、巨大な隔離空間を作成し、周りの人や建造物を取り込み隔離する。さらに隔離した空間には発動者が望んだエフェクト効果を空間全体に発生させることも可能である。しかし一定条件を満たして脱出されると所有者が移り奪われるというデメリットも存在した。

 

「この脱出条件は・・・・・・アルベドらしいというかなんというか・・・・・・」

「なんて条件を設定するでありんすか!アルベドぉ!モモンガ様に何て条件を!うらやまけしらかんでありんす!」

 

 アルベドに呆れる二人が見たものは、隔離空間のエフェクトとして選択された毒沼地帯であった。そして、その先の建物を見て二人は驚く、そこに在ったもの、それはナザリック地下大墳墓の入り口そのものであった。ユグドラシル時代、毒沼地帯にあったナザリック地下大墳墓、その再現と思われる。しかし、一部だけ異なるところがある。その入り口が完全に閉じられているのだ。ナザリック地下大墳墓はゲームのシステム上最奥部まで1本の線で結ばれていなければならない。もし塞いでしまうようなことがあればシステム(アリアドネ)が発動し、ペナルティーとしてギルド資産が減り続けるのだ。しかし、この世界にはそのような縛りがないからであろう。防衛策として当然のものである。

 

「これは・・・・・・硬いな」

 

 ペロロンチーノはその扉を叩く。魔法金属のようであるが、超高レベルの魔法詠唱者(マジックキャスター)によって創造されたものだろう。厚さも計り知れない。

 

「物質破壊はヘロヘロさんの得意とするところなんだけど・・・・・・」

「ここは、わらわにお任せを」

 

 シャルティアは得意のスポイトランスを全力で振るう。しかし、対物体への攻撃力に優れているわけでなく扉はびくともしなかった。そこでペロロンチーノは思い出す。宝物殿でモモンガにより大切に保管されていた自身の装備を。この装備は一つ一つが神器級(ゴッズ)アイテムであるが、その真価はすべての装備が揃った時に発揮されるものなのだ。

 

「シャルティア、ちょっと離れてろ。せっかくフル装備が手に入ったんだ。試してみよう」

 

 ペロロンチーノの全身鎧、そしてその武器ゲイボウに込められたデータクリスタルすべてが連動して発動する。そうすることで自身が新たな特殊技能(スキル)を発動できるようになったことをペロロンチーノは感じた。そして、ペロロンチーノは秘められた特殊技能(スキル)《太陽堕とし》を敢行する。

 

 

 

 

 

 

 今だ溶解した入口から煙がくすぶっている中をペロロンチーノとシャルティアは墳墓へ踏み込んでいく。中に入った二人はそこでさらに驚きの声を上げる。その内部までもナザリック地下大墳墓にそっくりであったのだ。

 第1~第3階層の墳墓、第四階層の地底湖、第五階層の氷河と降りてゆくが、そのすべてがオリジナルと瓜二つである。しかし、一つだけ違う点、それはその間に誰も存在していないということだ。まるで抜け殻のナザリック。そしてそれを創造しただろう者を想い、ペロロンチーノは心を痛める。

 

(こんな広い拠点に一人だけ・・・・・・モモンガさん・・・・・・)

 

 その後、第六~第八階層も調べてみたが、まるで人の気配がない。そして第九階層、ギルドメンバーたちの部屋が並ぶ場所だ。もしいるとしたら自室の可能性が高いのではないか、そう思い、ペロロンチーノはモモンガの部屋の扉をそっ開ける。

 カギはかかっておらずドアの隙間から中を覗くことが出来た。その高級ホテルのような広い部屋の中、ベッドで蠢く影があった。裸の骨と裸のサキュバスが絡み合っている。正確に言うと裸の骨に裸のサキュバスが絡みついていた。

 

「ハァ!ハァ!モモンガ様!モモンガさまぁ!」

「やめっ・・・・・・ちょっ!そんなことしても俺アンデッドだから!」

「モモンガさまぁ、モモンガさまぁ、モモンガさまぁ!」

「ちょーーー!」

「傾城傾国も効かないなんて!そんなストイックなところも素敵です!モモンガ様ー!」

 

 モモンガの持つ世界級アイテムに阻害され、傾城傾国の効果が発揮しなかったため、アルベドは実力行使に出ていた。なお、山河社稷図もモモンガを取り込めなかったが、モモンガが空間へ入ることを選択したため中に閉じ込められている状態である。

 そしてモモンガの言葉などお構いなしにアルベドが舐めしゃぶり、絡みつき、体をこすりつけている。モモンガが助けを求めるように周りを見渡したその時、モモンガとペロロンチーノの目が合った。

 

「あっ」

「あっ」

 

(うそ!?ペロロンチーノさん!?た、助けてくださーい!)

 

 モモンガは必死で身振り手振りに口パクでペロロンチーノに合図を送る。アルベドはモモンガに絡みつくのに必死で全く気が付く素振りを見せない。

 モモンガの合図に気づいたペロロンチーノは合図の意味を瞬時に理解する。ひとつ頷くと、アイテムボックスより水晶の嵌った魔道具を取り出し、モモンガとアルベドに向けた。

 

(な、なんか知らないけど違う!違います!ペロロンチーノさん!)

 

 必死に助けを乞うジェスチャーをするモモンガ。それを見たペロロンチーノは、ハッとしたように相槌を打ち、サムズアップをする。モモンガの合図の意味が今度こそ理解できたのだ。魔道具をシャルティアに任せて、アイテムボックスを探す。そして取り出した指輪を見てモモンガは思わず声を出す。

 

「ちょっ!それもしかして俺の《流れ星の指輪(シューティングスター)》じゃ・・・・・・」

 

 《流れ星の指輪(シューティングスター)》、それは超位魔法、《星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)》を3度まで経験値消費もなしに発動できるアイテムである。このアイテムを手に入れるためにモモンガはボーナスのすべてをガチャに突っ込んでいた。その効果は、「ランダムな効果を経験値消費量応じて選択できる」というものだったが、この世界ではそれが「望んだ願いを実現する」に変化している。ペロロンチーノはその指輪を手のひらに乗せると、シャルティアの小さな手を取る。手を取られたシャルティアはペロロンチーノを見上げた。

 

「ペロロンチーノ様?」

「一緒にモモンガさんとアルベドの願いをかなえてやろう」

 

 モモンガとアルベドの願いをかなえる、それは二人を認めると言うこと。死体愛好者《ネクロフィリア》であるシャルティアにはつらいことである。

 しかし、シャルティアは考える、自分にはこんなに愛してくれるペロロンチーノがいる。それは至高の幸せである。ならばアルベドも幸せになってもいいのではないか。そう思い、シャルティアは頷いた。ペロロンチーノの手とシャルティアの手の中に指輪が収まる。そしてその手を高々と挙げ、声を張り上げた、まるで天空にある城を崩壊に導く声のように。

 

「「アイ、ウィッシュ!」」

「ペロロンチーノさん!ちょっ!まっ・・・・・・」

「「モモンガさん(様)がアルベドと結ばれますように!」」

 

 ペロロンチーノとシャルティアの言葉にモモンガは瞠目する。アンデッドのアインズがアルベドと結ばれる。その願いの意味はモモンガが人間種になることなのか、それともアソコだけが生身になることなのだろうか。世界級アイテムを持つアインズはその効果を無効にすることもできる。

 しかし、モモンガは考える。人間になるのも悪くないのではないか、と。感情を抑制され、食べることも寝ることも出来ない体にはメリットもデメリットも存在した、それならば・・・・・・。モモンガはペロロンチーノ達の願いを受け入れることを選択する。ボーナスを無駄にしたくないと言う想いと共に。

 しかし、その結果はモモンガの想像と違うものであった。ペロロンチーノの願いにシャルティアの死体愛好者としての想いがのったその結果は・・・・・・。

 

 アルベドがそれに気づき、頬を赤らめる。

 

「まぁ!まぁまぁまぁ!モモンガ様ったらついに・・・・・・ついに!その気になってくださったのね、くふぅーー!」

 

 モモンガの足の大腿骨と大腿骨の間、恥骨の下部にさらに一本骨、モモンガのモモンガが追加されていたのだ。

 

「ペロロンチーノさーん!!」

 

 モモンガの叫びをよそにペロロンチーノとシャルティアが二人でモモンガへ向け親指を立てて笑っている。そしてモモンガの叫びを聞きながらすべてが終わるまでシャルティアは片手で魔道具を掲げ続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 アインズとアルベドが結ばれたことにより、山河社稷図の所有権はモモンガに移り、異空間は閉じることになる。そう、アルベドが設定したこの空間からの脱出の特殊条件『モモンガとアルベドが結ばれること』が達成されたためだ。

 

「モモンガさん!会いたかった!」

 

 通常空間に戻ったことを確認すると、ペロロンチーノが強くモモンガの手を握る。しかしモモンガは喜びと恥ずかしさと混乱とアンデッド特有の精神の鎮静化で複雑な気分であった。感情が高ぶっては鎮静化のエフェクトが発生するのでチカチカと眩しい。

 

「台無しです!何て言うか感動の再会が台無しです!待ってたのに!感動の再会を待ってたのに!」

「ああ懐かしいなぁ、モモンガさんのツッコミ」

「聞いてないし!・・・・・・まぁ、そんなところも変わってなくて嬉しいですけど」

 

 ちなみにアルベドはモモンガと結ばれた喜びに興奮しすぎて失神してしまい、シャルティアがナザリックへ連れ帰っている。ペロロンチーノはモモンガとの再会を喜びながら墳墓の入口へと向かう。

 混乱と鎮静化のループから立ち直ったモモンガはペロロンチーノからこれまでの話を聞くことにした。そして他のギルドメンバーはいないことを知るとモモンガは少し寂しそうな顔をしたが、ナザリックがこの地に現れたことを素直に喜んでいた。

 

 

 

◆ 

 

 

 

 二人が聖王国の墳墓から外に出るとそこには異常事態の収束を確認した聖騎士たちが多く集まっていた。

 

「アインズ様!」

「アインズ様がお帰りになったわ」

 

 モモンガが無事に異空間から帰還した。その知らせが、広まると聖騎士たちだけでなく、多くの聖王国の国民たちが喜び集まってきていた。モモンガのあまりの人気にペロロンチーノはモモンガを冷やかす。

 

「いやー、モモンガさん、さすが神様。すごい人気ですね」

「あ、いや、それは・・・・・・別に俺が神って名乗ったわけじゃないんですが」

「これからどうするんです?神様。この国に骨を埋めるんですか?骨だけに」

「あのペロロンチーノさん・・・・・・全然うまくないですからね、それ」

「ナザリックのNPC達も会いたがってましたよ」

「それですよ。NPCが自我を持って動いてるなんて・・・・・・。いや、それを言ったら俺やペロロンチーノさんのアバターがどうして現実みたいに動いてるんだって話になりますけど」

「どうします?帰ってきます?」

「この国に愛着はあります。もちろん見捨てるつもりはありませんが、ナザリック・・・・・・帰りたいですね」

 

 それを聞いたペロロンチーノの口ばしがニヤリと釣りあがる。

 

「じゃあ、ギルド活動再開ですね!」

 

 ギルド活動・・・・・・。かつてモモンガがギルドマスターとして世界を股にかけてメンバーたちとした冒険の数々が思い出となって甦る。モモンガに取って忘れられない輝かしい黄金の日々。

 

「ええ・・・・・・帰りましょう。我が家へ」

 

 

 

 

 

 

―――ナザリック地下大墳墓

 

「おかえりなさいませ。モモンガ様」

 

 ナザリック地下大墳墓に帰還後、最初にモモンガたちを迎えたのは白髪の執事であった。アルベドが失神中とはいえ戻った今、宝物殿はパンドラズアクターに任せてある。モモンガは懐かしそうに白髪の執事を見つめた。

 

「ああ、確かたっち・みーさんが創った・・・・・・セバス・・・・・・だったな。ただいま」

「お・・・・・・おお・・・・・・(わたくし)の名を・・・・・・。この地に来て初めて私の名を呼んでくださった・・・・・・そうです・・・・・・ぐすっ・・・・・・私の名前は・・・・・・セバス・・・・・・です・・・・・・」

 

 この世界に来て初めて名を呼んでもらったことに白髪の執事は跪き、モモンガに縋りついて漢泣きをする。「うおおおおん」と言う泣き声を聞きながらモモンガの精神は許容値を超えアンデッドの特性により精神が鎮静化される。

 

「え?え?何で?何で泣いてるの?」

 

 混乱するモモンガのもとに次はメイド達が歩いてくる。シクスス、フォアイル、リュミエールの3人だ。

 

「モモンガ様、おかえりなさいませ」

「おかえりなさいませ」「おかえりなさいませ」 

 

 それぞれがモモンガが見たこともないような露出度の高いメイド服を着ているのにも驚いたが、さらに3人がモモンガの手前で可愛らしく転んだのだ。そしてその拍子に彼女たちのスカートの中の布がモモンガの目に飛び込む。シクススたちは頬を赤らめ、モモンガを上目使いに睨んだ。

 

「もう!モモンガ様のエッチ!」

 

 そう言って3人からそれぞれビンタがモモンガに飛ぶ。ビンタをした3人はその場を逃げるように離れると柱の陰からこそこそとモモンガの様子を伺っていた。小声で話声が聞こえる。

 

(モモンガ様はご満足くださったかしら)

(この後はお仕置きされるまでがセットでしたわね)

(お仕置き・・・・・・きゃー!何されちゃうのかしら!何されちゃうのかしら!)

 

 柱から除くメイド達の目が期待に輝いている。モモンガはアンデッドであるにも関わらず眩暈を覚える。そして、ふと横のペロロンチーノを見ると何故かどや顔をして、モモンガに指示を出す。

 

「さぁさぁ!モモンガさん。彼女たちにお仕置きを・・・・・・」

「メイド達に何させてるんですか!ペロロンチーノさーん!!」

 

 その後、メイド達への聞き取りにより『メイドの心得byペロロンチーノ(イラスト入り)』の存在が明るみになり、それはその場でモモンガに没収され封印された。また、メイド達の衣装は元通りに戻され、ペロロンチーノはめちゃくちゃ怒られるのであった。

 ・・・・・・しかしメイドがペロロンチーノ仕様になっている程度大した問題ではないなど、現在のモモンガには知るよしもなかった。


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