ペロロンチーノの冒険   作:kirishima13

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第4話 調教モノには愛が必要

――エ・ランテル冒険者組合

 

 冒険者組合の組合長。アインザックの前の銅のプレートの冒険者二人が座っていた。

「それで、盗賊団のアジトを調査に行った結果、強大なヴァンパイアがいて全員殺されたと」

「そーです」「そーでありんす」

(嘘はいってない)

 

 棒読みでそう言う二人を見つめる。

 

「そして、最低でも第3位階の魔法を使ったとあるがそれは本当かね」

「あれはすごかったなぁ。ボーンって」

「そうでありんすね。体の内側からボーンって綺麗でありんした」

「綺麗?」

「いや、怖かったなぁー」

「それで伝令係の君たちは逃げてきたと?」

「そーです」

「仲間がやられた割には平気そうだね」

「仲間というか借金の取り立て人というか昨日会ったばかりです」

「借金払う必要がなくなったでありんすね」

「いや、払う相手はブリタちゃんだから。あ、報酬は彼女に」

「まぁいい、偵察に行ったものからレッサーバンパイアが現地にいたという報告もある。君たちが借金取りを見捨てて逃げてきたという証拠もないことだしね。報告はそのまま受けとろう」

「あの、もう帰っていいですか?」

「はぁ・・・・・・君たちは・・・・・・」

「組合長大変です!」

 突然ドアが開き組合職員が入ってくる。

「なんだノックもせずに」

「組合長、こちらへ」

「何・・・・・・」

「墓地で・・・・・・ンデッド・・・・・・」

「そんな・・・・・・見張り・・・・・・どうな・・・・・・」

「あのーどうしたんですか?」

「緊急事態だ。君たちにも来てもらう」

「すべての冒険者に招集をかけろ!急げ!」

 

 

 組合の話によると墓地からアンデッドが溢れているそうだ。普段からアンデッドが墓地に出現することはあったらしいが、せいぜい数体であったらしい。それが今回は推定数千体のアンデッドで溢れかえっているとのことで明らかに異常事態だ。

 

「ミスリル級の冒険者を中心にアンデッドの討伐に向かってくれ。アイアン級以下の冒険者はあふれ出たアンデッドが町に行かないように盾となるんだ。危ないようなら撤退してくれて構わない」

 アインザックの号令が飛ぶ。

「数千のアンデッドか・・・・・・モモンガさんでもさすがにそれだけを一度に呼ぶのは無理だったなぁ」

「そうなんでありんすか?」

「俺が知らないだけで知らないうちにそういうパッチが当たってた可能性はあるけど、うーん。確かめてみるか」

「モモンガ様の可能性があるなら行くべきでありんす!」

「そうだな、よし」

「お、おい。お前たちはカッパーだから町の警護だ!おい、待て!」

 

 この街に知らないものはいないほど有名になる二人の冒険がここから始まる。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「班長!もう門が持ちません!」

ドンドンドン

 アンデッドが門を叩く音が鳴り響く。それも一つ二つではない何百という音が鳴り続けている。

「諦めるな!門を押さえろ!ここを突破されたらおしまいだぞ!」

 

 怒号が飛び交う中、涼しい声が後ろから聞こえてきた。

 

「おおー、目に見える限り全部アンデッドで埋まってる。すごいな」

 

 声のした方向を見ると、上空に男女の二人組が立っていた。

 

 飛行(フライ)の魔法なのだろう。最低でも第3位階の魔法の使い手だ。

 

「冒険者か!助かった!」

 

 そう思い、彼らのプレートを確認すると銅のプレートがかかっている。第3位階の魔法の使い手が(カッパー)のプレートなどであるわけがないが、男の装備を見るとどうみても安物の弓しか装備していない。異様だ。すべてがちぐはぐしている。反応に困っていると声がかかる。

 

「はやく門を開けるでありんす」

「な、なにをいっている。アンデッドがいるんだぞ!」

「その程度、相手にもなりんせん」

 

 買い物にでも行ってくる程度の軽い声がするが、当然門を開けるわけにはいかない。

 

「開けないなら仕方ない」

 

 男が弓を引き絞る。そして矢を上空にめがけて放った。どこに向けて撃っているんだと誰もが思う中、上空に放った矢が雨のようにアンデッドたちに降り注ぐ。矢を受けたアンデッドは爆撃でも受けたように爆散していた。

 呆然と見つめる衛兵たちの前で今度は女のほうが手を打ち鳴らす。パンっとそれだけのことで周りの周囲すべてのアンデッドが消滅した。

 

「爆撃しながら飛んでいくか。シャルティア」

「かしこまりんした。ペロロンチーノ様」

 

 上空を二人が飛んでいく。アンデッドをまき散らしながら。

 

「アンデッドを帰還させるのではなく消滅させた・・・・・・それもあれだけの数を・・・・・・」

「それだけの神官ということか・・・・・・いや、まさか、そんな神官聞いたこともないぞ」

「あれが(カッパー)のプレートの冒険者なんて何かの間違いだろう?」

「ああ、俺たちは伝説を目にしたのかもな・・・・・・」

「ああ、あれこそが英雄・・・・・・空の英雄だ・・・・・・」

 しかし、彼らは知らない。あの二人は彼らを守ることや名声を高めることを微塵も考えていなかったことを。それどころかあまり何も考えていなかったことを。そして、より相応しい二つ名で呼ばれることを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 秘密結社ズーラーノーン。その幹部であるカジットはエ・ランテルで捕まえたンフィーリアという少年にアンデッドを召喚させ続けていた。叡者の額冠。通常では使用できないほどの上位の位階魔法を使用可能とするアイテムであるが使用できる人間がほどんどいない。それをどんなアイテムでも使用可能という才能(タレント)を持った少年にかぶせていた。そして使用する魔法は第7位階魔法不死の軍勢(アンデス・アーミー)。アンデッドを大量に召喚する魔法を使用させ続けている。少年には意識がないようであった。

 

「くっくっく、いいぞ。もっとアンデッドを呼ぶが良い。エ・ランテルほどの大都市を死都と化せば死の螺旋を発動しこの身を不死の存在とできる」

「カジット様、人が飛んできます。冒険者かと」

「ほう、最低でも第3位階の魔法の使い手か・・・・・・このわしに魔法で挑もうとは無謀なことだ」

 

 空から飛んできた二人の冒険者が目の前に降り立つ。

 

「なにものだ」

「俺はペロロンチーノ」

「わらわはシャルティアでありんす」

「くっくっく、馬鹿確定だな」

「あんたたちがアンデッドを呼んでるのか?」

「それがどうした」

「それ迷惑だからやめてくれない?」

「言うことを聞くとでも?」

「そっちのあんたもこいつらの仲間なのかな?」

「ふーん、なんで気づいたの?魔法?やるじゃーん」

 

 猫のように引き締まった肢体をした女が音もなく姿を現す。整った顔立ちをしているがその顔はいやらしく歪みニヤついている

 

「名前を教えてくれるかな?俺はペロロンチーノ」

「ペロ?ふーん変な名前。どうでもいいけどねー。あたしはクレマンティーヌ。そっちのはカジッちゃんだよー」

「おい」

「いいじゃーん、どうせ殺しちゃうんだしさぁ」

「それで、仲間なのかな?」

「そうだよー。それが?」

「よっし!悪人で美人!いいね!シャルティア!」

「分かってるでありんす!つまり」

「「悪人なら好き放題してもいい(でありんす)」」

 

 墓地に黄色い悲鳴が木霊した。

 

 

 

 

 

 

 アインザックは頭を悩ませていた。

 

「君たちがこの事件の首謀者達を捕まえたのは間違いないだろう。こうして目の前にいるんだからね」

 

 ペロロンチーノとシャルティアに両腕を掴まれて攫われてきた宇宙人のようにクレマンティーヌが項垂れていた。

 

「あざっす」

「でも君たちに言ったよね。(カッパー)級の冒険者は町の防衛を頼むと」

「はい」

「それなのに君たちは敵の本拠地へ突っ込んだ」

「いけると思って」

「でもモモンガ様はいらっしゃいませんでしたでありんす」

「だなー」

「君たちの話では途中のアンデッドを倒しながら進んだらしいが」

「はい、たくさん人を救いました」

「人を・・・・・・救ったね・・・・・・それは本当かね?」

「はい、門を破られそうになってたのでその周辺のアンデッドを倒しました。空の英雄とか呼ばれちゃって。へへ」

「へへ、じゃない!そのあとは?」

「え?」

「そのあとは!君たちは確かにアンデッドを倒したんだろうね、雑に!撃ち漏らして散ったアンデッドたちは君たちが拠点を襲撃してる間にその後門を破ったんだよ!だから、君たちがアンデッドを倒したという証言をするものもいないんだけどね!」

「すんません」

「はぁ・・・・・・まったくそれほどの力があるのだから人を守るために使ってくれたまえ」

「気を付けます」

「それでは捕虜にしたという女を渡してもらおうか」

「嫌です」

「は?」

「彼女は俺が捕まえたんだから俺のものです」

「何を言っている!」

「組合長こそ俺から彼女を取り上げて何をする気ですか!いやらしい!けしからんですよ!」

「君こそ何を言っている!尋問するに決まっているだろう!」

「尋問!?拷問ですか!」

「これほどの事件を起こしたんだ。公にはしないがそれも必要になるかもな。なんだね、女が拷問にかけられるのをかばうのかね」

 

 アインザックは少し目の前の男を見直す。敵とは言え女の身を案じる姿に気高いものを感じて。

 

「そんなうらやましいこと俺にやらせてくださいよ!調教には愛が必要なんですよ!あ、傷つけるのはなしで。×××や×××なことをしたいんです!」

 

 少しも気高くなかった。項垂れていた女がビクンと震える。

 

「おい、組合長!助けてくれ!あたしが悪かった!もう悪いことはしない!だからこいつらに渡さないでくれ!おねがいします!こいつら化物の上に変態だ!」

 

 その後、話し合いは朝まで続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「結局認めてくれなかったな」

「話が長かったでありんすねー」

「スキップ機能もないのに悪かったな」

「そ、そんなことありんせん。ペロロンチーノ様と一緒にいられるだけで幸せでありんす」

「これもイベントと思って我慢するかー」

「でも報酬はもらえたでありんすよ?それに階級もあがったでありんす」

 

 ペロロンチーノたちの成したことは本来であればアダマンタイト級にしても良いくらいの偉業であった。しかし、彼らの昇級は多くの者が反対した。組合長をはじめ、セクハラされた受付嬢、冒険者たち、あらゆるものが反対した。

 

「あんな変態を上に立たせてはいけない」と。

(アイアン)のプレートか。まぁ一つあがったからいいか」

 

 チャラリと新しくもらったプレートを揺らす。

 

 そして、彼らに二つ名がつけられることになった。

 黒髪の美男子の狩人、ボールガウン姿の美少女の魔法詠唱者は恐ろしく強く、そして恐ろしく×××だと。恐れと畏怖をこめて。面と向かって呼ぶ勇気のあるものはいないが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ペロロンチーノは冒険者組合の受付嬢に詰め寄っていた。

「ねぇ、受付のおねえさん。(アイアン)級への依頼がまったくないってどういうことですか」

「申し訳ありません。たまたま、本当にたまたまないんです」

「じゃあ、カッパー級の依頼でも荷物持ちでもいいから」

「申し訳ありませんが、すべて予約済です」

「ふーん、じゃあ上級の依頼ってどんなのがあるの?」

「階級が足りないと受けることはできませんよ」

「ちょっと知りたいだけだから。教えてよ」

「そうですか?例えばですね・・・・・・」

「ちょ、ちょっと待ちたまえ」

 

 後ろから大声が聞こえてくる。アインザックだ。

 

「上級の依頼を知ってどうするつもりかね」

「いや、先輩方にはどんな依頼があるか知りたいだけですよ」

「そんなことを言って、この前みたいに勝手に上級の依頼を実行されたら困るんだよ!」

「ギガントバジリスクの討伐とかですか?」

「そうだよ!勝手に討伐に行って!倒してくるだけならまだしも捕まえて来るとは何事だ!」

「皮とか毒袋とか素材として欲しいんじゃないかなぁと思って」

「生きたまま連れてくることないだろう!」

「素材は新鮮なほうがいいかと思って」

「町がパニックになったじゃないか!」

「すぐに締めてあげたじゃないですか。あ、そういえば報酬もらってません」

「猛毒の体液で組合の裏庭が汚染されたんだぞ!報酬などその浄化費用に充てさせてもらったわ!」

「依頼がなくて暇だったんです」

「暇だからって問題ばかりおこさないでくれ・・・・・・分かった。この依頼をするといい」

「これは?」

「荷物持ち兼護衛だ。行先は王都リ・エスティーゼだ。向こうの組合に紹介状も書いておこう。君たちには王都のほうが向いている」

「王都か、どうしようかなぁ」

「王都には黄金と呼ばれる姫君もいる・・・・・・」

「お姫様!?女騎士は?女騎士はいますか!?」

「あ、ああ。女騎士もいるだろうさ。どうかね」

「いきます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「よかったんですか?組合長」

 

 心配そうな顔で職員が話しかける。

 

「仕方ないだろう。これ以上迷惑をかけられて堪るものか、これで帰ってこなければ万々歳だ」

「そもそも組合長が彼らに仕事をさせないために(アイアン)級の仕事を減らしたりするから」

「仕方ないだろう。これ以上もめ事を増やされてたまるか」

「いえ、そうではなくてですね」

「ああ、分かってる。王都の冒険者組合に押し付けたことだろう。だがうちではもうごめんだ」

「いえ、それもそうなんですが、彼ら・・・・・・王女様に何かしでかしたりしないでしょうか」

 

 アインザックの顔が真っ青になる。

 

「ま、ままままさか。そこまでの馬鹿ではないだろう。うん、それはない。ないはずだ」

「で、ですよねー。あはははは」

 

 冒険者組合に乾いた笑いが木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――王都リ・エスティーゼ

 

 高級宿屋兼酒場に非常に目立つ5人組がいた。宝石を宿した仮面をつけた小柄な人物イビルアイ。そっくりな顔、恐らく双子であろう女忍者衣装の二人ティアとティナ。そして男のような筋肉を宿す、大柄な女ガガーラン。アダマンタイト級冒険者チーム青の薔薇である。そして最後の一人、王国兵士のクライムが話しかける。

「ラキュース様より伝言です。例の件をいよいよ実行するので準備をしておいてほしいとのことです」

「よう童貞。そんなことだけのためにご苦労さん」

 

 大柄の女性。童貞食いが趣味と公言してはばかれない女戦士である。

 

「私たちだけで大丈夫?アダマンタイト級の護衛がいるかもしれない」

 

 双子の一人ティアが無表情で何かをポリポリ食べながら話しかける。

 

「六腕か。アダマンタイト級とか言われてるがどうだかな」

 

 仮面の魔法詠唱者イビルアイが訝しむ。

 

「アダマンタイトといや、知ってるか?エ・ランテルで新しいアダマンタイト級が現れたらしいぞ?」

「ああ、知っている。だが少し違っているな。実力はともかく階級は(アイアン)級らしい」

「はぁ?なんでアイアン級程度の噂が王都までくるんだよ」

「なんでもアダマンタイト級の変態、もしくはただ単に変態と呼ばれているらしい。安物の弓を装備した狩人の男と絶世の美女の信仰系魔法詠唱者の二人組らしい」

「はぁ?二人だけ?んで、そいつらそこまで言われるからには何らかの偉業を成したんだろう?何をしたんだ?」

 

 ガガーランが面白がる。

 

「なんでも3か月くらいの間にこなしたらしいが。エ・ランテルでのアンデッド数千の発生事件を解決。ギガントバジリスクの討伐。強大な力を持ったヴァンパイアの情報を持ち帰る。娼館での度を越したプレイを要求し出入り禁止に。美女のほうは男も女もいけるそうだ。冒険者組合の受付嬢からはセクハラで訴えられているらしい」

「そいつは・・・・・・すげえじゃねえ。いろんな意味で」

「その男も女もいけるという美少女について詳しく」

 

 ティナが身を乗り出す。

 

「ギガントバジリスク・・・・・・」

 

 クライムは記憶をたどる。石化の視線や猛毒の体液、その皮膚はミスリル並みの硬さだという。非常に危険なモンスターだ。

 

「そりゃうそだろ。ギガントバジリスクを二人で倒せるわけがねえ」

「ああ、そうだ。倒したわけじゃなかったらしい。なんでも生け捕りにして町に連れてきたとか」

「はぁ!?嘘だろ。どんな馬鹿だよそれは」

「それは討伐するよりそんなにすごいことなんですか?」

「俺らでもちょっと無理だな・・・・・・あれを生け捕りするなんて。こりゃすげえ隠し玉持ちだな」

「そのせいで町を汚染させ、いまだに(アイアン)級らしいが、実力は間違いなくアダマンタイト級だな」

「すごいですね」

「まぁ噂だけかもしれんがな。会ってみないことには実力は分からん」

「それより、そろそろ鬼ボス来るだろうから準備をする」

「ああ、ラキュースは王女のところだったな。確かにもうじき戻ってくるかもしれん」

「ところでさっきの変態だけどよ、黄金と呼ばれた王女に手を出すってことはないか?」

 

 ニヤっと笑いガガーランがクライムを見つめる。

 

「ラナー様が危ない?」

「安心する。冗談」

「ちっ、ティア。面白いからもうちょっと黙ってろよな」

「まぁ常識的に考えて王女に手を出すような馬鹿はいないだろう」

「そ、そうですよね」

「うん、いるはずない」

「まぁいねえわな」


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