ペロロンチーノの冒険   作:kirishima13

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第5話 ヤンデレモノは刺されるまでが様式美

――――王都リ・エスティーゼ

 

 首都ということもあり、立派な建物が並んでおり、街の活気もある。そこに二人の新たな冒険者が立っていた。新しい町について彼らが最初にやることは決まっている。不可視化である。しかし今度は公衆浴場を覗くような失敗はしない。可愛い女の子がいなければいるところへ行けばいいのだ。彼らは王城にいた。メイドなどもさすが王城は綺麗どころがより取りみどりだ。一通り情報収集(のぞき)を楽しんだ後、情報をもとに王女の部屋の前へと立っていた。ちなみに護衛の仕事はすでに終えている。

 

「ここが王女様の部屋か」

「楽しみでありんすね、黄金と呼ばれるだけの美貌があるんでありんしょうか」

「見るだけ、見るだけだからな」

「分かっていんす、ペロロンチーノ様の御意に」

「時間停止中に部屋に入ろう、その後は不可視化でばれないようにな」

「了解しんした」

 

 室内に入るとそこに王国の黄金と呼ばれるのにふさわしい美少女がいた。ブロンドの髪に整った顔立ち。今まで見た王国の誰よりも美しかった。白を基調としたシンプルがドレスが彼女にかかると豪華に変わる。

 彼女はふっと振り返る。ペロロンチーノ達は不可視化してる。そして念のために周辺には人避けの魔法結界も展開してた。それなのに王女は彼らのほうを真っすぐ見つめていた。

 

(まさか、バレていないよな・・・・・・)

 

「どなたですか?」

 

(やばい、バレてる!シャルティア!)

(かしこまりんした!)

 

人間種魅了(チャーム・パーソン)

 

 とたんに王女の目はトロンと濁る。

 

「なんでバレた?もしかして不可視化看破できるのか?」

「あら、うふふふふ。お友達?私にお友達ができるなんて」

 

 魅了の魔法は相手を自分が親しい友人だと思わせる魔法だ。

 

「まぁいいか。じゃあ質問しようかなぁ」

「はい、何でも聞いてください」

「じゃ、じゃあまず、お名前は」

 

 インタビューモノのノリで聞いていく。

 

「ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ」

「わらわにも聞かせてくんなまし。ぬし、初体験は?」

「ありません」

「処女!処女でありんすよ、ペロロンチーノ様!」

「じゃあ、次俺な。好きな人はいますか?」

「犬を・・・・・・うふふ、犬を拾ったんです」

「犬?」

「ええ、死にそうになっている犬を・・・・・・助けてあげたら私だけを見つめてきて」

「犬?人じゃなくて?」

「人間ですよ?クライムと言う犬ですが」

「・・・・・・」

「助けたことを恩に感じて私を慕って見つめてくるのです。あの目が好きで好きで好きで。鎖でつないでどこにも行かないように飼えたらどんなに幸せでしょうか」

「・・・・・・ヤンデレだ」

「ヤン・・・・・・デレでありんすか?」

「ヤンデレとはエロゲに欠かせないジャンル!このお姫様とは気が合いそうだ。これは応援しなければ!」

「しかし、まぁ見上げた変態でありんすね」

「あら、私の心が理解できるなんて。お友達。お友達?私のことが理解できるお友達何て・・・・・・なるほどなるほど。魔法で私を支配されてるのですね?」

「え、この子ほんとに魔法にかかってるのか?」

「魔法の効果は切れていないでありんすよ」

「自分の状況を分析して自分が支配されてることをわかったんですか?」

「ええ、そうですとも。でなければ私に本当の友達などできるはずがありませんもの。頭が悪く愚かで当たり前のことさえも分からず私を化物扱いする醜い人間なんかの友達など」

「おおー、ヤンでるヤンでる。しかし頭が切れてるお姫様だなー。いろんな意味で」

「でもあなた方なら本当のお友達になれるかも・・・・・・」

「ペロロンチーノ様、もう質問はよろしいでありんすか?」

「あ、そうだった。そういえばなんで俺たちに気づいたんですか?見えないのに」

「簡単なことです。いつもおしゃべりなメイドの話し声が聞こえません」

「ドアを開く音はしませんでしたが、挟んであった私の髪が落ちています」

「それに姿を消していたのでしょうが、この部屋には香が焚いてあります。私しか気づかない程度の色が空気についているのです」

 

(すげえ、でもこの子ちょっと怖い)

 

「そろそろ魔法が解けるでありんす」

 

 ラナーは魔法が解けた後、少しぼーっとしていたが、自分の言葉を聞かれたことに気づき頬を赤らめる。

 

「聞かれてしまいましたね」

「ヤンデレとは恐れ入ります。お姫様」

「ヤン・・・・・・なんですって?」

「ヤンデレ・・・・・・エロゲの女の子のジャンルの一つです」

「なるほど・・・・・・知らない言葉・・・・・・見たこともない魔法や能力・・・・・・これは神の降臨の可能性が・・・・・・」

「何を言ってるんですか?」

「いえ、何でもありません」

 

 そう言ってほほ笑むラナーは必死で頭を働かせる。この侵入者たちはラナーでさえ知らない概念を持っている。過去の神々、ぷれいやーと呼ばれた者たちとの共通点からいってこの国を滅ぼしえるほどの力を持っているのだろう。王城に平然と侵入し、緊張感の欠片もないことからそれが伺える。そして先ほどか会話から彼らの頭はそれほど良くなさそうだ。利用できる、とラナーは瞬時に計算する。

 

「そう、私はあなたの言うヤンデレというものでしょう。その理解者であるあなたはそれに協力してくれませんか?」

「というと?」

「私は先ほども言いましたクライムと結ばれたいのです。鎖につないでいつまでも私をあの目で見てほしい」

 

 うっとりとしながら王女が語る。世間で言われている王女とは別人だ。

 

「それで、俺にメリットは?」

「その前に確認を。あなた方は相手の体を自由に動かすような魔法を使えますか?」

支配(ドミネイト)の魔法であれば使えるでありんすが・・・・・・」

「それは素晴らしい。それで操ってほしい相手がいるの」

「それでメリットはなんなんですか?」

「そうですねぇ、私の裸を見せて差し上げるというのでは?」

「ありがとうございます!」

 

 

 

 

 ◆ 

 

 

 

 

 

 クライムはラナーの急な呼び出しに焦っていた。

 

(こんな時間に呼ばれるとは・・・・・・何かラナー様に危険が!?まさか、あの変態とかいうのが・・・・・・)

 

 王女の部屋についてみるが、周りには誰もいない。さらに、王女の部屋ノックするが返事がない。呼び出しておいていないのか。それとも出られない事情でも・・・・・・。

 

「ラナー様?いらっしゃいますか?ラナー様?」

 

 心配でたまらないが、勝手に部屋に入るわけにはいかない。しかし、クライムは()()()()()()()()()()()

 

(なに、体が勝手に・・・・・・)

 

「あら、クライム。こんな夜中にどうしたのですか?」

 

 ラナーが首を傾げて不思議がっている。クライムの体がラナーに近づく。

 

(お、おい。どうしたんだこの体は・・・・・・)

 

「え、クライム?」

 

 まるで自分の体でないように、ラナーの肩に手をかける。

 

「ちょっと、クライム。どうしたというのこんな時間に。手を放して」

 

(そうだ、こんなことをしてはいけない)

 

 クライムは必死に抵抗する。自分の敬愛する恩人にこれ以上無礼を働いてはいけない。

 

「やだ、クライムちょっと・・・・・・聞いてるの」

 

 ついに王女がベッドに押し倒される。一瞬ラナーの顔が醜く笑っているように見えたが気のせいだろう。涙目でクライムを見ている。その瞳を見ているとクライムは見えない力へ抵抗する意思が薄れてしまう。

 

 そして夜が更けていった。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

「いや、いいもの見られたなぁ、不可視化で隠れて」

「で、ありんすね。嫌がる男女を無理やり結ばせるとか萌えるでありんす」

「まぁ王女さんは嫌がってる振りだったけどな」

「嫌がる王女を押し倒してしまった男が罪悪感から言いなりになっていく様は見ものでありんしたね」

「まさかあそこまで調教しちゃうなんてな」

「ふふ、もう、恥ずかしいです。あ、そういえばお借りしたこの鞭と首輪、それからしっぽは・・・・・・」

「あげるでありんす。ぬし人間にしてはなかなかやるでありんすね。いい趣味してるわ」

「お二人には感謝しています。まさかこんなに早くクライムと結ばれるなんて」

「こちらこそごちそうさまでした」

「しかし、このまま公に私とクライムが結ばれることは今のままではありません」

 

 王女は悲しそうに顔を伏せる。

 

「なぜです?自由にしちゃえばいいじゃないですか」

 

「あの・・・・・・図々しいのは重々承知ですがお二人にお願いがあるのです」

「お願い?」

「この国には八本指という犯罪組織、そしてそれに連なる貴族が裏で国を支配しています。彼らは貴族の既得権益を最大限に利用し、国民から利益を奪い、奴隷のように扱っているです。そんな彼らがいる限り、平民のクライムと私が結ばれることはありません」

「どこの世界も同じですね。リアルも権力者しかいい暮らしなんてできなかったですよ」

「お願いします。八本指を倒すのにご協力いただけないでしょうか」

「えー・・・・・・別に俺たちは正義の味方ってわけじゃないしどちらかというと悪のギルドをロールしてたからなぁ」

「この国が平和になりましたらあなたのためのハーレムをつくって差し上げましょう」

「世界平和のため、協力させてください!」

 

 ラナーはニヤリと笑う。この変態二人を利用すれば世界を収めることさえ可能だろう。ハーレム程度では安いものだ。まず、貴族を廃し、王族も廃してやる。私とクライムだけが幸せに暮らせる、そんな世界のために不要なものはすべて殺してやる。

 しかし、王女は気づいていなかった。度を越した変態(ばか)というのは、その行動を読むことなどできないということを。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

「よーし、八本指のみんなのために頑張るぞ」

「はいでありんす」

 

 二人は、八本指のために働いていた。


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