ペロロンチーノの冒険   作:kirishima13

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第9話 エロゲが喋った日のあの感動

―――王都 冒険者組合

 

 悪魔騒動の後、ペロロンチーノは冒険者組合に呼び出されていた。青の薔薇の面々のほか討伐に参加した冒険者全てが集められている。今回の事件について事情聴取のためだ。だが、今までと違いペロロンチーノを見る冒険者たちの目には尊敬の感情が宿っていた。青の薔薇からの報告によると首魁デミウルゴス=ヤルダバオトの難度は200を超えるという。それは青の薔薇のメンバーが殺されたことからも信憑性は高かった。それをたった二人で(アイアン)級の冒険者が倒したというのだ。当の本人はそんな尊敬の目にも気づかず平然としているところが大物らしい。

 そんな中、組合の扉が開かれ、そこに明らかに貴族と分かる高級な服装をした男とおつきの騎士が現れた。

 

「ここにペロロンチーノとやらはいるかね」

 

 場がざわついく。

 

「え?だれ?」

 

 そんな周りの変化を気にもせずにペロロンチーノが奥から出てきた。

 

「お前がペロロンチーノか?」

「そうですが、あなたは?」

「私はランポッサ王の使いとしてきたアルチェル・ニズン・エイク・フォンドールである」

「それはご丁寧にどうもアルチェルさん。俺がペロロンチーノです」

 

 敬称を付けずに呼ばれ、アルチェルの顔が引きつる。

 

「アルチェル様。なにぶん野蛮な冒険者ですから、礼儀などわきまえてないのでしょう」

 

 御付きの騎士がフォローをしているが、今度はまわりの冒険者が憮然とする。

 

「ふん、まぁいい。ペロロンチーノ何だね、性は」

「せい?」

「ただのペロロンチーノではあるまい。ファミリーネームは何かね」

「いえ、ただのペロロンチーノです」

「貴様ふざけているのか!」

「じゃ、ペロロンチーノ・アインズ・ウール・ゴウンってことで」

「なに?貴様は貴族なのか?」

 

 アルチェルは仰天する。貴族は4つの名前で呼ばれるのだ。先ほどからの態度は貴族故というわけか。そうであるならば自分は態度を改めねばならない。

 

「ペロロンチーノ様、そんな風に名乗ったらまたあの大口ゴリラが怒こりんす。モモンガ様を差し置いてーって」

 

 横から口を出してきたのは、王国の黄金に並ぶのではないかと思われる可憐な少女だ。

 

「はっは、そりゃそうだ。今のは冗談です。ただのペロロンチーノです」

「ぐっ・・・・・・まぁいい。王より書状を預かっている。これより伝えるので傾聴したまえ」

「あー、はい。どうぞ」

「・・・・・・何故、膝をつかないのかね?」

「は?」

「王からの言葉をそのまま聞くつもりかと言っているんだ」

「あ、はい」

「あ、はいじゃ・・・・・・」

 

 アルチェルのこめかみがピクピクと痙攣する。そこへ騎士が耳打ちをする。

 

「アルチェル様御辛抱を。このような無礼な真似が許されないは道理。ですが、王の言葉を伝えずに帰るわけには参りません。ですので、このことは後ほど王に報告ののち罰してもらえばと思いますがいかがでしょうか」

「そうだな、そうしよう」

 

 アルチェルがペロロンチーノに向き直る。このような無礼者が後ほど手打ちになろうがどうでもいい。こちらの親切を無視するこの冒険者が悪いのだ。

 

「本当にそのまま聞くのだな」

「ええ、どうぞ」

「では王の言葉を伝える」

 

 長々として着飾った冗長的な文句だらけの手紙だったが、要するに先日の悪魔騒動での首魁討伐を称え、勲章を贈るので城まで来るように。その後、祝賀会兼晩餐会を開催するとのことだ。

 

 周りの冒険者たちから感嘆の声が上がる。青の薔薇の面々は納得の顔だ。あれほどの偉業を成し遂げたのだ。当然の褒美であろう。だが、それをペロロンチーノは気にも留めなかった。

 

「いや、別にいいですよ」

「は?」

「別に勲章とかいらないので。王様にはそうお伝えください」

「貴様!王のご好意を侮辱する気か!」

「一緒に働いた仲間に一杯やろうって誘われたなら断ったりしませんけど、なんか堅苦しそうですし遠慮しておきます。それより帰ってエロゲがやりたい」

「エロ・・・・・・?ふざけるな!貴様何様のつもりだ!これ以上王を侮辱するとただではすまさんぞ」

「・・・・・・それはどういう意味ですか?」

 

 ペロロンチーノが笑みを深める。今までの楽し気に話をしていたが、それとは違う笑みだ。

 

「そのままの意味だ!貴様を不敬罪でしょっ引いてやる!」

「・・・・・・シャルティア、これから何が起きても我慢しろよ」

「ペロロンチーノ様のお言葉とあらば」

 

 シャルティアが優雅な礼をする。それは王に捧げるもの以上に感じられ、アルチェルをさらに苛立たせる。

 

「失礼しました。王様のご厚意受けさせていただきます」

「は?え?行く・・・・・・のか?」

 

 突然の変化にアルチェルは戸惑う。

 

「それでいつ伺えば?」

「では、すでに馬車を用意しているから今から来てもらおう」

 

 これには冒険者たちがざわめく。騒動以降冒険者組合でずっと報告をしていた今回の事件解決の立役者に対して休む間もなく今から来いである。

 

「アルチェル様。彼は今回の戦い後休むことなく働きづめです。せめて少し休んでからにしては」

 

 さすがに冒険者組合長が出てきて口を出す。

 

「王や貴族達を待たせろと?」

「い、いえそういうわけでは・・・・・・」

「ならば黙っていたまえ」

「あ、いいですよ。組合長、行ってきますので」

「そうか、まぁ・・・・・・君が言うなら何も言うまい」

「ではついて来たまえ」

「それではみなさん、さようなら」

 

 そう言って出ていくペロロンチーノとシャルティア。青の薔薇の面々はそんな彼とふと目が合った気がした。一抹の不安がよぎる。あの《変態》が叙勲などまともに行えるのだろうかと。それに今のは別れの言葉なのか。もう会えないのではないかと言う思いを抱く中、彼は後ろ手に手をヒラヒラ振りながら出ていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――王都 リ・エスティーゼ 王城 ロ・レンテ

 

 豪華な馬車に乗るアルチェルとは対照的に、粗末な馬車に乗せられ王城まで連れてこられたペロロンチーノ達。当然そんな扱いにシャルティアは怒りを感じたが主人であるペロロンチーノに我慢しろと言われた以上そうせざるを得なかった。

 

 王城の広間には多くの貴族が集まっていた。国王であるランボッサ三世をはじめ、第1王子パルブロ、第二王子ザナック、第三王女ラナー。貴族からは六大貴族であるレエブン侯、ブルムラシュー侯、ペスペア侯、ウロヴァーナ伯、ボウロロープ侯、リットン伯のすべてが揃い、その他大勢の貴族たちが詰めかけていた。

 

 王国を救った英雄に一目会いコネクションを作っておくため、そして自領の勢力に引き込めないか見定めるためである。万の軍より一人の英雄が力を持つこの世界では喉から手が出るほど欲しい人材だ。ただし、それは貴族としてのプライドを捨ててまで欲しいかと言われると優先度は落ちるのであるが。

 

 式典開始までのお待ちくださいと執事に案内された席で特に何をするでもなく周りを興味深そうに見回している。そこへ一人の貴族が話しかけてきた。

 

「ほう、お前が此度の悪魔騒動で活躍したペロロンチーノか」

「どなたですか?」

「私はボウロロープ侯である」

「どうもペロロンチーノです」

(アイアン)級の冒険者にしてはがんばったようだな」

「そりゃどーも」

 

 その返答にボウロロープ侯が眉間がビクリとする。この自分が褒めてやっているのに貴族を貴族とも思ってない気のない態度。

 

「おい、君。ボウロロープ侯に対してなんだその口の利き方は!」

「はぁ?」

「まぁいいじゃないか、リットン伯。冒険者に礼儀を求めてもな」

 

 それに周りの貴族たちも同意の声を上げる。まったく礼儀を知らぬ生意気な冒険者めと。

 

「まったくその通りですな」

「しかし、よかったですな。ペロロンチーノ殿。見たところ服や装備も揃える金がないと見える。今回の褒賞はありがたかろう」

「はは、どうせ金が目当てなのだろう?そんなみすぼらしい弓を使っているようだからな。どうだ?私の領土に来て衛兵としてやとってやろうか。そうすればもう少しいいものが着られるぞ」

「そりゃ違いない。あははははは」

 

 嘲笑の笑いに包まれる。

 

「シャルティア我慢我慢」

「ぐ・・・・・・ですがペロロンチーノ様・・・・・・」

 

 ペロロンチーノの相棒であるシャルティアが涙目で悔し気に俯いているところを見て溜飲を下げる貴族達であった。

 

 

 

 

 

 

 そして式典が始まり、王の前へと進むペロロンチーノ。厳かな雰囲気の中王の声が響き渡る。

 

「ペロロンチーノ。汝のこの度の武勲を称え、勲章を授ける」

「お断りします」

 

 周りが一瞬静寂に包まれ、そして貴族たちが叫びだす。

 

「断るとはどういうことだ!」

「王様、俺は別に勲章なんか初めから欲しくはなかったんです。ただ、この国の権力者というものがどういうものか見るためにここに来ました。ははっ、これじゃあんな人殺し娼館が平然とあるわけだ」

「それはどういう意味かね」

「俺はあなたたちの部下でもなければこの国出身の国民でもない。そんな俺に対してここまで侮辱をするとは恐れ入りました。きっとウルベルトさんだったらあなたたちみんな皆殺しでしたでしょうし、やまいこさんだったらみんな一発ずつぶん殴られてるでしょうね。モモンガさんだったら・・・・・・きっとあなたたちを支配しちゃってたりするかも。そして俺だったらこうします」

「何を言っている!」

「これをご覧ください!」

 

 そう言って、ペロロンチーノは一つの本をどこからともなく出した。

 

「これこそは、悪名高い八本指、その経営する娼館の利用者名簿の写し、かっこ翻訳済みだ!」

 

 周りがざわつく。一瞬にして血の気が失せた顔をする者たちもいる。

 

「その娼館とは女性を攫い、麻薬浸けにし、そのうえで犯し、そして殺すことに快楽を感じる異常者のための娼館です」

 

 周りの婦人たちが一斉に顔をしかめる。

 

「先ほど自分の名前をさも誇りを持ってご紹介してくれた方々!どうもご丁寧な自己紹介ありがとうございました。おや?どうもこの名簿に載ってる方もいらっしゃるようですねー」

 

「あ、おい!兵士たち!!この無礼者をひっとらえろ!」

 

 兵士たちを避けながらペロロンチーノは続ける。

 

「まずは・・・・・・おっとボウロロープ侯、あなたの名前がございますな」

「う、うそだ!私はそんな館はしらんぞ!」

「さらに・・・・・・おおっと、アルチェル様の名前もありますなぁ」

「なっ・・・・・・何を言っているんだ貴様は!」

 

 そうして次々と貴族の名前が読み上げられていく。

 

「それから、これはこれは、王家の第一王子パルブロ様まで。ご利用ありがとうございます」

「なっ、違う!私はボウロロープ侯に無理やり連れていかれて・・・・・・あっ・・・・・・」

 

 周りから一斉に白い目が向けられる王子。これは白状したも同じだ。

 

「さて、この名簿は王様。あなたに差し上げましょう」

 

 そう言って呆然としている王に名簿を渡したところで、追いかけてきた兵士たちにその身を預ける。

 

「ひっ捕らえました!」

「王よ。このようなおかしな男の言うことを信じてはなりませんぞ!」

「それよりこれほどの無礼を働いたのだ。処刑は免れますまい」

 

 貴族達があしざまにペロロンチーノを糾弾する。それを見て王はどうすべきか考える。頼れる戦士長もおらず、国を割るような真似をすることもできない。二人の冒険者の命と国一つ、それを比べて判断をするしかなかった。

 

「分かった。この者たちは後ほど裁きにかけるとしよう。そして八本指の話は証拠があがってから考えれるとすればよかろう」

「おお、さすが賢明な王ですな。よろしい判断かと」

「このような狂人の言うことに惑わされるはずもないですな、ははは」

 

 そこに凛とした美しい声が響き渡った。

 

「父上!国を救った英雄に対しこの仕打ちはあまりにも酷すぎないでしょうか」

 

 王国の黄金ラナーであった。普段、このような場で政治的な発言をすることはめったにない。

 

「確かに礼に欠けるところはあったでしょうが、それは生まれにより仕方のないもの。この方たちがいなければ王都は悪魔に滅ぼされていたかもしれないのです。それは彼らのこの国を憂う正義の心によるもの。そんな彼らを処刑するなど納得できません」

 

 初めて見る王女の王への反逆ともとれる行為に周りが呆然とする中、ランボッサ王が告げる。

 

「ラナーよ。この場での発言を許したつもりはない。この者たちを処刑すると決まったわけでもない。それは裁判で決めればよいことだ。さあ、この話はもうおしまいにしよう」

 

 そう言って、場をおさめる王に、王女の悲しそうな顔と、貴族たちのどこかほっとした顔が対照的に映るのであった。

 

 ラナーは思う。《変態》を操ろうと思っていたが、彼らの行動はラナーでさえ理解不能だ。ならば彼らの行動に合わせてこちらが動けばいい。操るのでなく、彼らの行動を利用するのだ。この場でのペロロンチーノの発言を揉み消すことはもはや貴族でもできないだろう。ペロロンチーノの言葉を聞いたメイド、使用人、そして彼らからまた聞きしたもの等あっという間に町に広がっていくはずだ。それに国民は彼らの英雄的な戦いを実際に見ている。そんな彼らを処刑すればどうなるか。ラナーは悲しみに伏せた顔の下でひそかにほくそ笑むのであった。

 

 

 

 

 

 

―――王都 処刑台広場

 

 名ばかりの裁判が終わり、ペロロンチーノとシャルティアの処刑が決まった。罪状は王族及び貴族への不敬罪及びあらぬ疑いを貴族にかけた侮辱罪だ。判決は死刑。公開処刑の場となった刑場には多くの者が集まっていた。

 

「やめろラキュース。お前でも出ていったらただじゃ済まねえぞ」

「貴族を、大貴族のほどんどを敵に回した」

「出ていったらだめ」

「でも!彼らがこの国にしてくれたことに対して私たちの国がすることがこれなの!?」

「そりゃ俺だって納得できねえよ。だが、これは・・・・・・」

「彼らが何をしたというの!悪を糾弾しただけじゃない!なのに彼らのほうが罪人として裁かれるなんてこんなことあっていいはずないでしょう」

「・・・・・・」

 

 イビルアイは複雑な心境でその光景を眺めていた。いけ好かない奴らである。自分を裸に剥き辱めた。反省の態度はまるでなし。欲望も性癖も隠そうともせずセクハラ三昧。それなのに自分なりの正義感は持っている。そしてヤルダバオトを含む悪魔と血だらけになりながら命がけで戦った。そんな彼らはいつでも楽しそうだった。幸せを楽しみ、失敗も楽しみ、本当の意味で生きている感じがした。

 

「馬鹿だからだ」

 

 そんな言葉がつい出てしまう。

 

「イビルアイ!彼ら対してそんな言葉・・・・・・」

「馬鹿だから八本指に利用される!馬鹿だから危険を顧みず強大な悪魔に立ち向かっていく!エ・ランテルのことでもそうだろう!馬鹿だから失敗ばかりしているんだ」

「イビルアイ・・・・・・」

「その上、馬鹿だから貴族の悪行を大勢の前で公表して見せて・・・・・・なんなんだあいつらは。もっと我慢して生きればいいじゃないか・・・・・・隠し事をしたっていいじゃないか・・・・・・全部曝け出して殺されるくらいなら・・・・・・隠していたって・・・・・・」

 

 イビルアイの声が震える。

 

 そんな中、刑の執行官から最後通告が告げられた。

 

「それでは刑を執行する!最後に言いたいことはあるか」

 

 その場の誰もが注目していた。国を、国民を救い、貴族にも屈しなかった彼らが何を言うのか。命乞いか、罵倒か、この世を呪う言葉か、それとも・・・・・・。聴衆の誰もがその言葉を聞き逃すまいと場が静寂に包まれる。だが、イビルアイは思う。彼らは何も言わないだろう。刑を受けると宣言したのだ。今更なにを言うというのだ。何も言わずに笑って死ぬのが彼ららしいな、そう思っていたイビルアイの予想は裏切られる。

 

「ある!」

 

 はっきりと、誰にでも聞こえるような声でそう言った。これから死ぬ人間の発する声とは思えない。  

 

「そうか・・・・・・ならば最後に言いたいことを言うがいい」

 

「条例による規制強化に断固反対する!」

 

 世界の中心で変態(ペロロンチーノ)はそう叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 変態の演説は続く。

 

「犯罪者がエロゲをやっていたからといってエロゲを規制するのはやめろ!エロゲをやってたから犯罪を犯しているんじゃあない!エロゲは万人が楽しむものだ!」

 

「聞けよ運営!そしてエロゲを愛する同志たちよ!!今や、世界の大半が権力という名の規制強化に心折れ、多くの企業が無難な作品しか作らなくなってしまった!だが、考えてもみろ、規制された不満の矛先はどこへ向くのか!それはリアルである!エロゲは犯罪を助長するものではない!逆だ!エロゲがあるから犯罪が減っているんだ!」

 

「エロゲ好きであることを隠すな!むしろ誇れ!隠すから権力者たちに良いように利用される!モザイクしかり!見えない部分の欲求を他で満たすため、風俗業界を優遇するための権力者の謀略だ!エロゲを規制するのではなく売春を規制しろ!」

 

「かつて、声もなく、絵も稚拙な中でも様々なジャンルで勇気ある決断をした作品が作られた!規制強化前のこの輝きこそ、我らエロゲーマーの正義の証しである。我らに必要なのは自由と規制からの解放だ!」

 

 周りが静まり返る中、冷静になったペロロンチーノが執行官に話しかける。

 

「あ、終わりです」

 

 彼が何を言っているのか半分も理解できたものはいなかったが、彼が権力者である貴族、そしてその横暴に怒りを感じているのは伝わってきた。そして自由と解放。この国では口に出すことのなくなってしまった概念だ。彼らはこの国に、世界に理不尽を感じ、それを拒絶したのだろう。その結果がこれだ。民衆は彼らが悪魔から守ってくれたことを知っている。彼らが貴族に反逆したことも事実なのだろう。そして、彼らが糾弾した貴族の罪も。民衆の心に熱いものが宿る。

 

「やめろ!処刑をやめろ!」

「殺さないで!彼らは悪くないわ!」

「やめろ!」

「やめてくれ!」

「静かにしろ!貴様らもしょっ引くぞ!」

「刑の執行を待ってはくださいませんか?」

 

 そこに凛として声が響いた。ラナー王女である。

 

「彼らは国を、民衆を救った英雄です。ここで処刑してしまえば必ず禍根が残ります。彼らを救い、その正義を示してはくださいませんか?」

 

 執行官は固まる。国の第三王女の言葉である。無視するわけにもいかない。だが、そこに別の声がかかる。

 

「ランポッサ王。まさか、ここで処刑を取りやめたりはしますまいな。やつらを生かしておけば貴族の品位は地に落ちますぞ」

 

 ボウロロープ侯だ。王は悔し気に唇を噛むと決断する。

 

「刑を執行せよ」

 

 

 

 

 

―――そして、断頭台の刃が落とされた。

 

 

 

 

 刃が首に触れた瞬間。そこに何もなかったようにそれがストンと下に落ちる。首をすり抜けたように見えた。

 

《即死無効化》

 

 即死魔法や心臓、首などの急所への一撃必殺攻撃への無効化能力により、刃が首を落とすことはない。

 

 周りが反応に困っている中、ペロロンチーノ達は立ち上がる。

 

「悪法も法であるから、刑は受けさせてもらった。じゃあ罪も償ったことだし俺は帰らせてもらうよ。行こうシャルティア」

「ペロロンチーノ様の仰せのままに」

 

 いつの間にか拘束していた鎖からも解放されている。そう言って二人は飛び上がる。

 

「ま、待て貴様ら!」

 

 ボウロロープ侯が叫ぶ中、二人は大空へと舞った。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――王都 上空

 

 

「そういえば、こうやってこの世界で空を自由に飛ぶのは初めてだな」

「ペロロンチーノ様とこうして並んで飛べるなんて幸せでありんす」

「ところでペロロンチーノ様。結局何がしたかったんでありんすか?あの人間どもは懲らしめるべきでありんす」

「貴族が酷いとは聞いていたけど予想以上だったな。これからどうなるかは知らないけど言いたいことも全部言ったしすっきりしたよ。それにこうやって大きな声を出せば届くかもしれない」

「届くって誰にでありんすか?」

「運営か・・・・・・姉ちゃんか・・・・・・モモンガさんか・・・・・・それとも他のギルドのみんなか」

「そのために騒ぎを起こしたんでありんすか?」

「どこからかツッコミが入らないかなーって少しだけ思ってた。だめだよーって」

「ペロロンチーノ様・・・・・・」

「でもこの国の冒険は失敗ばかりだったけどなかなか楽しかったな」

「ペロロンチーノ様が楽しんでおられたんならわらわ嬉しいでありんす」

 

 シャルティアがほんのりと頬を染め、ペロロンチーノを見上げる。自分が作った時よりはるかに表情が豊かになった真祖(トゥルー・ヴァンパイア)。いつかモモンガさんと戦わせてみたいなと思っていたことなどを思い出す。

 

「よし、もっと上まで行ってみるか!」

 

 ペロロンチーノは翼をはためかせ速度を上げる。

 

「ま、待ってほしいでありんすー」

 

 飛行(フライ)では追いつけず焦るシャルティアが後ろから叫ぶ。ドップラー効果で声が響いて聞こえる。

 

「ははは、なかなか気持ちがいいな。お、もう夜が更けるか」

 

 西に太陽が沈んでいき、星が煌めきだしていた。

 

「夜空の散歩とは・・・・・・贅沢だなーリアルじゃ絶対無理な光景だ」

 

 背面飛行で空を眺めるペロロンチーノにやっとシャルティアが追い付いてくる。

 

「速すぎるでありんすー」

 

 頬を膨らまし不貞腐れるシャルティア。その手をペロロンチーノが取る。

 

「じゃあ、これでいいだろ」

 

 そう言ってシャルティアの手を引いて高速で滑空する。

 

「きゃーーーーーー」

 

 嬉しそうな悲鳴を上げるシャルティア。至高の御方、それも自分の創造主にこうして手を引いてもらえるとは。それに、それはシャルティアにとっても初めて見る光景でもあった。これほどの高速飛行はシャルティアでもできない。ペロロンチーノしか見ることの出来ない音速の空間だ。風を切り裂く音の中それに負けないようにシャルティアが叫ぶ。

 

「私ペロロンチーノ様に作られて幸せです」

「俺もお前を創ってよかったなって思うよ」

「はい!」

 

 満点の星の下、音速の夜空で二人はいつまでも飛び続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 王都の空で飛びまわる《変態》をその場の誰もが見上げていた。貴族たちは矢を射かけるように命令したが、兵士たちは矢が届くわけもなく命令を実行できず困惑している。

 

「やつらは不死身か?」

 

 断頭台にかけられて平気なものなどイビルアイでも聞いたことがない。

 

「マジックアイテムの可能性もあるんじゃねえか?まったくやってくれるぜ」

「心配させて許せない」

「次会ったら殴る」

「っていうか生き返らせてくれた礼くらい言わせろっての」

 

 

 青の薔薇の面々はそう言いながらも嬉しそうだ。

 

「はっ、まったく空ではしゃぎやがって。馬鹿みたいに楽しそうなことだ」

 

 イビルアイは吐き捨てるが、ふと思う。自分があんな風にただ楽しむために空を飛んだのはいつのことだろうか。初めて飛行(フライ)を覚えたときだろうか。

 

「羨ましいの?イビルアイ」

「ラキュースか。羨ましくなんかない。あいつらはただの変態だ」

「でもとっても楽しそう」

「なんだイビルアイ。あいつらが殺されそうになった時泣きそうになってたくせに」

「いや、泣いてた」

「あれは泣いてたね」

「な、なななな泣いてたわけないだろう。ふざけるな、ふん」

「分かりやすい」

「うん、超分かりやすい」

「あいつらもう帰ってこねえのかな」

「さすがに無理でしょう。今のこの状態で帰ってきてもこの国は彼らを受け入れられないわ」

「腹の立つやつだ。別れの言葉も言わせないとは。一方的にさようならだと」

 

 王都の空で舞っていた二人が段々上空へ消えてゆき、やがて見えなくなった。一抹の寂しさを感じる青の薔薇の下へ上空から黄金色の羽が落ちてくる。思わずイビルアイが手に取り、大事そうに抱えながら二人が消えた空をいつまでも見上げていた。


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