ログ・ホライズン “円卓の従者たち” 作:よなみん/こなみん
続きですー
しばらくして、〈三日月同盟〉そしてシロエたちが新しく作り上げた軽食屋、名前は〈軽食販売クレセントムーン〉は〈アキバの街〉最大の伝説となった。
そしてシロエの作戦はこうだった。
「戦力なら大分集めれる。まずは生産系ギルドからだ・・・いや、何よりも彼らが大事かもしれない」
場所は変わりアキバの街の中央近くにある酒場、そこの個室ではギルドマスターであるマリエール、そして会計のヘンリエッタが誰かを待っていた。マリエールは緊張からか、そわそわしていた。
「うぅ・・・うちで大丈夫かなぁ」
マリエールが不安げな声を上げる。シロエが彼女を指名した理由は自分でも分かってはいるようだった。
確かにアキバの街の中小ギルドなら、彼女の知己は多い、今から会う相手もマリエールの知り合いの1人だった。
とは言っても、それは遊びの範疇での話だ。今からするのは遊びの話ではなく、“商談”なのだ。ゲームを介して商談なんてのは、彼女にとっては初経験だった。
彼女は自分の服装のあらゆる所を引っ張って、さらにはおかしい所がないか隅々まで確認する。
服装―つい最近まで装備品として扱ってきたものだが、今では違った。その自由度は高い。
街中で防具で凄そうなんてのはこれまでの〈エルダーテイル〉の仕様であった。しかし、今の〈大災害〉というパッチが入ったこの世界ではかなり街中で過ごしやすかった。
マリエールの着ている服は、白絹のブラウスにマーメイドラインの長いスカートと言う服装だった。肩からはゆるくケープがかけられていた。
この世界においてのファッションの自由度は思ったより高かった。〈エルダーテイル〉は確かに、中世ファンタジー風RPGだが、それもばりばりの古典ではなく、当世風にアレンジされたアートワークを採用していた。
中世ヨーロッパから、現代に至るまでのあらゆる服装文化を持っていた。
「マリエ、おろおろしてはいけませんわ」
隣にいたヘンリエッタが正面を向いたまま声をかける。彼女は慣れているのが、微動だにしていなかった。
彼女はいつものゆるくウェーブした髪に、黒のリボン、たぶんに少女趣味なモノトーンのドレス姿だった。
「大丈夫やろか〜」
「不安になってどうするんですか。交渉事は強気にいかなければ、そもそもこの交渉は簡単なものですよ。失敗してもカバーは入れるものです。後のない交渉じゃありません」
今日マリエールたちが行う交渉ごとの表面は「素材の調達」なのだ。早くも底を尽き始めている素材の補充をしなければ、明後日あたりからがきつくなってくる。
しかし、逆にこの交渉を成功させてしまえば、今後〈三日月同盟〉は調理と販売に集中して取り組むことが出来る。
そのあとは・・・
(そのあとはヘンリエッタもおるし。なんならシロ坊がおる。ここを乗り越えれば・・・きっと)
その時、扉が勢いよく開く。
「や!おまたせっ!」
現れたのは鋭敏そうな瞳をしたプレイヤーだった。彼はアキバの街で第3位の規模を持つ生産系ギルド、〈第8商店街〉のギルドマスター、カラシンだった。彼は気さくに挨拶をして席に座る。
マリエールとカラシンは知り合いだった。一緒に狩りをしたこともある。
それからというもの、2人は2人のギルドを立ち上げてしまったがために、今では共に出掛けることも無くなったが、ギルド同士の繋がりというのは決して弱くはなかった。
そもそも、〈三日月同盟〉と〈第8商店街〉では、方向性が違う。そこで、マリエールは協力してお互いの情報を流した方が便利ではないかと思い、その経緯からマリエールとカラシンは連絡を取り合っているのだ。
「うお、マリエさん怖い顔して・・・それで今日はどんな用なんです?」
そんな関係があってか、カラシンは気軽に声をかけてきた。
(ここからがウチの戦いよ・・・って?レオ坊はどうしたんやろ?ウチらの様子見に来ると思ったんやけど・・・)
◇
マリエールが商談を始めたころ。玲音はあるギルドホールの前まで来ていた。そこはギルド〈西風の旅団〉の拠点だった。
この〈西風〉のような大きい規模のギルドは、大きいサイズのギルドホールを借りる場合が多い。〈D.D.D〉のギルドキャッスルやら。〈黒剣騎士団〉のホールやら。アキバの街には良さげな物件が多かった。その中でも、玲音は〈西風〉のギルドホールに来るのは初めてだった。
今回来たのは、ある人物に会うためであり、シロエに頼まれた伝言を伝えるためでもあった。
昨日のシロエの提案・・・それは「アキバの街に自治組織を作るということだった」というのも、恐らくリアルで言う東北方面にある、プレイヤータウン〈ススキノ〉で起きた事件のことを気にしているのだろう。でなければこんな話はシロエの口からはでない。と玲音は考えていた。
〈西風の旅団〉の拠点。その扉を開けると、そこにはいかにも「和」とも言える部屋が広がっていた。
そしてその端、大将が座るようなスペースにその人物は座っていた。
「レオ先輩!お久しぶりです!」
「レオー、久しぶり〜」
和装を常に着こなすイケメン、その手には刀を持つ〈
その隣に居たのは同じく〈西風の旅団〉そのサブギルドマスターを務めている露出多めの、大きい狐耳と尻尾が目立つ〈
その理由は彼らもまた、〈
「お久しぶりソウジロウ、ナズナ」
「そっちは元気かい?こっちはいつも通りだけどね」
そういうナズナにソウジロウは苦笑いをして反応する。あぁ、ハーレムなのかと考えると、無性に頭が痛くなる。
彼・・・ソウジロウは〈エルダーテイル〉がゲームだった時代には物凄いハーレム体質の持ち主で同性からは妬む者も多いと聞いたが、玲音はあまり嫌ってはいなかった。
ゲーム歴・・・からなのか自分や多くの人のことを「先輩」と呼ぶこの少年を、玲音は嫌いにはなれなかったのだ。
ナズナに関しては、ただのソウジロウにまとわりつく変態だと思っている。だが、それはこの〈西風〉全体を通して言えることだ。この〈西風〉の大半はソウジロウを好きな連中が囲んでいるギルド。故にハーレムギルドと呼ばれる。
「それで?レオ先輩はどうしてここに?」
「ああ、シロさんからソウジロウに伝言があって、それを伝えに来たんだよ」
「シロ先輩が!?で、どんなことなんですか!?」
珍しく食いついてくる後輩に、玲音は〈
差出人はしっかりとシロエと〈三日月同盟〉のマリエールの名前が書かれていた。
「これを・・・ですか?」
「うん。それを読んで。んで書いてあるとおりにすればいい」
「レオ先輩は?これからどうするんです?」
「・・・旅する。頭悪い人はそれなりに働きます」
「待って先輩!是非〈西風の旅団〉に!」
「最近ギルドを抜けたから無理っ。頑張って」
そう言うと止めようとするソウジロウをかわし、〈西風〉のギルドホールを後にする。
外に出れば暖かい日差しが、玲音の帽子をかわして目に入り込んでくる。
時間は昼。と言うよりは、未だにこの世界に置いて時間が流れているのを実感出来なかった。
玲音はゆっくり手を握りしめる。僅かだが力が入って装備品に汚れが着いてしまうが、背後から出てきた妖精たちがそれを綺麗にしてくれる。
装備品の欄から〈
音を出す度に対応した音符が〈
背後にいた妖精たちは初めは遠慮しがちだったがやがてリズムに乗り、踊り出す。軽やかなステップとターンを繰り返し、二人で踊るものも現れる。
時間を忘れるように玲音は引く。その手つきはまるでプロを思わせ。さらには辺りの雰囲気はますます快楽へと変わっていく。
辺にいた〈冒険者〉さらには〈大地人〉も耳を澄ませ彼の音楽を聴く。まるで魅入ったように身体を預けるものも現れる。
――音楽は特別な物――玲音にとって音楽とは自分の快楽を満たすものであり、辺りの人を落ち着かせるものだと考えていた。
「あー・・・今週はいい日になりそうだ。」
そんな微かな予感を胸に、演奏を止めると辺りの人から喝采の拍手が上がる。
それは近くの〈冒険者〉だけではなく。家の中にいた〈大地人〉からもだった。
玲音のサブ職業は〈狩人〉。狩りを専門とする為か、目は良いし、耳もそれなりに発達していた。
「音楽はいいもんだ。神が人に与えずとも、人が作り出した芸術・・・人と人を繋ぐ糸のようなもの・・・だよな」
ゆっくり身体を上げると日が沈み始めるのが見える。お昼の時間は中間か、終わりぐらいを迎えていた。
季節は春。時間の感覚が疎かになるこの頃。玲音は現実の世界でなら夜更かしを普通にしていた。
――しかし。ゲームの世界でも例外ではないようだ。――
睡眠欲はあるし。食欲だってある。性欲は・・・どうでもいいぐらいには失せていた。
(・・・つまり。リアルと変わらないんだな、このゲームはゲームであってゲームじゃない。・・・
が、玲音は瞬時にその考えを否定する。神なんかいるわけが無い。この世界はなんらかの方法で連れてこられたのだと。
しかし、ゲーム的な要素は残ってるとも言える。ステータス、レベル、銀行やギルド会館のシステムはゲームのままだった。ただ、驚いたのは〈大地人〉にも人格があるという事だった。
前に会った姫もそうだし、〈大地人〉には脈があり、知性がある。他の人達がどう考えてるかわからないが、これは感化すべき問題かもしれない。
――いえ。退場してもらいます――
前に聞いたシロエの言葉が頭から離れない。シロエはこの〈アキバの街〉を掃除する気なのだ。
◇
話は遡ること前日。
〈三日月同盟〉と合流した玲音はシロエから事のあらすじを聞いていた。
それは、普通の人間なら考えてはいなかった事だった。
「まずは〈アキバの街〉を掃除する」
それは変哲もない言葉だったが。玲音からしたらありえない事を聞かされているようだった。
話は終わらず。そのまま言葉はゆっくりと紡がれていく。
主に出てきた話は2つ。1つは〈EXPポッド〉の件だった。〈ハーメルン〉というギルドが初心者救済を掲げて、保護した初心者から該当アイテムを取り上げ、各ギルド(主にシルバーソードや、黒剣騎士団)に売買していると聞いた。
考えてみれば出来なくもない話だった。〈大災害〉に巻き込まれた〈冒険者〉は何万といる。その中にはベテランも勿論。初心者もいたのだ。大手のギルドは平静を取り戻そうが、ギルドにも入っていない初心者は確かに平静を取り戻すことは出来ないだろう。その弱みを利用し、初心者をギルドに入れる。アイテム自体はギルドに入ってしまえばギルドの共有倉庫に入れたりと手渡し出来ないだろう・・・そのシステムすら初心者が知るかはわからないが、やってることは外道だと理解した。
シロエはこの件に対して「ギルドを解散させる」と言っている。
2つ目は街の治安について。
前回シロエたちとパーティーを組んだ玲音は実際に街の外でPKと遭遇していた。それもそうだし、シロエが気に入らないのは街の雰囲気だろう。
帰りたい人物。ススキノにいた〈ブリガンティア〉が行っていた人身売買。さらには大手ギルドの縄張り・・・。
なんと言うか、格付けされているこの治安が嫌いなのだろう。「お前はレベル90か」、「お前は30だな」みたいなレッテルを貼ってるようなものなのだ。
故にシロエの話は悪くない。玲音はそう考えてはいたが、やはり現実味が薄いのだ。
確かに「ギルドを解散させる」は有効だし、初心者を救出させる名目で必要だ。しかし、シロエたちで戦うとなると少しきつい。なにせ向こうには大手ギルドのバックがあるのだ。今のままではシロエたちが返り討ちに会うが・・・
「大丈夫ですよ。どうせ勝算はあるんでしょ?だって“腹ぐろ眼鏡”ですもんね」
玲音が出したのはその返事だけだった。特に理由は聞かず、そのまま部屋を退出する。
その後で、シロエの書状を受け取り、各ギルドに配布していた。
かつての〈
それは彼自身が始めた戦いなのだ。否定は出来ない。
それに玲音は緊張感よりも、何故か高揚感が心を支配していた。
(・・・シロさんがこんなこと言うなんてビックリだ。さて・・・この〈
不思議な高揚感と緊張感を心に。玲音は自分の出来ることを探しに街に出た。