ログ・ホライズン “円卓の従者たち” 作:よなみん/こなみん
〈クレセントムーン〉の開店以降、アキバの街は活気づいていた。
たかが飲食、されど飲食である。
今まで味気のないものを食べていたアキバの人々は、あっという間美味い美味に魅了されていた。〈クレセントムーン〉は持ち帰り中心であり、元の世界の基準でいえば、決して大判振る舞いのご馳走では無かったものの、味のない飯を食べていたのか、この世界の美味として迎えられた。
当初は店舗が少なく、供給体制が整っていなかったが、閉店後数日で4店舗目を開店した。
新しいメニューも追加され、これもまた他のメニューと同じに絶賛された。
アキバの街の人々は〈クレセントムーン〉が中小ギルドである〈三日月同盟〉が運営だと言うことに気づいていた。中には中小ギルドが新レシピを独占して・・・と考えもあったがそれは黙殺された。それはゲーム世界では、いち早く戦果を出せたものこそが、と言う考えがあったからだ。
さらに噂として、〈三日月同盟〉が三大生産ギルド〈海洋機構〉、〈ロデリック商会〉、〈第8商店街〉と組んだと言う話が流れていた。
三大ギルドは合計すれば構成員は5000人を超えるという。それはアキバの街に住む人々の3分の1の数字である。
その噂通りか、マーケットでは1部の食材アイテムの取引が活性化して、〈第8商店街〉による買い占めも見られた。
噂話はTVやWEBもないこの世界に置いて噂話と言うのは娯楽のようなものだった。話の中には〈三日月同盟〉のマリエールの名前や、会計のヘンリエッタ、戦闘班の小竜の名前があったが、1部の古参プレイヤーに詳しい者たちは小さな声で、シロエ、にゃん太や〈
◇
あれから数日が過ぎ〈軽食販売クレセントムーン〉はすっかり街に馴染み、その行列は名物となっていた。今でもその行列を捌いていることだろう。
場所は変わり、その行列とは遠く離れた空間。
アキバの街の要ともいえる建築物、ギルド会館の最上階にある巨大な会議室。そこは会館を利用する全ての〈冒険者〉に向け開放された施設だが、電気のないこの世界においてはエレベーターなどただの鉄の箱であり、廃墟と化した16階までの階段を上るような馬鹿は存在しない。
天井の高く、広大な空間の中央にしつらえたのは、大きな円形のテーブル。そこに座っているのはアキバの街を代表するメンバーだった。
〈黒剣騎士団〉の総団長、“黒剣”のアイザック。
〈ホネスティ〉の総指揮を執る、“先生”アインス。
〈D.D.D〉を率いる総指揮官、“狂戦士”クラスティ。
〈シルバーソード〉の若きリーダー、“ミスリルアイズ”ウィリアム。
〈西風の旅団〉のハーレム系ギルドマスターにして、“剣聖”ソウジロウ。
〈海洋機構〉の総支配人にして、“豪腕”ミチタカ。
〈ロデリック商会〉の学者系ギルドマスター、“錬金術師”ロデリック。
〈第8商店街〉の活気ある若者を纏める商人にして“若旦那”カラシン。
〈三日月同盟〉を纏める、“アキバのひまわり”マリエール。
〈グランデール〉の“調教師”ウッドストック。
〈RADIOマーケット〉の凄腕、“機工師”茜屋。
そして、〈
円卓に座った12名の多くは、背後に数名の側近を立たせているので、この空間には30名近くのプレイヤーが集まっていることになる。
集まった面々の表情は様々だった。
不安なもの、無表情なもの、自信のあるもの、わくわくしてるもの(若干1名)全員が昨晩までに届けられた書状によって集まっていた。
書状・・・いや招待状のタイトルは「アキバの街について」差出人はシロエの名前と〈三日月同盟〉のマリエールの連名だった。
ここに集められたギルドはそれぞれ有名なギルドであった。
〈海洋機構〉、〈ロデリック商会〉、〈第8商店街〉はいずれも大手の生産系を代表するギルド。
〈黒剣騎士団〉、〈ホネスティ〉、〈シルバーソード〉、〈西風の旅団〉、〈D.D.D〉は大規模な、もしくは功績を上げてきた実力ある戦闘系ギルド。
〈三日月同盟〉、〈グランデール〉、〈RADIOマーケット〉の3つは規模こそ小さいが、かつては1度失敗した中小ギルドの要となろうとしたギルドだった。
ただ1つ。〈記録の地平線〉だけが誰も知らない、聞き覚えないギルド名である。しかし、ここにいる大手のギルドとなると、情報収集能力もある。シロエの存在に牙を向けるような表情を見せたのは、メンバーの4分の1にも満たなかった。
しばらくして〈三日月同盟〉のセララがよく冷やされた果実茶を給仕してまわる。その飲料は今まで〈クレセントムーン〉で販売されてたものでないために、1部のメンバーは驚くが、その動揺も飲み込むような緊張が続く。
シロエの後ろには2人のメンバーが立っていた。その1人である玲音が隣に立っているにゃん太に小声で話しかける。
「よくまぁ、このメンバーが集まりましたね」
「まぁ、ここまではまだ準備ですにゃ。問題はこの後なのですにゃ」
そう。ここまではスタート地点の準備なのだ。
ここからどうなるかはわからない。歴戦の玲音ですらも、にゃん太ですらも。
シロエは静かだった。しかし、玲音たちからみればシロエは冷静ですらないのだろう。
この会議は戦争なのだ。シロエにとってはそうなのだろう。
今までの大規模戦闘にも劣らない火炎の飛び交う戦場。シロエは熱に浮かれたような火照りと張り詰めた冷気を同時に味わいながらこらえる。
集まったメンバーの大半は妥協を引き出す敵、そうでなければ、少しの味方、どちらにも余裕がないことを悟らせる訳にはいかない。
ソウジロウの話をシロエから玲音は聞いていた。「この世界は牢獄」だと。間違ってはいない。帰れないという絶望。モンスターのいる荒野。無力という名の枷。
(・・・そう言えばアカツキさんや、直継さんを見てない。なにやってんだ?)
しかし、玲音のその考えはシロエがこの空間に向かって放たれた一言でかき消されてしまう。
「お忙しい中集まってくださり―ありがとうございます。僕は〈記録の地平線〉のシロエといいます。今回は皆さんにお話とご相談があってお招きしました。多少込み入った話なので・・・お時間が掛かりますが、お付き合いください」
「適当に切り上げて構わない〈
シロエの開会の挨拶を肯定するような言い方で応えたのは“黒剣”のアイザックだった。日本サーバー生粋の〈
(〈
「なんだってんだ、この場は」
その次に怒ったような声を上げたのは、〈シルバーソード〉の若きリーダー。ウィリアムだった。流れる髪を後方でまとめた「エルフの若君」と言う容姿の青年だ。
短気なのか、脚を何度も組み替えている。
「お言葉なので、早速お話に入ります。ご相談・・・と言うか、提案というのは、現在のアキバの街の状況についてです。ご存知のとおり〈大災害〉以降、僕達はこの異世界に取り残されてしまいました。元の世界に帰れると言う目処はまったくありません。非常に辛いですが、事実です。一方で、アキバの街の空気が悪化している。多くの仲間がやる気を無くしてますし・・・逆に自棄になっている人もいる。・・・経済はボロボロで、探索の効率は上がっていない。この状況をどうにかしたい・・・と僕は考えてます。集まってもらったのはそのためです」
会場に僅かなどよめきが起こる。玲音はキレてその手に武器を持とうとしたが、それは隣にいたにゃん太に止められる。
イライラするような声が周りから上がる。結局は危機感なのだ。これが共有されない限りはこの問題は一生解決されないし、されようとはしないだろう。
そしていくつかのざわめきを抑えるように〈ホネスティ〉のギルドマスター、アインズが質問する。
「それは以前失敗した中小ギルド連合のようなものですか?」
「それは失敗したんじゃねぇの?」
「近いです・・・が、少し違います」
玲音はゆっくりとその当事者たちに視線を向けると、彼らの顔は青かった。無理もない。
まず、中小ギルドの連合についてだが・・・ギルドマスターが話をする事は簡単だ。しかし、実際は不利な点も出てくる。
それは利益と言う言葉で括られる。
彼らの顔が青いのは、自分たちの利益を護るように連合を作ろうとしたからだろう。
この話が上がるということは・・・少なからず、この話が「中小ギルド連合」の続き。そういう疑念があったからだろう。
「今回は少し趣旨が違います。今回は・・・アキバの街の改善についてです」
その直後。シロエの言葉を遮るように席を立つ音が響いた。
「そういうことなら俺らは抜けさせてもらうわ」
立ち上がったのはイライラしていた〈シルバーソード〉のリーダー。ウィリアムだった。彼はマントを翻して席を後にする。
「俺たちは戦闘系ギルドだ。この街のことなんざどうだっていい―ここはアイテムを換金する場所だ。街のことは興味のある連中でやればいい。時間の無駄だと思うけどな」
玲音にはその言葉は、負け犬の遠吠えのようにも聞こえたし、どこか寂しそうにも聞こえた。
ウィリアムが席を後にすると、場の空気はざわめいた。
特に〈グランデール〉、〈RADIOマーケット〉、〈三日月同盟〉の面々の顔は悪い。
しかし、シロエ自身はこの程度は予想内らしく、落ち着いた態度で座っていた。
(・・・手札が1枚落ちたか。だけど〈シルバーソード〉は決して規模の大きなギルドじゃない。多分だけど・・・〈黒剣騎士団〉と〈D.D.D〉が残ればいいんじゃないかな。シロエさん的には)
実際。〈D.D.D〉1つでも〈黒剣騎士団〉、〈ホネスティ〉には対抗できるだけの人員がいる。
(・・・クラスティは様子見って言う感じだな。後ろは・・・うげっ!?高山女史かよ!・・・やだなぁ)
〈D.D.D〉の妖怪と“鋼鉄の女”高山三佐が来たということは向こうは万全の体制なのだろう。冷静に分析し、答えを出す・・・まるで〈
「11席になりましたが、お話を続けます。この場へとお招きしたのは、さっきの〈シルバーソード〉さんが言った通り、アキバの街の自治問題についてです。そして、そのための組織である〈円卓会議〉の結成を呼びかけるためです。当面の目的は2つ―玲音くん」
「あいよ」
シロエに呼ばれた玲音は大きなボードを持ってシロエの横に立つ。〈筆写師〉のスキルで作られた紙を妖精たちと手分けして配布する。
「当面の問題は2つ―1つ目はアキバの街の雰囲気改善。具体的には活気を取り戻す方向に誘導すること、2つ目は自治を改善することです。当面はこの2つを中心に、さらにはこれから出てくるアキバの街の自治に関して問題解決できる機関を目指しています」
言いたいことを言い終え、玲音はにゃん太の方を見る。にゃん太は「グッチョブですにゃ」とアイコンタクトを送ってくる。
(内心ばっくばくですよ班長〜うわぁ・・・高山女史なんてこっち睨んでるしぃ・・・クラスティなんてニヤニヤしてる・・・!怖い・・・怖い!)
場の返答は沈黙だった。それは、参加者同士が互いの返答を探っているような静寂だった。
シロエはスタート地点に立った自覚を持って、周囲を見渡す。玲音もそれは理解出来ていた。
ここにいる人数。全ギルドの人数を合計すれば6000名を超える。街に住む人口の4割だ。
「・・・と。その前にメンバーの選定基準を教えて貰えるかな?」
その静けさを破ったのは、〈ホネスティ〉のギルドマスター、アインスだった。
落ち着いたような中年の青年の雰囲気でシロエに問いかける。
「わかりました。まず、〈黒剣騎士団〉、〈ホネスティ〉、〈D.D.D〉、〈西風の旅団〉の各ギルドは、戦闘系の大きなギルド、もしくは功績の大きいギルドを選ばせて頂きました。お帰りになった〈シルバーソード〉もそうです。〈海洋機構〉、〈ロデリック商会〉、〈第8商店街〉は生産系を代表する三大ギルドとして、〈三日月同盟〉、〈グランデール〉、〈RADIOマーケット〉は小規模ギルドの代表として」
「間違えんなよ。この三ギルドはギルド単体として呼んだ・・・と言うよりは、ギルドに入ってない未加入者や、この席に呼べなかった他の中小ギルドの意見を組み上げた上での選定だ。いくら中小だからってその重みを無視しては・・・いけない」
中小ギルドを参加させたのには反発がくるかと思われたが思いのほか、これは受け止められたようだ。参加者たちは納得するような姿勢を見せる。
ここにいるギルドだけで6000人・・・しかし、未加入者や中小ギルドに加入してる人は9000人は行く・・・。
それ故に、そういった人々の代表として、という趣旨はそれなりに受け止めてもらえたようだ。
「君は?」
言葉を少なく尋ねたのはクラスティだった。〈D.D.D〉の“狂戦士”は、その見た目に似合わない伊達眼鏡をかけていた。
「僕は開発者兼発案者としてここにいます」
シロエは言い切る。
アキバの街の自治会議を開催する。その会議の参加条件がギルドの名声だったり、大きさだとすればシロエにはその資格・・・がない。
しかし、こうでもしなければアキバの街はどうにもならないし、この世界を生きるにあたっての希望が、ない。
「なるほど・・・つまり。その参加資格を得るために私たちをここに集めたのだね?」
クラスティの答えはそんなシロエの意図を正確に察知したものだった。シロエは胸を張って「そのとおりです」と言葉を発する。
「一体どのような手段で治安を維持する・・・」
「そもそも治安の悪化とはなんだ」
・・・周りから疑問の声が上がる。玲音は円卓の机を叩いて周りの声を一気に黙らせる。僅かだが、机にはヒビが入ってしまう。
「・・・治安の悪化ってのは大体わかってんじゃないの?」
「でもPKとかでしたら減っていますが・・・」
声を上げたのソウジロウだった。彼はどこか面白そうな笑顔で玲音に問いかける。
「いえ。これは・・・PKに限ったことではありません。今・・・1部のギルドが〈大災害〉後、初心者を軟禁状態にしている―という問題をご存じですか?僕はそれが健全だとは思えません」
「〈EXPポット〉の件だな――しかし、あれは法に反しているとも言えないが」
“黒剣”のアイザックが出した話題に、「あぁ、やはりその話なのだな」と察してたような声が上がる。しかし、その言い方はどこから暗い思いを持つ言い方だった。
「別に僕達はこの件を、〈EXPポット〉だけに限定していません。問題なのはプレイヤーには現在、法が存在しません。それではこの世界でやりたい放題ではないですか。それでも僕らにとっては利益なんてありません。自分たちさえよければ、ですが」
「それは言いがかりだ。プレイヤーには戦闘行為禁止領域で戦闘をやればそいつには“死”というペナルティが存在する」
「しかし、それは結果であって、“法”ではないです。・・・もっと正確に言うのであれば、戦闘行為禁止領域で戦闘をするなって言うのは“原因”です。その原因に対して“衛兵からの攻撃”と言う結果があるだけです。それはルールとすら呼べない。ただの現象です。僕らが認めた訳でもなく、作り上げたものでもない。そんなものが“法”と呼べるわけないでしょう」
シロエの言葉に口をつぐむアイザック。
〈黒剣騎士団〉は〈EXPポット〉を購入しているとされる大手戦闘ギルドの一つだ。暗い思いを誤魔化すために強弁しているのだろう。
だが、それはシロエにとって最大の障害でもあった。だから全力で切り伏せている。
(と言っても簡単に下がってくれる訳じゃない。アレは確かにレベル90以上を目指したいなら確かに必要・・・って考えてもしまうからな)
〈EXPポット〉はそもそも、このレベルの上がりにくい〈エルダーテイル〉の仕様において初心者救済として支給されるアイテムだ。運営曰く「新しく始めた初心者が中堅プレイヤーに追いつくため」らしい。
大幅に経験量を上げてくれるアイテムともなれば、確かに欲しい理由はわからなくもないが。
(人である権利を無視してまで得るものじゃないからな・・・それじゃあ風俗みたいだ。嫌な・・・)
「例えば、僕は先日。〈ススキノ〉の街へと行きましたが、そこでは〈ブリガンティア〉というギルドがノンプレイヤーキャラクターの若い娘をさらっては売買している現場を目撃しました。ですが、これは先程の話でいえば、“違法”ではありません。衛兵に攻撃されませんから。でも“法”ってそんなものですか?この世界では少なくとも仕様上は可能である。“可か不可か”と言われれば可能です。でも“法”とは違いますよね。問いたいのは僕たちが僕達に対してそれを認めてしまうのか、という部分です。“法”とは本来そういうものじゃないですか?僕らが僕らを握るルールをどこに置くかです」
他のギルドからすればこの言葉は言い訳のように聞こえるだろう。
新人を軟禁しているのは保護のためだとか、〈EXPポット〉を没収しているのは弱い彼らでは補いきれない生活費を稼いでいるとか、少なくとも、彼らはAI仕掛けの人形だから、人権などない。ということも可能だろう。だが、逆に人権があるとは説明できない。
そのそも人権は証明されるものではなく、書き取るものだとは歴史が証明している。
シロエの言葉に参加者たちは口をつぐみ、また、意見を述べる者もいる。代表だけでなく、参謀たちの会話も含めてあたりは騒がしくなった。
この場合意見はふたつに分かれる。
ひとつは法を作った方が良いという意見と。
ふたつ目はそんなものは必要ないという意見。
・・・そのふたつの意見は。シロエのとんでもない方法でまとまるとは、この時は誰も知らなかった。
オリキャラ紹介
PN 玲音
職業〈吟遊詩人〉
HP「9860」
MP「10593」
装備品 〈罪歌を引き裂く天啓〉
説明 “天を引き裂き、歌を伝えた女神が持っていた〈幻想級〉弓。しかし天界によって女神は地へと落とされた為に罪歌という名がついた。一定確率で〈戦闘歌〉の効果を増幅し、さらに〈吟遊詩人〉の中心技である〈マエストロ・エコー〉の再使用時間を短くする効果を持つ。今確認されている弓の中では最高級の装備品。”
装備品2 〈精霊詩の唄帽〉
説明 “詩を愛する森の精霊王が旅人に与えた、自身の羽を折って作り上げた〈秘宝級〉防具。クエストの報酬。
被ることで精霊を使役出来るようになり、戦闘や、生活面でいろいろ活躍してくれるが、玲音は戦わせたくないがために精霊たちを日常生活以外では出していない。また、〈戦闘歌〉の範囲を広げ、効果対象を増やすことが出来る。”