The HERO 〜ロード・オブ・ガロウ〜 (仮題) 作:十五夜の月
ヤバい、久しぶりすぎる・・・
よく通るその声が場に居る全員の意識を集中させる。表情に笑顔はなく、浮かんでいるのは怒り。
砂埃が舞う中で、怒気に身を包んだオールマイトが立っている。
「少し嫌な予感がしてね。
校長先生の話を無理やり振り切ってこっちに来てたら、飯田少年とすれ違ったので何があったかは粗方聞いたよ」
圧倒的な雰囲気をその身に纏い、もう一度声を張り上げた。
「もう大丈夫、私が来た!!」
平和の象徴の登場にある者は歓喜の声を上げ、ある者は僅かに戸惑いの声を漏らす。
「これは、コンテニュー行けるかな?」
「脳無はまだ問題なく使えます。時間は少ないかもしれませんが・・・」
黒霧のワープゲートから手を引き抜いた死柄木は呟きながら怪しげな目でオールマイトを見つめる。
その行動で察した黒霧も緑谷達の近くに開いたゲートを閉じて全神経をオールマイトに向けた。
「殺れ、脳無」
たったの二言、それが戦いの火蓋を切る。
一瞬にして移動したオールマイトの拳と、同じく一瞬で移動した脳無の拳がぶつかり合う。
「なるほど。中々のパワーじゃないか!」
「楽しめよ、オールマイト。脳無はお前専用のヴィランだ」
「悪いが楽しむつもりは一切無いぞ!」
お互いの連打のなかに生まれた僅かな空白。そこを見逃さずに距離をとったオールマイトは力強く叫ぶ。
「カロライナ スマッシュ!!!!」
段違いのスピードで駆け抜けると同時に、全てのエネルギーが乗ったクロスチョップが叩き込まれる。
が、脳無は少しも怯まなかった、やはりダメージもない。
「これが君の個性か」
「・・・・・・」
オールマイトの言葉になんの反応も示さずに両手を掴み取る。
「高いパワーに私の攻撃の無効化・・・。専用とはそういう事か」
「その通り。脳無の個性はショック吸収、改造サンドバッグ人間だ。倒すなら・・・そうだなゆっくり肉を抉りとるとかが効果的だぜ?」
「随分と親切じゃないか・・・しかし、私は残虐なのは嫌いでね!ゆえにこうさせてもらおう!!」
掴まれた腕を振りほどき脳無の腰をガッチリと掴むと、野太い気合いの声と一緒にバックドロップで地面に叩きつけた。
衝突音と衝撃、砂煙が周りに一気に広がり、その威力を良く伝える。
だが、結果は想像と異なった。
「な、るほど・・・これは想像してなかったな」
「・・・・・・・・・」
「脳無を地面に突き刺して動きを止めようとしたのか。いい考えだと思うぜ、俺達が相手じゃなけりゃな」
地面に頭から叩きつけられた脳無の腰から上の上半身がワープゲートを通り、オールマイトの腹部を力一杯に掴んでいた。
黒霧の機転により一瞬の間に攻めたてていた状況が一変し、ピンチとも言える状況にこわる。
「脳無の役目は貴方を捕らえること。そして貴方が中途半端にゲートに入ったところでゲートを閉じ、引きちぎるのが私の役目!」
「どうしたオールマイト。NO.1ヒーローって言ってもこの程度か?このままじゃ死ぬぜ?」
「私の中に血や臓物が流れ込むのは嫌ですが、貴方ほどの物であれば喜んで受け入れましょう!」
死柄木と黒霧、二人からの声を浴びせられるオールマイトは必死に脳無の腕を振りほどこうとするが自身のパワーを持ってしても振り解けない。
さらに隠し続けている古傷に脳無の指がめり込み絶えず激痛がオールマイトを襲っていた。
それに、時間も残り少ない。
ーーーこれは・・・想像以上に不味い!!
だが、不意に手の力が緩む。
次いで爆音。
「っ!?」
「邪魔だ退けデク!!」
「グオッ!?」
オールマイトの視界に飛び込んできたのは駆け寄ってきた緑谷とそれを飛び越えて爆撃を浴びせた爆豪と少し離れた位置にいる切島。
そして、轟が個性を使用して脳無を凍らせていた。
この機会を見逃すことなくオールマイトは脱出し、敵で無事なのは死柄木ただ一人。形勢は一気に逆転した。
「おっと!動くなよモヤモブ。少しでも動いたと俺が判断したら即座に爆破するからな!」
「セリフが完全にヴィランのそれだぞ爆豪」
「半身凍らせたからこのデカいのも動けねぇはずだ」
無事なのは死柄木ただ一人。
全員の視線が死柄木に向けられる。
「あ〜あ、子供だってのに優秀だな。一気に俺達がピンチじゃないか。
年上のこっちが恥ずかしくなる」
しかし、その表情は追い詰められているというのにどこか余裕が見え隠れしている。
「おい、脳無。起きろ」
はっきりと口から発せられた言葉はよくその場に通った。そして、ほとんど間を開けることなく氷漬けの身体を砕きながら脳無がムクリと起き上がったのだ。
痛みは感じないのか、自分の体を砕くことに抵抗を感じないのか。明らかに感情というものを一切持ち合わせていないだろうその行動は、見るものに嫌悪感と僅かな恐怖心を植え付ける。
「四人とも、逃げなさい」
それを見たオールマイトが四人の前に立ち、拳を構えた時、
脳無が真横に吹き飛んだ。
「なっ!?」
驚きの声を漏らしたのは死柄木、そして声を漏らさずともこの場にいる全員が予想だにしない現象に驚きを見せる。
「揃いも揃って、時間掛けすぎ」
新たな声に視線を向ける。
吹き飛んだ脳無を視界に入れ、一同は更に驚愕した。
「まぁ、タイミングよく交代できたから俺としては願ったり叶ったりだが」
どこから現れたのかガロウが片腕で脳無を地面に叩きつけ、血走った目で睨みつけていた。
先程、脳無と戦い吹き飛ばされた時とは段違いの闘気が迸っているようにすら思える。
「お前・・・脳無に殺された筈じゃ!なんで生きてやがる!?」
「あれぐらいで死んだと思ってたのかよ?随分と温いんだな、ヴィランって」
「っーーー脳無!そのガキを今度こそ殺せ!」
声になっていない雄叫びを上げてガロウの腕を払い除けた脳無。しかし、立ち上がった頃には目の前に立っていたガロウは既に後ろへと回り込んでおりーーー。
「シッ!!」
回転を加えた鋭い突き、空気を切り裂く音と共に幾数発も打ち込んでいた。最後の突きから脳無が振り返るよりも僅かに早く首を掴み、投げ飛ばし、地面に叩きつける。
が、それだけやってもハッキリとしたダメージもなく怯む素振りすら見せないのは、流石は改造敵と言ったところだろうか。
「クククッ・・・」
僅かに喜びの感情がガロウの口から漏れ出す。
この興奮、と言うよりも喜び。常識を外れるほどのタフネス故に、自分の力をある程度出さなければいけない事をガロウは喜んだ。
ーーー丈夫な
離れたところでコチラを馬鹿にしたようにさけぶ死柄木の声も、ガロウの身を心配し叫ぶオールマイト達の声も自分にとっては不要なものであり、この状況にとっての不純物でしかない。
全神経を目の前の敵に向ける。
いつまで続くか分からない、つかの間の戦闘を楽しむために。
ーーー
正面から向かって来るテレフォンパンチを流水岩砕拳で受け流すことなく、正面から拳で迎え撃つ。
衝撃が腕を伝わって身体に響いてくる。今まで流水岩砕拳で流していただけの、この敵の純粋なパワーが感じ取れた。
自分と敵を中心とした硬質な物体がぶつかり合う音が広がり、次いで衝撃波で周りの者達が吹き飛ぶが気にも止めない。
「やっぱりこうじゃねぇと!」
しゃがみ懐に入り込み、
「個性は身体能力の延長ってどこかで聞いたが・・・・・・お前は何処まで持つ?」
一撃必殺、と言うよりは息もつかせぬ程の連撃に攻撃は変わっていく。
時に脳無の攻撃を避け、流し、脳無の身体を自分の拳で打ち、斬り刻む。
打たせずに打つ。
正しく武の理想を実現しているガロウを誰もが息を呑んでただ見ていた。オールマイトですら付け入る隙を見つけられぬ程である。
僅か三分足らずでガロウの攻撃が千を超えた頃、変化が起き始める。
「脳無が・・・押されてるだと・・・!」
ガロウが一歩前に出れば脳無は一歩後ろに下がり、脳無が後ろに下がればガロウは前に出る。
ジリジリと脳無が押され始めている。一歩、また一歩、脳無が下がる事に無数に打ち込んでいる拳からは今までに無かった手応えが少しずつ増え、伝わってくる。
個性の力が弱まってきている。
なら、ここが勝機。
「ふん!!」
力の込められた突きが脳無の身体を数m後退させ、ガロウは一瞬の呼吸のあとすぐさま距離を詰める。
攻撃が変化する。
拳を躱し、流しながら打ち込む。
強く、鋭く、深く、重く。
脳無の身体を打つ、ただひたすらに。
大きく脳無の体勢が崩れ、ハッキリとした手応えが感じられた。
「じゃあな、久しぶりに楽しめた」
大きく息を吸い込み、自身の両脇に両手ーーーーー流水岩砕拳と旋風鉄斬拳を構えて全力でーーー打ち込む!!
ーーー
更新久しぶりすぎた!
これから本気出す!!(多分)