The HERO 〜ロード・オブ・ガロウ〜 (仮題)   作:十五夜の月

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あけましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いします!

新年明けてから一週間経ちましたが新年初の投稿です!
今回から体育祭編の始まりです!


始まるよ、雄英体育祭
挑発


 

 

 

 空を切り裂き、腕を振るう。

 地を踏みしめ、足を振るう。

 他に誰の姿もない海岸で風きり音と砂の擦れる音、僅かな息づかいの音だけがガロウの耳に入る。

 正拳を空に打ち込み、動きを止めた。

 

「・・・まだ、前の感覚とズレがある」

 

 構えを解いて砂浜にストンと腰を下ろし考え込むその顔は、なんとも言えない表情。

 

「身体能力は上がっていたが、それは最低値が底上げされてただけ、か・・・」

 

 あの脳無との戦いで分かった事は幾つかあったが、その中でもガロウにとって重要だったのはそれだ。

 身体能力の最低値は上がっている。しかし、それに対して最大値は下がっていたのだ。それに気付いた時は自分の早計さを恥じた。

 あの戦いでの最後の一撃、本来であればもっと威力があった筈なのだ。

 ムラが少なくなると言えば聴こえは良いかもしれないが、ガロウに至ってはムラなど殆ど問題ではないので関係ない。

 

「鍛え直しか・・・」

 

 が、別に面倒だとは思わなかった。

 常人以上にストイックだからなのか、ガロウは一から鍛え上げれる事を喜んだ。

 今はヒーローとしての新しい人生をスタートした所なのだから、丁度いいと思えたからかも知れない。

 

「完成してる、ってのも詰まんねぇ」

 

 やるなら、とことんやる。

 思い出すのは圧倒的だったあの力、異様な存在感。が、それと同時にムカつくあほ面まで脳裏に浮かんできたため思考を中断。

 高く、分厚い壁、今は乗り越えることもぶち壊すこともイメージ出来ないが、何れにしろ超える。

 超えてやる。

 

「さてと、帰って登校の準備をするか」

 

 立ち上がり、身に付いた砂を払い落とす。

 新たな決意を胸に、水平線から登る朝日を背に、ガロウは歩き出した。

 

 又、新たな一日が始まる。

 

 

 

 

 

 

 ◎

 

 

 

「おっすガロウ!って、朝から爆睡か?」

 

 降ってきた声により意識を覚醒させる。

 僅かに顔を上げるとそこには見慣れたクラスメイトが居る。

 

「・・・・・・醤油、顔」

 

「せめて名前で呼べよ!?」

 

 身体の節々を軽く動かしながら早く登校したので寝ていた事を思い出す。

 周りを見ればクラスメイトの全員が教室に揃っていた。

 

「よう、拳獣!怪我はもういいのか?」

 

「・・・赤髪」

 

「外見で!?自己紹介したよな?切島だ」

 

 少し冗談を言ってみれば思った通りの反応が返ってきた事に笑う。

 それを見た切島と瀬呂は自分達がからかわれたという事に気付いた。

 

「・・・わざとだな?」

 

「やっと気付いたか?」

 

「お前なぁ・・・」

 

 呆れた様な表情を浮かべながら二人、特に敵との戦い、脳無とガロウの戦いを間近で見ていた切島は元気そうなガロウの姿に安心した様である。

 あの状況をなんとも思わなかった者など、オールマイトを含めて誰も居なかったのだから。心配する事は当然でもあった。

 残念ながらガロウ自身はそんな事を気にもしていないが。

 

「みんなぁ!席に着くんだHRが始まるぞ!!」

 

 急な飯田の大声がクラスに響く。

 USJでの一件後、彼の中で何が変わったのかもしれない。・・・いや、元から彼はああいう人間だ。

 

「おはよう」

 

 そして一分と経たないうちにチャイムがなり教室のドアが開き、クラスメイトのほとんどが目を見開いた。

 包帯でグルグル巻きにされた担任が入ってくれば、誰だって驚くだろうから。

 だがアレは見方によればかなり怖い。相澤の鋭い目付きも合わさって怖い。まるでダークファンタジーなゲームに出てきそうな敵キャラだ。

 

「相澤先生、復帰はや!!」

 

「ミイラマンだ、ミイラマン!」

 

「無事だったんですね!」

 

 ガロウのなんともない様子を見たせいか、相澤の姿を見た時のインパクトは凄かったようだ。

 

「俺の心配はいい、それより・・・」

 

 戦いはまだ終わっていない。

 シンッ、と教室が静まり返り、何人かは不安で表情を曇らせた。

 

「雄英体育祭が迫ってる」

 

「「「クソ学校ッポイの来たー!!!!」」」

 

 クラスの雰囲気は一転。

 割れんばかりの声で溢れ、ガロウは素早く手で耳を抑えた。

 それよりも気になる事が一つ。

 

「敵に侵入されたところなのに大丈夫なのか?」

 

「だからこそだ。拳獣の言うことも無論わかるが、学校側としては開催する事で逆に磐石だということを示したいらしい。

 警備も例年よりかなり増やすからな」

 

 続けられた相澤の説明によると、そう易々と中止に出来るものでは無いらしい。

 たかだか体育祭と思っていたガロウの考えは間違っていたようだ。

 

「拳獣さんは興味ないんですか?全国のトップヒーローも見ますのよ?」

 

「まぁ、楽しむよ」

 

「そ、そうですか」

 

 返答が思いもよらなかったのか声を掛けてきた八百万との会話はそれ程続けられたなかった。

 

「各々どんな心構えでやろうと個人の勝手だが、年に一回、計三回の少ししかないチャンスだ。それを棒に振るかどうかはお前達次第だからな」

 

 相澤は話を区切り、ホームルームを終わらせる。ガロウはそれを確認すると腕を枕にして再び眠りについた。

 

 

 ◎

 

 

 

 時間というものはあっという間に過ぎ去っていく。いつも通りに授業は進んでゆき時間は既に放課後。

 そして何人かのクラスメイトが帰路につこうとしていたが、出来ないでいた。

 何故なら、

 

「な、何でこんなにも人が集まってんだ!?」

 

 教室の前の廊下は他のクラスから集まったであろう群衆に埋め尽くされていたからである。

 

「な、なにごと・・・」

 

「何かやったか俺達!?」

 

 何かあったか何かやったか、何人もが考えるように呟く中でただ一人、爆豪だけが何時ものように鞄を担いで出口まで歩いていき面倒そうにいう。

 

「敵情視察だろ?ヴィランの襲撃に耐えたやつがどんなのか、体育祭前に見に来たってハラだろな。

 意味ねえし邪魔だ、どけモブ共」

 

「おめぇは知らない人を取り敢えずモブって呼ぶのやめろ!」

 

 その言葉で群衆が向ける非難の色が強まる。

 

「随分と偉そうだな。ヒーロー科の奴らって皆こうなのか?」

「あぁ!?」

「ちょっと幻滅しちゃうな」

 

 面と向かって真っ向から爆豪に言った男子生徒、時々見かけるB組の生徒では無い。となると普通科かサポート科。

 少なくともヒーロー科ではない生徒が爆豪に突っかかっているのを見て、ガロウは少なからず興味をそそられる。

 

「知ってるか?体育祭の結果によっては普通科や他の科からでも、ヒーロー科編入も検討してくれるんだぜ?逆もまた然りだけどな。

 少なくとも俺は、調子乗ってると足元掬ってやるぞってーーー宣戦布告に来たんだよ」

 

 中々良い啖呵をきったその男子生徒は言いたいことは言い終えたようで場をあとにした。

 

「おうおうおう!!

 隣のB組のもんだけどよ!えらく調子づいちゃってんなオイ!!

 本番で恥ずかしいことなっても知らねーぞオイ!!」

 

 非難の声が増える中、爆豪は気にする様子もなく人混みを通って帰ろうとする。

 

「ちょい待て爆豪!おめーのせいでヘイトが集まりまくってんだが?」

「知らねーよ」

「・・・は?」

「上に、頂点に立ちゃ関係ねぇ」

 

 いつもの様に不遜な態度を貫くその姿勢。この状況でもそうあれる爆豪に感心したガロウは短く口笛を吹いた。

 それに気付いたのか少しガロウの方を見て睨みつけ、直ぐに人混みを通って帰ってゆく。

 

「ま、そういう事だな」

 

「ガロウ!?お前まで?」

 

 同じ様に鞄を担いで出口まで向かうガロウに、これ以上悪い印象を与えないでくれと上鳴から心配する声が漏れる。

 しかし、ガロウは発破をかけるつもり満々。

 

「敵情視察、大いに結構。宣戦布告、大いに結構。勝つために情報を集めるのも、自分を追い込むのも悪くない。

 だが、ここに居る殆どのやつはなんだ?」

 

 言葉を続ける。

 

「殆どが興味本位で見に来ている。大した目的もない。さっき啖呵をきった二人のような心構えのやつが何人いるか。

 行動に心が伴っていない、形だけ。

 こうやって見に来ただけで俺達の手の内が分かるのか?違うだろ?」

 

 一度言葉を区切り見渡せば、群衆もクラスメイトも黙ってガロウに意識を向けている。騒ぎに気付いてやって来たであろう教職員も群衆の後ろから黙ってガロウの事を見ている。

 ガロウは気にせず口を開いた。

 

「今のお前らがすべき事はなんだ?俺達の外見を眺めるだけか?

 勝ちたいと思ってないのならそれでいい。だが、少しでも勝ちたいと思ってるなら一度取るべき行動を考えろ。晴れ舞台で恥かいても知らんぞ?」

 

 まぁ、お前らの勝手だけどな、と付け足して群衆の隙間を縫い歩き廊下へと出て帰路につく。

 

「・・・・・・これで少しはやる気出せば良いんだけどな」

 

 先の挑発が効いていれば万々歳。

 多くなくても骨のある者が出てきてくればいい。せっかくの催し物なのだ、退屈でない方が良いに決まっている。

 僅かな期待を胸にガロウは歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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