The HERO 〜ロード・オブ・ガロウ〜 (仮題) 作:十五夜の月
待たせてしまってすみません。
「そっち行ったぞ、轟」
「職場体験中はヒーローネームで呼べよ」
わざと逃がしたひったくり犯を轟の個性で凍らせて動きを止める。いつ見ても思うが、個性威力も範囲も広く応用の利く個性だ。
動きを止められたひったくり犯に手刀を打ち込み気絶させる。
「どうもまだ慣れないな。ヒーローネームで呼ぶってのは」
「だからって、何時までもそれじゃ困るぞ」
「分かってる分かってる」
サイドバックから拘束用の縄を取り出して拘束、離れたところで様子を見ていたエンデヴァーに視線を向ける。
「中の上、と言った所だな。だが、思ったよりも実践慣れしているのは良い」
「中の上かよ…厳しい評価だことで」
「おい、あまり浮かれるなよ。確かにお前は出来る奴だが、それは学生での話だ。それを肝にめいじておけ。それから、年上には敬語だ!」
敬語は苦手だった。他人の下に着くこと、誰かに何かを決められることが苦手なガロウにとって、敬語とは縁遠いものであった。
それを予想して更生に定評があるベストジーニストが、爆豪と一緒に指名を入れていたがもはや関係の無い話だ。
「親父、警察に引渡し終わったぞ」
「ご苦労!ここまでの一連の流れがヴィランが出た時に対する基本的な動きだ。今回は雑魚なヴィランだったが、個性によっては周りに甚大な被害が出ることもある。
覚えておけ!被害を出した時点で、ヒーローは負けだと心得ろ!殺すことはならんが、容赦はするな!舐めてかかればしっぺ返しをくらいかねんからな」
エンデヴァーの話に耳を傾けながら、少し考える。ガロウは何度か耳にした事がある、ヒーローで在るならヴィランを殺しても負けだと。
ぬるい。正直にそう思った。
「さて、次にヴィランが現れた時は俺が捕縛する。二人はよく見ておけ」
歩いていくエンデヴァーの背中を見ながら、ガロウはゆっくりと後に続く。
ともあれ目の前を歩くこの男。流石はNo.2なだけはあり、かなりの実力者である事を直接見たガロウは実感した。
個性の使い方は今まで見てきた者たちの中でも抜きん出ているように感じる。そして何より容赦はなかった。
「ふんっ!!」
死ぬほどの威力にないにしても、吹き荒れる炎を躊躇い無く浴びせるその姿に容赦という言葉はない。
ぬるい、ガロウは先までのその考えを撤回することにした。
◎
事務所に来て早々、ガロウと轟の二人はエンデヴァーの居る部屋に呼び出された。
「さて、悪いな早くに来させて」
「別にいいさ、適当な理由じゃなければ」
「相変わらず生意気なやつだ」
僅かにイラつきを見せながら発せられた言葉を受けてもガロウは態度を変えようとしない。注意が無駄であることを理解したエンデヴァーは話を切り出した。
「保須市に向かう」
「ヒーロー殺しか」
ガロウは直ぐにエンデヴァーの目的を導き出した。ここから離れている保須市に向かうとなると、そのぐらいしか思い浮かばなかったからだ。
「なるほど、だから俺を呼んだのか」
「察しがいいな。奴の事は知っておく必要がある。何か知っている事があればここで全て話すんだ」
「そうだなーーー」
少し時間をかけてあの時の出来事、ステインについてのこと、特徴などを話したがその殆どが既に被害にあったヒーローからの証言と一致していた為に有効な手掛かりというものではなかった。
特に、個性が何なのか分かっていないのが悩みどころだ。
体育祭で心操という少年を見てから、ガロウの中で個性に対する考えが大きく変わった。
「身体が動かなくなる個性。それは分かっているが、一番重要な発動条件が分かっていない」
これはステインにとって大きなアドバンテージだ。初見殺しの可能性が消えてない以上、戦闘において飛び抜けているガロウだとしても自身が足を掬われる可能性はないと言えない。
「粛清などと巫山戯た事を言っているらしいが、全く厄介なやつだ」
「それでも捕まえに行くんだろ?」
「当然だ。ヴィランを退治する、それがヒーローなのだからな」
しかし、その様な厄介なヴィラン退治に職場体験中の学生を連れて行く判断は少し意外に感じた。
「普通ならお前や焦凍を連れて行く案件ではない。だが、多少は危険でも見ておくべきだ。厄介きわまる本物の悪とヒーローとの戦いが何を意味しているかを」
だそうだ。
何を思ってそう言ったのか分からないが、一応覚えておくことにしよう。
こうしてエンデヴァーと何人かのサイドキックと共にガロウ達は保須市に向かう。
「ステインか……」
保須市に向かう移動中、ガロウは考えていた。思う事は幾つかある。
相対したのは時間にしてさほど長くはなかったが、何かと感じる事はあった。
似ている。しかし、昔の自分自身とは違ってガロウに踏み越えられ無かった一線を踏み越えている。
あの頃の中途半端な自身とは違う。
本物だ。
そこに至るまでの何があったのか分からないが、折れることの無い芯を、覚悟を持っている。
それが未だ自分には足りないもののように感じた。
自身が求めるものと同じなのかは分からないが、確かめる価値は多いにある。
「戦えば何か分かるか……」
言葉で語るのは得意ではない。ステインもそうだろう。次に二人が出会えば起こるのは戦い、そしてそれを望んでいる自分が居る。
焦がれている。
柄にもない考えに笑いそうになりながら、その感情は心の中に留めておく。
どうやって上手く行動するかを考えながら、ガロウはゆっくり目を閉じた。
◎
ゆっくりと目を開ける。
風が頬を撫で、音が鼓膜を揺らす。見下ろせば、目に入ってくるのは繁栄している街並みと、そこを歩く人々。
そして、憐れな偽物の姿。
「ハァ……あいつも偽物か……」
多すぎる。拝金主義の塵芥共が。
だが、ふと思い出す。アイツは違った。
おもえばここ最近はよくあいつの顔が脳裏に浮かび上がってくる。
「拳獣ガロウ……」
獣のようにギラついた目をしていたが、中々に真っ直ぐな目でもあった。
なにより自身に似ている。
外見がどうのこうのという訳では無いし、そもそも根拠や理由がある訳でもない。だが、直感が囁いた。
いや、直感よりももっと確かな事かもしれない。
「ハァ……俺を……焦がれさせるか」
あの時は時間切れにより多く言葉を交わすことは出来なかった。だが、元から言葉で伝えるのは苦手、なら一戦交えた方が分かることが多いだろう。
アイツが自身に似てると思うからこその考えではあるが。
「ハァ……アイツがヒーローを目指すなら……何れは何処かで交わるだろう」
これ程に焦がれる者はオールマイト以外に居なかった。いや、ガロウに対する思いはオールマイトのそれとは少し違う。
「ッ……」
思考の海に沈みかけていた意識が無理矢理に引きずり出された。急に現れた背後の気配に向けて、視認するより先に刃を向ける。
「この刃物をこちらに向けないで頂けますか?」
「ハァ……何者だ?」
「突然申し訳ございません。私、ヴィラン連合の黒霧と申します」