The HERO 〜ロード・オブ・ガロウ〜 (仮題) 作:十五夜の月
またしても、またしても、お待たせしてしまった。
ごめんなさいです。
あちらこちらから聞こえてくる悲鳴が鼓膜を刺激し、あらゆる情報を伝えてくれる。
だが、ガロウはの脳内にそれらの情報は入ってこない。ただただ、目の前の異形に対して全神経を集中させていた。雄英高校を襲撃した異形、脳無だ。
「黒い色にその姿……脳無ってやつか?」
「ーーーーーー」
喋る機能を持ち合わせていないのか、喋ろうとしているのか、返事の代わりに低い唸り声を喉から響かせる。
エンデヴァーに連れられてやって来た保須市で何か起こるような気はしていた。再びステインに出会うことになると予想していたが、出てきたのは黒い色や白い色をした異形達であった。
そこからこの街がパニックに飲み込まれるまで、それ程の時間は掛からなかった。
「おいおいっ!いきなりかよ!」
「ーーーー!!」
弾き出されたように巨体が飛びかかってくる。咄嗟の判断で流水岩砕拳を使い、勢いそのままビル壁面に叩きつけた。
充分に開けていた距離を一瞬で詰めた速さに対して、ガロウは僅かに警戒する。今の速度は明らかにUSJに来た脳無よりも速かった。
(まだまだ余裕で追えるスピードだが、逃げられたら面倒だな)
自分が逃げることより、目の前の獲物が逃げることの心配をガロウはしていた。この瞬間を堪能したい想いが思考を埋めている。何故かヒーロー達やそのサイドキックがやって来ない状況も好都合だった。
勿論、周囲に被害を出さない為にもここから逃がさないと言う考えもあるが、戦闘欲求に比べれば毛程のものである。
「やっぱり起き上がるよな」
少しもダメージを受けたように見えない脳無はゆっくりと瓦礫から抜け出て来る。
それを確認してガロウが再び構えたその時には、既に拳は目前まで迫って来ていた。
だがその動きもガロウは捉え、拳を躱しながら脚を振り上げて顎を蹴り上げる。まるで金属同士を叩きつけた様な音が響き、僅かに脳無の巨体が揺らいだ。
だと言うのに、巨大な拳が振り抜かれる。下手に避けようとせずに、衝撃を受け流しつつ拳を受ける。力に逆らわずに後ろに跳んだのでダメージは無いが、予想よりも速い速度で今度は自身が吹き飛ばされ、ビル壁に叩き付けられた。僅かに受け身がずれる。
生じた隙を狙い、脳無が突いてくる。
「体勢を整えるには充分だ」
吹き飛ばしたのは脳無の判断ミスとしか言えない。僅かな距離、僅かな時間がガロウに迎撃の態勢を余裕で整えさせてしまったからだ。
右、上、上、下ーーーーーー、怒涛の連撃が途切れること無く振るわれるが一つとしてガロウに届かず空を切る。
一歩、また一歩、ガロウが前に足を進めれば比例するようにジリジリと脳無はその足を下げる。
「ーーーーーーっ!!」
痺れを切らしたのか、言葉にならない様な声を上げて振り下ろされた大振りの一撃。当たれば重症を負いそうな威力が秘められてるであろう攻撃は、非常に隙だらけだった。
横から強めに弾いてやれば、更に大きな隙が生まれる。隙が隙を生じ、ガロウに絶好の機会を与える。
冥躰鳳昇拳+正中線五連突き
異形の体躯故に正確かどうかの判断はつかないが、人間にとって急所にあたる部位を的確に打つ。
金属を打った様な音が再び響く。異様な手応えと、接触時の感触が伝わってくる。
ーー硬いな。
顎を蹴り抜いた時と同じ感触、切島の個性よりも更に強固な硬い皮膚が威力の殆どを削ぎ落としている。
クロビカリとやり合って直ぐの時はこんな感触だっただろうか、とガロウは思い出す。
だが、まだあの時程の力はない。
迫る連撃を受け流しながら、ガロウは脳内で如何にしてこの獲物を仕留めるか考えた。
◎
「なぁ、先生よ。わざわざあのレベルの脳無を持ち出す必要があったのか?」
「ふふふ、ドクター。君がそれを言うのかい?ウキウキしているのが手に取るように分かるけどね」
言っている僕自身がウキウキとしているのは内緒だ。こんな気分になったのは弔を見つけた時以来だろうか。
初めて彼と言う存在を知ったのは、弔が雄英高校を襲撃して帰ってきた時だ。
脳無が一人の生徒に潰されたと聞いた時は、半信半疑だった。
オールマイトを倒す為に作り上げた、ドクターの傑作と言ってもいい黒脳無。個性の相性によっては有り得ない話ではないだろうけども、黒霧の話ではそういう訳でも無かったらしい。
「けど、コレを見てると嘘じゃないのが分かってしまうね」
本来の僕の目は無く視覚が潰れてしまっているが、よく見える。
笑みを浮かべて脳無に向かってくる、拳を打ち出してくる、脳無の攻撃を全て弾きとばし、逆に全ての連撃を打ち込んでくる。
強力な硬化の個性を与えている筈だが、僅かであってもダメージを与えている。
表情から焦りの色は窺えない。如何にして脳無を倒すか、この状況で焦ること無く観察しているようだ。
なるほど、学生レベルではない。プロヒーローとてここまで冷静には居られない。恐らく彼は、戦いの中で生きる事に慣れている。
「面白い子じゃないか、まったく」
◎
「やっとその硬さにも慣れてきた」
何分も闘っていく中でガロウは既に攻略法を見抜いていた。この脳無、硬いは硬いが常に硬い訳ではなく、硬化する時に僅かだがインターバルが 存在しており連続での硬化の維持は出来ないようだ。
その僅かなインターバルで打ち、斬る。再生の個性は持っていないのか、徐々に徐々に傷が増えていく。
「ラストスパートだ!」
ギアを上げる。
連撃の回転率が上がっていく。
攻守の立場は完全に明確化され、もはや脳無に出来ることはない。
だが、思い通りにいかないのが闘いというものであるのなら、コレも当然の事なのかもしれない。
「そこの少年!今すぐ離れろ!!」
「職場体験の雄英生徒発見、これより保護します!」
やって来たのはヒーロー、若しくはそのサイドキックと思われる二人だった。
やっとの援軍の到着だったが、喜べない。既に脳無がそちらに向けて駆け出していた。新たな脅威を排除するためか、ガロウよりも倒しやすそうと思ったからなのかは分からないが、確実に脳無はやって来た二人に敵意を向けている。
「っ!」
「はやっ!!」
拳を振り上げる脳無に対して二人は反応できていない。隙だらけな二人に脳無の拳が迫っていく。
だが、そんな脳無自身にも拳が迫っていた。
「隙だらけだぞ、お前」
ガロウの拳が、炸裂した。