The HERO 〜ロード・オブ・ガロウ〜 (仮題) 作:十五夜の月
「大丈夫……じゃ、無さそうだなあまり」
「けれど……何とか、なった」
「本当にすまない。轟くん、緑谷くん」
路地にて血を流すも戦いを終えた三人がいた。緑谷と轟、飯田の三人、その背中には重症のヒーローを背負い、ロープで縛ったヴィラン、ステインを引きずっている。
「それ以上言うな飯田。もう終わったんだ」
「そうだよ飯田くん!話してくれなかったのはちょっと悲しかったけど、三人とも無事だったんだし」
「あぁ……ありがとう」
お互いがボロボロ、どこから見ても大丈夫では無いがそれでもステインを倒し境地をくぐり抜けた三人は笑っていた。
だがそのうちの一人、緑谷の顔に何処からともなく飛んできた、蹴りが。
「小僧!!」
「ひぎっ!?」
「座ってろと言っただろうが!」
「緑谷くnーーーー」
「焦凍ぉぉぉ!!お前まで急に俺から逸れるとはどういうことだァ!!」
いきなり現れて蹴りを放ったグラントリノに対して飯田が緑谷の事を呼びきる前に、今度はエンデヴァーが轟の名前を呼びながら現れる。
暫くのやり取りの後、ステインや怪我をして背負われているプロヒーローの姿を見て二人はある程度の現状を把握した。
緑谷には再び蹴りが入れられた。
「とにかく今は現状の解決が先だ」
「ご老人、それなら既に問題ないだろう。確認されている脳無は無力化してある」
「親父、ガロウの奴はどうなったんだ?」
「交戦中だ。サイドキックを何人か行かしている。俺もこれから向かう所だ」
「なら俺も!」
続けようとした言葉は、エンデヴァーによって止められた。
「焦凍、お前達は少し今の自分の立場を理解しろ。お前達はまだひよっこだ。ここは俺達プロに任せておけ」
「緑谷、お前もだ。また勝手に動くんじゃないぞ!」
そうして二人のプロは駆け出そうとした。だが、二人のその動きは予期せぬ自体によって阻まれることになる。
何か大きな物が風を切る、そんな音が徐々に近付いてくる。
「上だ!下がれ!」
いちはやく気付いたグラントリノが周りにソレを伝え、自分を含め他の者たちを下がらせる。
数瞬後に噴煙と轟音を撒き散らしながら、何かは地面に激突した。全員の意識が一瞬で切り替わる。
「全員下がっていろ!」
エンデヴァーの指示でグラントリノ以外の者を更に下がらせる。拳には炎を纏い既に攻撃態勢に入っていた。
「ったく……最後の最後で逃げ出すなんてよ」
よく知っている声が聞こえてきた。直ぐに気づいたのは緑谷、飯田と轟の三人。直後、エンデヴァーも正体に気付いたのか燃え盛る炎を鎮めた。
土煙の中から出てきたのは見知った少年。今まさに助けに行こうと考えていた拳獣ガロウ本人であった。体は所々が血で濡れてはいるものの、何処を怪我しているようにも見えない。恐らく浴びているのは返り血だ。
「雑魚が、手間取らせやがって」
軽い足取りで視線を気にすること無く歩くガロウは不満げに呟く。集まっていた何人かのヒーロー達は自身達が手こずっていた脳無に対しての発言に驚愕した。
「お前はどこに行ったかと思えば、何をやっている!!」
「あぁ?って、探してたんだぞ」
「こっちの台詞だ!!」
声を荒らげるエンデヴァーに対して、ガロウは全く悪びれる素振りを見せない。それどころか自身の行動に付いての正当性を示してエンデヴァーを黙らせた。
「おお?緑谷に飯田か。お前らもここに居たんだな。ボロ雑巾みたいになってるけど」
「ははは……拳獣くんはピンピンしてるね」
疲労感が満載な声で受け答えする緑谷、その後ろにガロウの目線は吸い寄せられる。見知った姿のヴィランがボロボロの有様で捕らえられている。
「なんだ?ステインとやり合ったのか?」
「う、うん。そうだよ」
僅かに申し訳なさそうな表情に変わった飯田のことをガロウは見逃さなかった。そして、ある程度の事を察した。
「なるほどな。真面目君が原因かよ」
「っ!」
今度はハッキリと肩が震えたのが分かった。動揺が大きくなり、その動きの変化で予想は確信に変わる。
「まぁ、いいんじゃねえの?誰も死んで無いんだからな」
視線を緑谷達やステインから外す。同時に今まで存在していたステインに対する興味も削がれていく様だった。
倒されてしまった敵に興味はない。
「もう少しすれば警察が駆けつけるってよ。エンデヴァー、もうヴィラン共は居ないんだよな?」
「ああ。他のヒーローやサイドキック達と確認しあって居るが、そこの生意気な小僧が倒した脳無でラストだ」
連絡を取り合い状況が改善されたことを確認し合うエンデヴァーやグラントリノ、ヒーロー達。聞いていた緑谷達三人もその会話の内容に安心したのか、大きく安堵の息を吐いた。
だが、安堵や安心はそのまま油断に繋がる。
戦闘の余韻が残っているガロウを除いた全員が、少しだけ油断していた。
現状が急激に変化する。それが現場の恐ろしさである。
「うわぁ!?」
声を上げたのは緑谷だ。
何処からやって来たのか、脳無に捕らえられ空に舞い上がっている。
急転直下な状況の中で、二つの人影が脳無に迫った。一人はガロウ、もう一人は瀕死だと思われた男。片や頭部を刺し貫き、片や胸部を殴り抜いた。
一瞬で二回分の死を味わった脳無は、力なく地面に落ちた。
「なんだ、起きてたのかよ?」
視線が合わさる。
削がれた筈の興味が再び増幅して行くのを感じる。
「ハァ・・・・・・偽物だ・・・・・・」
ゆらり、とボロボロの男は幽鬼の様に立ち上がる。
だが男は、興味の対象はガロウを見ていなかった。と言うよりも、ステインの目からは意識が感じられない。意識が途切れるかどうかの所を行ったり来たりしてるのだろう。
だが、放っている雰囲気は違う。
他者を飲み込む様な強大な存在に変貌している。離れた所に立っているヒーロー達、そこに向けて話す度に場を支配していく。
ヒーローになり損なっただけの男だと思った時もあったが、やはり違うと確信できた。
「俺を殺していいのは、オールマイトだけだ!!ーーーそして!
いま一度試してやる、拳獣ガロウ!!」
振り抜かれたナイフを、手を斬らないようにして受け止める。
「ハァ・・・・・・お前には覚悟があるか!ヒーローになる、その覚悟があるのか!?」
「へっ、上等!!」
ナイフを払い除けて殴り掛かる。
だがその攻撃はステインに届かなかった。顔面のすぐ側で拳は止められている。
「・・・・・・」
ステインはピクリとも動かなかった。
それはつまり、今度こそ完全に意識を失ったという事だ。
暫く無言だったガロウは拳を下ろして、つまらなそうに短く息を吐いた。
「普通そこで終わるかよ。つまんねえな」
ボロボロの姿で立っているだけの男から、先程のような雰囲気は感じない。
だが、それでも十分だった。僅かな時間だからこそ、より強く目の前の男の覚悟が感じ取れたのだから。
「さっきのは少し、カッコよかったぜ」
到着した警官たちに運ばれて行くステインを眺めながら、ガロウはそう呟いた。