The HERO 〜ロード・オブ・ガロウ〜 (仮題) 作:十五夜の月
【英雄回帰】
ヒーローとは見返りを求めてはならない
自己犠牲の果てに得うる称号でなければならない
現代のヒーローは英雄を騙るニセモノ
粛清を繰り返すことで世間にそのことを気付かせる
「……あながち間違っちゃいねぇ」
どこかで見聞きした言葉を思い出しながら呟く。殴りつけたコンクリートの塊が弾け飛んだ。
「よっぽど、ヒーローとしての心構えが出来ている」
蹴りを放てば、コンクリートの柱はばきりと折られ、落ちてきた破片も拳の連打でバラバラに砕かれた。
ガロウの身体にはあの時感じた、ステインのプレッシャー、その感覚がまだ残っていた。心身ともに震え上がらせられるあの感覚、常人では出せない。
「あのハゲの時とは違うが、多少は似ていたか?」
兎も角、あの感覚は忘れてはならない。あれは今後の自分自身にとっての鍵になる、そんな気さえする。
力だけでは手に入らない物があるということだろう。
が、今は力を鍛える。それが自分の性に合っているのだ。
「ラァッ‼︎」
小山と言っていいぐらいの塊を割る。
幾らここにあるコンクリートで作られた障害物を破壊しようが、教師であるプロヒーローがあっという間に元に戻してしまうと聞いた、故にガロウの破壊活動まがいのトレーニングには遠慮がなかった。
コンクリートの地面に座る。地面から臀部に伝わる冷たさが心地いい。温まった身体からジワリと滲み出た汗を拭き取り、ペットボトルに入った液体を一気に飲み干した。
喉の渇きは癒されたが、別の所の渇きは癒されない。
ステインのあの雰囲気を感じた時から、戦いに対する欲求が更にとめどなく溢れてくるのだ。呑まれるようなことはないが、それにしてもこの渇きは中々に堪えるものだ。
ヒーローを目指しているのと同時に、戦いも求めている。強いものと戦いたい。矛盾を感じて、深く考えるのをやめよう。
「なんだい?考え事?」
「っ⁉︎」
急に聞こえた声に飛び上がった。
声が聞こえた方に目線を向けたが、誰の姿もない。気配も感じない。
「ごめんごめん、驚いちゃった?」
「…………」
「驚いたよね!まあ、驚かそうとしたんだけど‼︎」
地面から生えている生首が、楽しそうに笑いながら話している光景は何とも言えないものがある。
取り敢えず軽く踏んでみようかと思ったが、実行する前に地面に吸い込まれるように消えた。
「君、体育祭で優勝した子だよね?」
「俺はミリオ!三年生で先輩だけど気軽にミリオ先輩と呼んでくれ」
「三年生?」
「そう!ビッグ3とかって呼ばれてるんだよね!」
「取り敢えず服着ろよ」
「おっと、これは失礼。調整が難しいんだよね」
全裸で仁王立ちをしていたミリオに声をかけると地面に落ちた服を着て、再び仁王立ちの体勢をとった。
服を着る前に見えた身体つきはガッシリとしており、かなり鍛え込まれているのが見て理解ができた。そして顔つきを見て分かったが、あの顔は恐らく現場を知っている顔だ。
「それじゃあ改めまして自己紹介!俺は通形ミリオ、雄英高校三年でヒーローネームはルミリオン!」
「1年A組、拳獣ガロウ」
「やっぱり体育祭で優勝した子だよね!うんうん、いい顔つきをしてる」
「そりゃどうも」
ニコニコしながらこちらを見てくる目の奥には明らかな興味の色が見え隠れしている。
お話だけをしに来た、という訳ではないのは明らかだ。
「それで、何の用だ?」
「タメ口!俺は気にしないけどね!
けど察しはいいね。もちろん話をしようと思ったのもあるけど、まず君には興味があった。そんな時に君がトレーニング場に入っていくのが見えて、話しかける以外に選択肢はないよね」
「それで、話しかけたから終わり。って、訳じゃないよな」
ミリオは笑みを浮かべる。隠そうとしてはいるのだろうが、興奮が伝わってくる。
「察しがいいね。軽くだけど、君の実力を見ようと思ってね」
「見せて何か、メリットがあんのかよ?」
「強い人と戦いたいならあると思うよ。こう見えて俺はこの高校じゃ凄く強いんだよね!」
「その自信、折られても知らねえぞ?」
「遠慮なくこいよ、後輩!」
まるで挑発されてるようだが、気遣いのつもりなのだろう。
そしてさっきから見せられている自信満々な姿勢も、強がりや虚構の類ではないことぐらいガロウは理解していた。
目の前の相手は自分の実力を知っている。その上であの話なら自身と戦える力があるのだろう。
「勝敗の付け方は?」
「いいのを一発貰ったら負け、なんてのはどうかな?」
「んじゃそれで」
「それじゃあ、いつでもいいよ!」
ミリオは動かない。立ったままじっとガロウがどう動くのかを窺っている。
ならこちらから行こうと、ガロウは一歩を踏み出した。ゆっくりと歩いて行き、あと一歩のところで止まる。
「シッ!」
「いきなり顔面、躊躇がないね!」
顔面に向けた蹴りは僅かに背中を反らすことで簡単に避けられたが、蹴り上げた足の勢いを利用して跳び上がる。上げた足に全体重を乗せた踵落とし、受けるのはよくないと判断されたのかこれも避けられた。一発一発がコンクリートを余裕で砕くことの出来る威力だ、受けるのに自信がないのなら避けるのが正しい。受けに自信があったとしてもオススメはできないが。
ミリオが初めて拳を握った。つまり、避けるだけなのはここまでだと言うことだ。ミリオの纏う雰囲気と彼の瞳がそう宣言していた。
右腕をしならせながら振るう、ガロウの手刀はギリギリミリオの顎先を掠めるだけで空気を切り裂く。お返しと言うように顔面に向かって来た足を同じように足を使って叩き落とした。
まだミリオは個性を使用していない、ならこちらも流水岩砕拳を使わないで戦う、それがガロウの考えだ。そしてこの考えは未だに個性を使わないミリオも同じだった。お互いがまだ様子見、力を使うのであればそれは状況が変わった時、均衡が崩れた時。
「個性使わないのかよ?」
「使わせてみなよ、後輩!」
二人の距離が少し離れる。体を捻り片足を軸にして、ミリオは大振りの廻し蹴りを繰り出した。ガロウも同じ技を繰り出し対抗する。
二人の足がぶつかり合い、弾かれたのはミリオだった。だが、そうなることは分かっていたように勢いを殺さずに回転して、まだ体勢の戻っていないガロウに腕を突き出す。
(貰った!)
腕を掴み、引き寄せる。
「避けてばかりじゃ面白くないだろ?軽く一発喰らっとけ!」
掴んだまま、引き寄せると同時に逆の拳を顔面に突き出す。
避けも受けも間に合わない完璧なタイミングに、ミリオは咄嗟の判断で個性を発動した。
思わぬ光景に目を見開く。当たっている拳が顔面を突き抜けて、後頭部から飛び出す。血や脳漿が飛び散ることもない、手応えすら感じない、つまりすり抜けている。
直ぐに距離を開けようとした所に、鋭い拳の一撃が飛んでくる。ギリギリのタイミングでスウェイで避ければ、拳が胸を掠めた。
「まさか、使わされるとは思わなかったよ!だからちょっとだけ、本気で行くからね!」
「んのヤロォ、って消えた⁉︎」
その場に衣服を残して、ミリオの姿が消える。カメレオンなどの動物のように擬態したわけでも、葉隠のように透明になったわけではない。気配を感じなくなった。
ガロウが先程の地面から生首だけを生やしていたミリオの姿を思い出すのと、地面からミリオが飛び出てくるのはほぼ同時だった。
完全に懐に入り込んだミリオは、飛び出すと同時に顎めがけてアッパーを放つ。深く懐に入り込む、逆にそこが安全圏になる。今までの経験があるからこそ、ミリオは超至近距離の安全性を知っていた。
だが、ガロウの反応速度がミリオの常識を打ち破る。
「それは想定内」
真っ直ぐに突き進んでくる拳ではなく、伸びきろうとしている肘に対して素早く手を振るった。拳そのものを止めれなくとも、腕を動かしてやれば攻撃は弾き流すことが出来る。
「俺の方も想定内なんだよね!」
肘を弾く筈だった自身の手が、ミリオの腕を通過していく。拳は流れを変えることなく進む。だが、紙一重の差で躱すことができた。攻撃を流そうとした時に身体を逸らして無ければ、確実に当たっていただろう。
そして、ガロウは目の前に立つミリオとの、その相性の悪さを理解した。
単純なすり抜けではない。すり抜ける部分を任意で調節出来るというのは、物理攻撃しかできないガロウからすれば厄介以外の何物でもない。
「いやぁ、まさか今のを避けられるとは思わなかったよ」
「分かりやすいんだよ、そんなのは当たらねえ」
「厳しいね!俺もまだまだ、ってことだね。だけど、当てれないのは君も同じだ」
正論に対して、思わず舌を打ち鳴らす。未だに攻略方法が思い浮かばないことに苛立ちを感じた。そしてそんな状況に喜びも感じた、これはミリオも同じだった。
「なに調子に乗ってんだよ。ここからだぞ」
「オッケー!満足するまで来なよ、後輩!」
お互いが相手を正面に捉え、構える。
「そこまでだ、お前達‼︎」
声は入り口の方から聞こえてきた。
相沢とセメントスが歩いてきている。二人に気付かない程に熱中していたようだ。
「すぐに直せるとはいえ、随分と壊してるね」
「ちゃんと言ってただろ?」
「ここまでに成るとは、正直思ってなかったよ」
「拳獣、教師には敬語を使え。それから、ここの使用時間はとっくに過ぎてるぞ、授業開始三十分前だ。遅刻は許さん」
久しく感じてなかった有意義な時間の余韻を楽しみながら、ガロウは教室に向かって歩き始めた。
お久しぶりです、中々投稿できて無かったです。
ごめんなさい!
お気に入りも増えてて、色んな人が見てくれてるんだなって改めて実感しました。
これからもよろしくお願いします!
またご感想などありましたら、お気軽に書いて下さると嬉しいです。
では、次回をお楽しみに!