比企谷、P辞めるってよ   作:緑茶P

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周子はんに”スーパースター”を歌って欲しいだけの人生だった。



最終話 中

 12月25日。世間一般で言えば聖夜と呼ばれ、神への祈りを捧げるべ清き尊き日。

 

 本来は家族で教会に赴き祈りをささげ、ディナーを饗する厳かな日である。遠き東洋に伝わるまでにどんな経緯があったのか随分と本来とはかけ離れてしまった行事になった事を嘆かれる昨今。しかし、今日ばかりは、少なくともココに集った夥しい程の人々に関して言えば本国の巡礼者達以上に真摯な気持ちでココに集っているのかもしれない。

 

 誰も彼もが凍える様な寒さに白い息を洩らしながらも沈痛な顔で、列をなして一点を見つめる。明るくライトアップされた巨大なドーム。そここそは彼らのゴルゴタの丘だ。

 

 大々的に打ち出されているそのポスターや垂れ幕に映る姿は彼らにとっては遠き過去の聖人よりも自分を救って来た信仰の対象ですらあった。

 

 だが、それは、今日終わるのだ。

 

 現代において信仰にすら取って代わった”シンデレラプロジェクト”。

 

 七万にも及ぶ人間が悔恨と惜寂の感情を籠めつつも、その最後のライブを心待ちにその開催を待ちわびていた。

 

 

 

――――――――――

 

「比企谷様ですね?専務よりお聞きしております。どうぞこちらへ」

 

「…専務?」

 

 一種の狂信すら感じるほど無言の列の脇を素通りする気まずさと、周囲の視線を一身に受けながらも列整理の兄ちゃんに周子に渡されたチケットを見せれば真っ青な顔して奥へ飛んでいき、タキシードを着た壮年の紳士が最初に発した言葉に色んな疑問をすっ飛ばしてそんな事を呟いてしまった。

 

 自分の知り合い、というか、ギリギリ面識がある346の最上級権力者は”常務”だったはず。顔も見たこと無い”専務”にお聞きされる理由は無いはずだ。

 

「?…ああ、失礼しました。貴方が在籍していた頃は”常務”でしたね。今夏に美城お嬢さまは大旦那様から昇進を言い渡され”専務”と成られましたので。さあ、お嬢様がお待ちですので」

 

 自分が何を疑問に思っているのかに思い当たった紳士が朗らかに笑いながら誤解を解いて道を進めてくれるが、足取りは重い。

 

 え、何。まだ出世すんのあの人。

 

 バイト時代ですら圧倒的な威圧感に人を寄せ付けなかったのに、更にレベルアップしたらいよいよ結婚相手見つかんないんじゃない?ていうか、アレより怖くなった人に申し訳程度に持って来た貢ぎ物の安物ワイン(俺基準での最高品質)を渡すのとか実質罰ゲームじゃん。えー、てかもうやっぱりあの人いんのー。

 

 脳内でうんざりして悪態をついていると簡素な廊下は進むたびに上等な作りになって行き、いつの間にか板張りで高級な絨毯が敷き詰められた廊下まで進んだ所で気がつく。

 

「…ここ、貴賓席じゃないんですけど、道間違ってませんか?」

 

「いえ、あってますよ。専務からは貴方はココにお通しするように申し使っておりますので」

 

 引きつった表情を俺に紳士は朗らかな笑顔で目の前の扉を指し示す。業界の噂でしか聞いた事のない”VIP席”を超える超高待遇席”VVIP席”。

 

 重厚な彫刻で囲まれた高級そうな木製の扉についている取っ手すら触るのを躊躇われる輝きを灯しているのだからそこがいかに一般人に不可侵な領域であるかを知らしめる。縋るように紳士を見やれば笑顔で頷かれるが、俺が求めているのはそういうんじゃない。

 

 そう目で訴えかけるがどうにも笑顔しかかえってこないので大きく溜息を吐いて、厳ついライオンさんが咥える金のわっかを打ち鳴らし、待つ事数秒。

 

「構わん、入れ」

 

 聞こえてくる変らぬ威圧感たっぷりな声に胃が痛くなって紳士改め執事さんを睨んでみると笑顔で返された。死ね。

 

 痛む胃を抑えて、小さくため息を吐いて取っ手に手を掛ける。ココまで来て帰る事もいまさら出来ない。別れ際に浮かべられたアイツらの顔を糧に何とかその取っ手を押し開く。

 

「おう、久しいな裏切り者の比企谷」

 

「…初っ端からひでぇ言われようだ」

 

 奮い立たせた意気地を初っ端からぶちかまされた俺が膝から崩れおちるのを彼女は楽しげに口の端を上げて笑う。そのドサドっプリは御健勝な様で何よりだチクショウ。その筋の人ならきっと結婚相手だって見つかるだろうよ。

 

 ハードパンチに震える膝を何とか支えて立ち上がり彼女に改めて向き直ると予想と違った彼女の姿に少し驚いてしまう。

 

 暗色系でありながら煌びやかでシックなドレスにシルクのケープをはおった彼女は一目で分かるほど最高級である事が分かるロングソファーに気だるげに寄りかかり、足元を見ればヒールは脱ぎ散らかされている。近くに据えられたローテーブルには並々とグラスに注がれた赤いワインに、華やかなツマミが置かれておりソレを無造作につまんで口に運ぶ…まあ、ありていにいって、だらけ切った常務がいた。

 

「なんだ、人の顔を珍獣みたいに」

 

「…プロジェクトの集大成に随分とお寛ぎっすね」

 

「バカもん。最高責任者がいまさらあたふたしている様な状況の方が問題だろう」

 

 言われた言葉にそりゃそうかと変に納得してしまう。だが、何より気になるのはバイトをしていた頃とは随分と違うその態度だ。

 

「…なんかキャラ変わってませんか?専務に昇進して方向転換したンすか?あ、昇進おめでとうございます」

 

「社員でも無い奴の前で肩ひじ張るのも馬鹿らしかろう。それに、自宅では大体こんなもんだしな。お世辞などいらんから、その手に持っている酒をさっさと出せ。お前も飲むだろう?」

 

「いや、俺は「飲め」……ここまでいくといっそ清々しいアルハラだな」

 

 どうやらコッチの方が素らしい彼女の号令に忠実な執事さんが恭しく俺の安酒を受け取り、一人掛け用のソファーに用意をしてくれるので渋々導かれるままに腰をおろす。

 

「社員なら問題だろうが、完全なプライベート空間に他社の人間だからな。端的に言っても”年上のお姉さんにお酒を御馳走になる若者”っと言ったところだろう。―――うむ。悪くない酒だ」

 

「ははぁ、さては既に大分酔ってますね?もう”お姉さん”なんて名乗れる年齢じゃないのに」

 

「ぶっ殺すぞ」

 

 目がマジで、空いた酒瓶を片手に装備した彼女を見て両手を上げて降参しておく。まあ、言われてみれば彼女の軽口はともかく確かにその理屈は一理ある。相手がココまで腹の内を見せている様な空間でこっちだけが肩ひじを張った所でしょうがない。折角の幻の観客席に座れたのだから精々楽しませて貰うとしよう。と、思いなおしていたら結構重めの音と衝撃が自分の肩に走った。

 

「フン、相変わらず生意気な小僧だ。腹立たしい」

 

「いや、ここまでやってまだすっきりしてねえのかよ…」

 

 酒瓶の代わりにガチめの肩パンを二発ぶちこんできた彼女が深く息をつきどっかりとソファーに腰を落とす。マジでどっかの独身を思い出すくらい男らしいなこの人。いまさら隠し属性を出されても持て余しちゃうぜ。

 

 そんな事を思いつつかっぱかっぱと杯を空けていく彼女に溜息をついていると扉から鳴る硬質な音が新たな来訪者を告げる。

 

「構わん。入れ」

 

 さっきより若干不機嫌そうな声を出す彼女の声に次の来訪者にそっと心の中で詫びる。きっと今頃扉の向こうで胃を痛めている事だろう。すまん。

 

「失礼します」

 

 そんなことを考えていると耳を叩いたのは聞きなれた呟くような低い声。しかし、聞き間違えようのないほどその声に秘められた熱さは健在で、思わず苦笑してしまう。

 

 入って来た人物がこちらに気がついた事を見て俺も席を立って頭を下げる。

 

「ああ、お久しぶりです。比企谷さん。お元気そうで安心しました。今日という日にお越し頂けると聞いて嬉しく思っていました」

 

「御無沙汰してます、武内さん。…抜けた分際でこんな良い席を貰って本当にすみません」

 

「貴方が尽力してくれていなければ、今日という日はありませんでした。胸を張ってください」

 

「……ありがとう、ございます」

 

 厳ついその顔に朗らかな頬笑みを浮かべて話しかけてくる彼に申し訳なさを感じて言葉を紡げば、彼は真摯にそう答えてくれるのだから、まったくもっての人たらしだ。そんな悪態でも浮かべなければ、つい泣いてしまいそうになるくらいには。

 

「まあ、用意してやったのは私だがな」

 

 …コイツ、酔うとめんどくせえな。

 

「で、武内。用件は何だ」

 

 仲間外れにされたのが不服なのかお年を召したお嬢様は不機嫌そうに武内さんに問い、その声に改めて背筋を伸ばした彼が力強く答える。

 

「観客の収容が済みました。間もなく、開演出来るかと思います」

 

「そうか。…折角だ、お前もココで見て行け。お前にはその資格がある」

 

「いえ、しかし…」

 

「今日の為に用意したスタッフも、機材も、段取りも全てはこれ以上無いものを揃えている。もし何かあるようならば、お前や私が騒いだところでどうにもならん。―――それに、教え子の卒業だ。今日くらいは信頼して、看取ってやれ」

 

「……ありがとう、ございます」

 

 そういって遠くを見つめる常務の表情は何処までも優しげで、武内さんは深く頭を下げて残り一つのソファへと腰を掛けて無線に小さく何かを呟き息を吐く。

 

「さあ、目を見開き一片も見逃すな。お前らが魔法を掛けた原石達の輝きを。そして、これからの芸能界を346色へと塗り替えていく暁の眩さを。全てを見届け、誇れ。コレがお前達の集大成だ」

 

 常務の小さく、歌うようなその一言と共に、会場内の明かりが一気に落とされる。

 

 魔法の夜が、やってくる。

 

----------

 

卯月「レディース!!」

 

未央「アーンド!!ジェントルメン!!」

 

凛「今日という清き日にココに集まってくれた、ファンの皆様に限りない感謝を!!」

 

 

 暗転した世界に浮かび上がる三つの影。逆光に照らされたその姿は判別は出来なくてもその声を聞き間違える物はこの場にも、中継されているテレビの先にも、きっと誰もいない。

 

 

未央「今夜、ここで起こる事がきっと全てが奇跡で成り立ってる!!」

 

卯月「いまだって瞬きをしたらいつもの日常に戻ってしまうじゃないっかって、信じられないくらい!!」

 

凛「それでも、夢で終われないから必死にココまで全力で駆け昇って来た!!」

 

未央「でも、それでも、きっと」

 

卯月「ココがようやくスタートラインだから!!」

 

凛「だからこそ!最初に聞いてもらいたい曲は!!」

 

卯月・凛・未央「お願い!シンデレラ!!」

 

 

 時々不安げな弱さを滲ませる少女達の声はそれでも迷いは無く、力強く示したのは自分達をココまで押し上げてきてくれたこのプロジェクト最初期の、どこまでだって駆けていく意思を歌ったその歌だった。

 

 宣言と共に全ての闇が払われ、眩い光がステージを包む。

 

 焚かれたスモークが晴れ、強烈な光に奪われた視界が戻ってくる頃に並び立つのは、全てのアイドルの頂点に立った15人であった。

 

 沸き立つ大歓声に最初に答えたのは、全ての闇を払う輝きを持つ太陽を背負った少女達。

 

 

きらり「みんな!はぴはぴだにー!!」

 

拓海「最高の聖夜にしてやっから!!アンタらも気合い入れてブっ込んできな!!」

 

未央「みんな!ありがとーーー!!」

 

美嘉「最高のトキメキを経験させてあげる!!」

 

夕美「みんな!!忘れられない夜にしようよ!!みんなの力で!!」

 

 

 彼女らがたった一言ずつ叫ぶだけで会場は嘘の様な熱気に包まれる。歌声が、ダンスが、笑顔が。全てが沈んでいたファン達の心に火をつけていく。熱狂的に高まった会場の雰囲気は留まる事を知らず温度を上げていくかと思われる程だ。しかし、そんな彼らは一瞬だけ桜の花びらが舞ったかのような幻想に戸惑う。

 

 燃え上がる心を優しく諌める様な慈愛に満ちたその声は、季節外れの桜さえ幻視させて魅せる。花びらを背負った少女達がゆったりと躍り出る。

 

 

菜々「みんなー!!大好きだミーン!!」

 

杏「待ったく、クリスマスまでこんなに杏が働いてるんだからみんなも怠けちゃだめだよー」

 

島村「島村卯月!!一生懸命頑張ります!!」

 

みく「う、う~。既に泣きそうだけど、全力でがんばるにゃー!!」

 

志希「うーん、今夜は最高に面白い夜になりそう!!みんなたのしんでねー!!」

 

 

 その柔らかな華やかさに誰もが癒されそして喜ぶ。飛び出た魅力が無くとも、いや、無いからこそ誰よりも自分達のそばに寄り添い元気をくれる彼女達のその声は何度だって自分達を救って来た事を思い出させてくれる。

 

 そんな、春の木漏れ日の様な優しい声に奪われていた心は、すっと囁くような、それでいて絶対的な存在感を感じさせる声に縫いとめられた。

 

 聞いたものを心から虜にし、石の様に動けなくしてしまうほどの美しさを感じさせる魔性の声が観衆を一瞬で引きつける。

 

加連「まだまだ、全然たりないでしょ?」

 

文香「物語にだって無かった新しい世界を一緒に見に行きましょう」

 

凛「ふふ、悪くないね。…いや、すっごく良い」

 

楓「クリスマスはゆっくり済まします?ふふ、今日だけはダメですよ?」

 

周子「最高の祭囃子、聞きたいやろ?」

 

 

 そして、全ての声が、踊りが溶け合って完璧なハーモニーへとなった時に会場から音が消えた。

 

 いや、正確には七万人もの歓声が最高潮に成って時にソレは最早音として人は感知しない。全身を叩く衝撃としか感じる事が出来ない。それでも、少女達の声はかき消されること無く会場の隅まで響き渡る。掠れそうになる声を必死に繋ぎとめ、滴る汗もぬぐう事もせずに全てを伝える事に集中する。

 

 きっと、一人ではすぐにダメになっていた。それでも、歌い続けられるのは、仲間の声が繋ぎとめてくれるから。

 

 永遠にも思える五分も、遂には終わりを迎える。

 

 最後のワンフレーズまで魂を込めて歌った。たった一曲を歌いきっただけで倒れこみそうになる。でも、姿勢は終わっても崩さずに気合いを入れて保つ。

 

 満身相違なのは観客も同じなのか、さっきまでの激動が嘘のように客席は静まり返っている。

 

 誰もが、息を潜めて、静かに待つ。

 

 そんな沈黙がどれだけ続いたのか、ようやく一つの影が動く。

 

 その人こそは本当の意味での、最初のシンデレラ。

 

 全ての始まりが、全ての終わりの始まりを告げる。

 

楓「始まりは、小さな商店街でした」

 

 何処か遠くを見つめる様に彼女は小さく目を眇めながら小さく語りだす。

 

楓「ステージなんてとても言えない簡素なお立ち台で、音源はカセットCD、衣装は手作り。お客さん所がこっちをみる人もいないくらいなちっぽけなライブ。そこが初めての一歩でした」

 

「プロデューサーは何度も申し訳なさそうに頭を下げて来てくれましたけど、私はモデルだった時には感じなかった楽しさを感じていました」

 

「回数を重ねる度に、近所の子供と友達になって公園で遊んだり、商店街のみんなが差し入れをしてくれるようになったり、スタッフの皆と帰りに飲みに行った店でお客さんも巻き込んで歌ったり。本当に、笑っちゃうくらいに騒がしくて暖かい毎日がこのプロジェクトの根っこなんだと思います」

 

「そうして、ちょっとずつお客さんが増えて、テレビ局に取り立てて貰ったりなんかしてちょっとずつ歩んでいると後輩が出来ました。明るくて、強くて、ひたむきな可愛い後輩と踊るステージやイベントは目が回るくらい騒がしくて、楽しくて日々はもっと輝きを増していきました」

 

「そうして、いっぱいの輝きは日々を増すたびに強くなっていき、今日、こんなにたくさんの人が駆けつけてくれる程にまで至りました」

 

 そこまで語った彼女は、遠くに向けていた視線を目の前のファン達にゆっくりと向けて静かに言葉を紡ぐ。

 

「そんな”シンデレラプロジェクト”は今日のライブで一旦、終わりを迎えます」

 

 その言葉に先ほどまでの熱狂が嘘のように静まり返った観客が息を呑み悔しそうに、悲しそうに声を洩らす。

 

 なんでなのだ、これからじゃないか、終わらないで欲しい、と訴えかけるファン達に彼女は優しく微笑んで言葉を紡ぐ。

 

「ありがとう、でも、彼女達という宝石を詰め込んでおくには、このプロジェクトではちょっと小さすぎますから」

 

 その一言に、ファン達は息を呑んだ。

 

「最初は、小さな輝きだったのかもしれません。でも、彼女達は私と同じように仲間と、応援してくれているファンと共にちょっとずつ歩み、真っ暗な夜空でもその存在を示せるくらいに輝ける様になりました。だから、こんな小さなくくりでは無く夜空を照らす星として、彼女達は今日、このプロジェクトを卒業します」

 

「広大な夜空へ旅立つ私たちと、これからも一緒に歩んでくれますか?」

 

 彼女の言葉に、全ての観客が涙をながしつつ大歓声で答える。

 

 そうだ、自分達はプロジェクトに魅かれていた訳ではない。輝く彼女達の笑顔に、姿勢に、心に魅せられていたのではなかったか。

 

 枠組みが無くなって羽ばたこうとする彼女達を自分たちが支えないでどうすると言うのか。それが出来なくて、何がファンだと言うのか。

 

 その思いを載せて必死に声を上げる彼らに、彼女は微笑んで言葉を紡ぐ。

 

「さあ、魔法の夜は始まったばかり。シンデレラの魔性が解けるまで思い切り、踊りましょう?ふふ、良い出来です!!」

 

 こんな時でも変わらぬ彼女にメンバーは肩を落として苦笑し、ファンは大笑いを上げる。

 

 ソレを皮切りにしたのか大音量の音楽が流され、ソレに負けないくらいの大音声がステージに響きわたる。

 

茜「こんなときでも変わらない楓さん!!流石です!!負けられません!!燃えてきました!!ボンバー!!!」

 

幸子「デレプロも、人気投票の数字なども世界一可愛いボクの前では無意味だと言う事を教えて上げます!!」

 

奏「ふふ、出鼻にあんなに見せつけられたんじゃこっちまで燃えてきちゃった。私らしくないわね」

 

 入れ替わりに入って来たアイドルに再び歓声が響き渡り、ファン達の興奮が再び高まって行くその姿にはコンサートが始まる前の悲壮感など欠片も感じさせず、ただ純粋に楽しんでいる事が窺える。全てを呑みこみ、また決意した彼らの笑顔こそがシンデレラを振るい立たせ―――再びドームは熱狂に包まれた。

 

 

-----------

 

 知っていたつもりだった。分かっていたつもりだった。彼女達が眩過ぎる星々だと言う事など。だが、ソレは勘違いだった。この会場の腹の底にまで響くその熱狂が否応なくソレを証明してくれる。

 

 彼女達はまだ夜空にすら昇ってなどいなかったのだ。

 

 その事実に全身の力が抜けてしまうように深くため息をつく俺に、専務がちょっと得意げにちょっかいを掛けてくる。

 

「ふん、逃がした魚の大きさを今さら理解したか。愚か者め」

 

「…ホントに酔うとガキっぽくなりますね、専務」

 

「お前ら男は酔っても無いのにクソガキのような意地を張るのだからもっと手に負えん。…まあ、もっとも片方は最近は少しはマシになったようだがな?」

 

 拗ねた様に悪態をつく俺に楽しげに喉を鳴らしてやり込めた彼女は意味ありげにもう片方のソファに目を向ける。端的に言って武内さんだ。

 

「…?武内さんは十分立派な大人でしょう。アンタよりかは」

 

「ククッ。大人、なぁ。だそうだ、よかったな武内。少なくとも同性からみればメンツは保たれているらしいぞ?」

 

「専務、どうかその辺で…」

 

「嫌だね。日頃の私の頭痛の鬱憤はこんなもんではない」

 

 いやらしげなその視線と含みたっぷりなその声に武内さんは気まずげに視線をそらすが、流石は専務。パワハラに躊躇いが無さ過ぎる。

 

「おい、比企谷。高垣をみて何か気が付かなかったか?」

 

「は?気がつくたって、いつもどうりにギリギリなギャグセンスだと、し、か――――」

 

 言われてさっきの感動的なスピーチを成し遂げた彼女の姿を思い出してみて、一点だけ見慣れないものが輝いていた事に気がつく。

 

「え、あれ?あれって装飾とかじゃねえ…の?」

 

 その左の薬指に輝く、その眩いリングの意味する所とは―――。

 

「馬鹿者。間違ってもアイドルに装飾でそんなものつけさせるか。ならば、結論は一つだろう」

 

 挟んだ疑問は最高責任者の力強い言葉に否定され壊れたブリキの様に軋んだ動きで首を向ければ、みた事もないほど顔を真っ赤にして顔を覆う偉丈夫が一匹。

 

 つまる所、そういう事なのだろう。

 

「えーっと、…おめでとう、ございます?」

 

「…報告が遅れてすみません。ありがとうございます」

 

 いや、あの二人を巡る大騒動には俺も立ち合わせていたから二人が恋人である事は知っているのだが、まさかこのタイミングでそんな思いきった行動に出るだなんて思わなかった。二人とも情熱に浮かされて突発的に動く人間では無い事を知っているために驚きもひと押しだ。

 

「…ていうか、実質的な会社の最高責任者にその話題を振られる事が一番こえ―ンすけど。良いンすか専務的には?」

 

「いいも何も、焚きつけたのは私だ。憚ることも無かろう」

 

「……おかしい。謎が深まった」

 

 まさか、質問が疑問を深める事になるとは思わなかった。そんな風に額に手を当てる俺を出来の悪い生徒をみる様な溜息をついて専務がみてくるが非常に理不尽だ。

 

「そう難しい話ではない。美城の家は古くから実力主義だ。最も社内で頭角を現している武内と私を結婚させようとする一派がいて実際にお見合いまでは強制的にさせられたという事が始まりでな。そっからは省くが、私か高垣を選ばせてやったらすぐさまアッチに飛んで行ったという訳だ。―――その憂さ晴らしでこうしている訳ではない。その目を辞めろ」

 

 事情を聴いているウチに募った言いたい事はどうやら目に現れてしまったようだ。ハチマンソンナコトオモッテナイヨ。

 

「まあ、良い機会でもある。年齢もそうだが彼女ほどのタレントならこの後も暇になる事など無いだろうからな。プロジェクトの終わった今くらいなら諸々どさくさに紛れて都合も良い。そんなわけでつけさせている。むしろ、キューピッドて奴だよ」

 

 そういって笑う彼女は本当に含みなく彼らを祝っているようで、不覚にも少しだけカッコいいと思ってしまった。コレが美城式人心掌握術なのか、彼女のカリスマなのか少々判断に迷うが、武内夫妻はどうやら上司に恵まれたのは確かだ。

 

「ま、コレの処置はコイツラに限った事でも無い。私は基本的にプライベートとビジネスは分けて考えるタイプだ。誰にたいしても、な、、、、、、」

 

「…なんすか?」

 

「…いや、あの娘も厄介なのに引っかかったものだと思っただけだ」

 

 あんまりにさっぱりした解答に苦笑を洩らしていると、意味あり気にこっちも視線をよこして来たので首を傾げてみると彼女は深くため息をつく。

 

「まあ、いい。どうせ私はしばらく武内夫妻と、荒れるちひろの相手で手いっぱいだ。そっちがどうなるかまで構ってられん。お前は、これから始まる演目を見てこれからの事を考えるがいいさ。変な意地を張らぬように、後悔の無い選択をするためにな。――――――コレは世界にたった一人、お前の為だけに謳われる歌なのだから、、、、、、、、、、、、」

 

 

 そういって彼女が指差す先には、たった一人のアイドルが降り立った所だった。

 

 会場の熱気を一身に受け、ほんの少しだけ頬に朱が差しているが、その表情に気負いはない。

 

 柳の様にしなやかで、雪のように彼女は静かにステージの中央に立つ。だが、彼女のさっきまでと違い過ぎる衣装にちょっとだけ会場にどよめきが起こる。

 

 銀糸の様な髪を短く後ろに纏め、狐の様なつり上がった眦。そんな彼女が身にまとっているのはさっきまで来ていた煌びやかなドレスではなく、肩を出した特徴的なパーカーにジーンズ生地のショートパンツにしなやかな流線を描くストッキングに包まれたその足。

 

 綺麗でもある。センスだって感じる。だが、ソレは明らかに私服に分類されるもののはず。何故ソレを彼女がいま着て来たのかが分からない。だが、この会場で、たった一人、俺だけには分かってしまった。それが、自分と初めて出会った時の服装である事を。

 

 髪の長さ以外は何一つ変わらないそのいで立ち。だが、だからこそその瞳の奥の輝きとしゃんと伸びた背中があの頃と違う事を俺に知らしめる。

 

 しかし、その意図を読もうとするこっちを余所に、彼女は俯いたままでまったく動かない。

 

 ざわついていた会場もそんな彼女の様子に気がつき、ちょっとずつ音が止んでいく。

 

 どれくらい経っただろうか。今や会場内では喋る所か、音を出すことすら憚られるような雰囲気が包み込む。

 

 そんな中で、ようやく彼女が。”塩見 周子”が口を開いた。

 

『三年前、本当にバカだったあたしは家を追い出されて東京にやって来た』

 

『コレはその時の一張羅。コレと財布、携帯くらいしか持たんまま家出とかいま思い出せばほんまに頭おかしいよね?』

 

 ポツリ、ポツリと語られ、ちょっとだけおどけた言葉に、ちょっとだけ会場に笑いが広がる。

 

『そんなんで、飢え死に寸前だった私に手を差し伸べてくれた人がいた。全然優しくもないし、口うるさいし、ケチだし、捻くれていたけど、バカみたいなお人好しな人だった』

 

『その人の周りには変人ばっかだったけど不思議と人がよってきて、いつだって賑やかだった。そんな楽しそうな雰囲気に当てられていつの間にか私までああなってみたいと思って、うっかりアイドルになっちゃたくらい』

 

 続く彼女の独白は本当に楽しそうに語られるのに、何故か今度は誰も笑う事は無かった。きっと、その先に待っている残酷な結末を彼女から溢れる雰囲気で察しているのかも知れなかった。

 

『でも、もうその人はいない』

 

『本当に馬鹿な私は、お別れも碌に言えないまま、”ありがとう”だって伝えられないでアイツを見送った』

 

『当たり前のように明日も隣に立ってる事を疑いもせず…っ!…去って行ったあの人を黙ってみてたっ!!』

 

 その震える言葉を皮切りに彼女は視線を上げる。

 

 目に宿るは真っ赤に轟々と燃え盛る決意。全てを呑みこまんとする強過ぎる意志の宿った目に会場全てが引きこまれた。

 

 

 

『きっともうアイツは私なんか待ってなんか居やしないかもしれない!!それでも!!もう一度、あの人の前に立ちたい!!―――――あの人が惚れ直すくらいの!!”スーパースター”になって!!迎えに行くんだ!!!』

 

 その宣言に合わせて曲が流れる。

 

 

 

 ソレは、失った恋人の前に生まれ変わってでも、どこにいてでも見える自分に成って迎えに行く事を誓う強い――決意の歌だった。

 

-----------

 

 

 

 ~今日の蛇足~

 

 

貴賓席in開会前

 

陽乃「ふふふ、比企谷君が貴賓席チケットを持ってるのも、ココに向かって家を出たのは確認済み。大枚はたいてスポンサーになった甲斐があったってもんよ。さーて、久々の比企谷君でどうやってあそぼーかなー♪」

 

―――

貴賓席inオープニング終了

 

陽乃「んー、おかしいなー。オープニング終わっちゃったよ。道に迷ってんのかな―?」

 

――――

貴賓席in中盤終了

 

陽乃「………………」

 

――――

貴賓席inライブ終了

 

ぷるるるる、ぷるるるる、ぴ

 

都筑『はい、何でございましょうか?比企谷様とお会いできてさぞお喜びですk「オイコラ、ドウナッテンノヨ?オン?(ドすの利いた声」

 

 

その後の都筑を見た者はいないそうな。

 

 

ちゃんちゃん

 

 

 

 

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