比企谷、P辞めるってよ   作:緑茶P

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('◇')ゞ山の伐採を終えて帰ってきたsasakinです。いつも皆に支えられて生きてます(笑)


今回はリクに答えてくれたシロネシアさん(https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=12893748)の要望に応えて”やめるってよシリーズ”の更新です(笑)



雪ノ下建設  宮前平 源治の独白

 

 俺の名前は“宮前平 源治”。そこそこ名の通った建設会社『雪ノ下建設』で所長を任されているもんだ。かれこれ新卒の頃から30年近く叩き上げとして現場を回して来たし俺のやってきた現場は振り返ってみてもちょっとしたもんだ。

 

 俺らや職人が血と汗を滲ませて作った建築物がこの街の景色を作っていると思えばどんな苦労だって背負っていける。――――そういった心意気が必要だとは思っているのだが、最近は時代が変わっちまったらしい。

 

 部下が出来るようになって久しいが大概の奴らは半年持たずに消えちまうか、噛みついてきた時に“優しく”指導してやるとすぐにべそ掻いて引きこもっちまう有様だ。曰く、“時代じゃない”って事らしいが出来てねぇ事をほっときゃソレが大損害になることもあるし、下手すりゃ職人の命にだって関わってくる。ソレを出来るように育ててやっているつもりだが、気がつきゃ俺の現場に回されるのは潰れてもいい人材か短期の現場ですぐに逃げられるような段取りがされた状態ばっかりで、小僧どもの間には俺の現場は“宮前平監獄所”なんて呼ばれてるらしいってんだからお笑い草だ。

 

 だがまぁ、ないもんねだりしてる暇はないし、俺は俺の仕事をするだけだと開き直っていた春の事だ。新入社員の歓迎会なんて名目で開かれる観桜会で明らかに周りに人が寄り付かない俺の元に意外な人物がやってきた。

 

 スラリとした体つきに、温和そうな顔つき。ソレでも関東指折りの建築会社を運営し、県議まで務めているという我が社の社長様が苦笑を零しながら俺の隣へと腰を下ろした。周りの上役からは“余計な事を言うな”なんて視線を感じるが、知った事ではない。結果は現場で出しているし、お宅らの政治ごっこに付き合う程に酔狂でもないので単刀直入に用件を問うた。

 

「……社長直々に解雇通達にでも来ましたか?」

 

「―――くくっ! あぁ、いや、すまない。噂通りの人物だと思ったらおかしくてついね。君の実績から鑑みてソレをするときは私の首を切るより難しいだろうから安心してくれ。……だがまぁ、この調子だとこっちの要件に適した人物だと分かったのは僥倖だった」

 

「………意味がよく分かりかねますな」

 

「君に指導して欲しい新人が二人いてね」

 

 訝しむ俺に、そんな事を飄々と嘯いてその男はわちゃわちゃしている新人共の塊に指を指す。どいつもこいつも浮ついて、今どきの甘ったれた面をしてやがるガキ共だ。大量の新人の中で半分は3か月くらいで逃げ出す。3年持てば立派。5年から先は一握りのこりゃ豊作と言われる業界でわざわざ“監獄長”と呼ばれてる俺に任せたいとはよっぽどその新人は社長の不興を買ったらしいと思って微かに同情を込めてそいつらを探す。

 

「ああ、そっちじゃなくて―――あっちの離れた席に座ってる二人だね」

 

「あれって……いいんですか?」

 

「勿論だ。当然の事だが他の新人とは違って少なくとも5年は君の専属でローテーションは無し。教育方法についても誰にも口出しをさせない事を誓うよ」

 

 涼しい顔をしてそんな事を嘯くこの男に内心舌を巻きながら、改めてその指先を確認する。

 

 その先にいるのは、入社前に話題となっていた社長令嬢だという紗の様な黒髪を流した“雪ノ下 雪乃”と、飛び入りで社長がねじ込んだというコネ入社で悪目立ちしていたアホ毛の目立つ根暗そうな…“比企谷”とかいったか? そんな二人が気心知れたように隅っこで杯を交わしている。

 

 それで、この話の内容も十全に理解できた。

 

 社長令嬢と問題児。どっちもどの現場に行ってもお邪魔虫だろうし、娘に関して言えばもっと面倒だ。普通の新人のように尻を蹴飛ばすことも、怒鳴ることも、下手に仕事を振る訳にもいかない。―――だから、俺なのだ。

 

 社長令嬢だろうが、上役のコネだろうが仕事の前には平等。出来なきゃできる様になるまでやらせる。そんな当然の事が随分としずらい世の中で悪名轟く俺以上の適任はいなかっただろうさ。それに、二人にとっても悪い話ではない。後々、ほんとにこの会社を背負って立つならば“肩書のお陰”だなんてレッテルだけでなく誰にも文句の言えない実績と、地獄を味わったという周囲の評価が無ければならないのだから。

 

 この優男の顔に似合わぬ過激さに今度はこちらが悪い笑いが零れるのを感じて、念のために最終確認を行う。

 

「一応の確認ですが、娘さんが引きこもりになっても責任は負いかねますが?」

 

「構わんよ。ソレを選んだのはあの子だし、その時は適当な男を見繕って気兼ねなく家に囲い込んでやれば私と妻の気苦労も減るだろうからね」

 

「………お偉いさんの考えは分かりかねますが、まあ、お引き受けしましょう」

 

「頼むよ」

 

 桜舞い散る花見の席で、若者二人の所属先がひっそりと決まった瞬間はひらりと人知れず風に乗って溶けていった。

 

 

 

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「比企谷っ!! この現場写真の工程が2個も抜けてんぞ!! 今すぐ作り直せ!! 雪ノ下!! テメェまた設計図と工程の更新の確認怠りやがったな! ここの下地は新素材から既存の物に変更してんだから工程も全部書き直して連絡しとけって昨日の夜中に言ったろうが!!」

 

「「すみませんっ!! 今すぐやり直します!!」」

 

 あの花見会から早くも一年ほどの季節が流れ、また桜の芽が膨らんできた時分。最初の頃は何週間持つかなんて側近の事務員や馴染の職人たちと軽口を交わしていたものだが、意外や意外にもこの二人はいまだに食い下がっていて今日も現場に鳴り響く怒声にキレ気味の反骨心旺盛な返答が返ってきた。

 

 キーボードを叩きつける様にタイピングし、設計図面の山を蹴り倒さんばかりの勢いでひっかまして、鳴りやまない電話を肩に挟んで――――顔を蒼くして書類とタブレットを抱えて事務所を飛び出していく日常も既に見慣れたものになりつつある。

 

「すぐに辞めちゃうと思ったけど、あそこまで続くとはやるじゃないかね」

 

「ふん、仕事も未熟な癖に生意気な所だけはいっちょ前だ」

 

「ようやく一年目って人間に現場管理のほとんどをやらせて熟してるんだ。未熟どころがとんでもない金の卵だよ」

 

 側近ともいえる事務員の軽口に鼻を鳴らして答えると彼は苦笑を浮かべつつ返してきた言葉を聞こえないふりをして書類にペンを走らせる。実質、あの二人は少し異常なくらいの出来栄えであったのは俺だって認めているのだから言われるまでもない。

 

 雪ノ下は実家や専攻していたという事もあるのだろうが、処理能力が尋常でないくらいに高く、分厚い辞書一冊分はある基本設計図面を網羅して正確に全てをこなしていく。その上、見た目で舐められそうな問題も生来の気の強さとたまに見せる甘さで見事に職人たちからの信頼を勝ち得て対等にやり取りを行っている。

 

 比企谷は雪ノ下ほどの処理能力はないが、それでも新人としては破格だ。その上に融通の利かない部分のある雪ノ下の弱点を埋める様に工程を纏めたり、組み直す柔軟さと器用さはそれだけでも貴重な人材だ。何より、本人に自覚はないのだろうが立派過ぎないがゆえに職人たちに笑われつつも好かれるという不思議な性質であらゆる技術を教え込まれているため引き出しの多さはずば抜けている。

 

 どっちも“新人”という枠には少々収まりきらないし、そこまでの仕事を回しても二人で大方はこなしていくので俺が指摘するミスもこの程度で済んでいるし、何より――――詰め込めば詰め込むほどにどこまでも詰まっていくその可能性に俺自身も少しだけ胸が弾んでいる。

 

 長年、出会う事の出来なかった“愛弟子”という存在に俺は年甲斐もなく張り切ってしまっているのを感じ、小さく笑いを噛み殺した。

 

 

 

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 あれから、早いもんで4年が経った。

 

 テレビ出演であの二人の大ポカが放送されたり、ソレを二回目で挽回したりと様々な出来事や現場をこいつ等と回して、経験して、作ってきて、気がつきゃ“監獄”なんて呼ばれていた俺の部署はいつしか“登竜門”なんて御大層な名前を囁かれるようになって随分と若手が増えた。

 

 もちろん、俺が変わった訳じゃない。出来ねぇ事は徹底的に出来るようにさせるし、尻込みしてる奴らは容赦なく檄を入れてけつを蹴飛ばしている。それでも、前のように一人ではなくなった。

 

 深夜もとっくに過ぎた時間に、現場の詰め所を覗いてみれば小汚いソファーに薄っぺらい毛布一枚を分け合って寄りかかりながら寝ている愛弟子二人組。机の上にこれでもかと書き込まれた図面に工程表。入社当時よりも随分とマシな面構えになったとは思うが、この二人が寄り添っている時だけは昔の様な柔らかく、気の許した表情を浮かべる。実績に関しては他の新人共なんか目でもなく、指導力も俺の元で新人を潰されないレベルまで引き上げることで有名だ。

 

 もはや、誰もこいつらを色眼鏡で笑う様な奴なんていないだろう。

 

 そんな事を柄にもなく感傷に浸りつつ手に持っていたぬるい缶コーヒーを啜って、溜息を吐く。

 

 約束の五年は、もうすぐだ。そして、もうこいつ等もいい加減に卒業の時期が近付いている。このまま手元に置いておきたい気持ちが湧き上がるが、そんな惰弱な心を笑い飛ばして俺はポケットから二本分の缶コーヒーを置いて詰め所を後にする。

 

 冷気に冷やされ煌々と輝く月を仰ぎながら、先日、比企谷が気まずそうに報告してきた事を思い出す。

 

『……俺、結婚するかもしれません』

 

 その自信なさげな声と表情に思わず笑って何も言わず肩を叩いてやった時に悟ったのだ。

 

 あいつらは、もう支え合う相手を見つけた。

 

 これからは、俺抜きでのその形を探っていくべきだろう。

 

 どうか、そんな若人達に幸あれと俺は静かに口の中で呟いた。

 

 

 

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 あの時から五年目を迎えた観桜会。

 

 今年も誰も彼もが特設された会場で桜と酒、そして、新人の熱気に煽られて頬を緩ませる独特の空気。あの時以来、現場の都合で参加は見送っていたが今回は都合がついたためウチの部署全員で参加して大いに羽を伸ばしている。

 

 久々に会った同期や後輩からは“顔が柔らかくなった”だのと揶揄われつつも、あの時とは違って俺の周りにも少しだけ杯を鳴らす人間が増えたのはいい変化なのか、どうなのか、背中がむず痒い。

 

 そんな時に、会場のステージに比企谷が同期達に押し出されるように上がらせられ全員の注目を集めた。らしくもなく顔を耳まで真っ赤に染めたアホ毛はしばらく口をもこもことしていたが、意を決したように言葉を紡いだ。

 

「あー、その、こういう会社の行事で言う事でもないと思うんですけど……結婚の報告を……」

 

 その一言に会場中が一気に湧き立つ。なんだかんだと皮肉屋ながらも面倒みのいい男だ世話になった連中も多いだろうし、後輩連中からは変に慕われている。上役連中だってアイツ個人の事は知りはしないだろうが、オッサン連中というのは存外にこういう恋バナが大好きなのでニヤニヤとその恋の行き先を見守っている。

 

 一部の女性社員はやさぐれたように酒を流し込んでいるがソレもしょうがない事だろう―――――なんたって、相手はもう決まっているようなものだろうから。

 

 その中で、目に涙を溜めて口元を押さえている雪ノ下の元へと比企谷は真っ直ぐと足を進める。モーゼのごとく割れる人垣は神聖さなんて欠片もないお節介な温かさに包まれていて―――その肩を優しく掴んだ。

 

「雪ノ下。ここまで黙ってたのは、あー、すまん」

 

「ばか、どれだけ待たされたと思ってるのかしら? このスケコマシヶ谷君」

 

 真っ赤に染まる二人の初々しい会話に、周りも涙をこらえてその明るい未来を見守る中――――――ついに、その言葉を発した。

 

 

「俺、 結婚したんだ」

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「   え?   」」」」」」」」」」」」」

 

 

 

 誰もが、自分の耳か、頭がおかしくなった事を疑った。雪ノ下も、見た事もないくらい間抜けな唖然とした顔を浮かべている。

 

 そんな密かな大混乱の中で“馬鹿”は照れ臭そうに言葉を紡いでいく。

 

 

「いや、社長令嬢なのに、いままで俺とセットみたいな扱いをされててずっとスマナイと思ってたんだよ。そのせいで厳しい現場回されたり、周りの連中からからかわれたりして本当に迷惑かけてたなって思ってさ……。でも、ようやく俺も身を固める覚悟が出来たっていうか―――相手からもOKが貰えて、誰よりも最初にお前に伝えなきゃなって思ってたんだ。

 

 こういう場で公にすれば今までの誤解も全部解けると思って、ちょっと目立っちまったけど―――――――え、あれ、みんなどうした? なんでちょっとずつ近付いて……まて、その手に持ってる酒瓶はとりあえず持ち方が違う、って、え? っちょ――――!!!」

 

 

 

 真っ白に燃え尽きて魂が抜けている雪ノ下に朗らかな笑顔で話しかける比企谷は―――人の波に悲鳴を残して見えなくなった。

 

 社長は笑顔のままフリーズし、夫人は頭を抱えている。

 

 巻き起こされる大乱闘に、救いようもなく、ままならない世界と俺たちを笑うように桜は風に乗って散っていく。そんな脱力感を感じつつ俺もその中心に腕まくりして乗り込んでいく。

 

 

 

 

――――――――とりあえず、100発くらい殴っておこう。

 

 

 

 

 

終わりん♡

 

 

 

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ピンポーン

 

 

周子「おかえりーん ――――って、なんでそんなボコボコなんっ!!?」

 

 

ハチ「……俺がききてぇよ(ぼろぼろ」

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